『第2言語ユーザのことばと心 マルチコンピテンスからの提言』を読み出したのは3月半ば。内容が小難しいために、なかなか読み通すことが叶わず、5月になってようやく完読できました。
目次
はしがき
第1章 マルチコンピテンス(複合的言語能力)とは?
第2章 第2言語ユーザの「ことば」
第3章 第2言語ユーザの「心」
第4章 マルチコンピテンスの研究課題と研究方法
第5章 マルチコンピテンスの英語教育への示唆
あとがき
参考文献
索引
マルチコンピテンスの考え方とは、従来の「母語」と「外国語」を独立した別存在として捉える考え方に異議を唱えるものです。現代において、純粋なモノリンガル(単言語使用者)はほとんど存在しておらず、程度の差こそあれ、母語以外の外国語に接し、その影響を受けているため、外国語学習において目指すべき理想の〈母語話者〉も空虚であることを指摘します。
この考え方から、外国語を学ぶ者を外国語〈学習者〉とは呼ばず、〈第2言語ユーザ〉と呼びます。
個人的には〈ユーザ〉と二つ目の長音記号を省く書き方に抵抗がありますが、それはともかく、たとえ初級レベルであっても外国語を学ぶことで、脳内の言語能力の様相が変化しており、外国語の影響がその本人の母語運用に影響を与えたり、母語の特徴が外国語の運用に影響を与えたり、と双方向の影響関係が認められ、その混然一体となった言語能力はその人独自の言語であることに誇りを持って、〈ユーザ(使い手)〉と自認すべきだ、というのが本書の核心となる主張です。
自分はある外国語の〈学習者〉と自覚していると、いつまでも母語話者レベルに到達しない、不完全な使い手のイメージがつきまとい、そのせいで余計に運用に自信を持てないままなのは残念なことである、という主張は共感できます。
英語教育への提言としては、〈母語話者〉信仰の見直し、英語のみで行う授業の見直し、訳読活動の再採用などが挙げられています。
確かに、英語のみで英語の授業を行った場合、生徒の英語理解が進むのかについては疑問の余地があるため、日本語で行う英語の授業を蔑ろにするのは極端な方針と言えるでしょう。
英語運用の練習には、英語のみの授業、英語の文法構造の説明には日本語での授業というように目的に応じて使い分けるのが合目的的であるように思えます。