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杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

しずおか地酒研究会、20歳になりました。

2016-03-01 10:56:39 | しずおか地酒研究会

 1996年3月1日。20年前の今日、しずおか地酒研究会の活動が実質スタートしました。20年前の今朝、どんな目覚めだったんだろう・・・まったく覚えていませんが、この頃、円形脱毛症に悩んでいたことだけはしっかり記憶しています(苦笑)。

 昨夜、観ていたアカデミー賞授賞式でレオナルド・ディカプリオが22年越しでオスカーをゲットしたという様子に、改めて20年という歳月を実感しました。レオ様のように20余年、第一線で活躍できる才覚と情熱を保ち続けられるのは、ごく一部の選ばれしクリエイターだろうと思いつつ、彼が受賞スピーチで、今回の受賞作品の関係者のみならず、マーティン・スコセッシ監督など過去作の関係者への謝辞を述べたこと、「(ロケで)雪原を探すのに南半球の端まで行かなければならなかった」と地球環境の危機にしっかり言及したことも心に残りました。

 そんでもって今朝の目覚め。実は昨日(2月29日)、20年の活動について取材を受けたんですが、自分は長年支えていただいた方へきちんと謝辞を伝えられなかったし、会の役割についてもきちんと言及できなかった・・・目覚めたときに真っ先に浮かんだ後悔の念でした。自分自身の活動や思いを簡潔に説明するって、なんと難しいことでしょう。これまで私の取材を受けてくれた蔵元さんや杜氏さんも、そんな悔いをどこかで持たれていたんだろうと思うと、そうであっても長年、ご縁をつなぎ続けてくださっていることに、ひたすら合掌低頭です。ご縁が薄れたor切れてしまった方も少なくないだけに、今も続く酒縁がいっそう尊いものに思えてきます。

 「これからの活動目標は?」と訊かれ、利き酒会、料理と楽しむ会等のたぐいは、プロの飲食店や酒販店の専売特許であるから、彼らの酒席で話のネタになるような情報を掘り起こし、記録して残すことかなあと漠然と応えたのですが、活動キックオフの1996年、3月から12月まで実はほとんど毎月のように活動しており、そのテーマが、20年後の今、いろいろなカタチでつながっていたことに気づきました。ちょっと備忘録がわりに書き出してみますね。

 

◎平成8年(1996)1月20日 しずおか地酒研究会準備会(会場/すし市)・・・平成7年11月開催の静岡市立南部図書館食文化講座「静岡の地酒を語る」後、有志32名(酒造会社、小売店、マスコミ関係者、市の文化事業担当者等)を集め、鈴木より研究会構想を発表。メーカーや行政指導型ではなく、市民メセナとして地酒を考えるというコンセプトを得る。

 

◎平成8年3月1日 しずおか地酒研究会懇話会(会場/あざれあ)・・・32名の有志がそれぞれに声をかけ、78名が参集して事実上の発足式。造り手・売り手・飲み手がそれぞれお互いに注文することなどをブレーンストーミング方式で語り合った。

 

◎平成8年3月22日 しずおか地酒研究会発会式(会場/あざれあ)・・・地元の食材と地酒の相性を探る「しずおかお酒菜会」を開催し、発会を祝った。参加者118名。

 

◎平成8年5月26日 第1回しずおか地酒塾「なぜ美味い?静岡県の地酒のヒミツ」(会場/静岡県沼津工業技術センター)・・・静岡県沼津工業技術センターを訪問し、河村傳兵衛氏の講演と研究室見学を行なった。最先端の酒造研究施設を酒造関係者以外の者が見学できる機会はそれまでなかったため、とりわけ酒販店会員の反響大。参加者120名。

 

◎平成8年6月23日 第2回しずおか地酒塾「お酒の原点・お米の不思議」(会場/可睡斎本堂)・・・静岡県酒造組合より技術顧問を委託されていた永谷正治氏(山田錦研究家・元国税庁醸造試験所鑑定官室長)に、山田錦をテーマに講演をお願いした。講演に先立ち、平成8年より山田錦の栽培を始めた大東町の田んぼ見学会を開催。永谷氏の講演会は袋井市の可睡斎本堂をお借りし、その後の懇親会では精進料理と純米酒を味わい、好評を博した。参加者95名。

 

◎平成8年6月24日 田んぼ見学会 藤枝・沼津編・・・平成8年より山田錦の栽培を始めた藤枝の松下さん、沼津の稲村さんの田んぼを永谷氏・河村氏と訪問。稲村さんには仕入先(土井酒造場)を紹介。2人とも30代前半の意欲的な農業青年。彼らのサポートも当会の役割であると実感。14名参加。

 

◎平成8年7月29日 第3回しずおか地酒塾「サポートしよう、ホームタウンの酒屋さん」(会場/熱海ジェック研修ホテル伊豆山)・・・熱海海上花火大会が楽しめる熱海市の研修ホテルでの宿泊セミナー。酒文化研究所の山田聡昭さんを講師に、酒の流通についての講演と、山田さんの司会で蔵元3名・酒販店3名による討論会を行なった。業界の問題を一般受講者の前で討論するには限界があり、残念ながら建設的な意見交換には至らず、一部参加者からは不満の声も聞かれたが、「業界の人間にはできない企画」「今度は自分が討論に参加したい」という反応もあり。きき酒懇親会では小売店独自のPB酒の飲み比べを行い、ふだん見慣れないユニークな銘柄が揃った。参加者54名。

 

◎平成8年8月2~3日 夏の田んぼ見学会 沼津~藤枝~大東~豊岡編・・・永谷氏を迎え、県下山田錦の生育状況を視察。平成7年から山田錦の栽培を始めた豊岡村の圃場もまわり、県中遠地域で先進的な農業経営を志す静岡県稲作研究会酒米グループとの懇親会も行なった。

 

◎平成8年10月1日 第4回しずおか地酒塾「女性と地酒の素敵なカンケイ」(会場/浜松アクトタワー研修交流センター)・・・第3回に引き続いての会員討論会。小売店、飲食店、一般の代表6名の女性に、新しい観点から地酒を語ってもらった。静岡県地酒まつりとの併催だったため、90名強の参加者で盛況を博した。

 

◎平成8年10月5~6日 秋の田んぼ見学会・・・稲刈り直前の状況を見学。稲村さん、松下さん、静岡県稲作研究会の方々を、静岡新聞社発行・しずおか味覚情報誌「旬平くん」の米特集で紹介。見学会に同行した安東米店長坂さんを松下さんに紹介。

 

◎平成8年12月8日 年忘れしずおかお酒菜Party(会場/あざれあ)・・・“年末の疲れた体と心を癒す”をテーマに、永谷氏の協力による山田錦の玄米試食会を開催。雑穀料理を研究する未来食グループに酒肴をお願いし、燗酒の美味しさを飲み比べ。南米音楽バンド「ロス・ボンベロス」の演奏も楽しんだ。参加者72名。

 

 

 これらを自分ひとりで企画したとは我ながら褒めてやりたい(笑)心境ですが、実際にカタチにできたのはすべて有志の皆さんのボランティア協力のおかげです。ワタクシ当時33歳。業界の内情をよく知らない素人を(いや業界の外の素人だから突っ走れたのかもしれませんが)、皆さんホントによくお支えくださったと畏れ多くなります。いや、支えてもらった、なんておこがましいですね。大きな目で見れば、自分はライターの人脈を生かして企画と広報を担当したに過ぎないわけです。

 

 当時は「地酒塾」と称していたように、有識者に教えを乞うセミナーのような活動が中心でしたが、2年後の平成10年(1998)に会員情報を集めた「地酒をもう一杯」を出版した後は、塾ではなくサロン形式で、造り手・売り手・飲み手の顔の見える交流や相互理解に努めるようにしました。やはり地酒の価値というのは、地元に造り手がいて、彼らの人となりが酒質に投影され、それに惚れ込んだ売り手が「酒」と「人」の魅力を一体にして飲み手に伝える。そのような出合いの循環こそが地元での地酒振興につながるだろうと。今、それを、売り手が自ら実践し、市場を広げる意味でも大きな成果につながっています。生産量が限られる地域酒造業にとっては、大市場・新規市場でのマーケティングやブランディングというよりも、地域での堅実な市場形成と継続のほうがやっぱり肝要ではないか・・・経営学の素人ですがそんな印象を持っています。

 昨日の取材では、「静岡の酒がこれほどブームになったきっかけとは?」と訊かれ、自分の感覚ではコレという大きなエポックメイキングは思い当たらず、「分かりやすいところだと、やっぱり磯自慢がサミット酒に選ばれたことかなあ・・・」など等、返事に窮しました。とにかく今、言えることは、皆さんがそれぞれの立ち位置で「惚れた酒のよさを伝えたい」と努力を積み重ねた。そのベースは、多くの人を惚れさせ、行動に移させた素晴らしい酒を、造り手が醸し続けてきた成果に相違ない、ということ。こういう感覚は、20年前にともに行動を起こしてくれた方々ならご理解いただけると思います。

 

 ちなみにこれ、20年前に使っていた名刺の裏側に落書きしたもの。これ持ってる人まだいるかなー(笑)。

 

 そんなこんなで、今年1年、初心に戻り、今から10年20年先の静岡の酒のためになるようなことを年間通してやってみようと思っています。幸いなことに、【杯が満ちるまで】の出版や朝日テレビカルチャー地酒講座をきっかけに、新たな酒縁をいただきましたので、本を作りっぱなし、講座を開きっぱなしではなく、次にしっかりつなげていく。それが、いただいた酒縁への恩返しだと思い、頑張ってまいります。

 成人式を迎えたしずおか地酒研究会、今年もどうぞよろしくお願いいたします!


しずおか地酒研究会20周年アニバーサリー第1弾

2016-01-12 19:20:46 | しずおか地酒研究会

 1996年に発足したしずおか地酒研究会は、今年20周年の節目を迎えました。長いようであっという間の20年でした。

 発足のきっかけは、前年1995年11月に開催した静岡市立南部図書館食文化講座『静岡の地酒を語る』。静岡酵母の河村傳兵衛先生と静岡県酒造組合専務理事の栗田覚一郎先生が、おそらく初めて、一般市民を対象に静岡吟醸について語った講座で、終了後も「有料でもいいから続けてほしい」という声をいただき、ちょうど20年前の1996年正月、家のコタツでチビチビ呑みながら、独りであれこれ妄想していました。妄想の成果が、以下にまとめた発足趣意書です。

 

 水に恵まれた静岡県は、近年、日本酒の分野で日本の最高水準の酒を生んできました。昭和61年の全国新酒鑑評会では出品酒21点のうち10点が金賞、7点が銀賞に選ばれ、入賞率で全国1位になるなど、静岡の地酒は全国的に評価が高まっています。しかしながら静岡の地酒の消費量は、県内で飲まれる日本酒のうちのわずか18%足らず。地酒のよさを知る人はごく一部に限られているのが現状です。日本酒の消費そのものがビールや低アルコール飲料の台頭で落ち込む今、この18%という数字を上げるためには生産者や販売者の経営努力のみならず、消費者の、優れた地場産品を支援する意識の高揚が大切ではないかと思われます。

 洋の東西を問わず、成熟した文明圏には相応の酒文化があるといわれています。地酒とは、その土地の文化レベルを示す顔。静岡に、レベルの高い酒造技術が育っている今こそ、これに“文化の香り”を醗酵させ、熟成させる好機ではないでしょうか。そのためにもまず、酒の業界の皆さんと、地域社会や文化を担う県民の皆さんとの枠を超えた交流から始めたいと思うのです。

 「しずおか地酒研究会」は、地酒の素晴らしさに感動し、地酒によってふるさと静岡のよさを再認識した人々でたちあげる、手作りの研究会。これまで接点が限られていた造り手・売り手・飲み手の交流の場として有機的な活動を、そしてさらに、着実に地酒振興につながるような運動に発展できればと思います。

 ある造り手から「酒を、人を感動させる芸術品を創るような気持ちで造っています」というお話を聞きました。まずは、勉強会や交流会を通して、地域の人々が、このような真摯な思いを受け止める感性を磨く機会を広げようと思っています。

 

地域の皆さんに向けて/品質の高い静岡の地酒のよさを、一人でも多くの県民に伝え、地元の食文化として発展させよう。

→地酒のよさを通じて、ふるさとの食の豊かさを知る。

→地元の産物を見直し、ふるさとを誇りに思う気持ちを育て、後世に伝える。

 

酒の業界の皆さんに向けて/地酒の選び方、売り方、紹介の仕方などを考え、地場産品として市場に円滑に循環される環境をサポートしよう。

→飲み手主体の地酒啓蒙活動を行い、顧客サービスや新規開拓に活用してもらう。

→日本酒ファンの底辺拡大のため、潜在的消費意欲の高い20代~40代に向けた商品開発・販売促進ができる素地を整える。

                                                                            (1996年3月 しずおか地酒研究会発会のしおりより)

 

 

 今、読むと、業界事情をよく知らない素人が、言葉足らずを省みず、盛大に打ち上げたまさに妄想花火だなあと恥ずかしくなってきますが、1996年3月の発会式には100名を超える方にお集まりいただきました。会場の静岡県男女共同参画センターあざれあの生活関連実習室では、当時、静岡新聞出版局で「旬平くん」という地域食情報誌を編集していた平野斗紀子さんのコーディネートで、静岡市の農家女性グループがとれたて野菜をその場で調理し、当時売り出し中の御殿場金華豚のしゃぶしゃぶも加わり、地酒と地域食のコラボを存分に楽しむことが出来ました。20年前は「地産地消」とか「コラボレーション」なんて言葉は一般的ではなかったように思いますが、地酒の取材を続けていると、自然にそういうつながりが生まれてくるんですね。

 1996年3月22日に開催された発会式の懐かしい写真です。当時34歳の私めもロン毛でパツンパツンの顔してますが(笑)、皆さんもお若いっすね~!

 

 

 

 

 巡りめぐって20年経った2016年の正月。コタツはなくなったけどデスクに酒瓶をドンと置いて、20年のお礼、本の出版のお礼をするには、初心に戻ってガツガツ活動するしかないと妄想リターンしてました。20年前と大きく変わったのは、静岡地酒の認知度と、造り手や売り手自身が積極的に活動していること。地酒研はひとつ役割を終えたかなあと、嬉しくも寂しくも感じますが、今年とにかく、3月に20年の記念イベントを、4月以降も毎月何かしらのサロンやワークショップをやろうと腹をくくり、現在、鋭意調整中です。

 

20年アニバーサリー第1弾

記念講演会 「造り手・売り手・飲み手が切り拓いた静岡地酒・新時代(仮題)」

 20年アニバーサリー第1弾は、1996年から20年欠かさず、講師として来て下さった松崎晴雄さんに講演をお願いしました。松崎さんはご存知、日本を代表する酒類ジャーナリストであり、全国各地域の清酒鑑評会審査員を務め、日本酒の海外振興のトップランナーとしてもご活躍中です。

 今年は昭和61年(1986)に静岡酵母による全国新酒鑑評会大量入賞から30年という節目にもあたります。松崎さんには日本酒業界の30年を振り返り、飲み手目線で始めた地酒振興活動について、大所高所から解説していただきます。会場は20年前と同じ「あざれあ」です!

 当日は静岡県清酒鑑評会審査会が県沼津工業技術研究所で開催され、即日結果発表されます。鑑評会主催の静岡県酒造組合会長・望月正隆さん(「正雪」蔵元)にもお越しいただき、松崎さんと大いに語っていただこうと思っています。一般の飲み手から、プロのきき酒師まであらゆる地酒ファンが今、傾聴すべき最新かつ最良の静岡地酒論。ぜひふるってご参加ください。お待ちしています。

 

■日時 2016年3月15日(火) 18時45分~20時45分  *終了後、「湧登」(静岡駅南銀座)にて二次会を予定しています。会費実費。

 

■会場 静岡県男女共同参画センターあざれあ 4階第一研修室  http://www.azarea-navi.jp/shisetsu/access/

 

■講師 松崎晴雄氏(日本酒研究家・日本酒輸出協会理事長・静岡県清酒鑑評会審査員)

      望月正隆氏(静岡県酒造組合会長・「正雪」神沢川酒造場代表取締役)

 

■会費 1000円

■定員 60名 *定員になり次第締め切ります。

■申込 しずおか地酒研究会事務局(鈴木) mayusuzu1011@gmail.com

 

 

 


「杯が満ちるまで~しずおか地酒手習帳」出版報告会

2015-11-07 20:31:00 | しずおか地酒研究会

 11月1日、JR静岡駅前の葵タワー24階・グランディエールプケトーカイにて、【杯が満ちるまで】出版報告会を酒友のみなさんが開いてくれました。

 私にとってはまったくの分不相応の会場でしたが、発起人であるフリーアナウンサー&静岡地酒チアニスタの神田えり子さんが、地酒イベントで実績のある同会場を手配し、当日の運営までパーフェクトに準備してくださいました。集客ノルマは50人と聞いた私は、えり子さんにとりあえず本でご紹介させていただいたすべての飲食店・酒販店・酒造会社へのご案内をお願いし、この本の取材や撮影でお世話になった一般の方々、これまでしずおか地酒研究会の活動に多大なご支援をいただいた方々に自分のほうからお声かけしました。

 10月半ばのご案内だったため、11月1日日曜日に都合の付く方は、お声かけした方の半分もいかないだろうと内心ヒヤヒヤ・・・ところが、いざ蓋を開けてみたら会場MAXの80人もお集まりいただき、びっくり大感激!。着席でやるということで、うぁー配席が大変だぁ~!と頭を抱えたのですが、えり子さんから「真弓さんをお祝いしたくて来てくださる方々ばかりですから、席次がどうこう言う方はいらっしゃらないと思いますよ」とオトナの回答。腹を決めて、業界の枠を取っ払い、お住まいや趣味や共通知人など何らかのつながりがある方々を同テーブルに坐っていただくことにしました。

 

 

 

 会では世話人の佐藤隆司さん(静岡地酒応援団)、静岡新聞社出版部の庄田達哉部長、静岡県酒造組合の望月正隆会長、東京からお越しいただいた松崎晴雄さん、県杜氏研究会の土田一仁会長、酒販店代表の片山克哉さん、飲食店代表の湧登・山口登志郎さん、乾杯の音頭をとってくださった國本良博さんはじめ、各テーブルのお歴々から温かいお言葉をいただきました。えり子さんはわざわざ、今回の本の取材写真をつないだ映像を作ってくださり、上映中は画面に登場したご当人や周囲の方々から拍手喝采。えり子さんがその様子に感涙で言葉が詰まるというハプニングも(こういうとき泣けない自分はいかに可愛げのない女かもバレてしまいました・笑)。

 会の写真は参加費をちゃんと払ってお越しいただいたにもかかわらず、いつのまにか写真記録係になっておられた共同通信の二宮盛さんと丸味屋酒店梅林和行さんが、素晴らしい写真をたくさん送ってくださいました。私自身は、松崎さんと國本さんに挨拶をお願いしただけで、あとはみなさんが自ら進んでやってくださったのです。感謝してもし尽くせません。本当にありがとうございました!!

 

 最後に述べさせていただいた謝辞、自分で何をしゃべったのかよく覚えていないのですが(苦笑)、かろうじて覚えている一部分だけでも、いつまでも忘れないように書き留めておきたいと思います。

 

 今日は本当にありがとうございました。蔵元さんは毎年変わらず100年200年も酒造りを続けておられ、小売店さんや飲食店さんは地域小売業が厳しいといわれる中でも堅実な商いをされ、ほかお集まりの皆様もそれぞれの道のプロとして立派なお仕事をされています。私も職業ライターとして当たり前の仕事をしたまでのことですが、こんなに立派な会を開いていただいて、本当に申し訳ない気持ちです。

 今日11月1日は焼酎の日、だそうですが、実は今からちょうど20年前の1995年11月1日、静岡市立南部図書館で「食文化講座~静岡の酒を語る」を開催しました。河村傳兵衛先生に静岡酵母のお話をしていただき、静岡県酒造組合専務理事だった栗田覚一郎さんにもご登壇いただきました。一般の市民が河村先生から酵母の話を聞くのは、たぶん初めてだったんじゃないかと思います。ご存知の方も多いと思いますが、コワモテで気難しい長老お2人の専門的なお話を、いかに一般の飲み手に伝えるか、当時30そこそこの小娘だった私(写真左端オレンジ服=当時はロン毛でした)が、今の朝ドラの「あさちゃん」みたいに、お2人に「なんで」「なんでそうなるんですか?」と食らい付いてご指導をうけ、やっとこさっとこ講座のプログラムを作りました。

 1995年11月1日 静岡市立南部図書館「静岡の地酒を語る」

 20年経って作ったこの本、最初、「先生方に教わったことを伝えていく使命があるんだ」と力をこめて、ものすごく専門的なところまで突っ込んで書いたんです。でも編集の石垣さんから「一般の読者に伝わるように書いてください」と指摘されて、20年前の講座のことをハタと思い出し、反省しました。

 幸い、多くの方から「読みやすい」と言っていただけているようです。読みやすくするには、労力をかけて削って練り上げる時間が必要でした。お酒もそうですね、静岡の、呑みやすいお酒、というのは、それだけ時間をかけて、ていねいに仕込んであるのです。呑みあきしない、おかわりしたくなる、というのが河村先生や栗田さんが理想とした静岡の地酒でした。この本も、何度も読み返していただけるような本に育っていければな、と願っております。これからも微力ながら静岡の酒の振興のために取材を続け、続編が発行できるよう努力してまいりたいと思います。今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

 

 

 

 なお【杯が満ちるまで】は主要書店の新刊郷土本のコーナーにてお取り扱いいただいています。静岡新聞社出版部の営業スタッフさんたちが熱心に書店営業してくださり、また掲載された飲食店や酒販店さんが書店でまとめ買いしていただいているおかげで、今のところ店頭の比較的目に付きやすい場所に置いていただいているようです。先週、店の入口そばに置いていただいている某書店をのぞいて、長い時間、この本を立ち読みしている男性客を見つけ、その横で他の本をパラパラめくりながら異様にドキドキしちゃいました(笑)。その男性客は残念ながらお買い上げいただけなかったのですが、店のどこに陳列してもらえるかって、売上にものすごい影響があるんだな~ってホント、実感しました。

 

 通販ご利用の方には現在、楽天ブックスが定価でお取り扱いいただいているようです。こちらをご参照ください。


朝日テレビカルチャー地酒講座のご案内

2015-09-26 08:45:52 | しずおか地酒研究会

 9月1日付けの記事でもご紹介したとおり、10月から朝日テレビカルチャー静岡スクールで【地酒ライターとめぐる酒蔵探訪】という講座を始めることになりました。来年3月までの半年、毎月1回、計6回の講座です。

 第1回/10月25日(日)、第2回/11月29日(日)は、新静岡セノバ5階にある静岡スクールの教室で座学&試飲。

 第3回/12月27日(日)はコミュニティ居酒屋くれば(両替町)で日本酒カクテルや甘酒の作り方講座。

 第4回/1月24日(日)は英君酒造(由比)見学

 第5回/2月28日は初亀醸造(岡部)見学

 第6回/3月27日(日)は「喜久醉」青島酒造(藤枝)見学

を予定しています。

 

 9月中に申し込むと、入会金(3,240円)が無料になるそうです。

 

 ネットからも申し込めますので、こちらをご参照ください!

 

 なお、10月末には静岡新聞社より【杯が満ちるまで~しずおか地酒手習帳】を上梓する予定です。平成元年に地酒取材を始めてから書き貯めていたものや、来年で発足20年になるしずおか地酒研究会のご縁の賜物を凝縮した読み物です。現在、編集&校正の最終段階。まもなくご案内できると思いますので、ぜひご期待ください♪


しずおか地酒サロン~2015静岡県清酒鑑評会をふりかえる

2015-04-01 21:46:00 | しずおか地酒研究会

 3月26日(木)夜、松崎晴雄さんを迎えての恒例春のしずおか地酒サロンを開催しました。会場は昨年と同じ、満寿一酒造の故増井浩二さんが蔵で使用していたテーブルのある建築家の事務所ギャラリーです(昨年の様子はこちら)。しずおか地酒研究会の催事は、今までこのブログで事前告知と参加者募集を行いましたが、今回は会員メールとフェイスブックでの告知で即満席になりました。各地で「日本酒ブーム再来」という声を聞く中、私のような個人がやってるささやかな小宴もその恩恵に浴することができたのか・・・とジワジワ手応え。当ブログでの告知をお待ちになった奇特な方がいらしたら申し訳ありません・・・。

 ということで、少し遅くなりましたが、いつものように松崎さんの講話を再録します。松崎さんは今年2年ぶりに静岡県清酒鑑評会審査員を務められたので、県鑑評会のお話から。

 

 第43回しずおか地酒サロン 松崎晴雄さんの日本酒トレンド解説~2015静岡県清酒鑑評会をふりかえって

□日時 2015年3月26日(木) 19時~22時

□会場 Salon de SAANA 酒井信吾建築設計事務所&永田デザイン建築設計事務所 

 

 

 みなさまこんばんは。毎年こういう機会をいただいておりますが、昨年は海外出張のため静岡県清酒鑑評会の審査に参加できず、この会でも審査の話ではなく、「杜氏の流派」について、磯自慢の多田さんのような名杜氏を前に緊張してお話させていただきました。2年ぶりに審査に参加出来ましたので、まずは県の審査の動向について、次いで全国の酒質のトレンドなどについてお話ししようと思います。

 

 静岡県では例年、吟醸酒・純米吟醸酒の2部門審査をさせていただきます。出品点数は22~23蔵から計90点弱。1審・2審でふるいにかけて最後に残った数点で決審するというやり方ですが、今回は吟醸酒部門は3審まで行って決着が付かず、最後に残った3品で決選投票を行ないました。白熱した大接戦でした。その結果、「開運」が県知事賞に決まったわけですが、これは静岡県全体のレベルが非常に高く、甲乙つけがたかったということでしょう。人間が審査することですので、なかなかズバッと割り切って決めるということが出来ないんですね。その大変さを改めて実感しました。

 1位になった「開運」は香りもさることながら、味のふくらみやまるみがたっぷりして非常にバランスがとれていましたね。2位の「花の舞」も静岡酵母らしい爽やかな香りでしたが開運に比べるとまだ若く、後口が硬い感じがしました。3位「磯自慢」も香りに“切れ込み”のある非常に静岡らしい爽快で繊細な酒でした。最後3品の審査では、味にふくらみがある「開運」に軍配が上がったということでしょうか。

 いずれにしても3者3様、非常に静岡らしい素晴らしい酒だったことは間違いありません。静岡酵母の特徴がよく出ており、どれが1位になってもおかしくなかったと思います。吟醸酒の場合は醸造アルコールを添加しますので、切れ味がよく、軽快で、審査していてもその特徴を感じたわけですが、3月13日の審査会ではどちらかというと純米吟醸のほうが軽やかで静岡らしさを感じました。というのは、吟醸の部のほうは全体的に“甘い酒”が多い、という印象だったのです。それに比べると純米吟醸のほうが若干酸が効いてアルコール度数も低めですので、静岡らしいスッキリ感や繊細さを感じた。ところが10日後の3月23日の一般公開では吟醸の部のほうが切れもあり、酒の軽さやバランスがよく、やっぱり吟醸のほうが全体的に出来がよかった。審査のときとは違う印象でしたね。純米はわずか10日で味がかなり進んだようです。香味とも締まった感じで酒質としてのバランスのとれたアルコール添加酒のほうが全体的に勝っていたかなと思いました。

 

 静岡の酒が甘く感じたのは、米が溶けて甘みが出ているのではないかと思われます。例年、静岡の酒はスカッとしていてどちらかといえば後口が硬いのが特徴で、搾って間もない新酒らしい苦味や渋味があったのですが、今年は例年に比べて味が出ているという印象です。米が溶けて甘みが残るというのは全国的な傾向のようで、まだ新酒鑑評会が始まる前の2月ぐらいから、一部の蔵元さんから「例年に比べて米の出来がよくない」と聞いていました。もちろん米が溶けなければいい酒は出来ないのですが、溶け方がよくないと。酵母が米の糖分を栄養にしてアルコール醗酵するわけですが、アルコールがあまり出ないうちから米の溶けがどんどん進んでしまい、結果的に米の甘みが残ってしまった。山田錦を筆頭に酒造米全体にその傾向があったようです。

 今年私にとっては静岡県の審査会が一番最初で、その後、福島県の審査にも参加したのですが、福島でも若干そういう傾向がありました。昨日(3月25日)は大阪国税局の研究会に参加しましたが、味が甘くて重い酒が多かったという印象です。あまりいい傾向ではないのですが、ある種、現時点でまとまっている酒は味が進みすぎて、この先、味がもっと重くなってしまうのではないか・・・。もちろん鑑評会出品酒というのは特別な酒で、市販酒に即影響するというわけではありませんが、今年の酒質についてはそのような傾向があり、若干心配ではあります。

 酒が甘くなっているという傾向はここ10年ぐらいのトレンドです。米が溶ける、暖冬傾向にあるという条件以外に、酵母の特徴と麹の造り方にその理由があるような気がします。非常に香りの高い酵母を使うのが鑑評会用吟醸酒の主流になっており、それが市販酒として評価される傾向にあるようです。香りが高い酒というのは、相応の味の厚みも必要になります。最終的に味も香りもボリューム感のある酒にしていこうということになる。そういう酒は麹造りでグルコース濃度を上げる。昔、吟醸酒は酒粕をたくさん出してきれいな酒にするというのが常道でしたが、最近はグルコース濃度がひとつの目安になっているようですね。逆に静岡の酒はわりと硬めで軽くてカラッとしたスタイルの麹を造るので、今のトレンドとは一線を画しており、それが静岡酒たるゆえんであろうかと思います。

 なぜ甘くて濃密な酒が流行っているのかというと、ひとつは淡麗辛口への反動ですね。新潟の「久保田」「八海山」「上善水如」に代表される淡麗辛口酒が時代を席巻したのは1980年代から90年代半ばぐらい。水のように飲みやすい酒が一世風靡し、焼酎やパック酒まで“飲みやすさ”をウリにするようになりました。酒の同質化はやがて反動を生みます。若い造り手を中心に「無濾過」などインパクトのある酒や、香りの高い酵母へも対応するようになり、流れは完全に「芳醇旨口」へと変わりました。それは酒の呑み方自体の変化ともかかわりがあると思います。

 酒は、すいすいジャブジャブ呑めればいいやというものから、美味しい酒を少しずつ呑んで料理を愉しむというスタイル、酒そのものよりその場の雰囲気や美味しい料理を愉しむというスタイルに変わっています。若い世代でアルコールを呑まない人が増えているということもあるでしょう。食生活を見ても、出汁と素材の味を生かした和食に合う淡麗な日本酒、というよりも、居酒屋のメニューをみても食材は国産のものでも味付けは多国籍といいますか、さまざまな調味料を駆使した創作料理が増えている。そういう料理と合わせるとなると、香りや味に幅やふくらみのある酒のほうが合うのでしょう。飲酒の動向や食べ物の趣向性が多様化しているということが日本酒の酒質に少なからず影響しているようです。

 中には黒麹や白麹を使った酒というのも登場し、日本酒の多様化に伴って貯蔵や流通が発達していろいろな酒がいい状態で呑めるようになった。これも大きな要因です。酒飲みにとってはありがたい時代です。多様化し、個性的な酒が増えてきたというのは、日本酒が醸造酒であり、複雑な工程を経て人間の技術が介在している酒だからこそ、と思います。

 

 日本酒の蔵元は1400~1500社ほどありますが、それぞれの地域の食文化との組み合わせによって永く続いているという側面もあります。その土地の料理と合わせたときの味わいというのは、今風の特殊な創作料理との食べ合わせとは違う意味でゆるぎなく存在していると思います。このサロンでも何度かお話していますが、地酒というのはその土地で呑むのが美味しいと断言できます。静岡の酒は新潟とは違いますが酸の少ない淡麗型の酒です。数値上では辛口タイプ。そこに静岡酵母特有の爽やかなリンゴ、バナナ、梨のような香りが加わり、新鮮で素材に手を余り加えない魚料理や、苦味のある山菜等にも非常に合う。素材の持つ微妙な味わいにもマッチすると思っています。

 

 地酒は地元で呑むのが美味しいという理由を私なりにいろいろ考えてみると、ひとつはその土地の気候風土、とりわけ温度湿度が関係しているのではないかと。「地酒はその土地で呑むのが美味い」というのは情緒的な意味合いや、地元のほうが酒の回転がいいから等と言われ、自分もそうだろうと思っていたのですが、実際、旅行先で呑んで美味しかった酒を買って東京で呑んでみたらさほど感動しなかったり、蔵元から直接買ったのに蔵で呑んだときのほうが美味しかった・・・という経験もあって、これはその土地の温度や湿度が微妙に人間の生理に影響しているのではなかろうかと考えました。これは酒に限らず、食材や調味料でも同じことかもしれません。

 15~16年前の3月頃、ロサンジェルスからニューヨークへ移動したとき、ロスは砂漠地帯で暑く、ニューヨークは雪が降るくらい寒かった。同じ純米酒を呑んだら全然違う味だったのです。ロスでは冷酒で、ニューヨークでは常温だったと思いますが、ニューヨークで呑んだときのほうが断然美味しかった。同じ酒とは思えないダイナミックな差を感じました。飲み手の生理的な情態というのが酒の味に大きく影響するとつくづく実感しました。

 

  

 「芳醇旨口」が今のトレンドだといわれます。旨口というのは日本酒特有の表現ですが、ようするに米の旨味を生かした甘口ということでしょう。若い造り手は自分のブランドを立ち上げたり、従来とは違う新しい酒質で勝負しています。そんな中で、高い香りを敬遠するという人も増えているようです。新しい酒質を模索する中で香りの高い酒は何杯もお代わりできるような酒ではないと判断し、おだやかな味に戻ってきた。静岡の酒のようなタイプを目指すと標榜する蔵も登場しており、(県外では使用不可の)静岡酵母と同じ酢酸イソアミル系の金沢酵母(協会14号=市販酵母)を使う蔵が増えてきました。また協会酵母一番のロングセラー・6号酵母を使う「新政」のように、独自の醸造哲学と乳酸を使わず白麹で酒母を造るという大胆な姿勢の蔵元が、若い造り手に非常に注目されています。

 

 かつて淡麗辛口が一世風靡した頃は、その反動から芳醇旨口に流れ、芳醇旨口全盛の今、そこから脱却して独自性を構築しようという流れが生まれつつあります。ひとつの流行が行き過ぎるとそのより戻しが来る・・・そんな反動の繰り返しが20年ぐらいの周期で来ているようですが、その中にあって静岡の酒は独自のスタイルを貫き、完全に定着していますね。来年2016年は静岡酵母がブレイクした1986年から30周年という記念すべき年です。先日の県の審査会ではリアルタイムで当時を知らない若い審査員がいました。私は当時、審査員ではありませんでしたが、静岡酵母の酒に出合って衝撃と感動を受けた、その経験を若い世代に伝えるべきだろうとも思っています。東京でもぜひ何か出来れば、と考えております。来年はしずおか地酒研究会も20周年だそうですから、ぜひ大々的にやりましょう。(文責/鈴木真弓)