gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

高橋秀実『ゴングまであと30秒』

2008-10-04 15:47:14 | ノンジャンル
 高野秀行さんが敬愛する高橋秀実さんの'94年作品「ゴングまであと30秒」を読みました。失業状態で漫然としていた著者は新開ボクシングジムの門を叩いたのですが、当時協会の理事長で忙しかった会長は、毎日来る著者をトレーナーにさせ、ジムの留守番をさせるのでした。そして'92年から'93年にかけてトレーナーをすしている間、ここに来る人たちは他人に誇れるものがない人たちばかりで、彼らが目指しているのは必死になっている自分であり、ボクシングが彼らの「見せ場」になっているのでした。そしてそんな彼らを書いたのが本書です。
 ジムでは入門者に最初にプロ志望か体力作り目的かを聞き、プロ志望の者には毎日10kmのロードワークを課し、3日連続で休むとクビにしていますが、ロードワークは疲れるので、その後の2日は皆休んでしまいます。練習生には、世界を狙うと豪語する配管工の森や、伸びかけの坊主頭を染めているので「まりも」と呼ばれている中3の津田、母親に「この子を強くしてください」と引きずってこられた小3のサチオらもいます。ジムで一番動きの速い真田は、カラオケビデオの撮影でやってきた俳優にいいように殴られます。原因はパンチのリズムが一定で、左〈休み〉左右〈休み〉というリズムを相手に読まれて、〈休み〉の時の無防備な状態の時にパンチが入れられたからです。自動車修理工の上田は、打つところをじっと見つめてから打つので、すぐにパンチを読まれてしまい、力が入り過ぎて動きがぎこちないのが弱点です。瀬沼は手足が長く器用で、相手の間も読めるし、リズム感もあってパンチも固いのですが、始めから腰が引けています。酒屋の横田も蚤の心臓で、パンチをもらうと必ず鼻血を出し、自分の鼻血を見ると車エビのように腰を引いてコーナーに下がり、勝手にリングを降りてしまいます。東岡はブルファイターで、相手の懐に飛び込み、どじょうすくいのような下からすくい上げるボディフックを連打します。東岡の距離は顔をくっつけるほどの距離で、この距離を作るために相手の懐に踏み込みますが、打つまでの1秒の間に相手は当然下がり、それから思い出したように「シ」と言いながら空振りのどじょうすくいを打ち続けるまでに、最低4発のパンチをもらってしまいます。「踏み込んだらすぐ打たなきゃ」と言うと「はあ、そうですよね、へっ」と必ず語尾で笑って答えます。
 このようなメンバーがプロテストを受けては落ち、試合をやっては負けていくのですが、その描写が笑え、また切なく、ラストは感動的ですらあります。
 高橋さんの著作では「はい、泳げません」がこれまではダントツで面白かったのですが、この本も肩を並べる面白さです。本の内容の詳細については、「Favorite Books」の「高橋秀実『はい、泳げません』」のコーナーにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。文句無しにオススメです!