石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

アザデガン油田開発で試される日本の資源外交(最終回)

2006-09-23 | OPECの動向

全文をHP「中東と石油」に一括掲載しました

 

(これまでの内容)

第1回 アザデガン油田開発の実行を迫られるJAPEX

第2回 アラビア石油に代わる中東石油開発のビッグ商談

第3回 イランの石油と天然ガスに触手をのばす中国、インド

 

最終回)対米追随では全てを失う日本、小泉後の中東資源外交に明確な姿勢を

 米国のイランに対する怨念は1979年のホメイニ革命に始まる。当時米国はイランのシャー(パーレビー国王)を全面的にバックアップしていた。しかしシャーの強権体制はあっけなく崩壊し、イスラム法学者のホメイニがイラン・イスラム共和国を樹立した。そして革命機運が高揚する中でテヘランの米国大使館占拠事件が発生、カーター大統領の救出作戦は失敗し米国の面目は失墜した。ホメイニは1989年に死ぬまで過激な米国批判を繰り返し、そして現在のアハマドネジャド大統領も、ニューヨークの国連総会でブッシュ大統領を「悪魔」と呼び捨てている。

 米国にとってイランは過去30年近くにわたる目障りな存在であった。米国は「イラン・リビア制裁(ILSA)法」を制定し、米国企業のイランへの投資を制限するなど経済的な締め付けを強めた。ILSAは国内法であり、外国企業は規制の対象外であるが、米国は同法に抵触するとみなした外国企業に対してもさまざまな圧力をかけたのである。たとえばそれが日本企業であれば、外交ルートを通じて日本政府に「不快感」や「深い憂慮の念」と言う名目で脅しをかけ、企業自身に対しても製品輸入禁止をちらつかせた。このため対米輸出がドル箱のメーカーは直ちにイランとの商談を中止する。まして政府とのつながりが深い石油開発企業の場合はさらに敏感である。  

 しかしさほど米国を意に介さない仏や中国のような国もある。彼らは安保理常任理事国として米国と対等に渡り合う大国である。と言うよりも、仏及び中国は自国がヨーロッパ及びアジアそれぞれの中心であるとする強烈な「中華思想」の持ち主であり、米国を「成り上がり者」とみなし、その風下に立つことはプライドが許さないようである。  

 かつてレバノン、シリアを植民地支配していた仏は、中東に深い利害関係を築き米国とは異なる独自の経済外交を展開してきた。フセイン時代にイラク国内の石油開発利権を獲得したことや、Total社がイランの南パルスガス田の開発に参入したこと、などはその一例である。2003年の米国の対イラク戦争に加担せず、また最近のイラン国連制裁問題でも米国とは一線を画している。ことエネルギーに関する限り、仏は米国が席巻する現代の中東での足場を回復するために強引な政策を推進している。  

 一方、中国の胡政権は国内における体制安泰を最大の政策課題とし、政治面では言論統制を強め、経済面では成長を最優先に、なりふり構わず世界中でエネルギー確保に狂奔している。今や胡政権の姿勢は内向きでエネルギーに関する国際協調の素振りは見られない。  

 それでは日本が今後も米国の意向に忠実に従えば、それに対して米国が日本のエネルギーの安定確保を保証してくれるか、と言えばそれは余りに楽観的な見方であろう。米国自身が世界最大のエネルギー輸入国である。同国の最大の石油供給源である中南米では、ベネズエラで反米機運が高まり米国も安穏とできない状況である。ブッシュ大統領は石油依存度を減らすため、バイオなど新燃料の開発促進を唱え始めたが、石油をがぶ飲みする米国の体質が早急に改まるとは思えない。同国はアラスカに豊富な石油資源を有している。これまで環境保護団体の圧力に大きな配慮を払ってきた。しかし最近BPが引き起こしたパイプラインの石油漏れ事故は、かつてのプルドー湾のタンカー座礁による海洋汚染事故に比べ、短時間で操業再開を認めており、石油生産を優先する米国政府の強い意志が窺われる。つまりエネルギーに関するかぎり、米国は今後ますます自国の国益を前面に押し出すことは確実であり、日本がいかに対米協調の姿勢を示しても見返りが期待できないと思われるのである。  

 5月末に政府は「新・国家エネルギー戦略」を公表した。その中で2030年までに自主開発原油の比率を現在の15%から40%まで引き上げる目標が掲げられている。非常に高いハードルであり素人目に見ても実現の可能性に疑問を抱く。ただいずれにしても世界的な資源争奪戦が今後ますます激化することは必至であり、日本は独力でエネルギーを確保する努力をしなければならない。  

 イラン問題で日本が対米追随外交を続ける限り、アザデガン油田開発の可能性は遠のく。イランは日本の着手が遅れる場合は契約を破棄し、中国或いはロシアと共同開発すると警告を発しており、今やその現実味が増している。かと言って噂される仏のTOTAL社との共同開発が問題の解決になるかどうかも極めて不透明である。仏と手を組めば米国をますます苛立たせるだけであろうし、仏企業が一般的に持っている排他性や独善性を考えると「庇を貸して母屋を乗っ取られる」恐れもないとは言えない。いずれにしても日本政府およびINPEX社は難しい選択を迫られているようである。

 ともかく安倍新政権が発足する。これを機会に中東資源外交について日本の国益に基づく明確な姿勢が打ち出されることを期待したい。

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