『小説宝石』’05年8月号に初出され、‘06年6月に刊行されたアンソロジー『短篇ベストコレクション 現代の小説2006』に所収された、三崎亜記さんの『戦争体験館』を読みました。
「シリーズでお送りしております『万博一番のり』。今日のリポートは、人気のパビリオン『戦争体験館』から」「突撃リポーターは、佐川さんです」「……はぁ~い! 私は今、今回の万博の目玉の一つ、『戦争体験館』の前にいます。見てください! こちらでは、『戦争』を手軽に体験できるとあって、家族連れやカップルの姿が多く見られます」「佐川さん、今回のパビリオンは、今まで私たちが経験した仮想戦域とは一味違うと聞きましたけど、そこが人気の秘密なんですか?」「そうなんです! この『戦争体験館』。人気の秘密は、何と言ってもその技術力の高さにあります。わが国の誇る軍需産業が総力を結集して創り上げたあちらのドーム内には、最新鋭の武器がそろえられています。そこに、最新の映像技術や音響設備が備わり、今までの仮想戦域とは比べ物にならないほど圧倒的にリアルな戦場が再現されているんです。しかも“あの戦争”でわが国を勝利に導いた日下部将軍をチーフアドバイザーとしてお招きして、『10.20東方市街戦』でのコーラル・シティの戦場を忠実に再現。リアルなのも納得ですよね。ところでこのパビリオン、今までの仮想戦域と大きく違う点が二つあるんです。一つは、戦う相手は、なんと! 本物の人間なんです。これってすごいでしょう? 国防総省からの働きかけによって、今回の万博期間内だけの、特別の規制緩和によって実現したんですねぇ。もう一つの違いは、敵から撃たれたら私たちも『痛み』を感じるという点なんです。これによって、仮想戦域には無かった緊迫感の中で戦争を体験することが出来るんです。『痛みを感じる』と聞いて不安になった方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。ご安心ください。入場の際に体内にマイクロチップから自動的に健康状態が読み込まれ、それぞれの体調に応じた『戦争の痛み』を調整してくれるんです。こんな技術が実現しちゃうと、国防放送で総統がいつも言われる、戦争によって私たちの生活がますます便利になっていくっていう話、実感できますよねえ。そんなわけで、お子様からご老人まで安心して楽しめる体験型のアドベンチャー空間ともなっているわけなんです……。さあ、入場口までやってまいりました」「佐川さん。今日は迷彩服を着てやる気満々みたいですけど、実際に戦ってみるんですか?」「はい。私も突撃レポーターの名に恥じぬよう、実際に体験してみたいと思います。ここで……こうして首のマイクロチップをリーダーにかざします。そうすると私の感じる『痛み』の調整値が……あ、表示されました。『0.1』、つまり私がもし敵に撃たれたりした場合の『戦争の痛み』は十分の一に軽減されるわけです。さらに歩いていきますと……」「佐川さん。皆さんが入っていくその部屋は何ですか?」「はい、この部屋で皆さん戦闘服に着替えてから戦争に向かうわけなんです。さあ、ドクロのマークが物々しいこちらの部屋で……ごらんください! ずらりと並んだこの銃器の数々。何と四十一種、千三百四十丁の銃器から、お好きなものを選ぶことが出来るんです。そして……これ! なんだかわかりますよね? そう、手榴弾です。なんと、この手榴弾、すべてのお客様にサービスで二個ずつ配られてるんです。さて、武器を装着して、ゴーグルをつけて準備完了です。いよいよ戦場に向かいます」「佐川さん! 気をつけて行ってくださいね」「はぁい! いよいよこの扉を開くと、戦場です。うわ-------! いっきなりの別世界! まさに戦場の風景が広がっています。あっ! 敵の姿が見えますねえ。今からいよいよ戦争の開始です」「戦争ヲ ハジメテクダサイ」「………きゃ------っ! すっっごい! いっきなりすごい攻撃です! なにしろ、敵兵は“あの戦争”で捕まった本物の捕虜の皆さんなんです。捕虜の皆さんは、ほとんどが『永久拘束』の対象なんですが、このパビリオンで一日生き延びれば捕虜から解放されるとあって、真剣そのもの。とは言え、いつまでも隠れているわけにもいきません。反撃しましょう。弾幕の合間を見計らって……それっ!……さすがに……捕虜の皆さん、たあっ!……現役兵士の身のこなしです。当たりません。それにしても……きゃっ!……うぐっ!……い、痛い……」……。
この後もかなりブラックな展開で楽しませてくれるのですが、三崎さんには珍しい、会話だけで成り立っている作品でした。なお、これ以降のあらすじに関しましては、私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)の「Favorite Novels」の「三崎亜記」のところにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)
「シリーズでお送りしております『万博一番のり』。今日のリポートは、人気のパビリオン『戦争体験館』から」「突撃リポーターは、佐川さんです」「……はぁ~い! 私は今、今回の万博の目玉の一つ、『戦争体験館』の前にいます。見てください! こちらでは、『戦争』を手軽に体験できるとあって、家族連れやカップルの姿が多く見られます」「佐川さん、今回のパビリオンは、今まで私たちが経験した仮想戦域とは一味違うと聞きましたけど、そこが人気の秘密なんですか?」「そうなんです! この『戦争体験館』。人気の秘密は、何と言ってもその技術力の高さにあります。わが国の誇る軍需産業が総力を結集して創り上げたあちらのドーム内には、最新鋭の武器がそろえられています。そこに、最新の映像技術や音響設備が備わり、今までの仮想戦域とは比べ物にならないほど圧倒的にリアルな戦場が再現されているんです。しかも“あの戦争”でわが国を勝利に導いた日下部将軍をチーフアドバイザーとしてお招きして、『10.20東方市街戦』でのコーラル・シティの戦場を忠実に再現。リアルなのも納得ですよね。ところでこのパビリオン、今までの仮想戦域と大きく違う点が二つあるんです。一つは、戦う相手は、なんと! 本物の人間なんです。これってすごいでしょう? 国防総省からの働きかけによって、今回の万博期間内だけの、特別の規制緩和によって実現したんですねぇ。もう一つの違いは、敵から撃たれたら私たちも『痛み』を感じるという点なんです。これによって、仮想戦域には無かった緊迫感の中で戦争を体験することが出来るんです。『痛みを感じる』と聞いて不安になった方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。ご安心ください。入場の際に体内にマイクロチップから自動的に健康状態が読み込まれ、それぞれの体調に応じた『戦争の痛み』を調整してくれるんです。こんな技術が実現しちゃうと、国防放送で総統がいつも言われる、戦争によって私たちの生活がますます便利になっていくっていう話、実感できますよねえ。そんなわけで、お子様からご老人まで安心して楽しめる体験型のアドベンチャー空間ともなっているわけなんです……。さあ、入場口までやってまいりました」「佐川さん。今日は迷彩服を着てやる気満々みたいですけど、実際に戦ってみるんですか?」「はい。私も突撃レポーターの名に恥じぬよう、実際に体験してみたいと思います。ここで……こうして首のマイクロチップをリーダーにかざします。そうすると私の感じる『痛み』の調整値が……あ、表示されました。『0.1』、つまり私がもし敵に撃たれたりした場合の『戦争の痛み』は十分の一に軽減されるわけです。さらに歩いていきますと……」「佐川さん。皆さんが入っていくその部屋は何ですか?」「はい、この部屋で皆さん戦闘服に着替えてから戦争に向かうわけなんです。さあ、ドクロのマークが物々しいこちらの部屋で……ごらんください! ずらりと並んだこの銃器の数々。何と四十一種、千三百四十丁の銃器から、お好きなものを選ぶことが出来るんです。そして……これ! なんだかわかりますよね? そう、手榴弾です。なんと、この手榴弾、すべてのお客様にサービスで二個ずつ配られてるんです。さて、武器を装着して、ゴーグルをつけて準備完了です。いよいよ戦場に向かいます」「佐川さん! 気をつけて行ってくださいね」「はぁい! いよいよこの扉を開くと、戦場です。うわ-------! いっきなりの別世界! まさに戦場の風景が広がっています。あっ! 敵の姿が見えますねえ。今からいよいよ戦争の開始です」「戦争ヲ ハジメテクダサイ」「………きゃ------っ! すっっごい! いっきなりすごい攻撃です! なにしろ、敵兵は“あの戦争”で捕まった本物の捕虜の皆さんなんです。捕虜の皆さんは、ほとんどが『永久拘束』の対象なんですが、このパビリオンで一日生き延びれば捕虜から解放されるとあって、真剣そのもの。とは言え、いつまでも隠れているわけにもいきません。反撃しましょう。弾幕の合間を見計らって……それっ!……さすがに……捕虜の皆さん、たあっ!……現役兵士の身のこなしです。当たりません。それにしても……きゃっ!……うぐっ!……い、痛い……」……。
この後もかなりブラックな展開で楽しませてくれるのですが、三崎さんには珍しい、会話だけで成り立っている作品でした。なお、これ以降のあらすじに関しましては、私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)の「Favorite Novels」の「三崎亜記」のところにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)