徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:中山七里著、『月光のスティグマ』(新潮文庫)

2023年05月20日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行
商品説明
幼馴染の美人双子、優衣(ゆい)と麻衣(まい)。僕達は三人で一つだった。あの夜、どちらかが兄を殺すまでは――。十五年後、特捜検事となった淳平は優衣と再会を果たすが、蠱惑(こわく)的な政治家秘書へと羽化した彼女は幾多の疑惑に塗(まみ)れていた。騙し、傷つけ合いながらも愛欲に溺れる二人が熱砂の国に囚われるとき、あまりにも悲しい真実が明らかになる。運命の雪崩に窒息する! 激愛サバイバル・サスペンス。

1995年の阪神・淡路大震災以前の淳平と隣の双子姉妹・優衣と麻衣の三人の思い出語りから物語は始まります。双子に振り回されつつまんざらでもなかった淳平は、将来2人のうちのどちらかと結婚することを約束させられますが、思春期の頃になると、積極的な麻衣よりも少し控えめな優衣に惹かれ、お互いの思いを確認し合う。一方、淳平の兄はかねてから麻衣を狙っており、阪神・淡路大震災前夜、彼女を工場跡に呼び出していた。淳平は兄が刺されるところを目撃してしまうが、驚いて家に逃げ帰ってしまう。翌日確認に行くつもりだったが、震災でそれどころではなくなる。彼は無事に家の外に出られたが、無事だったのは彼一人だった。隣で助けを求める声が聞こえたので、双子姉妹を救いに行くが、救出できたのは優衣だけで、その後、家屋は倒壊してしまった。仕方なく淳平は優衣を背負って避難所まで連れて行く。やがて親戚が迎えに来て、二人はそのまま離れ離れに。

15年後、淳平は特捜検事として国民党牧村派の政治家・是枝孝政が名を連ねるNPO法人・震災孤児育英会に内偵に入る。そこに是枝の秘書として現れたのが優衣だった。
二人は完全に敵・味方に分かれ争うことになるのか、歩み寄れるのか?
過去の誓いと兄殺しの疑い、そして是枝のカネの流れを追う任務の間で葛藤する淳平は、能面検事のようにはいかず、内偵にかなり苦戦します。

その後のストーリー展開は、『総理にされた男』とシンクロし、同作品のB面のような様相を呈しています。併せて読むとなお、面白いかもしれません。

 


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書評:中山七里著、『総理にされた男』(NHK出版)

2023年05月20日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行
商品説明
人気作家・中山七里が描く
ポリティカル・エンターテインメント小説!

売れない舞台役者・加納慎策は、内閣総理大臣・真垣統一郎に瓜二つの容姿とそ精緻なものまね芸で、ファンの間やネット上で密かに話題を集めていた。ある日、官房長官・樽見正純から秘密裏に呼び出された慎策は「国家の大事」を告げられ、 総理の“替え玉”の密命を受ける 。慎策は得意のものまね芸で欺きつつ、 役者の才能を発揮して演説で周囲を圧倒・魅了する 。だが、直面する現実は、政治や経済の重要課題とは別次元で繰り広げられる派閥抗争や野党との駆け引き、官僚との軋轢ばかり。政治に無関心だった慎策も、 国民の切実な願いを置き去りにした不条理な状況にショックを受ける。義憤に駆られた慎策はその純粋で実直な思いを形にするため、国民の声を代弁すべく、演説で政治家たちの心を動かそうと挑み始める。そして襲いかる最悪の未曽有の事態に、慎策の声は皆の心に響くのか――。
予測不能な圧巻の展開と、読後の爽快感がたまらない、魅力満載の一冊。 

総理が病気で倒れ、そのまま政府が倒れてるのを回避するため、よく似た売れない役者を替え玉にする、という荒唐無稽な設定に目をつぶれば、これほど面白いポリティカルエンターテイメントはなかろうと思えるほど傑作でした。
「立場が人をつくる」とはよく言ったもので、まったくのノンポリだった加納慎策は、総理として扱われ、総理として演技しているうちに政治に目覚めていきます。
そして、訪れる前代未聞の危機。アルジェリアでテロが起こり、日本大使館が占拠されます。大使を含む職員らと大使館に保護を求めた日本人やアルジェリア人が人質に取られ、3時間おきに一人処刑されていく。加納慎策演ずる真垣統一郎総理が下す決断とは? 自国民の危機に、他国に頼るばかりで自ら救済に赴くことできずして独立国と言えるのか? 自衛隊の位置づけと国家のあり方に一石を投じる作品。
護憲一辺倒の平和主義者たちにとっては「すわ、右翼向け小説か?!」と非難すべきものかもしれませんが、現実問題として似たような状況に陥った本物の日本国政府が人質を見殺しにしたことを鑑みると、あながち作中の加納慎策が下した結論は、独立国家として当然の人道主義的決断だったと言えるのではないでしょうか。


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書評:中山七里著、『能面検事の奮迅』(光文社)

2023年05月20日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

商品説明
学校法人荻山学園に対する大阪・岸和田の国有地払い下げに関し、近畿財務局職員の収賄疑惑が持ち上がり、大阪地検特捜部が捜査を開始。ところがその特捜部内の担当検事による決裁文書改竄疑惑が浮上。最高検から調査チームが派遣され、大阪地検一級検事の不破俊太郎は惣領美晴事務官と調査に乗り出し、信じがたいものを発見する……。「能面検事」再び! 現実の事件を彷彿させる物語に、能面検事・不破の鋭いメスが冴えわたる! 

「能面検事」シリーズ第2弾。文庫化はされていないものの、続編となれば気になるので、単行本のまま購入しました。
本作の事件のあらましは、財務省近畿財務局が、大阪府豊中市の国有地を大幅値引きして森友へ売るまでの一連の土地取引と、この取引をめぐる決裁文書を財務省が改ざんしたいわゆる「森友学園問題」に着想を得ています。
しかし、現実をそのままなぞるような野暮なことをせず、売却予定地の選定過程に隠し玉があり、過去の美談っぽい話が暴かれることになります。
不破俊太郎検事は相変わらず周囲の期待や圧力をどこ吹く風と受け流し、まったくのマイペースで真実を掘り起こそうとします。
その彼に影のように(?)付き従う総領美晴も相変わらず感情が顔に出てしまう悪癖が治らず、自分の感情論や単純な正義感を不破検事に木端微塵に粉砕されてもめげずに、いつか検事になることを夢見てコツコツと事務官の仕事を続けます。
不破検事の容赦ない罵倒がくせになっているのでは?と疑問に思わなくもないです。しかし、彼は卑劣さ卑屈さとは無縁であるため、容赦ない理屈も一本筋が通っていて、よくよく耳をすませば納得が行くものでもあります。
しかし、容赦ない一本筋の通った理屈も、能面顔で語られると、やはり人間味が足りなくて、ちょっと薄気味悪いのではないでしょうか。
語り手の総領美晴は、不破検事とは対照的に感情に振り回され過ぎて、およそ検事を目指す者として相応しからぬキャラクターが魅力と言えば魅力なのでしょう。私はちょっと引いてしまいますが。。。



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書評:中山七里著、『嗤う淑女』『ふたたび嗤う淑女』(実業之日本社文庫)&『嗤う淑女  二人』(実業之日本社)

2023年05月20日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

この『嗤う淑女』シリーズは、不幸な生い立ちの美女・蒲生美智留が次々と人を不幸に陥れていく話で、〈傾国の美女〉もかくや、という感じです。
自分を性的虐待し続けた父親を殺したことを除けば、自ら手を汚すことなく、巧みに犯罪を教唆するため、捜査の手も及ばず、たとえ捕まってもどんでん返しで無罪釈放。
事件解明はされても、古典的な意味での解決、すなわち逮捕・起訴・有罪判決とはならず、「最後に笑うのは私」とばかりに美智留はまんまと逃げおおせるところが興味深いミステリーです。
シリーズ3作目で笑う淑女が二人に増えますが、二人目の悪女・有働さゆり は、『連続殺人鬼カエル男』で登場するキャラクター。彼女のしたたかさは、蒲生美智留の悪知恵も結局及ばず、「共犯者は始末するもの」という美智留のポリシーをまんまと免れて逃走。こうして悪女が二人とも捕まらずに逃走中なのです。
悪の華を礼賛する、というほどではないにしても、読者の倫理観や正義感を逆撫でする作品であることには変わりありません。にもかかわらず、最後まで読ませてしまうのは、さすがどんでん返しの帝王・中山七里の筆致のなせるわざというものでしょう。

『笑う淑女』
商品説明
徹夜確実! 女神なのか、悪魔なのか――最恐悪女度no.1小説。中学時代、いじめと病に絶望した野々宮恭子は従姉妹の蒲生美智留に命を救われた。美貌と明晰な頭脳を持つ彼女へ強烈な憧れを抱いてしまう恭子だが、それが地獄の始まりだった――。名誉、金、性的衝動…絶世の美女に成長した美智留は老若男女の欲望を残酷に操り、運命を次々に狂わせる。連続する悲劇の先に待つものは? 史上最恐の悪女ミステリー。漫画家・松田洋子氏による文庫版限定「あとがき漫画」収録!


『ふたたび嗤う淑女』
商品説明
この悪女、制御不能!
シリーズ累計12万部突破の大ヒット作、待望の文庫化!

巧みな話術で唆し、餌食となった者の人生を狂わせる――
稀代の悪女・蒲生美智留が世間を震撼させた凶悪事件から三年。
「野々宮恭子」と名乗る美貌の投資アドバイザーが現れた。
国会議員・柳井耕一郎の資金団体で事務局長を務める藤沢優美は、
恭子の指南を受け、不正運用に手を染めるが……
金と欲望にまみれた人々を弄ぶ恭子の目的とは! ?
どんでん返しの帝王が放つ、戦慄のミステリー!

人気漫画家・松田洋子氏による、文庫版限定「あとがき漫画」も、
シリーズ第1作『嗤う淑女』につづけて、ふたたび収録!

『嗤う淑女  二人』
商品説明
最恐悪女が最凶タッグ!これはテロか、怨恨か<? br> 真相は悪女のみぞ知る――。
戦慄のダークヒロイン・ミステリー、衝撃の最新刊!

高級ホテル宴会場で17名が毒殺される事件が発生。
犠牲者の一人、国会議員・日坂浩一は〈1〉と記された紙片を握りしめていた。
防犯カメラの映像解析で、衝撃の事実が判明する。
世間を震撼させた連続猟奇殺人に関与、
医療刑務所を脱走し指名手配中の「有働さゆり」が映っていたのだ。
さらに、大型バス爆破、中学校舎放火殺人……と、新たな事件が続発!
犯行現場には必ず、謎の番号札と、有働さゆりの痕跡が残されている。
さゆりは「ある女」に指示された手段で凶行に及んでいたが、
捜査本部はそのことを知る由もなく、死者は増え続ける一方で、
犠牲者は49人を数えるのだった……。
デビュー11年目、どんでん返しの筆がますます冴える人気作家が放つダークヒロイン・ミステリー第3弾、ついに刊行!


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