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三島由紀夫『青の時代』

2012-10-25 07:55:00 | ノンジャンル
 マキノ雅弘・松林宗恵共同監督の'53年作品『ハワイの夜』をスカパーの日本映画専門チャンネルで見ました。'40年に日本代表の水泳選手としてハワイを訪れた加納(鶴田浩二)がハワイの日系2世の娘(岸恵子)と恋に落ち、別れますが、加納は帰国後、学徒動員の結果ジャングルで負傷し、捕虜となってハワイで娘と再会しますが、その直後に死ぬという物語でした。山田宏一さんと山根貞男さんのマキノ監督へのインタビュー集『映画渡世』があれば、この映画のどの部分をマキノ監督が撮ったのかが分かったかもしれないのですが、冒頭の教会を撮った見事なショット、加納と娘が踊るところで、徐々に明りが落ちて行き、2人の姿がシルエットとなるシーン、別れの前に2人が海で泳ぐシーンで、海がキラキラ光るシーンが特に印象に残りました。マキノ節と言えるような演出は見てとれなかったと思います。水泳選手の鶴田浩二と三橋達也が泳ぐシーンで、あまりに泳ぐのが遅く不様な格好で泳ぐので、つい笑ってしまったことも言い添えておきます。

 さて、山田詠美さんと河野多惠子さんの対談本『文学問答』の中で、お二人が三島では一番好きだとおしゃっていた'50年作品『青の時代』を読みました。
 江戸末期から色街として発展し、低能児が多い千葉県K市の中で、'23年に生まれた誠は、祖父も父も医師という家に生まれ、その頭の良さから父に期待をかけられます。幼い頃、2人の兄と父に連れられ、海水浴に行く途中、文房具屋に飾られていた巨大な鉛筆の模型に惹かれた誠は、それがほしいと駄々をこね、父はそれを買ってやると、誠に持たせ、それを運ぶのにうんざりした誠に父は「ほしいものがあっても我慢しなければならない時もあるんだぞ」と言い、鉛筆を海に捨てさせます。日中戦争とともに成長していった誠は、自意識過剰でプライドの高い若者へと育っていき、中学では兄たちと同じく首席で級長を務めます。誠はに一高に合格し、父は誠を甘やかし始めます。再従兄の易(やすし)とつるむ誠は、易の持つ自然さが自分に欠けていることを痛感します。一高に入った誠は、やはり反抗的ながらユーモアの精神に恵まれた愛宕(おたぎ)と親しくなります。愛宕に一高生行きつけのバーに連れていかれ、そこの女給に言い寄ってにべもなく振られる誠。決めたスケジュール通りに毎日を過ごす誠は、陸軍で終戦を迎え、易は海軍から復員します。誠は愛宕と再会し、図書館の屋上で一緒に弁当を食べていた時に、図書館で働く耀子と知り合いますが、耀子は50万円を持っている人となら、誰とでも結婚すると言います。誠は父から15万円を渡され、その運用を任せられますが、新聞に載っていた3行広告の投資話に騙されて、10万円を失います。愛宕は、彼が騙された方法で自分たちが稼げばいいと言い出し、誠らは事務所を設置して高利貸しを始め、大学の演劇部にサクラを頼んだりして、仕事は大成功を収めます。ある日、そのサクラとして現れる耀子。誠は耀子を日比谷のデートに誘い、彼女に金の使い方を尋ねると、誠から千円をもらった耀子は、荷車を引いた人夫の桶に、それをポンと入れてしまいます。やがて誠が大学に通っていないと聞き心配した母は、たまたま北海道の労働争議から帰郷していて、今では共産党員となっていた易を伴って、銀座に事務所を開設するまでになった誠の元を訪ねますが、誠は母と易を借金まみれになっている伯爵から物品を押収する現場に連れていきます。憤慨する母に対し、伯爵から持ち物を引き剥がして、革命の予感に打ち震える易。ある日、自宅に書類を届けてほしいと誠は耀子に言い、現れた耀子は、誠によって処女を奪われます。家に帰って読んでくれと手紙を渡す誠。そこには、耀子が税務署員と付き合っていて、現在妊娠3カ月であるという探偵社の報告書が入っていました。耀子は翌日午前だけ会社に姿を現しますが、その後、会社からは姿を消します。誠と愛宕は、そろそろ会社を畳む時期に来ていると話し合い、別れることにします。その帰り、喫茶店によった誠は、そこに女連れの易がいるのに気付きますが、女が易に貸した鉛筆は、誠が幼い頃に父にねだった模型の鉛筆と同じであることに気付き、「あれは売り物ではない」と言っていた父の言葉を思い出すのでした。
 3人称で書かれた全176ページの文章は無駄な描写もなく読みやすい文体でした。屈折した主人公でしたが、ユーモラスな場面も多く、楽しく読めました。今までの三島に対するイメージが一掃された感じです。

→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/