杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

セレブ・デ・トマト訪問

2011-11-28 08:19:28 | 農業

 25日(金)、JA静岡経済連の情報誌スマイルの取材で、東京の大田市場と、表参道にあるトマト専門店『セレブ・デ・トマト』に行ってきました。○○専門店ってオーナーさんが○○がメチャメチャ好きなのか、はたまた生産者・販売店のアンテナショップ的なものをイメージしていたのですが、ちょっと違っていました。

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 表参道店は、紀伊国屋ビルの裏、セントグレース大聖堂の向かいにあるモダンなショップモール「ポルトフィーノ」のB1階にあります。

 運営するのは㈱ブランドジャパンという会社。2006年設立ですが、お店は2005年にオープンしています。会社が作ったお店じゃなくて、お店のために作った会社のようです。

 

 

 

 お店を作ったのは、農業振興コンサルタントの吉本博隆さんと、栄養士で特産品開発プランナーの妻美代子さん。徹底した現場主義で全国各地を回り、JAや行政に対しても歯に衣着せぬ鋭い助言で知られたご夫婦です。

 

 

 そんな吉本夫妻が、「産地というよりも、個々で努力する生産者とつながっていきたい。彼らに、作った物が評価され、高く売れる喜びを伝えたい」と考え、作ったお店が、セレブ・デ・トマトというわけです。

 

 

 

 トマトに特化したのは、夫妻がとくにトマトに思い入れが強かったわけではなく、トマト、とりわけ高糖度フルーツトマトという品目に農業的付加価値があったから。

 農家というのは、生産努力がなかなか所得に反映されない中で先祖伝来の土地を守っていかなければなりません。所得が上がらなければ子どもに継がせたい、子どもも継ぎたいという気持ちになれないのも当然で、少しでも付加価値のある農業経営に切り替えて行く必要があります。吉本夫妻には、農家に希望を与える品目を具体例に実践していく必要があったのです。

 

 

 

 高糖度フルーツトマトは、ひと口食べれば、その美味しさは誰でもすぐに解ります。市場も着実に伸びています。

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 「トマトは日本の農産物の中でも高付加価値の最たるもの」と判断した吉本夫妻は、開店の3年前ぐらいから全国の産地で生産者の開拓に取り組み、「トマトを使わない料理や商品は一切扱わない」というコンセプトでオープンさせました。

 しばらくはコンサル業務と兼業していたのですが、外食業は片手間では出来ないと判り、会社を作って店舗運営専業に。

 

 

 トマトが苦手な連れと一緒に来ても別のメニューを・・・なんてサービスはなし。価格もジュースやジャムが1000円~、スイーツは600円前後、パスタ料理は2000円前後と高めに設定しました。

 「そんな店が成功するはずがない」と周囲から猛反対されたそうですが、店の運営を手掛ける吉本美代子さんは、「高くても売れることを農家に示すのがうちの役目」と一切妥協せず。そのために、調理師やパティシエ等の人件費を惜しまず、出店地も「日本で最も眼と舌の肥えたお客さんが買い物する町」と青山と表参道に限定。厳しい制約を自らに課し、開店6年、着実に実績を重ねてきました。

 

 

 

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 毎月のようにテレビ・雑誌の取材を受け、店の存在が全国津々浦々に知られるようになって、今では一般客に交じって全国のトマト生産者が“視察”にやってくるセレブ・デ・トマト。

 店舗スタッフは毎日トマトと向き合い、トマトの“目利き”をするプロ中のプロですから、彼らとの対話はホント、貴重だと思います。生産者の間では、「セレブ・デ・トマトと取引できれば一流になれる」と語られるほど。 

 

 静岡県産ではJA遠Imgp5354州夢咲の「夢咲トマト」がショーケースの一角に堂々と置かれていました。

 

 

 

 このレベルのお店は、静岡ではなかなか難しいのかもしれませんが、吉本夫妻の取り組みは、農業関係者にも外食業者にとっても、大きな示唆を与えてくれると思いました。

 

 

 

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 取材後に試食した完熟トマトのサラダ(写真)、フルーツトマトのポモドォーロ、トマトのティラミス・・・いずれも食べ応えがあるのに食後感がサッパリしていて、胃もたれせず、さすが栄養士の吉本さんがプロデュースするだけに、使う調味料も味付けにも配慮が行き届いているって実感しました。

 ヘルシーさを仰々しく謳わないところがまた潔い。吉本さんは「食事に一番大切なのは美味しさ。“栄養士が考える健康食”では夢がない。味が夢を売る店にしたいんです」と明快に語ります。

 

 

 夢のあるお店・・・シンプルだけどこれほど素敵なコンセプトってないかもしれない・・・ですね。