東京や埼玉・千葉など、関東圏を舞台とすることが多い中山七里作品の中で、本シリーズは珍しく宮城県が舞台となっています。東日本大震災の爪痕がまだ生々しく残る特殊事情。誰もが家族や親族や友人を失い、震災前と同じではいられない。これが『護られなかった者たちへ』と『境界線』のドラマの素地となっています。
宮城県警捜査一課警部・笘篠誠一郎は、震災の時も公務に出ており、その間に妻子が自宅と共に津波に流されてしまい、遺体はまだ発見されないまま7年の歳月が流れた。気持ちに区切りが付けられず、いまだに「行方不明」扱いのままにしてある。
『護られなかった者たちへ』では、そんな笘篠が、仙台市の保健福祉事務所課長・三雲忠勝が手足や口の自由を奪われた状態で餓死させられた事件を負います。三雲は職場でも家庭でも善良で人格者と評判で、怨恨の線は考えにくい。しかし、現場に現金等の所持品が手つかずであったことから、物盗りの線も考えにくく、捜査は暗礁に乗り上げます。
そんなとき、一人の模範囚が出所していた。彼は過去に起きたある出来事の関係者を追っている。男の目的は何なのか?
そうして、第二の被害者が出たため、第一・第二の被害者たちの共通点を探るうち、明らかになる福祉行政のひずみ。
誰が被害者で、誰が加害者なのか。本当に「護られるべき者」とは誰なのか?
鋭い筆致で社会問題に切り込みます。
中山七里作品によく見られる意図的なミスリードが本作でも巧みで、見事などんでん返しに舌を巻くほどです。
第二弾『境界線』では、東日本大震災の行方不明者と個人情報ビジネスという復興の闇を背景にストーリー展開します。
2018年5月某日、気仙沼市南町の海岸で、女性の変死体が発見され、遺留品の身分証から、遺体は、7年前の東日本大震災で津波によって流された宮城県警捜査一課警部・笘篠誠一郎の妻だったことが判明。笘篠はさまざまな疑問を抱えながら身元確認のため現場へ急行するが、そこで目にしたのはまったくの別人の遺体だった。
妻の身元が騙られ、身元が誰かの手によって流出していた……やり場のない怒りを抱えながら捜査を続ける笘篠。しかし、「自殺」案件であるため、管轄外の捜査は上司にも所轄にもいい顔はされない。
妻の身元が騙られ、身元が誰かの手によって流出していた……やり場のない怒りを抱えながら捜査を続ける笘篠。しかし、「自殺」案件であるため、管轄外の捜査は上司にも所轄にもいい顔はされない。
そのような中、宮城県警に新たな他殺体発見の一報が入るが、その遺体の顔は潰され、指が全部切り取られていた。遺留品の身分証明書から勤め先や家族に連絡を入れると、遺族からは「全くの別人」と証言される。
この二つの事件に共通する身分詐称は、個人情報ビジネスを示唆するが、どこの誰が役所にしかないはずの震災の行方不明者情報を漏洩させ、誰が買ってビジネスとしたのか?
この作品は、復興の問題もさることながら、生き残った者たちの心の傷にも迫ります。