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2.目標生産量と実生産量の乖離(続き)
(3)目標を無視する(?)ロシアの生産量(図2-D-55参照)
昨年10月のロシアの生産量は11,050千B/Dであり目標値11,004千B/Dとほとんど差が無い。つまりロシアはOPECプラスの決定に忠実であったことがわかる。しかし、OPECプラスが11月に▲2,000千B/D減産を決定して以降、同国の石油生産量は真逆の動きを示している。即ち、11月の実生産量は目標を742千B/D上回り11,220千B/Dを記録している。その後同国は2月に▲500千B/Dの単独自主減産を打ち出したにもかかわらず11,000千B/Dを上回る生産を続けており、3月にはついに目標値を1,122千B/Dも上回る始末である。
ウクライナ紛争に伴う経済制裁により同国の欧米先進国向け輸出はほぼストップしているが、世界の大半の国はロシア原油の輸入を継続しており、中国、インドなどはむしろロシア原油を買い叩き輸入量を増やしている有様である。ロシアは戦費調達のためダンピング輸出を余儀なくされているが、現在のところ輸出先に困っているようには見えない。困惑しているのはむしろ経済制裁の効果があらわれず焦っている欧米先進国の方なのかもしれない。
(4)スウィングプロデューサーの役割を押し付けられたサウジアラビア(図2-D-2-51参照)
目標生産量を達成できないアフリカ産油国と目標を無視して高レベルの生産を維持するロシアに挟まれ、結局OPECプラス20カ国の中でスウィングプロデューサーの役割を押し付けられているのがサウジアラビアである。
昨年10月の同国の生産量は10,861千B/Dであり、ほぼ目標生産量11,004千B/D通りである。▲2,000千B/Dの協調減産後も目標達成率は99%程度で推移しており、▲500千B/Dの自主減産を公表した5月も実生産量は目標値と全く同じ水準に抑えている。
財政に余裕があり生産量の調整が容易だからこそ心ならずもスウィングプロデューサーの役割を引き受けているのが現在のサウジアラビアの姿と言えるであろう。
(5)将来の増産計画を認めさせたUAE(図2-D-2-54参照)
UAEの実生産量は目標生産量のほぼ100%である。つまりUAEはOPECの盟主サウジアラビアの方針に忠実であるように見受けられる。しかし詳細に見ると毎月の生産量が当該月の目標生産量をごくわずかながら上回っていることがわかる。
即ち昨年10月は目標3,179千B/Dに対し実際の生産量は3,187千B/Dであり、わずかではあるが実生産量が8千B/D上回っている。しかし11月以降目標量が3,019千B/Dに下方修正されると、実生産量も下がったものの、目標に対する超過量は2万乃至3万B/Dに拡大している。
これは何を意味するのであろうか。現在のUAEは増産計画に熱心であり、将来の生産能力アップをアピールしている。そのために現在の目標量を上方修正したいのである。この作戦は成功したようであり、6月のOPECプラス会合でUAEの現在の生産目標量2,875千B/Dは来年1月以降344千B/D上積みされて3,219千B/Dに見直されている。
(6)協調減産を免れ増産に余念がないイラン、ベネズエラ、リビア
(図2-D-2-06, 2-D-2-07及び2-D-2-08参照)
冒頭で触れたようにOPEC加盟国13カ国のうちイラン、リビア及びベネズエラの3カ国は協調減産に参加していない。米国および一部先進国による経済制裁を受けているためである。ところがイラン及びベネズエラはOPECプラス20カ国が協調減産体制に入った昨年10月以降、逆に増産を続けており、リビアも減産傾向が見られない。
イランの場合、昨年10月の生産量は2,557千B/Dであり、今年1月は2,554千B/Dであったが、4月には2,619千B/D、さらに5月には2,679千B/Dに上昇している。昨年10月に比べ生産水準は10万B/D以上アップしているのである。
ベネズエラもほぼ同様の傾向を示しており、681千B/D(10月)→691千B/D(1月)→726千B/D(4月)→735千B/D(5月)であり、今年5月は昨年10月に比べ5万B/Dの増産である。リビアは政府系と反政府系軍事勢力の対立で国内情勢が不安定であるが、石油生産は昨年8月以降110万B/Dを超えて安定している。
3か国はいずれも欧米先進国の輸入禁止の網の目をくぐり、中国、インドなどにダンピング輸出を行っている。OPECプラス20カ国が現在野放しの3カ国を今後どのように扱うか。深刻な問題を提起していると言えよう。
以上
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