長尾景虎 上杉奇兵隊記「草莽崛起」<彼を知り己を知れば百戦して殆うからず>

政治経済教育から文化マスメディアまでインテリジェンティズム日記

三国志 泣き虫弱虫諸葛孔明・魏呉蜀三国志の義ブログ連載小説2

2013年02月03日 08時20分01秒 | 日記
         2 軍師




  荊州の劉備の城では、孔明たちによる軍儀が続いていた。
 孔明は「魏の軍がふたたびせまっている」と正直にいった。そして、続けた。「魏の夏候淳は必ず博望坂を通る。かの地は左に山、右に林だ。待ち伏せができる」
 劉備たちは頷いた。
 孔明は続けた。「趙雲、5百の兵を率いて先発し、必ず負けよ」
「………負ける?」趙雲は不思議な顔をした。是非とも答えがききたかった。
「負けて、この坂に敵をさそえ」孔明は羽扇をかざしていった。趙雲は「はっ! 必ず!」と両手をあわせた。
「関平と劉邦は博望坂後方の両側にかくれ、敵をみたら火を放て」
 関平と劉邦のふたりは「はっ!」と両手をあわせる。
 孔明はさらに策を授ける。「関羽将軍は火をみて総攻撃の合図をせよ。敵の食料もすべて焼き払え」
 関羽は怪訝な顔のままだった。
「主君は後方にいて見守っていてくだされ」孔明はいった。
 関羽は怪訝な顔のまま「では? 軍師殿は何を?」と尋ねた。
 それに対して孔明は、「私はこの城を守る」といった。
 張飛は嘲笑し、「自分だけ楽する気か」と吐き捨てるようにいった。関羽と張飛はまだ孔明の才能を認めてはいなかったのだ。

  前線でも、関羽と張飛は諸葛孔明を馬鹿にしていた。
「何が軍師だ」張飛は悪態をついた。「あんなやつ口だけだ」
「いかにも! すべて机上の空論……孔明などおそるるにたりぬわ」
 関羽は地面にツバを吐いた。何が……軍師だ? 義兄上は勘違いしておられる。

  戦が始まると、すぐに趙雲軍五百は敗走しだした。孔明の策である。魏の夏候淳たちはそのぶざまぶりを嘲笑した。
「名高い孔明を軍師にしたはずの劉備軍はぶざまなものだ。やはり孔明など口だけの男だったという訳だ」夏候淳は笑った。部下たちも笑う。「孔明などおそるるにたりぬわ」
「追撃するぞ!」
「……しかし……罠では?」
「孔明ごときがそんな策をとれるものか!」夏候淳は軍を率いて、趙雲軍五百を追撃した。 しかし、そこは孔明が上手、夏候淳の軍が博望坂に入ったところで火攻めにされた。両側を囲まれ、包囲された。夏候淳は軍は集中砲火をあび、全滅した。
 戦がおわると、関羽と張飛は茫然と突っ立っていた。
 あまりに策がうまくいったので、茫然として言葉もでなかった。ふたりは顔を見合わせた。やがて、馬車にのった孔明がきた。孔明は羽扇で顔をあおいでいた。
 関羽と張飛の血管に、熱いものが駆けめぐった。そして、ふたりは地面に膝をつき、両手を合わせて、
「軍師!」と頭を下げた。ふたりもやっと孔明の才能、いや天才を認めた瞬間だった。

  しかし、魏軍10万がふたたび荊州に攻めてきた。劉備たちはボロボロの敗戦となった。その途中、魏の曹操は不安にかられた。
 曹操は「……わしは天下無敵…しかし、案ずることがある」と家臣にいった。
「それは何でござりましょう?」
「劉備だ」曹操はゆっくりいった。
 それにたいして家臣たちは「劉備など弱小勢力に過ぎませぬ。何を恐れることがありましょうや」と笑った。
「いや」曹操は首をふった。「孔明がおる。劉備には諸葛孔明がついておる」
「孔明? 口だけの男にごさる」家臣たちはまた笑った。
「劉備と呉の孫権が連合して攻めてくるやも知れぬ。それがわしの恐れじゃ」
 家臣たちは顔を見合わせた。
「劉備と呉の孫権が連合するかどうか使いを送れ」曹操は命じた。
 それに対して、呉の孫権のほうも情報収集のため、荊州太守弔問を口実に劉備のもとへ参謀の櫓粛を送った。櫓粛は中年であったが、控え目で、物静かな男だった。
 弱点は口の軽さだ。
 櫓粛は孔明と面会した。
 孔明はかれに酒をすすめた。もう夜だった。場所は城の一室。蝋燭の明りで辺りは鬼灯色であった。なごやかに孔明は接待した。
 櫓粛は「先の夏候淳をやぶった策略は見事でしたな、孔明殿」と孔明をほめた。
「いやいや、将軍たちがよくやってくださったからです」
 孔明は微笑んで、謙虚にいった。
「いやいや、孔明殿の智略がなければ10万の兵を撃破することなどできませぬ」
「私が撃破した訳ではございません」
「謙遜を」
 櫓粛は酒を飲んでいった。孔明は羽扇をふった。
「……近々、私は呉公・孫権殿とあいたい思います」孔明はいった。
 すると櫓粛は顔色をかえ、「それはいいのですが……」といいかけた。
「なんでしょう?」
「魏の曹操軍が百万とはわが主君には絶対に申されるな」
 孔明は口元に微笑みを浮かべた。
「絶対ですぞ!」櫓粛は念をおした。


  呉公・孫権に魏の曹操から使者がきた。劉備をやぶってわが軍と同盟せよ、というのだ。三日以内に返答を……使者はいった。孫権は悩む。魏の曹操は河口にあった。
 孫権船団軍3万、曹操軍20万……いくら曹操軍が陸地戦しかしてなく、船での戦いに慣れてないとしても勝ち目がないのではないか……。
 曹操は江稜を占領した。そして、沢山の軍艦をつくった。このままでは曹操の『天下統一』は目前だった。当然ながら呉の孫権陣営では軍儀が続いていた。
 甘寧将軍は「曹操など恐るに足りぬわ!」といきまいた。
「いや、曹操と同盟したほうが…」とは張昭。
「城を枕に討ち死にを!」
「臆病者め!」
「匹夫の勇ではことはならぬ!」
「命があぶないのだぞ!」
「弱小・劉備など見捨てて、曹操と和睦を!」
 家臣たちは口々に勝手なことをいいだした。
  孫権はやがて眉をつりあげて、「黙れ!」といった。家臣たちは沈黙した。
 ……恐ろしい沈黙であった。しんとした静けさが辺りを包んだ。
 孫権は上座から降りて、ゆっくりと歩いてきた。家臣たちは今だに黙ったままだった。なんともいえない緊張が辺りを包んだ。
「……まず…」孫権はいいかけた。
「………なんでごさりましょうや?」
「まず」孫権は続けた。「櫓粛を魏に使いに出す」
「櫓粛を?」
 家臣たちは顔を見合わせた。
「それによって……戦か和睦か決める」
 孫権はきっぱりといった。
「…しかし…」
「なんだ?」
「櫓粛を魏に使いに出さずとも、戦より和睦のほうが利があると思いまする」
「そうです。匹夫の勇ではことはなりません」
「弱小・劉備など見捨てて、曹操と和睦を!」
 家臣たちはまた口々に勝手なことをいいだした。
 孫権は押し黙り、苦悩した。戦か……降伏…か……。

  やがて、呉に孔明が櫓粛に連れ添われてやってきた。馬車の中で、櫓粛は何度も、
「魏の軍を是非とも少なめに…」と念を押した。
 孔明は何も答えず、不敵な笑みを口元に浮かべるだけだった。孔明は羽扇をふった。
 孫権の家臣たちは冷ややかな目で、孔明をみた。
「ふん!」
 鼻を鳴らした。
「孔明など三日だけで逃げ帰るさ」家臣たちは口々にいい、嘲笑した。
「櫓粛を魏に使いに出さずとも、戦より和睦のほうが利がある」
「匹夫の勇ではことはならぬ」
「弱小・劉備など見捨てて、曹操と和睦をすべきなのだ」
「なにが諸葛孔明だ」家臣は嘲笑しつついった。「孔明などハッタリだけの男じゃ! 諸葛孔明の虚名にまどわされてはならぬ!」
 そんな中でも、曹操の大軍が呉に迫って、きていた。


  孫権は悪夢を見た。
 長江の湖で、かれは水浴を楽しんだ。夏の大きな太陽の陽射しがぎらぎらと辺りに照りつけて、湖に反射してハレーションをおこす。どこまでも続く青空に入道雲……それは、しんとした感傷だ。
 湖を泳ぎ、陸にあがる。
 そして、彼は別荘にむけて歩き出した。
 この湖から城まではそんなに遠くはない。
 さっきまで、ぎらぎらとした陽射しだったが、今や雨でも降出しそうな天気になった。天気は変わりやすい。
「……雨でもふりそうだ」
 孫権は、しんと静まりかえった森を抜けながら呟いた。
 そして、ハッ!となった。
 城の方でシュウシュウという矢音が何回か聞こえたからだ。しかも、誰かが後をつけてくるような気配を感じる…!
 孫権は恐怖にかられ、狼狽し、目をキョロキョロさせた。で、ゆっくりとうしろを振り向き、「だ……誰だ……?」と掠れた声でいった。
 誰もいない。……だが、次の瞬間、恐怖は絶頂に達した。
 ざざざっ…!と、誰かが追いかけてくるような足音が響き、孫権は恐怖のあまり悲鳴の声すら出なくなった。彼は逃げる! 鈴の音が微かにきこえる。しかし、孫権はやみくもに森の中を走った。走った。駆けた。とにかく逃げた。
 恐怖のどん底にたたきつけられた孫権は、とにかく走った。孫権はやみくもに森の中を走った。走った。駆けた。草や木々をかきわけ、とにかく逃げた。曹操の軍が追ってくる。 そして、孫権は急に立ち止まった。もう道がない。崖っぷちに立たされてしまったのだ。崖の下は滝つぼになっていて、崖は高くて、崖下の滝や河はどこまでも深くて、蟻地獄のようだ。孫権は恐怖で身体を震わせながら、滝壺を見て、背後を見て、心臓を高鳴らせた。いいようもない恐怖が彼を襲い、孫権は戦慄した。
 曹操の軍がせまってくる。
 ……殺される……!
 孫権は決心を固め、咄嗟に、崖下の滝や河に向かってダイブした。とにかくこれしか手はなかった。恐怖と戦慄と狼狽のまま、孫権はダイヴした。
 彼が滝に落ちて見えなる。と、曹操はチッ!と舌打ちした。
 そして、そのまま曹操の影はどこかへ歩き去った。

  孫権はゆっくりと目を覚ますと、悪夢のためか身体をガタガタ震わせて動揺の様子をみせた。妻は、
「…もう大丈夫ですよ」
 と、城のベットに横になっている孫権の髪を撫でて慰めた。
「もう怖くないわ」
 妻は優しくいった。                              


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする