救急一直線 特別ブログ Happy保存の法則 ー United in the World for Us ー

HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

救急・集中治療 肺動脈カテーテルの適正使用 PART 2

2010年08月15日 03時42分51秒 | 講義録・講演記録 3

救急・集中治療 肺動脈カテーテルの適正使用 

PART 2

名古屋大学大学院医学系研究科
救急・集中治療医学分野
松田直之


<続 編>

6. 混合静脈血酸素飽和度の意義

 肺動脈カテーテルが普及する過程で,1990年代より混合静脈血酸素飽和度(Sv(ー)O2:mixed venous oxygen saturation,正常値60~80%)を連続測定できるようになりました。Sv(ー)O2は,上大静脈,下大静脈,冠静脈洞から流入する最終静脈血の酸素飽和度であり,酸素運搬量と酸素消費量の全身の酸素化バランスを反映する指標です。現在,Sv(ー)O2は,肺動脈カテーテルの先端位に設置された光ファイバーを用いた2波長反射式分光光度法で,持続計測できます。
 従来Sv(ー)O2の算出には,表5のように,動脈血酸素飽和度(SaO2)と酸素摂取率(酸素運搬量(V(・)O2)/ 酸素消費量(D(・)O2))を必要としました。しかし,現在の肺動脈カテーテルにおけるSv(ー)O2の持続測定では,体内(in vivo)キャリブレーションとして,血液ガス分析器を用いた肺動脈血のヘモグロビン濃度あるいはヘマトクリット値と,実際に測定したSv(ー)O2値を入力することで,持続計測値ができます。
 このようにSv(ー)O2は持続計測できるようになりました。この急激な変化や異常には,注意が必要です(表5)。Sv(ー)O2が60%以下に低下している場合には,酸素運搬量が低いか,酸素消費量が高い可能性があります。一方,Sv(ー)O2が80%以上に高い場合には,①代謝抑制,②組織酸素利用障害(敗血症,多臓器不全,播種性血管内凝固症候群など11)),③高心拍出量,④動静脈シャントの可能性を念頭におきます。Sv(ー)O2は,酸素運搬量を規定する①心拍出量,②ヘモグロビン濃度,③SaO2,および酸素消費量により決定されるため,酸素消費量,ヘモグロビン濃度,SaO2が安定している状態では,心拍出量の急激な変化を鋭敏に反映してくれます。逆に言うと,特にヘモグロビン濃度の変化について,前提条件として確認することが大切です。このように,Sv(ー)O2は,その絶対値のみならず時系列での変動に注意します。



7. 肺動脈カテーテルの安全かつ適切な使用

 肺動脈カテーテルの留置には,いくつかの安全性に配慮してください。

1)肺動脈カテーテル先端位置の問題:SQIをモニタリングする重要性
 胸部単純X線像で,毎日必ず,肺動脈カテーテルの先端位置を確認します。この確認ポイントは,肺中心部のゾーン2なのか,下方向のゾーン3なのか,上方向のゾーン1なのか,そして深さです。坐位などで血流変化の起きやすいゾーン1への留意などでは,同じ位置に固定されていても,測定用の光ファイバーのシグナルクオリティインジケータ(SQI)が3あるいは4と高くなることに注意します。また,体位変換でも肺動脈血流が変化する可能性があり,SQIの変化に注意して下さい。SQIが2以下となるように注意し,肺動脈カテーテルをバルーンを膨らませない状態で引き戻して,再固定して下さい。肺動脈カテーテル先端が,末梢の肺血管床に移動することで,肺梗塞や肺動脈損傷の原因となることに注意してください。

【追記1:SQIについて】肺動脈カテーテル,あれほど長いカテーテルの先端でパルスオキシメータと同じようにヘモグロビン酸素飽和度を,肺動脈のSVO2として連続して測定できる仕組みを開発したのは,大変な開発と思います。シグナルクオリティーインジケータ(SQI)は,結局のところ,末梢循環不全の指先でパルスオキシメータのSpO2の値が出ないのと同様に,肺動脈カテーテル先端付近でSVO2を検出しにくくなっていることを,示してくれるものと理解しています。肺動脈におけるヘモグロビン酸素飽和度を測定しにくくなっていることを,1(最良)から4(要注意)の4段階で表示してくれます。SQIでは3と4は要注意です。特にSQI 4は,1)壁あたり(血流が流れにくくなくなっていること),2)カテーテル先端への血栓の付着,3)カテーテル先端が壊れたなどを考えます。このため,SQIが3か4のときは,1か2になるように少し引き戻した位置で管理することになります。もちろん肺動脈楔入圧を測定するときはバルーンを膨らました状態で少し深くするかもしれません。

【追記2:SQIの数値変動について】肺動脈楔入圧の測定できる位置で固定し,同じ位置にしているのに,SQIが2から3や4に変化するのは,1)肺動脈攣縮,2)微小血栓ができたり溶けたりしている可能性,3)ドライサイドの管理で肺動脈圧が低下してきた状態(フロセミドで水引をし始めた時),4)肺動脈カテーテル先端位置の適正,5)体位変換の影響を考えます。肺動脈カテーテル先端の留置位置の内径が細くなると壁あたりする可能性に注意します。また,血栓の原因となる可能性についても抗凝固をしていないときには考慮しますし,肺動脈カテーテルで血小板が減少する原因の一つとなります。黄色ブドウ球菌やMRCNSなどの血流感染があると,ここがまた病巣となり,血栓が巨大化することにも注意します。

2)バルーン拡張に対する注意
 肺動脈は弾性線維を中膜に持つものの,加齢や動脈硬化などの影響により弾性線維が減少し,膠原線維が増加することが知られています。このため,特に高齢者や肺高血圧のある場合には,肺動脈末梢で不注意にバルーンを膨らませると肺動脈損傷の可能性があります。通常,1.25 mL未満のバルーン拡張で肺動脈楔入が得られる場合,1.5 mLで肺動脈楔入が得られる位置まで,肺動脈カテーテルを引き戻しています。拡張バルーンは,最大1.5 mLまでに対応しています。また,バルーン拡張に際しては,液体注入は禁忌です。バルーン拡張は空気を用います。液体は回収できなくなる可能性があることに注意してください。また,バルーンを拡張させたままにしておくことで,肺梗塞の可能性が高まるので,PAWPの測定を行うときのみ,バルーンを拡張させます。

3)カテーテル感染症と血小板減少のリスク
 長期留置により,カンジダ属などの真菌感染症,ブドウ球菌属などを含めた血流感染症,そして血小板減少の発症が増加します。このため,肺動脈カテーテルは,PCPS離脱やIABP離脱までなどの急性期の心機能評価の一時的な使用に限定することが望ましいです。


おわりに

 SwanとGanzが考案した肺動脈カテーテルは,既に40年の歳月が経過しました。本稿は,主に研修医と後期研修医を対象として,この肺動脈カテーテルによる心機能モニタリングを解説したものです。集中治療室(ICU)などで勤務する看護師さんも,是非,お役立て下さい。このような肺動脈カテーテルは,適切な理解のもとで使用することにより,心機能に関する多くの情報を提供してくれます。ICUやCCU,また心臓血管麻酔などでの利用に役立てて下さい。


文 献

1. Swan HJ, Ganz W, Forrester J, et al. Catheterization of the heart in man with use of a flow-directed balloon-tipped catheter. N Engl J Med 1970;283:447-51.
2. Ganz W, Donoso R, Marcus HS, et al. A new technique for measurement of cardiac output by thermodilution in man. Am J Cardiol 1971;27:392-6.
3. Forrester JS, Diamond G, Chatterjee K, et al. Medical therapy of acute myocardial infarction by application of hemodynamic subsets (first of two parts). N Engl J Med 1976;295:1356-62.
4. Forrester JS, Diamond G, Chatterjee K, et al. Medical therapy of acute myocardial infarction by application of hemodynamic subsets (second of two parts). N Engl J Med 1976;295:1404-13.
5. Forrester JS, Diamond GA, Swan HJ. Correlative classification of clinical and hemodynamic function after acute myocardial infarction. Am J Cardiol 1977;39:137-45.
6. Adolph Fick (1829-1901), mathematician, physicist, physiologist. JAMA 1967;202:1100-1.
7. Kety SS, Schmidt CF. The effects of active and passive hyperventilation on cerebral oxygen consumption, cardiac output, and blood pressure of normal young men. J Clin Invest. 1946;25:107-19.
8. Stewart GN. Researches on the Circulation Time and on the Influences which affect it. J Physiol. 1897;22:159-83.
9. Hamilton WF, Riley RL Comparison of the Fick and dye injection methods of measuring the cardiac output in man. Am J Physiol 1948;153:309-21
10. Krafft P, Steltzer H, Hiesmayr M, et al. Mixed venous oxygen saturation in critically ill septic shock patients. The role of defined events. Chest 1993;103:900-6.

参照:救急一直線 救急・集中治療 肺動脈カテーテルの適正使用 PART 1 松田直之

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 集中治療 ショック管理の原... | トップ | 救急・集中治療 肺動脈カテ... »
最新の画像もっと見る

講義録・講演記録 3」カテゴリの最新記事