徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:松岡圭祐著、『高校事変』1&2(角川文庫)

2019年09月16日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

松岡圭祐の令和に入ってからの新シリーズ『高校事変』は、久々に若い特殊能力を持つ女性キャラが主人公となっていますが、17歳の少女である点と、純粋に正義の味方的なヒロインでないところがこれまでと違って新鮮です。

 

商品説明より:優莉結衣(ゆうり・ゆい)は、平成最大のテロ事件を起こし死刑となった男の娘。事件当時、彼女は9歳で犯罪集団と関わりがあった証拠はない。今は武蔵小杉高校の2年生。この学校に支持率向上を狙った総理大臣が訪問することになった。総理がSPとともに校舎を訪れ生徒や教員らとの懇親が始まるが、突如武装勢力が侵入。総理が人質にとられそうになる。別の教室で自習を申し渡されていた結衣は、逃げ惑う総理ら一行と遭遇。次々と襲ってくる武装勢力を化学や銃器のたぐいまれなる知識や機転で次々と撃退していく。一方、高校を占拠した武装勢力は具体的な要求を伝えてこない。真の要求は? そして事件の裏に潜む驚愕の真実とは? 人質になった生徒たちと共に、あなたは日本のすべてを知る! 

上の説明では言及されていませんが、武装勢力の侵入により生徒たちのほぼ半数と抵抗したSPたちが瞬く間に殺される凄惨を極めた事変であり、それに対抗するヒロイン優莉結衣も総理や他の人質となっている生徒を助けるために動いてはいるものの、父から仕込まれたあらゆる武器の製造・使用法や殺人の技術を活かして暴力をふるうこと自体に喜びを感じている面もあり、「敵」と見なした者たちに対する情け容赦しない冷徹さと17歳という若さに戸惑いと新鮮味を感じます。公安の監視と人権派の保護の狭間で自分の自由と生き方を探る結衣の立ち位置は、偏見の塊の大人を代表する公安とその偏見と闘う人権派のどちらからも正しく理解されず、そのこと自体が一種の社会風刺となっている一方で、結衣の特殊性と孤独を浮き彫りにします。

自分の立場をよく理解している結衣は、それを利用して自分の殺人行為をうまくカモフラージュし、絶対に罪に問われないように立ち回りますが、彼女に助けられた人たちと深い関係にならないように事変後は転校し、施設も変わることになります。

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IIでは「武蔵小杉高校事変」から2か月後、新たな高校と施設で公安の監視下大人しく過ごしていました。結衣と同じ養護施設に暮らす奈々未が行方不明になり、また、多数の女子高生が失踪していたことも判明します。結衣は奈々未の妹理恵に懇願され調査に乗り出すことになりますが、1巻のように混乱のさなかというわけではないため、公安の監視の目をくぐり抜け、様々なアリバイ工作をしながらの行動となります。JKビジネスの業者も買う側のモラルのなさに対する義憤を彼女の特殊能力を使って思いっきり敵にぶつけていくため、理恵と奈々未を救うまでに死体の山を築くことになります。

交通事故で人命を奪ったにもかかわらず逮捕もされなかった「特権階級」などタイムリーな話題が盛り込まれ、そうした社会の闇にダークヒロイン結衣の鉄槌が下されるのは、ある意味溜飲が下がりますが、結衣の行いは違法であることはもちろん、相手がどうあれ殺人であるため、単純にカタルシスを感じることもできません。そのあたりの苦々しさがこのシリーズの特徴なのかもしれません。

最後に学校・施設を奈々未が高校卒業するまで変えないことを約束するところが前回とは違う展開になっています。

また、彼女の異母妹が登場したところで終わっているので、次巻では彼女の過去がこの妹関連でもう少し詳しく判明するのかなと期待しています。

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