杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

映画『丘の上から』

2009-01-04 18:07:48 | 映画

 元旦は昼は「吟醸王国しずおか」撮影、夜は吟醸王国しずおか映像製作委員会会報誌「杯が満ちるまでVol4」の発送準備。2日からは丸2日半かかって、16ページものの執筆&編集を仕上げ、今日4日(日)午後からやっと我が家を脱出。JR清水駅前の夢町座へ映画を観に行きました。

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 テレビや新聞等で報道されているので、ご存じの人も多いと思いますが、菊川市在住の鈴木慎太郎監督が地元オールロケで撮った『丘の上から』。撮影監督は、わが吟醸王国しずおかでもカメラを回している成岡正之さんです。

 昨夏、しかも梅雨明けの7月下旬一番暑い時期に10日間ぐらいでロケをし、冬のシーンがきつかった、なんて成岡さんから聞いていたので、完成が楽しみでした。

 

 監督の鈴木さんは、『朝鮮通信使~駿府発二十一世紀の使行録』の助監督を務めていて、同じ寅年(と言っても彼のほうが一回り下ですが…)のスズキ同士で気が合った間柄。打ち上げのときは、私は別会場に呼ばれていてほとんど参加できなかったのですが、お開き直前に会場に着いたとき、「おつかれさまでした!」と一番元気よく迎え、気持ちよく握手してくれたのが彼でした。

 

 吟醸王国しずおかパイロット版では、08年3月、県沼津工業技術センターの清酒鑑評会撮影のとき、成岡さんのサポートで現場に来てくれました。

 

 

 『丘の上から』の制作が急ピッチで始まったのはその後。もともと小笠高校の演劇部顧問の先生が舞台用に書いたシナリオで、菊川市や菊川市教育委員会のサポートを得て、学校やJAなど地域をあげてロケ協力。地元に拠点を置きながら、静岡や東京を行き来して地道に映像制作活動をしていた鈴木さんを、地元の人々が懸命に支援したのでした。

 

 成岡さんも、昔から鈴木さんに目をかけていて、朝鮮通信使の助監督に推薦したのも成岡さん。今回は急な話で短い準備期間にもかかわらず、製作支援から撮影監督、照明、編集など制作現場全般までバックアップし、鈴木さんからは“守護神”の如く頼りにされたようです。

 成岡さんからは、「カネ集めから地元との調整、俳優やスタッフの手配すべてを一人でやった。大した奴だよ」と聞いていました。私も、素人同然ではありますが、映像制作のキックオフまでの苦労を体験した身ゆえ、鈴木さんの努力と情熱、そしてそれに惜しみない協力をする成岡さんの太っ腹な姿に、話を聞くだけでジーンとしたものです。

 

 11月に完成した『丘の上から』は、まず地元菊川で上映会が開かれ、いずれも満員御礼の大盛況。12月には東京でも限定上映されました。

 そして清水での公開。「作るのに精いっぱいで、上映館の確保まで考える資金的・精神的余裕がなかった」という鈴木さん。地元では市やJAのバックアップで大きなホールを借りることができ、大勢の市民に観てもらえたものの、いざ地元以外で自主映画を一般上映しようとすると、かなりハードルは高いよう。

 テレビや新聞で取り上げられても、ミニシアター文化のない地方で一見の客がフラッと入るかといえば、それも難しい。映画というのは、“離陸”も難しければ、“着陸”も難しい飛行機のようです。

 『朝鮮通信使』の山本起也監督からは、「高い志で一生懸命作った映画も、上映の日の目を見ずにお蔵入りになっているものがほとんど。商業映画で成功するのはほんの一握り」と現実の厳しさをよく聞かされたものでした。

 

Photo

 14時の回を観ようと、10分前に到着したら、入口で切符切りをしていたのが鈴木さんでした。自主映画っぽいなぁと冷やかしながら、いざ作品鑑賞。

 

 成岡さんから、それとなく筋書きは聞いていたのですが、想像をはるかに超えた骨太のプロットと脚本で、まずストーリーに魅せられました。昨夏、フジテレビで織田裕二主演の学園ドラマが放送されていましたが、ジャンル的にはあの路線に近いかな。もちろん、織田裕二みたいな教師が出てきて一件落着、なんて単純なストーリーではありません。

 

 主要3人の女の子たちの、女同士の微妙な距離感、けなげさ、残忍さなど複雑な感情が、いろいろな伏線をたどりながら描かれ、女子高出身の私的には身につまされる場面が多々ありました。

 出演者の多くはプロですが、どこにでもいる地方の女子高生の日常と、その中に潜む危うさを狙ったという鈴木さんらしく、過剰な演出は控え、ドキュメンタリーに近いタッチで淡々と物語は進行します。

 

 菊川の田んぼや茶畑、天浜線の駅、掛川の駄菓子やさん、夏祭りの夜店市、地方でよく見かける廃墟のような工場跡など、魅力的な舞台もたくさん出てきました。撮影期間がもう少し長く取れれば、夏のシーンはもっとギラギラと、冬のシーンはさらにしんしんと、卒業の頃のシーンは桜吹雪なども入れられただろうに、と思いました。

 

 特機撮影が得意な成岡さんだけに、さまざまなアングルで移動するカメラワークが観られました。せっかくの特機撮影ですから、脚本上の意味や、人物の心のうちがしっかり伝わるような画になると、さらに効果的だったかも。役者の演技力に頼る部分も大きいと思いますが…。

 いずれにしても厳しい条件の中で、これだけの作品を仕上げたのですから、さすがプロの仕事!と感心しきり。

 

 

 今日は、自分が映像を作る立場になってから、初めて知り合いが作った作品を観る機会を得て、ひとつひとつの画を角度を変えながら真剣に、深く考える鑑賞スタイルを会得したような気がします。

 

 

 映像の仕事は一人ではできませんし、かかる時間もお金も半端じゃありません。批評する人はいとも簡単に持ち上げたり切り捨てたりしますが、少なくとも私自身は、制作者の努力に配慮できるような鑑賞者になりたい。またいつか、鈴木さんと打ち上げ会場で会うような機会が得られたら、互いの健闘を称え、気持ちよく握手し合える現場人間でありたいと思います。

 

 

 『丘の上から』はJR清水駅前、駅前銀座入口の夢町座で1月11日まで上映中です。上映時間は月~金が14時、16時30分、19時の3回。土日は11時30分の回が追加され、計4回上映されます。

 

 1月7日にはNHK静岡で18時~19時放送の「たっぷり静岡」で、鈴木さんと成岡さんが生出演しますので、ご覧になれる方はぜひチェックを!

 1月24日から29日までは、下北沢TOLLYWOODで上映されます。詳しくは『丘の上から』オフィシャルサイトをご覧ください!。

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