米国集中治療医学会/欧州集中治療医学会 SSCGガイドラインCOVID-19
2020年3月20日公表
新型コロナウイルス感染症 COVID-19
集中治療ガイドラインについて
名古屋大学大学院医学系研究科
救急・集中治療医学分野
松田直之
Naoyuki Matsuda MD, PhD
はじめに
米国集中治療医学会と欧州集中治療医学会は,敗血症診療ガイドラインをSurviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)として公表しています。 この内容を踏襲するものとして,米国集中治療医学会と欧州集中治療医学会は,2020年3月20日に50項目の推奨で構成される「COVID-19に対応する敗血症ガイドライン」を公表しました。本稿は,厳格な翻訳ではありませんが,推奨内容に気をつけて記載しています。また,文献索引番号や表なども併記していますが,上記英文タイトルよりリンクできるようにしていますので,文献や表については原本でご確認下さい。簡訳として,読みやすいように記載していますので,参考とされて下さい。
SSCGガイドライン:COVID-19管理の推奨ポイント
1.気管挿管:気管挿管を行う場合,可能であればビデオ喉頭鏡を用いることを弱く推奨しています。
2.輸液制限:ショックを併発した場合には,輸液量を過剰にしないことを弱く推奨しています。初期蘇生においてHESやアルブミンを使用しないことを弱く推移称しています。
3.カテコラミンの使い方:カテコラミンの使い方については,不適切な記載かもしれません。ノルエピネフリンとエピネフリンを,内因性カテコラミンの適正補充療法として,鎮痛鎮静下で最小量を模索しながら,適正使用するのが良いと思います。私からのアドバイスとしては,循環作動薬については,体血管抵抗やモトリングに気をつけて病態を理解して使用することをお勧めします。
4.腹臥位療法:Moderate ARDS(PaO2/FIO2比≦200 mmHg)およびSevere ARDS(PaO2/FIO2比≦100 mmHg)において,低い推奨ではありますが,腹臥位療法を12時間~16時間として弱く推奨しています。
5.筋弛緩薬:人工呼吸器との同期不全が続く場合,深い鎮静を必要とする場合,腹臥位療法を併用せざるをえない場合,また高プラトー圧を必要とする場 合,最大48時間として弱く推奨しています。
6.NO吸入療法:NO吸入療法の推奨を,重症ARDS(PaO2/FIO2比≦100 mmHg)のみとしています。
7.二次性血球貪食性リンパ組織球症(HLH):COVID-19に二次性血球貪食性リンパ組織球症が合併する可能性について言及されています。
8.ステロイド静注療法:ARDSを合併した時に,弱く推奨しています。低用量ステロイドを想定しているようです。
9.抗菌薬:人工呼吸管理となった場合,抗菌薬の経験的併用を弱く推奨しています。
10.体温管理:発熱に対してアセトアミノフェンを弱く推奨しています。
11. 抗ウイルス薬:ロピナビル/リトナビルの日常的な使用を避けることを弱く推奨しています。
感染管理・感染対策について
SARSCoV-2感染のリスクについて
中国疾病管理予防センターの最近の報告では,中国からCOVID-19の72,314症例が報告されており,44,672例が検査で確定されています。検査で確定されたCOVID-19のうち,1,716人(3.8%)が医療従事者であり,そのうち1,080名(63%)が武漢で感染しているようです。感染した医療従事者の14.8%(247名)が重度または重度の病気にかかっており,5人が死亡したと報告されています。また,イタリアでは,2020年3月15日現在,医療従事者2,026例のCOVID-19が記録されているようです。ICUでの患者から患者への感染のリスクは現在不明であるため,感染制御予防策の遵守が最重要です。医療従事者は,医療機関で既に実施されている感染制御ポリシーに従う必要があります。考慮事項として,以下の推奨事項と提案を提供します。
推奨:
1. ICUでCOVID-19に対してエアロゾルが発生する手技を行う場合,手術用/医療用マスクではなく,フィットされた呼吸用マスク(N95マスク,FFP2マスク)の使用をお勧めします。また,保護具(手袋,ガウン,顔面シールドや安全ゴーグルなどの目の保護具)も加えて下さい。(ベストプラクティス)。
2. ICUでCOVID-19に対してエアロゾルが発生する手技を行う場合,陰圧室で管理することをお勧めします(ベストプラクティス)。
3.人工呼吸管理されていないCOVID-19の通常ケアでは,個人用保護具(手袋,ガウン,および目の保護具,フェイスシールド,安全用ゴーグルなど)に加えて,外科用/医療用マスクの使用をお勧めします(弱い推奨,エビデンス低)。
4. COVID-19の人工呼吸器(閉回路)でエアロゾルを生成しない作業の医療従事者は,個人用保護具に加えて,レスピレーターマスクではなく外科用/医療用マスクを使用することをお勧めします(弱い推奨事項,エビデンス低)。
5. COVID-19患者に気管挿管を行う場合,可能であれば,ビデオ喉頭鏡を使用してください(弱い推奨,エビデンス低)。
※ コメント:日本では,マックグラス(McGRATH®)を用いるのがよいかもしれません。気管挿管時間を短くできる可能性があるからです。(松田直之)
参考文献:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/74/2/74_154/_article/-char/ja/
6.気管挿管を行う場合,気道管理の経験が最も多い医療従事者が行うことをお勧めします。(ベストプラクティス)
診断と検査
SARS CoV-2のICU患者の検査の適応
世界保健機関(WHO)は米国時間3月11日,ジュネーブで会見を開き,新型コロナウイルス(COVID-19)を「パンデミック」だと宣言しています(3.11事例)。したがって,呼吸器感染症を疑う重症患者は,SARS-CoV-2に感染している可能性があるとみなすべきです。RT-PCR法は,SARSを含む同様のウイルス感染のゴールドスタンダードです(33)。特に,COVID-19は,潜伏期間が約2週間に延長したり,呼吸器症状が発症する前に約5日間のウイルス排出が行われるため,いくつかの診断上の課題が残されています。検査のパフォーマンスは,サンプリングの場所によって異なる可能性もあります。
推奨:
7. COVID-19の疑いが成人の気管挿管および人工呼吸器の場合:
7.1 診断には,上気道(鼻咽頭または中咽頭)よりも下気道からサンプルを取得することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
7.2 下気道サンプルについては,気管支洗浄または気管支肺胞洗浄サンプルよりも気管内吸引液をお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
血行動態サポート
COVID-19におけるショックと心筋傷害について
成人のCOVID-19におけるショックの有病率は,研究対象の患者集団,重症度,ショックの定義に応じて,ばらつきが強いです(1%~35%)。 中国のCOVID-19の44,415名の疫学報告では,2,087例(5%)が重篤な低酸素血症および/またはショックを含む臓器不全の存として診断されています(12)。重症COVID-19の1,099名を対象とした別の中国の研究では,ショックを発症したのはわずか12人(1.1%)です(1)。入院患者では,ショックの発生率は高い傾向があり(42)(表3),ICU患者では20-35%に達する可能性があります(42,43)。
中国武漢(42-45)のCOVID-19の報告では,7%から23%に心筋傷害(CKMBやトロポニンなどの心損傷バイオマーカーの上昇)が報告されています。心筋傷害の有病率はショックの有病率と相関する可能性があります。血行動態が安定した患者では,心臓機能障害に対する体系的なスクリーニングが行われておらず,関連性を確実に捉えることができていません(表3)。
また,COVID-19およびショック患者の予後は体系的に報告されていません。中国武漢の2つの病院の150人の患者を対象とした研究では,ショックが40%の主な死因であり,少なくとも部分的には劇症心筋炎による可能性があります(46)。
このようにCOVID-19のショックに関連する危険因子に関する研究や報告は不足しています。利用可能な報告の大部分は,推定値を報告しています(12,42,46)。方法論的な制限がありますが,高齢,併存疾患(特に糖尿病と高血圧を含む心血管疾患),リンパ球数減少,D-ダイマー増加が,おそらく心損傷を考慮すべきリスク因子であるかもしれません。
推奨:
8. COVID-19に併発した成人のショックでは,輸液反応性を評価するために,動的パラメーター,皮膚温,毛細血管再充填時間(CRT),血清乳酸測定を用い,静的パラメーターを超えることをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
9. COVID-19に併発した成人のショックでは,リベラルな輸液戦略よりも保守的な輸液戦略とすることをお勧めします(弱い推奨,超低エビデンス)。
※ コメント:輸液量を過剰とならないように工夫ができると良いです(松田直之)。
10. COVID-19に併発した成人のショックの蘇生には,コロイド液ではなく晶質液を使用することをお勧めします(強い推奨,中程度エビデンス)。
11. COVID-19に併発した成人のショックの蘇生では,バランスの悪い晶質液(unbalanced crystalloids)よりもバランスの良い緩衝晶質液(balanced crystalloids)の使用をお勧めします(弱い推奨,中程度エビデンス)。
※ コメント:生理食塩水ではなく,ラクテートリンゲルやアセテートリンゲルなどの緩衝液を使用してくださいという内容です。当然のことですが,カリウムには注意して下さい(松田直之)。
12. COVID-19に併発した成人のショックの輸液蘇生には,代用血漿製剤HESの使用を推奨しません(強い推奨,中程度エビデンス)。
13. COVID-19に併発した成人のショックの輸液蘇生には,ゼラチンを使用しないことをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
14.COVID-19に併発した成人のショックの輸液蘇生には,デキストランを使用しないことをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)
15. COVID-19に併発した成人のショックの初期蘇生に,アルブミンをルーティンに使用しないことをお勧めします(弱い推奨,中程度エビデンス)。
※ コメント:高齢者などのショックにおいて,輸液制限をするために,アルブミンを使用しても良いかもしれないと思っておりました。ルーティンな使用(ageinst routine use of albumin)がポイントなのかもしれません。ALBIOS studyのSepsis-2とSepsis-3を比較したサブ解析データなどもアルブミンを使用させる際には参考とされて下さい(松田直之)。
血管作動薬の使用について
推奨:
16.COVID-19に併発した成人のショックでは,ノルエピネフリンを他の薬剤よりも第一選択血管作用薬として使用することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
17.ノルエピネフリンを使用できない場合,バソプレシンまたはエピネフリンの使用をお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
18. COVID-19に併発した成人のショックでは,ノルエピネフリンが利用可能な場合,ドパミンの使用を推奨しません(強い推奨,高エビデンス)。
※ コメント:ウイルス性心筋炎である場合,ECMOの適応となると思います。また,細菌感染症を併発しない限り,血管拡張性のworm shock(血流分布異常性ショック)とはなりにくく,ノルエピネフリンではなくエピネフリンFIRSTでも良いかもしれません(松田直之)。
19. ノルエピネフリン単独では目標平均動脈圧(MAP)を達成できない場合,COVID-19とショックのある成人に対して,ノルエピネフリン用量の漸増薬としてバソプレシンを追加することをお勧めします(弱い推奨,中程度エビデンス)。
※ コメント:COVID-19におけるショックを,通常の細菌性ショックと同一視しているのかもしれません。血管が拡張する,つまり体血管抵抗が減弱している場合には,① ノルエピネフリン,② バソプレシンで対応するのが適切ですが,心筋および血管平滑筋へのSARS-CoV-2の播種によりCOLDショックとなることにも注意が必要であると考えています(松田直之)。
20. COVID-19に併発した成人のショックでは,血管作用薬を滴定して,平均血圧のターゲットを高くするのではなく,平均血圧60~65 mmHgをターゲットにすることをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
21. COVID-19に併発した成人のショックでは,輸液蘇生法およびノルエピネフリンにもかかわらず心機能障害および持続的な低灌流の証拠がある場合,ノルエピネフリンの用量を増やしながらドブタミンを追加することをお勧めします(弱い推奨,非常に低エビデンス)。
※ コメント:私は,ここはエピネフリン持続投与か,VA-ECMOの適応と考えます。ドブタミン(アドレナリン受容体β刺激薬)を使用することには,反対しています。ドブタミンは,頻脈や不整脈を誘導し,血圧維持のための輸液量を増加させる可能性に注意が必要です。むしろ,頻脈を抑制することや内因性カテコラミンを制御することが,長期的には重要となります(松田直之)。
22. COVID-19に併発した成人のショックでは,コルチコステロイド療法なしで低用量コルチコステロイド療法を使用することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
注:敗血症性ショックの典型的なコルチコステロイド療法は,点滴または間欠投与のいずれかとして,ヒドロコルチゾン200 mg /日を静脈内投与する方法です。
呼吸補助療法について
COVID-19患者の低酸素血症の有病率は,約19%です(12)。中国からの報告では,COVID-19の4%から13%が非侵襲的陽圧換気(NPPV)を受け,2.3%から12%が気管挿管下人工呼吸管理を必要としたとされています(表3)(1,12, 42,43,65)。 COVID-19の低酸素性呼吸不全の真の発生率は明らかではないですが,約14%が酸素療法を必要とする重度の呼吸不全を発症し,5%がICUで人工呼吸器を必要とするようです(12)。また,別の研究では重症COVID-19患者52名において,67%がARDSを発症し,63.5%がHFNC療法を受け,56%が侵襲的人工呼吸器,42%がNPPVと報告されています(42)。
機械的換気を必要とする呼吸不全に関連する危険因子は,公開された報告書では明確に説明されていません。限られたデータから重症化や ICU入室に関連する危険因子として,① 高齢(> 60歳),② 男性,③ 糖尿病,④ 悪性腫瘍,⑤ 免疫不全などが挙げられました(1,12,42,43)。 CDC(Centers for Disease Control and Prevention)は,COVID-19の致死率(CFR:case-fatality rate)を2.3%として報告し,80歳以上の致死率は14.8%,重症化するとCFRは49.0%であり,気管挿管例では50%を超えるとしました。心血管疾患,糖尿病,呼吸器疾患,高血圧,癌などの既往がある場合,死亡リスクが高いようです(12)。
推奨:
23. COVID-19の成人では,酸素飽和度(SPO2)が92%未満の場合は酸素療法を開始することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。SPO2が90%未満の場合は,酸素療法を開始することをお勧めします(強い推奨,中程度エビデンス)。
24. 成人のCOVID-19による急性低酸素性呼吸不全(acute hypoxemic respiratory failure)では,SPO2を96%以下に管理することをお勧めします(強い推奨,中程度エビデンス)。
※ コメント:現在,高濃度酸素暴露の不適切性が,集中治療領域でも再燃されています。特に,ウイルス性間質性肺炎の危険性がある場合には,高濃度酸素投与をお勧めしていません。人工呼吸中に閉鎖式回路を用いた気管内サクションを行う場合などにも,高濃度酸素フラッシュを2分間するなどのことを止めて頂くようにしています(松田直之)。
25. 成人のCOVID-19による急性低酸素性呼吸不全において,従来の酸素療法で酸素化が得られない場合は,HFNCを使用することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
26. 成人のCOVID-19による急性低酸素性呼吸不全では,NPPVよりもHFNCを使用することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
27. 成人のCOVID-19による急性低酸素性呼吸不全で,気管挿管の緊急性はないけれどもHFNCが利用できない場合は,綿密なモニタリングと呼吸不全の悪化に関する短期間での評価を行いながらNPPVの試用を提案します(弱い推奨,非常に低エビデンス)。
28.マスクタイプのNPPVと比較して,ヘルメット型NPPVの使用に関しての推奨を作成できませんでした。COVID-19における安全性または有効性については確信がありません。
※ コメント現在,非侵襲的人工呼吸管理NPPVにおいては,マスクタイプではなく,ヘルメット型NPPVによる管理の呼吸管理状態や生命予後が良い可能性が示唆されています。このことを受けた,推奨文となっていると思います。NPPVで粘り過ぎると,エアロゾル拡散を悪化させるばかりではなく,気道狭窄や沈下性無気肺の増悪に気をつけることが期待されます(松田直之)。
29. NPPVまたはHFNCを投与されている成人のCOVID-19では,呼吸状態の悪化を綿密に監視し,悪化した場合は早期に気管挿管に移行することをお勧めします(ベストプラクティス)。
気管挿管下人工呼吸管理について
推奨:
30. 成人のCOVID-19におけるARDSで人工呼吸器を装着した場合,高い1回換気量(VT> 8 mL/kg理想体重)よりも,低い1回換気量(VT 4~8 mL/kg理想体重)を使用することをお勧めします(強い推奨,中程度エビデンス)。
31. 成人のCOVID-19におけるARDSで人工呼吸器を装着した場合,30 cmH2O未満のプラトー圧(Pplat)にすることをお勧めします(強い推奨,中程度エビデンス)。
32. 成人のCOVID-19におけるARDSで人工呼吸器を装着した場合,低いPEEPよりも高いPEEPをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
備考:より高いPEEP(つまり,PEEP>10 cm H2O)を使用する場合,患者の圧外傷を監視する必要があります。
33. 成人のCOVID-19におけるARDSで人工呼吸器を装着した場合,リベラルな体液戦略よりも保守的な体液戦略を使用することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
34. 成人のCOVID-19において中等~重症のARDSで人工呼吸管理をしている場合,12~16時間の腹臥位療法をお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
35. 成人のCOVID-19において中等~重症のARDSで人工呼吸管理をしている場合:
35.1. 必要に応じて,神経筋遮断薬(NMBA)をボーラス投与,また持続投与として,肺保護換気を促進することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
※ コメント:ANZICSガイドラインCOVID-19と同様の推奨です。ANZICSガイドラインCOVID-19のコメントを参考として下さい(松田直之)。
35.2. 人工呼吸器との同期不全が続く場合,深い鎮静を必要とする場合,腹臥位療法を併用せざるをえない場合,また高プラトー圧を必要とする場合,最大48時間として筋弛緩薬持続投与をお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
36. 成人のCOVID-19におけるARDSで人工呼吸器を装着した場合,一酸化窒素(NO)吸入療法をルーティンな使用とすることを推奨しません(強い推奨,低エビデンス)。
コメント:ルーティンな使用を推奨しないという治療パターンに含めないことの推奨なのかもしれません。現在,MGHと西安で,COVID-19に対するNO吸入療法の臨床研究が開始されていますので,現時点では推奨できないとしているのかもしれません(松田直之)
37. 成人のCOVID-19における重症ARDSで人工呼吸器を装着し,換気などの救命戦略に反応しない場合,救命療法としての肺血管拡張薬の吸入を試用してもよいでしょう。酸素化の改善が認められない場合,治療は中止とします(弱い推奨,非常に低エビデンス)。
コメント:「we suggest a trial of inhaled pulmonary vasodilator as a rescue therapy」という記載の,吸入肺血管拡張薬は,後の解説を読む限り,一酸化窒素(NO)吸入療法を指しているようです。NO吸入療法の適応を,重症ARDS(PaO2/FIO2比≦100 mmHg)としています。(松田直之)。
38. COVID-19に人工呼吸器を使用したけれども酸素化が改善しない場合,リクルートメント手技を行うことをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
コメント:一度,Open Lungさせることが大切ですが,エアロゾル被曝手技となりますので,感染防御策に気をつけて下さい(松田直之)。
39. リクルートメントを行う場合,PEEPを段階的に上げていくなどのstaircase recruitmentとしないことをお勧めします(強い推奨,中程度エビデンス)。
40. 成人のCOVID-19におけるARDSで人工呼吸器を装着し,換気の最適化,レスキュー療法,および腹臥位にもかかわらず,酸素化が改善しない場合は,可能であればVV-ECMOを使用するか,患者をECMOセンターに紹介することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
COVID-19の追加治療オプション
サイトカインストームについて
サイトカインストームは,多臓器不全とサイトカインレベルの上昇を特徴とする過炎症状態です。中国の最近の研究では,COVID-19は二次性血球貪食性リンパ組織球症(HLH)を想起させるようなサイトカイン上昇プロファイルに類似することが示されています(44)。HScoreを用いて,COVID-19患者における二次性HLHをスクリーニングすることを提案されています(140)。コルチコステロイドおよび他の免疫抑制剤を,HLHの可能性が高いCOVID-19患者に使用できる可能性があります(141)。サイトカインストームの治療オプションについては,今後の多くのエビデンスが必要です。 抗ウイルス剤,免疫抑制剤,免疫調節剤,その他の治療法を含む,SARS-CoV-2とその合併症の治療オプションについて解説されています。
推奨:
41. ARDSまでには至らない呼吸不全で人工呼吸器を装着した成人では,コルチコステロイドの静脈内投与は行わないことをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
42. 人工呼吸器を装着した成人でARDSに至った状態では,コルチコステロイドの静脈内投与を行うことをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
※ コメント:メチルプレドニゾロン1-2 mg/kg/日を5日から7日間使用し,後にテーパリングしていく,少量ステロイド療法を弱く推奨しているようです。私は,この方法で行く場合には,24時間持続投与としていますが,血漿コルチゾル濃度を評価することもお勧めしています。測定法により,投与されたメチルプレドニゾロンが測定に反映されず,内因性コルチゾルのみの測定となる場合もありますのであわせて留意されて下さい(松田直之)。
43. COVID-19による呼吸不全で人工呼吸器を装着した成人では,抗菌薬の経験的使用をお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
注:経験的抗菌薬投与を開始する場合,毎日,ディエスカレーションを評価し,培養検査結果や患者の臨床状態に基づいて,投与期間と適用範囲を再評価してください。
44. 成人のCOVID-19の発熱には,体温管理にアセトアミノフェン/パラセタモールを使用することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
45. COVID-19の重症化した成人に対して,標準的な静脈内免疫グロブリン(IVIG)のルーティンな使用をしないことをお勧めします(弱い推奨,超低エビデンス)。
46. COVID-19の重症化した成人に対して,回復期患者の血漿をルーティンに使用をしないことをお勧めします(弱い推奨,超低エビデンス)。
47. COVID-19が重症化した場合:
47.1. ロピナビル/リトナビルの日常的な使用を避けることをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。
47.2. COVID-19の重症患者における他の抗ウイルス剤の使用に関する推奨のためには,エビデンスが不十分です。
コメント:アビガン錠®(一般名:ファビピラビル)などの有害とはならないことのエビデンスがある場合や,有害事象が低い抗ウイルス薬は,使用することが期待されます。薬理学的に作用機序を考えて,院内等の承認を得て,応用することになります。また,単純にRNAポリメラーゼ阻害薬をまとめずに,はいい校正の高いものを期待するなら,ファビピラビルを選択することになるのだと考えております(松田直之)。
48. COVID-19の重症化した成人に対して,単独または抗ウイルス薬と組み合わせた組換えrIFNの使用に関する勧告を発行するには,エビデンスが不十分です。
49. COVID-19の重症化した成人に対して,クロロキンまたはヒドロキシクロロキンの使用に関する推奨を提示するには,エビデンスが不十分です。
50. COVID-19の重症化した成人に対して,トシリズマブの使用に関する勧告を発行するには,エビデンスが不十分です。
コメント:リウマチ治療薬である抗IL-6受容体抗体(tocilizumab,アクテムラ®)についてのコメントも最後に述べられています。COVID19バンドルを知っている先生もいらっしゃることもあるのか,海外から抗IL-6受容体抗体を応用しようと考え,コメントを求められています。2020年3月4日の段階で,CRPが高く推移する症例を選んで,ケブサラ®(一般名:サリルマブ)の併用を考慮すると良いとしていました。臨床研究が開始される予定です。COVID-19ではCRPが高く推移する例が認められ,肺などの血管透過性が亢進しやすい状態があります(松田直之)。
おわりに
オーストラリア・ニュージーランド集中治療医学会(ANZICS)に続いて,米国集中治療医学会と欧州集中理療医学会のSSCGガイドラインメンバーによるSSCG/COVID-19ガイドラインが公表されました。このすべての内容は,既に日本で行われている集中治療を超えるものではありませんでした。一方,現時点では新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対しての治療エビデンスはあたり前のことですが,ストロングエビデンスは存在しません。明確なエビデンスはありません。現在,NO吸入療法や吸入ステロイド療法などのいくつかの臨床研究は立ち上がっていますが,まず救命を優先し,後遺症を軽減するという観点では,有害性除去と効果性期待としての病態生理学的アプローチがとても重要となります。その上で,この多くの労力の中で作成されたSSCG/COVID-19ガイドラインに感謝の念を抱くとともに,この原本にあたって頂き,より深くCOVID-19の集中治療を洞察していただきたいと考えています。どうぞよろしくお願い申し上げます。
初版 2020年3月20日,追記・修正:2020年3月23日