杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

上川陽子 視点を変えれば見えてくる

2020-09-16 19:23:10 | 国際・政治

 2020年9月16日に発足した菅内閣で、上川陽子さんが三たび法務大臣に就任されました。岸田派の陽子さんが入閣するのは難しいだろうと思っていましたが、菅さんは派閥の理屈よりも実力重視で選んだようだとニュースで聞いて、改めて、歴戦錬磨の政治家仲間からも高い評価を受けているんだ!と我がことのように嬉しくなりました。

 テレビ報道での事前の入閣予想リストに陽子さんの名前が挙がることはなく、女性で候補に挙がるのは知名度だけは高いマスコミ受けする人ばかり。途中から陽子さんの名前が出始めると、顔写真の用意がないためボードに手書きで名前を走り書きして貼る、なんて失礼な番組もありました。

 私は幸いなことに、1996年に陽子さんが初めて衆院選に挑戦する以前からご縁をいただき、2011年4月から放送が始まったコミュニティFMの番組『かみかわ陽子ラジオシェイク』で毎月、陽子さんとご一緒し、この10年の陽子さんの政治活動をつぶさに知る立場にありましたから、マスメディアが上川陽子を知らなすぎることに多少の義憤を感じています。今回の組閣でも女性が少ないため、政界における女性の人材不足が話題にされていますが、地盤・看板・カバンのなかった陽子さんがこれまでどれほどの努力をされてきたのかしっかり取材し、そこから見える女性政治家を取り巻く課題をしっかり分析してほしいと思います。

 …ということで、ありがたいことに、このブログも〈上川陽子〉で検索して来た訪問者が急増しています。今日は、2018年10月に法務大臣(2度目)を離任したときのことをラジオシェイクで話された一部を紹介し、視点を変えれば見えてくる政治家上川陽子の姿勢をお伝えしたいと思います。

かみかわ陽子ラジオシェイク

第168回「法務大臣就任一年2ヶ月を振り返って」(2018年10月27日収録/11月6日オンエア)

           

(上川)リスナーの皆さま、こんばんは。上川陽子です。

 

(鈴木)コピーライターの鈴木真弓です。どうぞよろしくお願いいたします。今日は陽子さんが第100代法務大臣を退任されてから初めての収録になります。陽子さん、まずはおつかれさまでした。退任時は省内でどんなふうに見送っていただいたのですか?

 

(上川)法務大臣に就任し、丸1年2ヶ月法務省の中で走り抜きました。前週から留任の期待の声も聞かれましたが、私としてはけじめをつけることが大事だと思い、荷物を片づけ、大臣室のスタッフの皆さんと記念写真を撮りました。

 引き継ぎの日の朝、法務省の車の中で「今日は水曜日だね」という話になりました。アットホームプランとして定時退社を促す曜日で、朝9時30分ぐらいに管内一斉放送で「今日は水曜日ですから定時に帰りましょう」と呼びかけるのです。そのアナウンスを私にやらせてもらえないかとお願いし、到着早々、放送ルームに向かい、「前法務大臣の上川陽子です。今日は一斉退庁の日です」と呼びかけました。

 次いで「1年2ヶ月、チームとしてご一緒していただき、ありがとうございました」と申し上げたところ、各室から拍手が湧き上がったそうです。後から聞いて感動しました。

 その後、1回目の法相時代に大臣政務官を務めてくださった山下新大臣に引き継ぎを行い、終了後は一番若い男性スタッフから花束をいただきました。玄関には幹部の皆さんがズラッと並び、最後はずっと務めてくれた運転手さん、守衛さんとも笑顔で手を差し伸べ、握手で見送ってくれました。

 

(鈴木)なかなかそうまでして見送ってもらえる大臣っていないのでは?

 

(上川)いつもみんなと一緒にチームとして活動するという思いで過ごしましたから。いい仲間に恵まれ、今思い出しても感動が甦ります。いったん句読点を打つということになりましたので、今後は地道に充電しながら自分の仕事をしていこうと思っています。

 

(鈴木)ラジオシェイクでは一般リスナーが報道では知り得なかった法務省の仕事についてたくさん教えていただきました。振り返っていかがですか?

 

(上川)私自身、深く掘り下げれば掘り下げるほど、司法というものが日本という国家の基本的な土台であり、これがしっかりしなければ国は揺らぐということを実感しました。国という大きな組織は司法がマネジメントできなければ信頼の基盤が消えてしまうのです。信頼が長続きしない組織は崩壊します。

 たとえば成人年齢を20歳から18歳に引き下げた民法改正は実に140年ぶりの改正でした。つまり140年も維持される、賞味期限が極めて長いものです。それが揺らいでいるかどうか、リトマス試験紙のように今の国の有り様を確かめることができる貴重な機会でした。100代目の法相を担うことになった意義とは、基本的な司法の価値を気づかせてくれたことだと思っています。

 

(鈴木)法相を拝命されたことは政治家上川陽子にとっても大きかったわけですね。

 

(上川)とくに力を入れた司法外交(注)ですが、国という組織もガバナンスが高くなければ安定して活動できません。これは民間企業と同じで、ガバナンスが低下し基盤が揺らいでいる国が海外にたくさんあります。日本も、最先端のことをやっているから強い国だという議論ではなく、司法というものにしっかりとした基盤を持っているかどうかで国力が判断されることに気づき、日本はその点で自信を持って司法外交を展開していけると確信し、行動できました。

 この先も国民生活が豊かになるために、日本の国の基盤という大切な部分が揺らいでいないかどうか、将来を見据えて行動していきたいと思います。

 

(鈴木)私がうかがったお話では、陽子さんが現場に積極的に足を運ばれ、現場で汗を流しておられる職員や刑務官の方、受刑者を支える民間の方々に寄り添う思いがよく伝わってきました。

 

(上川)中央にいると整理されてくる資料はたくさん来ますが、そこに行き着くまでの最初の生の情報が遠くなるというデメリットもあります。適切な判断ができるよう、現場の状況を肌身で感じる必要がある。法務省は大きな組織なので、一回目の法相拝命時にそのことを強く実感しました。

 キャラバンで地方に回るときも組織の上の声ばかりでなく、本当に現場で活動されている方々の声を聞くように努力しました。本当の声の中に改善点や改革のヒントがあるのです。

 

(鈴木)組織のリーダーシップを取る方にとっても参考になるお話ですね。

 

(上川)作られた情報ではなく自然体で見た情報が重要ですね。この1年2ヶ月、北海道から鹿児島まで回りましたが、行けなかったところもたくさんありましたので、今後は自由に足を運んでみたいと思います。

 

(鈴木)またぜひラジオシェイクでお話しください。陽子さん本当におつかれさまでした。

(注)司法外交についてはこちらの記事を参照してください。

 

*「かみかわ陽子ラジオシェイク」はFM-Hi 静岡(76.9Kh)にて毎月第1火曜18時30分~19時オンエア中

 

 

 前回、こんなふうに法務省を去った陽子さんが、ふたたび法務省を束ねることになり、職員の皆さんはどんな思いで迎えられるのか、ついあれこれ想像してしまいますね。

 今年4月、50年ぶりに京都で国際犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)が開催される予定でしたが、コロナのため、1年延期となりました。京都コングレスはもともと陽子さんが前々回の法相時代に開催を誘致し、準備し続けてきた法務省最大の国際事業なので、来春に延期になったことで、陽子さんが法相としてホストを務める可能性が出てきました。ぜひこちらの公式サイトをご参照ください。

 なお、ラジオシェイクのトークはすべて書き起こし、2011年から2013年までの内容は『かみかわ陽子 視点を変えれば見えてくる』(静岡新聞社刊)にまとめてあります。2014年以降の内容は書籍第2弾として出版準備中。ぜひご期待ください。

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