徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:中山七里著、『人面瘡探偵』(小学館)

2023年05月27日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行
商品説明
名探偵は肩にいる!? 不可解連続殺人の謎。

三津木六兵には秘密がある。子供の頃に負った右肩の怪我、その傷痕がある日突然しゃべりだしたのだ。人面瘡という怪異であるそれを三津木は「ジンさん」と呼び、いつしか頼れる友人となっていった。
そして現在、相続鑑定人となった三津木に調査依頼が入る。信州随一の山林王である本城家の当主・蔵之助の死に際し遺産分割協議を行うという。相続人は尊大な態度の長男・武一郎、享楽主義者の次男・孝次、本城家の良心と目される三男・悦三、知的障害のある息子と出戻ってきた長女・沙夜子の四人。さらに家政婦の久瑠実、料理人の沢崎、顧問弁護士の柊など一癖ある人々が待ち構える。
家父長制度が色濃く残る本城家で分割協議がすんなり進むはずがない。財産の多くを占める山林に希少な鉱物資源が眠ることが判明した夜、蔵が火事に遭う。翌日、焼け跡から武一郎夫婦の焼死体が発見された。さらに孝次は水車小屋で不可解な死を遂げ……。一連の経緯を追う三津木。そんな宿主にジンさんは言う。
「俺の趣味にぴったりだ。好きなんだよ、こういう横溝的展開」
さまざまな感情渦巻く本城家で起きる事件の真相とは……!?
解説は金田一俳優でもある片岡鶴太郎氏。

山奥の旧家。古い因習。素封家の遺産相続争い。そして相続人たちが次々と殺害される。
人里離れたところでおどろおどろしいストーリー展開は、明らかに横溝正史の金田一耕助シリーズを彷彿とさせます。どうやら横溝正史へのオマージュのようです。絵本の物語をなぞるような事件が続く、「見立て殺人」であることも推理小説の王道の素材を扱っています。
しかし、探偵役が個性的です。相続鑑定人である三津木六兵は、右肩に人語を話す人面瘡「ジンさん」を持っている。宿主のようなものである六兵よりも記憶力と情報処理能力が高く、なにかと六兵を罵り、ときに助言もする存在です。二人三脚で事件を解決するようなものですが、ホームズとワトソンのように別個の存在ではなく、内密に自分会議を開いているようなものです。
そのやり取りは、決して対等ではなく、「ジンさん」が六兵を罵倒するパターン。それが実にユーモラスで、情けない六兵にかえって同情という共感を持てます。
この人面瘡の「ジンさん」というキャラクターがなければ、この作品はどこかで読んだような話の1つに成り下がってしまうことでしょう。



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