徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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レビュー:吉田秋生著、『BANANA FISH』全20巻

2020年08月22日 | マンガレビュー




大昔にこの作家の『吉祥天女』を読んだことがありましたが、その後すっかり忘れてました。
ある人に勧められたので、『BANANA FISH』全20巻を一気読みしてしまいました。
1985年、ストリートキッズのボス、アッシュがニューヨークのロウアー・イースト・サイドで、胸を射たれて瀕死の男から薬物サンプルを受け取り、その男は「バナナフィッシュに会え…」と言い遺して息を引き取るところから壮大なストーリーが始まります。
ベトナム戦争で出征した際、麻薬にやられて正気を失ったままの兄グリフィンの面倒をみていたアッシュは、兄が時々つぶやく「バナナフィッシュ」と同じことばを聞き、興味を抱き、真実を探ろうとします。
そこからアッシュを少年の頃に引き取り、その美貌と才能に惚れこんで後継者にしようと目をかけていた暗黒街のボス、ディノ・ゴルツィネとの対立が深まり、裏社会の複雑な人間関係からドラマが二転三転してきます。
一方、カメラマン助手、英二が雑誌の取材でアッシュと出会い、この事件にどんどん巻き込まれていく中で、アッシュと英二のなんとも不釣り合いで不均衡だけれども美しい友情が泥沼の中に咲く蓮のように輝きを放っています。
スケールが大きいハードボイルドっぽい空気が濃厚なのに少女漫画雑誌で掲載されていた、というところに少々驚きました。
主人公のアッシュはヨーロピアンエレガンスの権化かというくらいの美貌の持ち主でIQ200近い天才を生かしてリーダーシップを発揮するスーパーヒーローですが、その美貌ゆえの悲劇的体験や、殺さなければ自分が殺されるという世界に身を置いているせいで基本的に人間不信で孤独。その彼にとっての唯一の癒しになるのが平和な日本から来た英二という位置づけです。設定としては少女漫画的にはありがち、どっかで読んだ印象を受けるのですが、ただの平和ボケ君ではなく、アッシュに惹かれ、歩み寄り、理解する努力をし、彼を信じて支え助けようとする心の強さを持っているところが魅力ですね。派手な主人公アッシュに目が行きがちですが、その彼が戦いの足手まとい・アキレス腱となる英二を手放せず、守ろうとしてしまうだけの魅力があります。
この二人の強い絆が、バナナフィッシュというミステリーの見どころの一つだと思います。
ディノ・ゴルツィネのアッシュに対する執着も毒々しいスパイスです。こっちのネチネチドラマの方が好みという方も少なくないと思いますw