徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:中山七里著、『連続殺人鬼カエル男』&『連続殺人鬼カエル男ふたたび』 (宝島社文庫)

2023年05月21日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

商品説明
マンションの13階からフックでぶら下げられた女性の全裸死体。傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文。これが近隣住民を恐怖と混乱の渦に陥れる殺人鬼「カエル男」による最初の凶行だった。警察の捜査が進展しないなか、第二、第三と殺人事件が発生し、街中はパニックに……。無秩序に猟奇的な殺人を続けるカエル男の正体とは?どんでん返しにつぐどんでん返し。最後の一行まで目が離せない。 

『さよならドビュッシー』と同時に新人賞予選に残り、入選は逃したものの評判が良かったために出版された作品が、猟奇連続殺人を描く『連続殺人鬼カエル男』です。埼玉県飯能市内の殺人現場に今日はカエルをどうしたかというひらがなで書かれた日記のようなものが残されていたことから〈カエル男〉と命名された犯人。
第三の殺人事件が起こってしまった後で、被害者の名前が「あ・い・う」で始まることから、犯人は被害者をあいうえお順に選んでいるのではないかという推測が広まり、住民たちは警察を無能呼ばわりし、自警団を結成し、挙句の果てに容疑者名簿を求めて埼玉県警本部を集団で襲撃する事態に発展します。
「日本人は礼儀正しい」というクリシェをぶち壊し、パニックになった民衆は凶暴化するという群集心理のセオリー通りに展開するところが恐ろしく本質的で興奮を誘います。
犯人に迫る刑事・小手川が意外にも弱くて、容疑者たちにかなりボコボコにされてしまうので、ヒーローらしいヒーローが不在です。真相は二転三転し、本当の黒幕は殺人教唆にも問えない点が、『笑う淑女』のパターンを彷彿とさせます。
すでにここで、埼玉県警捜査一課の渡瀬警部が脇役キャラとして登場しているのが興味深いですね。

商品説明
シリーズ累計23万部突破! 渡瀬&古手川VSカエル男、ふたたび!
凄惨な殺害方法と幼児が書いたような稚拙な犯行声明文、
五十音順に行われる凶行から、街中を震撼させた“カエル男連続猟奇殺人事件"。
それから十カ月後、事件を担当した精神科医、御前崎教授の自宅が爆破され、その跡からは粉砕・炭化した死体が出てきた。そしてあの犯行声明文が見つかる――。
カエル男・当真勝雄の報復に、協力要請がかかった埼玉県警の渡瀬&古手川コンビは現場に向かう。
さらに医療刑務所から勝雄の保護司だった有働さゆりもアクションを起こし……。破裂・溶解・粉砕。ふたたび起こる悪夢の先にあるものは……。
 

前回、あいうえお順連続殺人で「え」まで実行され、次の「お」でピックアップされていた御前崎教授が初っ端に犠牲となります。しかし、彼の自宅は千葉県松戸市。〈カエル男〉は県境を跨いでしまいます。
次の犠牲者はさ行に移り、次々と殺人事件が起きていき、標的は埼玉・千葉にとどまらず、東京にまで及びます。関東一円をパニックに陥れるカエル男の正体は誰なのか? 
前回のカエル男事件で収監されていた有働さゆりは、今回の実行犯ではなかった。では、真犯人は?

この作品で、有働さゆりは脱獄し、『笑う淑女二人』に繋がっていきます。
彼女の弁護士としてかの悪名高い元〈死体配達人〉の御子柴礼司がちょい役で登場しています。
このように作品を跨ぐキャラの登場も、中山七里作品を読む面白さの1つです。

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書評:中山七里著、『いまこそガーシュウィン』vol. 1~3 (宝島社)

2023年05月21日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行
『いまこそガーシュウィン』はデジタル限定配信の4回連載であるため、一話が短く、少々物足りない感じがします。
音楽モチーフのストーリーは、デビュー作『さよならドビュッシー』以来の岬洋介シリーズの系譜に連なる作品です。
ショパン・コンクールで6位入賞という微妙な成績のピアニストのエドワードが、次のコンサートツアーにやる曲に悩みつつ、全米に広がる「Black lives matter」運動と、それに対する差別主義的発言を繰り返すトランプ大統領候補という世情にも憂えています。
差別が先鋭化する空気を音楽で吹き飛ばそうと、エドワードは文化融合的なガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」を演目に入れることを思いつきます。2台のピアノで弾く相手は、かつて戦場で5分間の演奏で人命を救ったという伝説の男・岬洋介。こちらが表のストーリーライン。

裏のストーリーラインは、差別主義の新大統領暗殺を請け負う〈愛国者〉の物語。この〈愛国者〉の表の顔は演奏家でもあるため、エドワードたちの「ラプソディー・イン・ブルー」のための演奏者オーディションに応募し、ついに裏と表が交差することになります。
さて、その先は? 暗殺が実現してしまうのか? コンサートは成功するのか?
舞台がアメリカであるため、感情移入がしづらいきらいがありますが、十分に読ませるミステリーです。


商品説明
本シリーズはデジタル限定で全4回連載予定。3か月毎に新刊を配信予定です 。
ショパン・コンクールで入賞し、アメリカで指折りのピアニスト、エドワード。彼は大統領選挙により変貌しつつある国内の様子に憂い、音楽を通して何かできないか模索していた。一方、暗殺者である〈愛国者〉はある男から新大統領の抹殺を依頼される――。



商品説明
アメリカで指折りのピアニスト・エドワードは、大統領選挙により変貌しつつある国内の様子に憂い、音楽を通して何かできないか模索していた。そんなとき、彼は日本で起きた出来事を知り衝撃を受ける。6年前、エドワ―ドが入賞したショパンコンクールで、鮮烈な演奏をしたあの男がとあるコンサートにサプライズ登場したのだ。羨望、嫉妬、感激….様々な感情が渦巻く中、エドワ―ドはある作戦を閃く――。 


商品説明
アメリカで指折りのピアニスト・エドワードは、大統領選挙により変貌しつつある国内の様子に憂い、音楽を通して何かできないか模索していた。そして彼はついに、6年前のショパン・コンクールで鮮烈な演奏をし、たった五分間の演奏で人命を救った男・岬洋介との競演コンサートを取り付ける。岬と譜面を囲み、意見を交わすことに喜びを覚えるエドワード。しかし、それは束の間の楽しいひと時にすぎなかった。一方その頃、新大統領抹殺の依頼を受け、計画を進めていた〈愛国者〉は、依頼主の男から思わぬ提案をされ――。 


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書評:中山七里著、『夜がどれほど暗くても』(ハルキ文庫)

2023年05月21日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行
商品説明
志賀倫成(しがみちなり)は、大手出版社の雑誌『週刊春潮』の副編集長で、その売上は会社の大黒柱だった。
志賀は、スキャンダル記事こそが他の部門も支えているという自負を持ち、充実した編集者生活を送っていた。
だが大学生の息子・健輔(けんすけ)が、ストーカー殺人を犯した上で自殺したという疑いがかかったことで、
幸福だった生活は崩れ去る。スキャンダルを追う立場から追われる立場に転落、社の問題雑誌である『春潮48』へと左遷。
取材対象のみならず同僚からも罵倒される日々に精神をすりつぶしていく。
一人生き残った被害者の娘・奈々美から襲われ、妻も家出してしまった。
奈々美と触れ合ううちに、新たな光が見え始めるのだが……。 

日本では、加害者家族はもちろんのこと、犯罪被害者の家族も正義の皮をかぶった匿名の誹謗中傷に晒され、野次馬根性の下劣さに神経をすり減らされていくのが現状です。
この作品では、ストーカー殺人犯とされた大学生の父親と、そのストーカー殺人犯に両親を殺されてしまいただ一人生き残った未成年の娘が出会い、何度も衝突するうちに、庇護する者と庇護される者の関係に変貌していく過程が語られます。
特に菜々美が同級生たちから受ける仕打ちは凄惨を極めており、思春期の少年少女たちの非常識な酷薄さが浮き彫りになります。そうしたいじめを受けながらも警察にも誰にも相談せず、1人で立ち向かおうとする菜々美は悲壮で、たしかに大人の庇護欲を掻き立てるかもしれません。
一方、志賀の方は自分や息子の犯した犯罪、被害者遺族をネタに記事を書かざるを得ない状況に追いやられ、これまで自分がしてきたことの下劣さをわが身をもって体験することになります。
マスコミ批判と正義面した匿名の悪意に対する厳しい批判が込められているものの、その批判は一方的ではなく、そのような悪意に負けずに強くしなやかに生きようとする志賀と菜々美の生き様に焦点を当て、感動的な物語を生み出しています。


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書評:中山七里著、『帝都地下迷宮』(PHP文芸文庫)

2023年05月21日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行
商品説明
鉄道マニアの公務員・小日向巧はある日、廃駅で立ち入り禁止となっている地下鉄銀座線萬世橋駅へと潜り込む。そこで出会ったのは、政府の“ある事情”により地下で生活する謎の集団「エクスプローラー」だった。その集団内で起こった殺人事件をきっかけに、小日向は捜査一課と公安の対立も絡む大事件に巻き込まれていき・・・・・・。エクスプローラーが抱える秘密とは? 殺人犯は誰か? 東京の地下で縦横に展開するノンストップミステリー!

「ひょっとすると僕は死体愛好家なのかもしれない」という主人公・小日向巧の独白から始まる本作は、一体どんな偏執狂的殺人犯の話なのかと戸惑いますが、どうやらそれも著者の策略のひとつのようです。
小日向は鉄道マニアの中でも珍しい廃駅マニアで、廃駅の寂れた侘しい様子が死体を連想させるため、「死体愛好家」という表現に至ったようです。
立ち入り禁止で、誰もいないはずの地下鉄線とその駅に「エクスプローラー」と名乗る謎の集団が暮らしていたーーというあり得ない設定がSF染みていて面白いのですが、その100名ばかりの人たちが政府の思惑により文字通り日陰の存在にさせられたのだとしたら? 
小日向巧は区役所で生活保護を担当する公務員であるため、その方面からエクスプローラーの人々を支援しようと試み、彼らの相談に乗るうちにその正体にだんだんと気づいていきます。
そこで起こる殺人事件と、捜査の手から逃れるために集団移動を企み、地下鉄の廃駅に詳しい小日向が彼らを先導することになります。病気の高齢者が多いので、困難な逃避行になります。
追ってくるのは強行犯係の捜査一課と公安。
この地下の逃避行という舞台がサスペンスとして面白くしている要素で、「エクスプローラー」の謎や殺人事件のミステリーの筋自体はそれほど秀逸なわけではないという印象を受けました。



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