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イエジー・スコリモフスキ監督『エッセンシャル・キリング』

2012-10-30 03:33:00 | ノンジャンル
 昨日の朝日新聞の夕刊では、「東電社員殺害、無罪へ」という大きな見出しが1面で踊っていました。ネパール人のマイナリさんが15年に渡り、無実の罪で拘置所および刑務所に収監されていたことを大々的に報道するものでしたが、期せずして、同じ夕刊の終わりから3ページ目に小さな記事で「光母子殺害、死刑囚の弁護団が再審を請求」という見出しも見ることができました。私はこの事件の弁護団の報告会を聞くために、死刑確定後に東京の水道橋まで行った経験を持つ者ですが、そこで見ることができた事件の再現フィルムから判断する限り、弁護団が主張しているように、当時18才と1ヶ月だった大月死刑囚が殺意があって母子を殺したのではなく、アクシデントとしての事件だったことがよく理解でき、検察が主張するストーリーは余りにも実際の物証と反していることをも理解することができました。したがって、今回の再審請求が広島高裁に受け入れられるように、また、第2のマイナリさんがいち早く刑務所から救い出されるようにと、心より願う、そんな私であり、また弁護団の方々でもあるのだと思いました。

 さて、蓮實重彦先生が絶賛している、イエジー・スコリモフスキ監督・共同製作・共同脚本の'10年作品『エッセンシャル・キリング』をWOWOWシネマで見ました。
 岩石の砂漠地帯。ヘリからの画面には「これは極秘作戦である」との声がかぶさります。陸上で探索を続ける3人の米兵。死んだ兵士からロケット砲を奪った男は、その3人を吹き飛ばし、結局ヘリによって捕えられます。両手に手錠をかけられ、黒い布袋を頭から被せられ、ヘリで移動させられる男。尋問に無言を通す男は拷問に会い、髪の毛も剃られ、オレンジ色のつなぎ服を着せられます。飛行機で移送され、車に移乗し、引き続き移動しますが、車が猪にぶつかって崖から転落し、男は運良く森へ逃げ出します。
 裸足のため、事故現場に戻った男は、こちらに背中を向けて携帯で話している兵士から銃を奪って、その兵士と運転手を射殺し、手錠を外し、靴と服と帽子を奪って車で逃走します。
 やがてヘリの音が近づいてくると、男は車を捨て森へ逃げますが、結局ヘリに見つかり、地上からも猟犬と兵士に追い立てられます。動物用の罠にはまり、靴を脱いで何とか脱出しますが、右足は傷つきます。男は逆にそれを利用して、途中で出会った野犬に自分の血のついた靴下を縛り付けて、追手がその野犬を追うように仕向けます。それでも1頭だけ男に気づいた猟犬が彼の方へ向かってくると、男と猟犬とそれを連れていた兵士は凍った滝を落ち、男は猟犬と兵士を殺して、兵士の白い防寒服を奪います。
 鹿の餌場で寝る男。地面を掘って蟻を食べ、坂をよじ登ると、樹皮も食べます。木材を積んだトラックの荷台に秘かに乗った男は、木材の伐採現場に着くと、すぐにトラックから降りて物陰に隠れますが、伐採された木に体を挟まれてしまいます。翌日、その木を短く切るためにやって来た労働者と男は取っ組み合いになり、電動ノコで相手をやっつけますが、自分の胸も傷つけられます。森で木の実を食べていると見える、青いブルカを被った女性の幻。野犬に囲まれて怯える男。釣り人の魚を盗んで飢えをしのぐ男。路上で自転車を倒し、赤ん坊に乳をやる女性を見た男は、銃で脅して自分も片方の胸から乳を飲みます。そのあと泣き出す男。
 犬に導かれて民家へ辿り着いた男は、扉のところまで来ると意識を失います。聾唖の夫人は男を家の中に入れてくれ、傷に治療を施し、新しい服も与えてくれ、男は白い馬に乗ってその民家を立ち去りますが、男の胸からは馬に血が垂れ、やがて男の姿は消え、背中を赤くした馬だけが映し出され、映画は終わります。

 主人公が一言も台詞をしゃべらないという希有な映画で、ただ逃げることだけを描いた面白い映画でした。現在、74歳のスコリモフスキ監督、健在です!

P.S 私事で申し訳ありませんが、明日、わたらせ渓谷トロッコ列車に乗るため、早朝に家を出ます。そのため、こちらの更新は明日1日はお休みさせていただきます。お読みいただいている方がもしいらっしゃるようでしたら、ご了解のほど、宜しくお願いいたします。

→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/