みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1156「コピー」

2021-11-12 17:37:26 | ブログ短編

 彼は、コピーだった。本当(ほんとう)の彼はどこへ行ったのか? もう、今となっては誰(だれ)にも分からない。誰も気にする人はいないようだ。
 ――コピーの彼は、まるで機械仕掛(きかいじか)けの人形(にんぎょう)のようだった。いつものことを、いつもの時間(じかん)に――。それはまるで、毎日(まいにち)をコピペしているようだった。だから、いつもと違(ちが)うことは苦手(にがて)みたい。というか、まったく役(やく)に立たなかった。周(まわ)りの人たちもそれを分かっていて、仕事(しごと)の割(わ)り振りをしているそうだ。
 そんな彼が恋(こい)をした。彼女と出会ってからというもの、彼はおかしくなってしまった。いつもの仕事が、いつものようにできなくなった。彼の中にとても大きな矛盾(むじゅん)が生(しょう)じてしまったのだ。何をしていても彼女の顔がちらついて、自分が今している仕事のことなどかき消(け)されてしまうのだ。でも周りの人たちは、そんな彼を暖(あたた)かく見守(みまも)ることにした。おかしくなった彼に人間味(にんげんみ)を感じたのかもしれない。
 さて、彼の恋の行方(ゆくえ)はどうなったのか? 職場(しょくば)の人たちは、彼の片思(かたおも)いで終(お)わるだろうと思っていた。ところがどういう訳(わけ)か、彼は彼女と付き合うことになったみたい。彼は、彼女と付き合うことで、コピペの毎日が変化(へんか)した。彼は少しずつだが、バージョンアップを始めたようだ。もう彼のことをコピーだと言う人はいなくなった。
 ――本当の彼はどうなったのかって? きっとどこかで羽(はね)を伸(の)ばしてるのかもね。でも、早く戻(もど)って来ないと、君(きみ)の居場所(いばしょ)はなくなってしまうかもよ。
<つぶやき>もし自分のコピーがいてくれたら…。そんなこと思ったことありませんか?
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