石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

OPEC+(プラス)産油国の生産動向から見た世界の石油需給の現状と見通し(下)

2022-09-10 | OPECの動向

(注)本レポートは「マイ・ライブラリー」で上下一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0567OilSupplyDemandSep2022.pdf

 

4.消費国の動向(米/日/EU/中国/インド)

 米国は世界最大の石油(及び天然ガス)生産国であると同時に消費国であり、エネルギーの完全自給体制を樹立している[1]。従ってほぼ完全な消費国と言えるEU或いは日本と米国を同列に論じることはできない。米国はEU、日本に対して液化天然ガス(LNG)を輸出している。またExxonMobilの4-6月四半期の利益は179億ドルに達し、これは出光興産の売上高を上回るほどである[2]。米国内にはエネルギー問題は無いと言えよう。ただ同国では一般消費者が石油価格に敏感である。バイデン大統領がサウジアラビアに乗り込み原油増産を要請したが、これは秋の中間選挙を控えたスタンドプレーと言えよう。原油価格高騰にもかかわらず米国内のシェール石油生産業者に増産気配は見えない。ロシア、イラン、ベネズエラに対する経済制裁で世界的に石油の供給がタイトになってもほとんど痛みを感じないのが今の米国である。

(2019年1月以降の米国石油生産推移図2-D-2-15参照)

 

 日本は石油を100%輸入に頼っているが、米国追随外交を強いられイランに次いでロシアからの原油輸入もストップしている。代替できるのは中東湾岸諸国だけである。その結果、7月の国別輸入シェアはUAE42%、サウジ35%はじめGCCが98%を占める状況である。幸い天然ガスについては長期契約がほとんどで当面供給不足の恐れはなさそうである。問題はエネルギー価格の上昇と為替円安により貿易収支が極めて厳しくなっていることである。

 

 日本に比べEUは深刻である。ロシアのウクライナ侵攻に抗議して露原油の輸入を年内でストップすると宣言した。本当は天然ガス輸入もストップしたいところであるが、ロシアに頼り切っていたEUは返り血を浴びる。ロシアはEUの窮地を見透かすようにNordstreamパイプラインの全面停止をちらつかせている。LNG輸入設備が比較的少ないEUではLNGには簡単に手が出ない。アルジェリア、リビアなど北アフリカ諸国と地中海海底パイプラインによる増量を画策しているが、仏とアルジェエリアは植民地時代のわだかまりが解けず、リビアは内戦状態である。EUはLNG輸入の拡大に踏み出し、これまで縁遠かった中東湾岸諸国に急接近している。環境問題に深入りし率先して脱炭化水素、再生可能エネルギー推進を進めようとしたために当面の石油・天然ガス争奪戦に明らかに乗り遅れている。

 

 間隙を縫ってしたたかに動いているのがエネルギー消費量世界2位の中国と同4位のインドである(因みに1位米国、3位ロシア)。両国は米欧日が提唱するロシアボイコットには加わらず、輸出先に苦しむロシアの足元を見て原油を買い叩いている。インドが35ドル値引きで購入したと言うニュースが流れ[3]、或いは中国の原油輸入相手国は5-7月の3か月連続でロシアがトップと報じられている[4]

 

5.今後の動向を占う

 以上述べた如く石油・天然ガスの需給は変動要因が多く、また揺れ幅も小さくない。消費国が今後とも米国主導で国際協調できるかは疑わしい。一方生産国側を見てもOPEC+が一枚岩であり続けるかはわからない。最大の不確定要因はウクライナ戦争の推移である。

 

 ロシアがウクライナから簡単に撤退するとはだれも考えていないであろう。燃料と穀物と言う二大資源を有するロシアは非常時の耐性(レジリエンス)が高い。ウクライナは欧米の軍事支援でようやく持ちこたえているが、EUには援助疲れの気配がある。この上、ロシアからの天然ガスが止まれば(たとえ巨額の国費を注ぎ込んで代替供給源を確保したとしても)一般市民の不満は大きくなるであろうことは間違いない。NATOに加盟していないウクライナの「自由と民主主義」を守るために独仏の市民がいつまでも我慢できるとは思えない。

 

 これに対してロシアは戦略的には有利な立場にある。それはプーチン大統領が圧倒的な権力を持っているためである。ロシアは当面OPEC+のイニシアティブを握り続ける。サウジアラビアの支配者(サウド家)はバイデン政権の庇護が期待できないため、ロシアに引きずられるであろう。その方が原油価格を高値に誘導できるからである。

 

 中国とインドは欧米、ロシアのいずれを支持するか明確にしないまま、ロシアの石油・天然ガスを安値ダンピングで調達し、経済回復を目指すことになる。

 

こうして米、EU、日本の先進国グループと、ロシア、インド、サウジアラビア、中国(RISC)グループの二大グループによるしのぎ合いになる、と言うのが筆者の見立てである。

 

以上

 

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        前田 高行        〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

[1] 拙稿「bpエネルギー統計2022年版解説シリーズ」参照。

[2]1-D-4-26「国際石油企業(IOCs), ARAMCO, ENEOS & 出光興産の四半期業績比較(2022年4-6月)」参照

[3] 例えば2022/3/31 Arab News ‘India bought Russian oil at a discount of $35 per barrel: Bloomberg’

https://www.arabnews.com/node/2054236/business-economy

[4] Russia continues to be China’s top oil supplier for 3rd month; Saudi Arabia trails behind

https://www.arabnews.com/node/2147056/business-economy

2022/8/21 Arab News

 

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