昨日の続きです。
それから十週間は音沙汰がなかった。が、4月18日、講演のため、リオデジャネイロの自宅からニューヨークに向かったときのことだ。ジョン・F・ケネディ空港に降り立つと、ドキュメンタリー映画作家のローラ・ポイトラスからメールが届いていた。「来週、アメリカに来る用事はない? ちょっと話したいことがあるの。できたら直接、顔を合わせて」私はすぐさま返事を送った。「実はちょうど今朝、アメリカに着いたところだ」ホテルで私たちは会い、盗み聞きされていないことが確信できると、ローラは本題に入った。なんでも匿名の人物、それも率直で“本気”と思える男から、数通のメールを受け取ったということだった。自分は合衆国政府が国民や世界の人々に対しておこなっているスパイ活動に関する、極秘かつ犯罪的な文書にアクセスできるというのが、その人物からのメールの内容だった。彼はそれらの文書をリークすることを申し出ており、文書を公表、および記事にするに際しては、私の協力を仰ぐようにと明確に要求していた。しかしこのときには何カ月も前に送られてきたままずっと忘れていたメールとは結びつけようもなかった。
ローラはバックパックから書類をいくつか取り出した。その匿名の情報提供者から送られてきたメールのうちの2通だった。衝撃的な内容だった。
そして私はプログラムをインストールすると、彼からおよそ25の文書を含むファイルが送られてきた。ファイルを解凍して、文書のリストを眺め、でたらめにひとつを選んで、クリックしてみた。開かれたページの上部には赤い文字で、“通信諜報関連”“外国に配布してはならない”という意味の用語が書かれてあった。その下には、世界で最も大きな力を持つ政府の超極秘機関であるNSAの極秘のやりとりが記されていた。60年以上にわたるNSAの歴史において、これほど重大な文書が漏洩したことはない。そんな文書が私の手元に数十もあるのだ。それだけではない。この二日間、チャットをともにして長い時間を過ごした彼は、もっともっと多くの文書を渡すと言っているのだ。
私はローラに連絡を取った。香港にいるという情報提供者に会うため、一緒に香港に行くことになった。私が記事を載せることになる〈ガーディアン〉紙はユーウェンという記者を同行させることを要求し、私は徹底的に抵抗したが、結局、私とローラが香港に着いた数日後にユーウェンが合流することで妥協した。
香港行きの機内で読んだのは、裁判所の判決文だった。アメリカの大手通信業者に、(1)アメリカと海外とのあいだでの通信、および、(2)市内通話を含む、アメリカ全土の“詳細な通話記録”のすべてをNSAに提出するように命じていた。つまり、NSAは秘密裏に、そして無差別に、少なくとも数千万のアメリカ人の通話記録を収集していたというわけだ。オバマ政権がそんなことをしているとは、誰も夢にも思っていないはずだ。判決文を読んだ私は、その事実を知っただけでなく、証拠である極秘の裁判所命令書まで手に入れたわけだ。
それだけではなかった。その裁判所命令書には、こうしたアメリカ人の通話記録の大規模な収集活動は愛国者法第215条により認められていると明記されていたのだ。
ローラはNSAによる監視について、もう何年も取材していた。そして彼女自身、幾度も彼らの権力濫用がもたらす脅威について書き、NSAの違法行為と急進主義に対して警告し続けてきた。そういった点で私と彼女は協力関係にあった。
香港で会ったスノーデンは語った。「人間のほんとうの価値は、その人が言ったことや信じるものによって測られるべきではありません。ほんとうの尺度になるのは行動です。自らの信念を守るために何をするか。もし自分の信念のために行動しないなら、その信念はおそらく本物ではありません
私たちは、NSAが全国民の電話やEメールの内容傍受やメタデータ(発信先、受信先など)の傍受から、マイクロソフト、グーグル、アップルなどインターネット大手の積極的な協力によるNSAの傍受の実態を知り、プライヴァシーの尊重を回復するために、その実態を発表し、政府と一体となったメディアと戦っていくのだった。
ブッシュ政権下ならまだしもオバマ政権下でも、国民ひいては全世界に対するNSAの監視が続いていることがショックでした。単なるノンフィクションというだけでなく、サスペンスあふれる読み物です。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)
それから十週間は音沙汰がなかった。が、4月18日、講演のため、リオデジャネイロの自宅からニューヨークに向かったときのことだ。ジョン・F・ケネディ空港に降り立つと、ドキュメンタリー映画作家のローラ・ポイトラスからメールが届いていた。「来週、アメリカに来る用事はない? ちょっと話したいことがあるの。できたら直接、顔を合わせて」私はすぐさま返事を送った。「実はちょうど今朝、アメリカに着いたところだ」ホテルで私たちは会い、盗み聞きされていないことが確信できると、ローラは本題に入った。なんでも匿名の人物、それも率直で“本気”と思える男から、数通のメールを受け取ったということだった。自分は合衆国政府が国民や世界の人々に対しておこなっているスパイ活動に関する、極秘かつ犯罪的な文書にアクセスできるというのが、その人物からのメールの内容だった。彼はそれらの文書をリークすることを申し出ており、文書を公表、および記事にするに際しては、私の協力を仰ぐようにと明確に要求していた。しかしこのときには何カ月も前に送られてきたままずっと忘れていたメールとは結びつけようもなかった。
ローラはバックパックから書類をいくつか取り出した。その匿名の情報提供者から送られてきたメールのうちの2通だった。衝撃的な内容だった。
そして私はプログラムをインストールすると、彼からおよそ25の文書を含むファイルが送られてきた。ファイルを解凍して、文書のリストを眺め、でたらめにひとつを選んで、クリックしてみた。開かれたページの上部には赤い文字で、“通信諜報関連”“外国に配布してはならない”という意味の用語が書かれてあった。その下には、世界で最も大きな力を持つ政府の超極秘機関であるNSAの極秘のやりとりが記されていた。60年以上にわたるNSAの歴史において、これほど重大な文書が漏洩したことはない。そんな文書が私の手元に数十もあるのだ。それだけではない。この二日間、チャットをともにして長い時間を過ごした彼は、もっともっと多くの文書を渡すと言っているのだ。
私はローラに連絡を取った。香港にいるという情報提供者に会うため、一緒に香港に行くことになった。私が記事を載せることになる〈ガーディアン〉紙はユーウェンという記者を同行させることを要求し、私は徹底的に抵抗したが、結局、私とローラが香港に着いた数日後にユーウェンが合流することで妥協した。
香港行きの機内で読んだのは、裁判所の判決文だった。アメリカの大手通信業者に、(1)アメリカと海外とのあいだでの通信、および、(2)市内通話を含む、アメリカ全土の“詳細な通話記録”のすべてをNSAに提出するように命じていた。つまり、NSAは秘密裏に、そして無差別に、少なくとも数千万のアメリカ人の通話記録を収集していたというわけだ。オバマ政権がそんなことをしているとは、誰も夢にも思っていないはずだ。判決文を読んだ私は、その事実を知っただけでなく、証拠である極秘の裁判所命令書まで手に入れたわけだ。
それだけではなかった。その裁判所命令書には、こうしたアメリカ人の通話記録の大規模な収集活動は愛国者法第215条により認められていると明記されていたのだ。
ローラはNSAによる監視について、もう何年も取材していた。そして彼女自身、幾度も彼らの権力濫用がもたらす脅威について書き、NSAの違法行為と急進主義に対して警告し続けてきた。そういった点で私と彼女は協力関係にあった。
香港で会ったスノーデンは語った。「人間のほんとうの価値は、その人が言ったことや信じるものによって測られるべきではありません。ほんとうの尺度になるのは行動です。自らの信念を守るために何をするか。もし自分の信念のために行動しないなら、その信念はおそらく本物ではありません
私たちは、NSAが全国民の電話やEメールの内容傍受やメタデータ(発信先、受信先など)の傍受から、マイクロソフト、グーグル、アップルなどインターネット大手の積極的な協力によるNSAの傍受の実態を知り、プライヴァシーの尊重を回復するために、その実態を発表し、政府と一体となったメディアと戦っていくのだった。
ブッシュ政権下ならまだしもオバマ政権下でも、国民ひいては全世界に対するNSAの監視が続いていることがショックでした。単なるノンフィクションというだけでなく、サスペンスあふれる読み物です。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)