ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

小さな、良くできたイノベーションの仕組みに感心しました

2010年10月16日 | 汗をかく実務者
 東京工業大学大学院で開講された「ノンプロフィットマネジメントコース2010」の公開講座を拝聴しました。
 10月15日夜から東工大の大岡山キャンパスでノンプロフィットマネジメントコース2010の授業が始まりました。受講する学生に加えて、公開講座として一般の方にも公開しています。「Chenge the World」というキャッチフレーズの下に、社会起業家による社会イノベーションの実践事例を学ぶ授業です。第1回目の授業の聴講者数は約40人で、半数以上が学生の方でした。

 授業を担当するのは、渡辺孝教授です。6月4日の本ブログで紹介させていただいた芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科の科長・教授です。以前から東工大教授も兼務されています。渡辺さんは2009年度と2010年度に東工大大学院社会工学専攻で「国際的社会起業家養成プログラム」を実施され、社会起業家を育成されました。この時は「アジアでの社会起業家育成が中心になったため、留学生の方の参加が多かった」と伺いました。

 今年度からは「ノンプロフィットマネジメントコース2010」という名称で、社会起業家の育成を図っています。その第1回目の授業の講師は、NPO法人「育て上げ」ネット理事長の工藤啓さんです。同NPO法人のWebサイトのトップページの右下に工藤さんの顔写真が載っています。


 工藤さんは講義の中で、よくできた仕組みの小さなイノベーションを説明されました。その出来映えに感心しました。小さなイノベーションを説明する前説がやや長いのですが、以下お読みください。

 工藤さんは不登校児童やニート、引きこもりなどの人間関係がうまく築けない若者(15歳から35歳まで)の就業支援などの事業を展開している方です。工藤さんによると、厚生労働省の調査データからニートは63万人、引きこもりは70万人もいるそうです。若者が持続的に社会に参加し、経済的に自立するようにする就業支援は、日本にとっての重要な社会投資だそうです。

 日本では高齢者化と少子化が同時並行で進み、労働人口の不足が大きな社会課題になり始めています。この点で、働く若者が増えれば、日本の社会の安定につながります。逆に、若者の中に非就労者が増えて、自活できない社会人が増えると、社会不安が高まります。そして、若者の非就労者が将来、ホームレスの老人にまで進んでしまうと、仕事の仕方などを教えることが事実上できなくなり、「ホームレス対策の社会コストがかなりかかる事態に陥るだろう」と説明されます。

 ニートや引きこもりの若者は、他人とや社会との付き合い方が下手なだけなので、人との付き合い方を教えると同時に、仕事のやり方を教えることによって、経済的自立が可能になり、自分の将来に希望がもてるようになるとのことです。

 同NPO法人は受益者負担事業として、ニートや引きこもりの若者に仕事のやり方を教える「ジョブトレ」などを実施しています。1カ月当たり4万円の“月謝”で、若者に就業支援の訓練を行います。当該の若者との事前面談を経て、地元商店街から頼まれた作業・仕事を経験することで、いろいろな仕事を体験します。商店街やビルなどの清掃活動を、仕事の“ウオーミングアップ”に取り入れているそうです。さらに、スーツを着て企業に簡単なデスクワーク体験に出かける企業実習も体験します。農家から頼まれた援農も体験します。この結果、20件ぐらいの仕事をグループで継続的に体験することで、当該の若者は継続的に仕事をするスキルを会得するようです。このジョブトレを経て、就職できれば、任務終了です。就職しても、すぐに辞めないようにも支援します。

 重要な点は、受益者負担事業を有料の事業として行っていることです。NPO法人はボランティア団体ではありません。そこで働く職員・スタッフは仕事として支援事業に携わります。負担金を出すのは、若者の母親が多いそうです。現在、同事業の希望者が多く、待機していただいているとのことです。ニートや引きこもりの若者が36歳以上の中年になり、「両親がその若者を支えられなくなる前に、就業してもらいたい」と、願う母親が多いようです。父親は仕事に忙しく、自分の子供の問題に対応できないとのことです。

 これからが今回知った小さなシステムのイノベーションの本論です。工藤さんは「キフホン・プロジェクト」という仕組みを考案しました。


 本などの物販事業のWebサイトであるAmazonサイトは、中古本を販売する仕組みを持っています。長野県上田市のバリューブックスは、この中古本の仕組みを用いて、中古本販売の事業を展開しています。

 工藤さんはNPO法人が進める若者への自立・就労支援のために寄付金を求めています。受益者負担事業に応募できない貧しい親や若者本人も中にはいます。こうした若者は寄付金という善意のお金で就業支援をしたいからです。でも、「寄付金をください」とお願いしてもなかなか応じてもらえないとのことです。そこで、工藤さんは「読み終わった不要な本をNPOに寄付してください」ということならば、応じやすいと考えました。

 漫画や雑誌以外の単行本(正確にはバーコードISBNが付いている本)が5冊以上になったら、バリューブックスに電話すると、ヤマト運輸の宅配業者が当該本を集荷に来ます。寄附された単行本を受け取ったバリューブックスは、中古本としての値付けをし、その収益の中からNPO法人「育て上げ」ネットに寄付金分を渡します。

 同NPO法人は「キフホン・プロジェクト」の仕組みがあることを広報する以外は、何もしないで寄付金を受け取ることができる仕組みです。重要なことは、「キフホン・プロジェクト」が成立するように、バリューブックスとヤマト運輸と話し合って仕組みを築いたことです。よくいわれるWin-Winの関係が構築されています。こうした社会システムを組み上げ、Win-Winの関係を築くことが社会起業家の任務です。

 工藤さんは協賛企業を増やすには、「その企業にとってメリットがある仕組みを提案することが重要」といいます。そうしたWin-Winの関係の仕組みを提案することが社会イノベーションであり、社会起業家の使命になっているとのことです。単なる善意では持続的な仕組みを構築できません。持続的な社会システムを産み出す社会起業家が増えると、「地域社会の課題が解決できる」といいます。

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1 コメント

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Unknown (T.H)
2010-10-17 18:46:18
役に立つブログです。留学生など海外では企業しやすいですが、日本ではIT関係は時々聞きますが少ないのでしょうね。NPO法人を作り社会に貢献することは期待できます。ニート、引きこもり対策は重要で、農業などの自然とのつながり、工場でのマイスターなど誇りを持てる仕事とのつながりを増やせたらと思います。
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