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奥田英朗『夏のアルバム』

2014-12-06 17:00:00 | ノンジャンル
 今日、育鵬社の中学公民・歴史の教科書の勉強会に参加してきました。フジテレビグループ肝いりのこの教科書の、あまりのひどさ、でたらめさに呆れを通り越して、笑ってしまいました。しかし、現実には全国では2%、神奈川県では半数近くの学校で使われていると聞き、戦慄しました。育鵬社の教科書のひどさについて気付いた人は、声を上げ続けなければならないと思いました。

 さて、集英社から’12年5月に刊行されたナツイチ製作委員会編のアンソロジー『あの日、君とBoys』に所収されている、奥田英朗さんの『夏のアルバム』を読みました。33ページの短篇です。
 西田雅夫は小学二年生で、もっかの関心は自転車に補助輪なしで乗れるようになることだった。遊び友だちの下川君や伊藤君は、既に補助輪なしの自転車に乗れていた。その日も雅夫たち3人は、駄菓子屋で買った1個5円の紙ヒコーキを飛ばして遊んでいた。下川君も伊藤君も飛ばした飛行機を自転車で拾いに行った。「西田君も自転車で拾いに行けばええやん」「あかんて、おれ、補助輪がないと乗れんもん」「補助輪外して練習してみい。すぐ乗れるようになるぞ」「うちはあかん。お母さんが、まだ補助輪外したら危ないって言っとったもん」「そしたら、おれので練習してみい」伊藤君が自分の自転車を使うように差し出した。「ええの? 倒したら傷がつくよ」「ええて、どうせ親戚のお下がりやもん。おれ、新しい自転車が欲しいで、壊れてくれた方がええわ」雅夫は自転車の練習を始めたが、何度やってもすぐに倒れてしまい、十分も続けたら、いやになった。
 家に帰ると、姉が下の居間で宿題をしていた。雅夫の家は借家で、一階に祖父母が住み、二階に雅夫たち親子が住んでいる。姉が下にいるということは、母が留守なのだろう。「お母さんは?」雅夫が聞くと、姉はぶっきら棒に「病院」と答えた。「何時に帰ってくるの」「知らん」「千寿堂にも寄るの」「知らん」。今年の初めから、千寿堂に住む母方の伯母さんが病気で入院していたが、最近になって母の見舞いに行く回数が増えた。どんな病気だかは知らない。母と千寿堂の伯母さんは、八人兄妹の姉妹で、とても仲がよかった。伯母さんのところには、雅夫より四歳上の恵子ちゃんと、一歳上の美子(よしこ)ちゃんがいて、この二人の従姉妹は姉と仲良しだ。だから親戚の中では一番よく遊びに行く家だ。
 母が帰ってきたのは午後八時過ぎだった。「千寿堂にも行ったの?」雅夫が聞いた。「うん。行った。伯父さんの帰りが遅いで、恵子ちゃんたちの晩ごはん作って、ついでに一緒に食べてきた。あの子ら、しっかりしとるよ。恵子ちゃんはお味噌汁も作れるって言うし、美子ちゃんだって一人で銭湯に行けるって言うし……」
 雅夫は依然として自転車に乗れない。近所ではハナタレの同級生まで補助輪なしで乗るようになった。だから少し焦っている。伊藤君の自転車を借りて、また練習をしていると、池に突っ込んでしまった。
 家に帰り、池に落ちたことを母に言い、着替えを出してもらった。「晩ごはん、何?」雅夫が聞いた。「これは恵子ちゃんたちの分」と母。「これから千寿堂に行くの?」「うん。また遅なるで。夜はお姉ちゃんと布団敷いて、先に寝とって」「わかった」「伯父さんが看病で病院に行っとるで、夜は恵子ちゃんと美子ちゃんと二人だけなんやよ。えらいよ、あの子ら。お母さんが家におらんでも講釈言わんし、なんでも自分でやるし。恵子ちゃんね、トンカツの作り方覚えたんやと。まだ小学六年生でたいしたもんやわ」「ふうん」。雅夫は感心したものの、よくわからなかった。六年生は、自分にとって大人みたいなものだ。
 日曜日、親子四人で市民病院へ伯母さんのお見舞いに行った。行きの車の中で、母は姉と雅夫にいろいろと注意をした。「千寿堂の伯母さん、すっかり痩せてまって顔色も悪いけど、何も言ったらあかんでね」「ねえ、伯母さん、何の病気?」雅夫が聞いた。「子供は知らんでもええ」ハンドルを握る父が、すかさず言う。母は黙っていた。千寿堂の伯母さんは、大きな声で笑う、やさしい伯母さんだった……。

 小学2年の男の子が体験する初めての死、人の気持ちを気遣うことの大切さを初めて知ることを描いた秀作だと思いました。なお、上記以降のあらすじについては、私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)の「Favorite Novels」の「奥田英朗」のところにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/