徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:池井戸潤著、『銀翼のイカロス』(文春文庫)

2018年03月30日 | 書評ー小説:作者ア行

半沢直樹シリーズ第4弾『銀翼のイカロス』が漸く文庫化され、先月遅ればせながら『花咲舞が黙ってない』と一緒に購入し、SAL便で一か月以上かかって昨日届き、イースター休みを利用して一気読みしました。非常に面白いいい作品です。

半沢直樹が破綻寸前の帝国航空を頭取の意向で担当することになり、それによって行内のパワーバランスが崩れてしまい、元々旧東京第一銀行系(旧T)の派閥から敵視されている彼は余計な反感を買ってしまうことになります。帝国航空の経営陣も「いざとなったら銀行が助けてくれるもの」と考えているのか余り危機感がなく、再建に必要な措置にあまり真剣に取り組まない。それでもなんとか銀行側の意向を取り入れた再建計画を練り上げて「有識者会議」とやらのお墨付きを得たところで政権交代が起こり、元TVアナウンサーだった進政党の若手リーダーと目されている、トレードマークの青いスーツに身を包む白井亜希子が国交大臣(誰がモデルなのかよく分かりますね)に就任し、一度決まった再建計画を白紙撤回し、私設のタスクフォースをぶち上げて、そのタスクフォースは一律7割の債権放棄を要求してきます。東京中央銀行の棒引き額は約500億円。とても飲めない無茶な話ですが、なぜか銀行上層部から債権放棄を呑むように圧力をかけられます。半沢は銀行内部の大きな闇に対峙する一方で、功を焦って現実をろくに把握していない空疎な政治家と、功名心で大臣の御威光を笠に着て威張り散らすタスクフォースまとめ役の再建弁護士を向こうに回すことになります。本当に「ご苦労様」という感じですが、読者にはたまらない面白さです。

作中ではいろんな「プライド」がぶつかり合いますが、たとえば「一介の行員の名前を記憶することなど自分のプライドが許さない」とか「プライドばかり高い銀行員」とかネガティブなものもあれば、自分の仕事を全うするプライド、正しいことをするプライドというポジティブな意味のものもあり、最終的には一介のバンカーとしてのプライドがものを言うところが爽快感があっていいですね。

また、半沢が行内で敵だらけとはいえ、同期の情報通である渡真利や広報部次長の近藤といったおなじみの味方ばかりではなく、半沢の姿勢に理解を示す直属の上司である内藤や半沢のかつての恩師のような検査部部長代理の富岡、そしてもちろん行内対立に苦悩し、行内融和に腐心する頭取の中野渡もそれぞれ味わい深い懐の深さや度量を持っていて魅力的です。「サッチャー」と呼ばれる帝国航空のメーンバンクである政府系金融機関の担当者である谷川幸代さんも帝国航空財務部長の山久登も保身第一ではなく、仕事に真摯に向き合う交換を持てる登場人物たちです。

実際のJAL救済の問題や「政治家主導」を掲げて政権奪取した民主党の瓦解が池井戸風に料理されており、それもこの作品の魅力といえます。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村


書評:池井戸潤著、『七つの会議』(集英社文庫)

書評:池井戸潤著、『アキラとあきら』(徳間文庫)

書評:池井戸潤著、『架空通貨』(講談社文庫)~江戸川乱歩賞受賞作品

書評:池井戸潤著、『シャイロックの子供たち』(文春文庫)

書評:池井戸潤著、『かばん屋の相続』(文春文庫)

書評:池井戸潤著、『株価暴落 』(文春文庫)

書評:池井戸潤著、『BT’63 上・下』(講談社文庫)

書評:池井戸潤著、『民王』(文春文庫)

書評:池井戸潤著、『金融探偵 』(徳間文庫)

書評:池井戸潤著、『ルーズヴェルト・ゲーム』(講談社文庫)

書評:池井戸潤著、『銀行仕置人』(双葉文庫)

書評:池井戸潤著、『鉄の骨』(講談社文庫)~第31回吉川英治文学新人賞受賞作

書評:池井戸潤著、『果つる底なき』(講談社文庫)~第44回江戸川乱歩賞受賞作

書評:池井戸潤著、『ようこそ、わが家へ』(小学館文庫)

書評:池井戸潤著、『花咲舞が黙ってない 』(中公文庫)