徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

ドイツ:フレックス年金法案、本日(2016年9月14日)閣議決定

2016年09月14日 | 社会

ドイツの年金制度は、当然と言えば当然ですが、日本の制度とは大分違います。年金保険への加入は公務員を除く全労働者を対象に強制的に加入、となります。

月450ユーロまでのいわゆる「ミニジョブ」であっても、年金保険は強制加入です。ただし、保険料はこの場合、雇用主と労働者の折半ではなく、雇用主は給料の15%、労働者は3.5%を保険料として払うことになります。家事手伝いなどの雇用主が個人の過程である場合は、保険料の負担割合が逆転し、雇用主5%、被雇用者13.5%の負担となります。

ミニジョブ以上の月給がある労働の場合は、保険料負担は雇用主・被雇用者の折半で、給料の9.35%ずつです。これは派遣労働の場合でも同様に適用されます。派遣の場合の「雇用主」はもちろん「派遣元」の会社です。

失業した場合は、失業手当を受給している間、労働局が年金保険料を払います。本人が失業する前に保険に加入していたことが前提となります。

俗に「ハルツ4」と呼ばれる第2種失業手当(就労可能な人のための生活保護)を受給している場合は、労働局が年金保険料を払うことはなくなりました。この為、「ハルツ4」受給期間は、年金保険的に完全な空白期間となります。

自営業者の場合は、国の年金保険機構への加入は任意です。

この強制保険としての年金保険の他に、共済組合の運営する年金保険や、企業が独自に社員のための年金を積み立てる企業年金もあります。その他、国の助成を受けた民間の年金保険商品(リースター年金)などもあります。

基本的に、政府や国会で議論されるのはもちろん国の年金保険機構のことです。

年金受給開始年齢は、1946年までに生まれた人は65歳でしたが、1947年以降生まれの人の受給開始年齢は段階的に上昇し、1964年生まれで67歳となります。障害者の場合は1964年生まれで、65歳が受給開始年齢です。この法定年受給開始年齢よりも早くリタイアして、年金受給を開始する場合、1か月早めるごとに0.5%受給額が減額されます。ただし2014年7月1日から、長期保険加入者(45年間保険料の支払いをした人)は63歳で年金受給を減額なしに開始することができるようになりました。名目は、老年貧困を緩和するためということでしたが、お金がかかるうえに、対象者がごくわずかしかいない、と批判された改革です。

現在の年金受給額の平均は、被保険者の過去の平均収入の約47%ですが、年金受給開始年齢が65歳から67歳に段階的に引きあげられると同時に、受給額は2030年までに過去の平均収入の43%まで引き下げられることになっています。この為、1964年以降に生まれの平均的所得(月約2500ユーロ)のある人で、最長45年間保険料を払い続けた人ですら、生活保護レベルの年金しかもらえない計算となり、将来の老年貧困の問題は重要な政治課題となっています。

そんな中で、ドイツ連邦銀行が「69歳からの年金」の必要性を説いて、かなりの物議を醸しました。

背景説明が長くなってしまいましたが、本日閣議決定された「フレックス年金」は、問題だらけの年金保険制度のミニ改革のようなもので、フルタイム労働から退職・年金受給開始の移行を個人の健康状態やその他の事情に合わせることができるように、制度を流動化するものです。具体的には、パートタイム労働プラス部分年金受給を63~67歳の間に個人の事情に合わせて調整することができるようになります。

例えば、63歳で年金受給している人が月450ユーロ以上(年間5400ユーロ以上)の労働収入を得ると、現行法では、年金受給額の2/3がカットされてしまいますが、法改正後は、年間6300ユーロまでの収入は年金の減額なしに可能となり、6300ユーロを超える分の40%が年金受給額から減額されることになります。

また、パートタイム労働で年金保険料を払えば、その分年金受給額が増額されることになります。そして、失業保険料が免除されることになります。

連邦議会での審議は9月中に行われるとのことですが、議論はかなり紛糾しそうです。野党・緑の党からは流動化が可能になる年齢が63歳では遅すぎる、という批判が出ています。実際、肉体労働者の場合など、50代後半ですでにフルタイムで働くのが辛くなってしまうケースが多いので、それは的を得た批判と言えるでしょう。感覚的に55~67歳の間でフレックス年金制にするのが、様々な事情に対応できていいのではないかと思います。

参照記事:

ドイツ年金保険機構のサイト

ディー・ヴェルトの特集「年金受給開始年齢

ツァイトオンライン、2016.09.14、「ドイツ政府はフレックス年金を決定

シュピーゲルオンライン、2016.09.14、「フレックス年金は2017年初頭から導入


書評:竹中平蔵編著『バブル後25年の検証』(東京書籍)

2016年09月11日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

竹中平蔵編著『バブル後25年の検証』(東京書籍)は税込み約2600円と比較的割高感のある本です。電子書籍だと1000円強になるので、なおさら割高感が強くなります。

割高にもかかわらず、なぜこの本を手に取ったかと言うと、『バブル後25年』は私にとってはまさしく空白の25年に等しく、断片的なネット情報ではなく、もっと総括的な情報と考察が欲しいと思ったからです。私が「バブル崩壊」のニュースを知ったのはドイツで、朝日新聞特派員のところでアルバイトしていた時のことでした。それから不良債権の問題が世間で騒がれ、不動産地価の暴落の被害は私の亡父のような細々と個人で営業していた人たちも追い詰めていきました。そのため、父からの少額の仕送りもストップし、私の方も結構窮地に追い込まれたのですが、それはともかくとして。

目次:

はじめに

序章 概観—バブル崩壊後の"まだらな25年" 竹中平蔵(慶応義塾大学総合政策学部教授)・真鍋雅史(嘉悦大学ビジネス創造学部准教授)

第I部

検証1 バブル後の財政:バブル後25年の財政・マクロ経済 高橋洋一(嘉悦大学ビジネス創造学部教授)

検証2 バブル後のマクロ経済:失政を繰り返してきた金融政策 原田泰(早稲田大学政治経済学術院教授)

検証3 社会資本:行政改革、構造改革と社会資本 真鍋雅史(嘉悦大学ビジネス創造学部准教授)

検証4 バブル後の金融市場:バブルは10年に1度やってくる 藤田勉(シティグループ証券株式会社取締役副会長)

第II部

検証5 社会保障:増え続けた年金・医療費 跡田真澄(嘉悦大学特任教授)

検証6 産業政策:政治に翻弄された産業政策 松原聡(東洋大学副学長・経済学部教授)

検証7 日本的雇用の功罪:陳腐化した雇用制度・雇用慣行 島田晴雄(千葉商科大学学長)

第III部

検証8 IT政策とインターネットの発展:インターネット前提社会の出発 村井純(慶応義塾大学環境情報学部部長・教授)

検証9 国土・都市政策:都市政策の転換 市川宏雄(明治大学専門職大学院長・公共政策大学院ガバナンス研究科長)

検証10 消費者行動:バブル崩壊後の致命的なタイムロス 袖川芳之(京都学園大学教育開発センター教授)

検証11 バブル崩壊後の政治:政治はバブルの発生とその崩壊にどう対処したのか 曽根恭教(政治学者、慶応技術大学大学院教授)

おわりに

目次を見ればお分かりのように、ジャーナリストなどが簡単に「失われた25年」とひとまとめにしてしまうと全く見えてこない側面が様々な専門家によって検証されています。それぞれの見解や結論・提唱には同意できるものもあれば、そうでないものもありますが、とにかく、どういうことがあったか、あるいはだれがどのようなことをしたのかという「出来事」を総括的に把握するには適した本だと思います。いつのどの政策がどういう結果をもたらしたかという検証部分は異論の出て来る余地はあるでしょうし、それに伴い、今後の課題の捉え方も違う意見の人は居ると思います。ずっとドイツに居た私にはそこまでの異論は出てきませんけど。何せ目まぐるしく変わる日本の首相すらきちんと把握できてない状態なので。 この25年間でドイツの首相は3人(ヘルムート・コール、ゲルハルト・シュレーダー、アンゲラ・メルケル)だけですから、日本政治の目まぐるしさがよけい際立って感じられますね~。


ドイツ:世論調査特別版(2016年9月9日)~ベルリン州、AfDは14%

2016年09月09日 | 社会

ZDFの世論調査ポリートバロメーター特別版が9月9日に発表されましたので、以下に結果を私見による解説を加えつつご紹介いたします。

ベルリン市州では9月18日に州議会選挙があります。日本の不在者投票に相当する郵便投票(Briefwahl)は既に始まっています。

もし次の日曜日が州議会選挙ならどの政党を選びますか?:

SPD(ドイツ社会民主党)  24%
CDU(キリスト教民主同盟) 19%
Linke(左翼政党) 14%
Grüne(緑の党) 15%
FDP (ドイツ自由民主党) 5%
AfD(ドイツのための選択肢) 14%
その他 9% 

 

今回の世論調査で出た政党支持率の分布は、州議会選挙での得票率と概ね一致していると見て間違いありません。そのため、右翼政党であるドイツのための選択肢(AfD)がメクレンブルク・フォァポンメルン州の21%ほどではないにせよ、14%の支持率を獲得しているのは心配の種です。一方現在ベルリン州議会に議席を持つ海賊党(Piraten)は今回見る影もありません。

 

市長には誰を希望しますか?:

ミヒャエル・ミュラー(Müller、SPD) 59%
フランク・ヘンケル(Henkel、CDU)19%

どちらでもない 11%
分からない 11% 

 

 現職のミヒャエル・ミュラーの支持率は非常に高いようです。

 

市長候補者の評価 (スケールは+5から-5):


ミュラー (SPD) +1.3
ヘンケル(CDU) -0.5 
ポップ(緑の党) +0.1
レーデラー(左翼政党) +0.3 

市長候補者の政党内評価(スケールは+5から-5):

ミュラー (SPD) +2.7
ヘンケル(CDU) +1.8
ポップ(緑の党) +1.7
レーデラー(左翼政党) +1.5


現職市長ミヒャエル・ミュラーの評価は党内外で比較的高いようです。

 

州政権と野党の評価(スケールは+5から-5):


政権

SPD +0.4
CDU -0.6

野党

緑の党 0.0
左翼政党 -0.3
海賊党 -1.9 

 

投票先は決まってますか?:

はい 57%
いいえ 43%

 

最も重要な問題は?: 

難民問題 40%
家賃・住宅市場 27%
学校・教育 21%
交通 13%
犯罪 12% 

 

メクレンブルク・フォアポンメルン州とは違い、ベルリンでは失業問題が重要とは見なされていないようです。2016年8月の失業者統計ではベルリンの失業率は9.7%で、全国第2位なのですが、重要課題として挙げられないのは不思議なことです。

 

どの政党が各分野での専門知識・能力があると思いますか?

教育:

SPD 23%
CDU 18%
緑の党 15%
左翼政党 2%

経済:

SPD 29%
CDU 21%
緑の党 3%
左翼政党 4%
AfD 1% 

 

難民問題:

SPD 20%
緑の党 19%
CDU 14%
左翼政党 10%
AfD 10%

社会正義:

SPD 33%
CDU 10%
緑の党 10%
左翼政党 24%
AfD 2% 

この政党別分野別の能力判断で分かることは、14%いるはずのAfD支持者たちが、特にAfDのの政策能力を買って支持しているわけではないということです。よく言われることですが、いわゆる「反抗政党(Protestpartei)」へ既成政党への反発を示すために投票する人たちによってAfDが得票率を伸ばしているわけです。

状況はメクレンブルク・フォアポンメルン州と同じです。


どの連立政権がいいと思いますか?

SPD/CDU: いい 37%、悪い43%

SPD/左翼政党/緑の党:いい 43%、悪い 40%

 

現在のベルリン市政府はSPDとCDUの連立政権です。上の政党評価でも明らかなように、特にCDUの評価が下がっています(-0.6)。そのため、SPDを残して、他の小政党2党との連立政権を望む声が大きくなっているようです。

 

難民数はベルリン市州にとって処理可能?

はい 62%
いいえ 33%
分からない 5% 

 

ベルリンはどちらかといえば国際都市としてオープンな土地柄のはずなんですが、それでも「処理できない」と思う人が33%もいるのが意外な感じです。これはもしかしたら、排他性によるものではなく、ベルリン市の管理・実務処理能力の低さを評価しているものと考えられるかもしれません。下のメルケル首相の難民政策の支持率が不支持を上回っていることも、「処理できない」の理由が排他性によるものではないことを裏付けているようです。

 

メルケルの難民政策について

いい 52%
悪い 43%
分からない 5% 

 

政党別メルケル首相の難民政策支持率:

SPD 60%
CDU 62%
緑の党 76%
左翼政党 53%
FDP 39%
AfD 4% 

 

この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン(選挙)」によって行われました。インタヴューは偶然に選ばれた有権者1.334人に対して2016年9月6日から8日に電話で実施されました。

次の世論調査は2016年9月23日ZDFで発表されます。

 

参照記事:
ZDFポリートバロメーター、2016.09.09、「ポリートバロメーター特別版
Statista、2016年8月州別失業率統計


書評:松岡圭祐著、『カウンセラー 完全版』(角川文庫)

2016年09月07日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『カウンセラー 完全版』(角川文庫)は臨床心理士・嵯峨敏也を主人公とする『催眠』シリーズの第2弾(2008年)。

商品説明は:

カリスマ音楽教師を突然の惨劇が襲う。一家4人が惨殺されたのだ! 犯人は13歳の少年だった……。法で裁かれぬ少年への憎悪を抑えられない彼女の胸に、一匹の怪物が宿る。一線を超えた時、怪物は心を食い尽くす!臨床心理士・嵯峨敏也は犯罪の奈落に堕ちた彼女を、そして凶行の連鎖を止められるのか!!大ヒットシリーズ「催眠」の第2弾。徹底したリアリズムで書かれるサイコサスペンスの大傑作が、待望の完全版で登場!

となっています。

プロローグ「闇市」で、謎の女が戦後の闇市の時代から続いているというアメ横の武器闇商人からグロッグ17を購入する。次の章の話とは全くつながらないので、物語の中盤くらいになるまで、このエピソードがどの時系列に属するのかさっぱり分からないまま読み進むことになります。

「カリスマ音楽教師」こと響野由佳里は、絶対音感を持つばかりでなく、ピアノの演奏から演奏者の心情や生活まで読み取れるという特異な能力の持ち主という設定で、ちょっと≪徹底したリアリズム≫から外れてしまうと思うのですが、その彼女の特殊な能力ゆえに、問題のある子どもたちの更生に貢献し、文部科学省から表彰されるまでに上り詰めたが、表彰式のあったその晩に彼女の父母と二人の子どもが惨殺されてしまいます。しかも犯人は13歳の少年で、動機は「ムカついたから」。

これでは遺族は本当にやるせない。法で裁けないなら自分で復讐をしようと考えるまでは、とてもよく分かります。それを実際に実行に移す人は稀でしょうが、響野由佳里はそれを成し遂げ、高揚感に浸り、どんどん心が壊れていきます。彼女を助けようとする嵯峨敏也のことも拒絶します。

事態がどの辺に収束していくのか見えないので、ページを捲る手が止められない感じです。エンタメ性抜群のサスペンス小説と言えるでしょう。

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