本レポートは著名な格付け会社Standard & Poors (S&P)[1]の世界主要国及びMENA諸国のソブリン格付け[2]を取り上げて各国を横並びに比較するとともに、いくつかの国について過去3年間にわたる半年ごとの格付け変化を検証するものである。
因みにS&Pの格付けは最上位のAAA(トリプルA)から最下位のCまで9つのカテゴリーに分かれている。このうち上位4段階(AAAからBBBまで)は「投資適格」と呼ばれ、下位5段階(BBからCまで)は「投資不適格」又は「投機的」とされている。またAAからCCCまでの各カテゴリーには相対的な強さを示すものとしてプラス+またはマイナス-の記号が加えられている[3]。なおC以下でS&Pが債務不履行と判断した場合はSD(Selective Default:選択的債務不履行)格付けが付与され、さらに格付けを行わない場合はN.R.(No Rating)と表示される。
S&P(日本)ホームページ:
*過去のレポートは下記ホームページ参照。
http://mylibrary.maeda1.jp/SovereignRating.html
(日本は台湾/韓国より低く、中国/イスラエルと同じA+!)
1.2024年7月現在の主要国の格付け状況
(表:http://menadabase.maeda1.jp/1-G-3-01.pdf 参照)
2024年7月現在の格付けを今年1月のそれと比べると最高格付けAAA(トリプルA)のドイツ、カナダ、シンガポールに変動は無く、またAA+の米国[4]、AAの英、A+格付けの日本、中国なども変化はなかった。しかしこれまで英国と同格であったフランスはAAからAA-に格下げされた。
極東諸国(地域)の中では台湾と香港が最高ランクのAAA(トリプルA)に次ぐAA+に格付けされている。韓国はこれら2カ国より1ランク低いAAであり、日本と中国はさらに2ランク低いA+とされている。台湾と香港の格付けは米国と同格である。日本は中国と同じA+であり中東諸国クウェイト或いはイスラエルと同格、サウジアラビア(A)よりも1ランク高い。台湾は政治的、軍事的に緊張をはらんだ状況に置かれているが、IT産業が好調であるなど、経済的には日本或いは中国よりも安定していることから高いソブリン格付けを得ている。中国の動向を踏まえると、今後台湾と香港がどのように評価されるか注目される。
G7の国々のうちドイツ及びカナダはAAAの最高格付けであり、米国は1ランク下のAA+、英国はさらに1ランク低いAAである。フランスは今回AA-に格下げされた。日本はフランスに次ぐA+に格付けされ、イタリアは投資適格ではあるがG7の中では極めて低いBBBにとどまっている。
因みに格付け定義ではAAは「債務を履行する能力は非常に高く、最上位の格付け(トリプルA)との差は小さい」とされ、これに対して格付けAは「債務を履行する能力は高いが上位2つの格付けに比べ、事業環境や経済状況の悪化からやや影響を受けやすい」とされている。またBBBの定義は「債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い」格付けである。
(続く)
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[1] 世界的な格付け会社はS&P社のほかにMoody’s及びFitchRatingがあり、三大格付け会社と呼ばれている。
[2] ソブリン格付とは国債を発行する発行体の信用リスク、つまり債務の返済が予定通りに行われないリスクを簡単な記号で投資家に情報提供するものである。「ソブリン格付け」は、英語のsovereign(主権)に由来する名称であり、国の信用力、すなわち中央政府(または中央銀行)が債務を履行する確実性を符号であらわしたものである。ソブリン格付けを付与するにあたっては、当該国の財政収支の状況、公的対外債務の状況、外貨準備水準といった経済・財政的要因だけでなく、政府の形態、国民の政治参加度、安全保障リスクなど政治・社会的要因を含めたきわめて幅広い要因が考慮される。
[3] S&Pの格付け定義についてはhttp://menadabase.maeda1.jp/1-G-3-02.pdf参照。
[4] FitchRatingは最近米国格付けを最上位のAAAからAAに引き下げた。S&Pはすでに2011年にAAAからAAに引き下げている。引き下げの理由はFitchRating, S&P共に連邦債務の上限問題に関して連邦政府と議会の関係が不安定であるためとしている。