杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

180℃SOUTHを観て

2011-05-03 21:57:22 | 映画

 今年のGWに静岡で公開されている映画は、残念ながら大人向きの上質な作品が少なく、東京のミニシアター巡りでもしようかと迷いながら、昨日(2日)はとりあえずJR静岡駅前のシネギャラリーをのぞいてみました。ちょうど上映していた『180℃SOUTH』(ワンエイティ・サウス)というドキュメンタリーを観たんですが、これが自分的には大当たり!

 ポスターやチラシを見た限りでは、インドア派の私でもパーカーやウインドブレーカーを持っているアウトドアブランド『patagonia』『THE NORTH FACE』の創始者イヴォンとダグが、若い頃に南米パタゴニアを旅した経験を振り返り、その足跡を追体験しようとする若き冒険家に人生のアドバイスをするというシンプルなドキュメンタリーのようでしたが、そんな単純な作品ではありませんでした。

 

 大筋は自然と人間のドキュメントなんですが、主人公&語り部である若き冒険家が、旅の途中で立ち寄ったイースター島で文明が滅んだ過程を知り、パタゴニアでは巨大パルプ工場や水力発電所の建設によって自然と共生して暮らす人々が苦しむ姿に触れ、人と自然がどう折り合いをつけて生きるべきかを考える、文明論的なメッセージがちりばめられていました。

 

 とりわけ、猛スピードで経済発展を遂げる、サンティアゴをはじめとする南米の都市に大量の電力を供給するために、遠く離れたパタゴニアの豊かな大地に発電所が建設されるという不条理・・・まるで首都圏に電力を供給する原発に苦しめられる福島の人々を見るようでした。

 

 

 

 『patagonia』創始者のイヴォン・シュイナードは、自然保護企業家の第一人者として知られ、『THE NORTH FACE』創始者のダグ・トンプキンスは私財を投じてチリやアルゼンチンの森林を購入し、政府へ国立公園として返還する活動をしています。

 

 自分たちが使いやすいように工夫した登山道具を、冒険費用稼ぎに商品化してみたら大ヒットし、一大ブランドになり、手にした利益を、自然保護に還元する・・・考えてみれば、実業家の中でもこんな理想的な人生ってないですよね。

 イヴォンもダグも70歳を過ぎた好々爺ですが、今でもホイホイと崖を登るし、自然保護に臨む姿勢はテッパンで、主人公の冒険家は憧れのヒーローを前にした少年のように目を輝かせる。・・・シネギャラリーの客席には、登山やウォーキングで鍛えていそうなシニア世代の男性が多かったのですが、(映画鑑賞慣れしていないせいか、上映中にカバンをやさがししてメモをとったり、鼾をかいて寝始めるおじさまもいましたが)おじさまたちも、「こんな人生を送ってみたいもんだ」と目を輝かせていただろうなあと想像しました。

 

 

 そんな、「理想の歳の重ね方」と、「人と自然の共生」という深いメッセージが、南米大陸の息を飲むような、美しくダイナミックな映像に重なって、一層心に染み入りました。伝えたいメッセージがあるとき、より効果的かつ深淵に伝えるための映像センス(画の美しさ、ダイナミクスさ、編集の妙等など)が必要不可欠であると、一つ勉強させてもらった気がします。

 

 180℃SOUTH(ワンエイティ・サウス)は13日(金)まで静岡シネギャラリーで上映中です。


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