徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:中山七里著、『特殊清掃人』(朝日新聞出版)

2023年05月04日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『特殊清掃人』は、特殊清掃業者〈エンドクリーナー〉に舞い込む清掃依頼案件を主人公・秋廣香澄の視点から描いた短編集で、『祈りと呪い』『腐蝕と還元』『絶望と希望』『正の遺産と負の遺産』の4編が収録されています。

死者が出た家・アパート・マンションは、同居人が居なければ、特殊清掃業者に依頼して後処理をしてもらうことになります。死後どのくらいの時間が経過しているかによって、清掃内容が変わってきます。
まず、ありとあらゆるゴミを出し、ウジ・ハエなどの害虫を駆除し、床や壁などを消毒。遺体から流れ出た体液の浸潤具合によって、床材や根太、大引きまで交換する必要が生じる。
体液は感染症の温床であるため、消毒が済むまでは防護服を着て作業するため、気温が高い日は拷問に近い過酷な仕事になります。
しかし、体力以上に精神力が奪われます。ある種の〈鈍感さ〉を持っていないと続けられない業種です。
孤独死が増える中、特殊清掃の需要は今後も増大することが予想されます。
一言で〈孤独死〉と言っても、十人十色。身寄りのない独居老人とは限らず、親元から離れて一人暮らしをしていた若い人の事故や自殺、あるいは犯罪被害など、様々なドラマが隠れています。
そうしたドラマを特殊清掃という過酷な作業をする者の立場から見い出していく構成です。香澄は亡くなった方に感情移入してしまいがちなので、余計に苦悩しますが、それでも真摯に遺品整理を行い、故人の思いを誰かに伝えようとするその姿勢に心が動かされます。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ