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あとがき
サウド家に統治の正統性を認める専制君主制国家サウジアラビアでムハンマド皇太子は絶対的支配者の地位を賭け、歯向かう王族を容赦なく叩き潰そうとしている。イエメン内戦の泥沼化とカショギ事件により皇太子の海外での評判は地に堕ちている。同族の王子たちを血祭りにあげるのは国内に悪評が広がるのを抑えるとともに、強い為政者のイメージを確立したいためと言えよう。そこにあるのは唯我独尊と傲慢であるが、これまでのところ皇太子の賭けの勝敗は五分五分である。
一方、アブドルアジズ石油相の原油の大幅増産及び値引き販売と言う賭けは、新型コロナウィルス問題を契機とする世界的不況が目前に迫り極めて不利な状況にある。 賭けが裏目に出る可能性は小さくない。ただサウジアラビアの石油政策はムハンマド皇太子が決定しており、アブドルアジズは操り人形に過ぎないのも事実である。従って石油政策が失敗した場合のつけはムハンマドに戻ってくるが、賭けの一義的な責任者はあくまで石油相である。
結果が凶と出た場合、アブドルアジズが詰め腹を切らされることになる。サウド家のしかも現国王の息子が責任を取らされるなどということはこれまで考えられなかったことである。逆に言えばこれまで石油相にヤマニ大臣やナイミ大臣のようなテクノクラートが起用されたのは、石油政策が失敗したときに石油相に責任を負わせ、国王以下サウド家のトップに累が及ばないようにするためであった。
しかしムハンマド皇太子の冷酷非情なやり方はアブドルアジズ石油相に対しても例外ではなかろう。汚職容疑で血のつながりの薄いアルワリード王子等を、また反逆罪でスデイリ・セブンのアハマド王子等を拘束した皇太子なら異母兄弟のアブドルアジズに詰め腹を切らせることをためらわないであろう。ためらいがあるとすれば、父親のサルマン国王に対する遠慮だけであろう。従ってサルマン国王存命中は手荒なことはしないであろうが、父親が亡くなり、彼自身が国王になれば、義兄のアブドルアジズが安泰かどうかはわからない（もちろんMbSが順当に国王に即位できるか否かは別問題だが）。二人が異母兄弟であることがむしろ過激な方向に作用する可能性もあると言えよう。
現在のMbSは孤立無援で疑心暗鬼に陥っていると考えられ、相次ぐサウド家王族の拘束がそれを物語っている。彼が国王に即位したとき、サウジアラビアに粛清の嵐が吹き、アブドルアジズが第二の金正男（正恩の異母兄）にならないとも限らない。MbSは対外的には(特に米国のトランプ大統領に対しては)ひたすら羊の皮をかぶった狼を演じ続け、国内では権力集中と恐怖政治を推し進めるつもりであろうか。しかしトランプ大統領に恭順することは米国のシェール石油・ガスつぶしを狙うサウジアラビアの低価格、大増産という石油政策と矛盾することを意味する。そして国内で恐怖政治を強めた場合、経済の停滞は避けられない。これは穏健派王族のみならず国民一般を敵に回すことになり、イスラム過激派が付け入り絶対王政国家「サウジアラビア」(サウド家のアラビア)を危うくすることになるのではなかろうか。
(参考レポート)「サウジアラビアが国名変更する日」(2019年5月)
以上
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荒葉一也
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