Cape Fear、in JAPAN

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『Cape Fear』…恐怖の岬、の意。

観客が求めるもの、その変化~2021映画回顧②~

2021-12-03 00:10:00 | コラム
本年度の映画ベスト15、本日は第10位~06位までを。

短評のはずが、どんどん長めになってきますので(^^;)、早速どうぞ!!


第10位『すばらしき世界』

原作は佐木隆三による小説『身分帳』、
オリジナルにこだわって映画制作をつづけてきた西川美和が初めて「原作あり」に挑んだ映画であり、さらにいえば、いっちゃうが、いっていいと思うが…おそらく師匠(是枝裕和)超えを果たしたであろう力作。


メインはあくまでも出所後の主人公(役所広司)ではあるものの、彼の存在によって周辺の人物が変化していくさまも丁寧に描かれて―とくにテレビディレクター役の仲野太賀!―映画とはこういうものだよなぁと感動した。

コロナにより制作でさえ滞りをみせていた映画界、しかし日本映画が地味ながらも豊作だった本年は、この映画の公開によって勢いづいた感じがある。


第09位『ドライブ・マイ・カー』

妻を亡くした主人公と彼の専属ドライバーが築いていく不思議な関係性を、シャープな映像と考え抜かれた台詞の積み重ねによって描く、カンヌ映画祭脚本賞受賞作。

村上春樹による同名の短編小説を、俊英・濱口竜介が想像力の限界まで膨らませて映像化し国内の評判も頗る高い…割に興行的に苦戦したのは、やはり179分という長尺ゆえ、、、であろう。
尻込みするには充分の長さだが、この世界観にハマったひとにとっては、あと120分つづいても苦ではなかったはず。
(そもそもこの監督は「超」長編好きで、『ハッピーアワー』なんて317分もあるし!)

これから観るひとに敢えて無理難題を投げかければ、ぜひとも2度観てほしい。

台詞の数々がいかに考え抜かれているかが分かるのは、じつは2度目のほうだから。
そこを評価して脚本賞を決めたカンヌの審査員、あんたたちはやっぱり本物だ!!



第08位『ベイビーわるきゅーれ』

今年の、うれしい大発見。
こういう突然変異のようなものが出現するから、映画好きはやめられない。

殺し屋二人組、「ちさ」と「まひろ」が直面する現実社会との格闘をユーモラスに描きつつ、プロフェッショナルの仕事を本格的なガンアクションを中心に展開させていく。

簡単にいえば、緊張と緩和の世界。
しかし比重は緩和のほうに置かれていて、このオフビートな日常描写に乗れたひとは最高にハッピーな映画体験が出来ると思う。
乗れなかったひとも、本気度120%のアクションシーンには目を見張ったのではないか。

(ウソっぽい話なのに)少なくとも映画が上映されているあいだは「現実のお話」と思えるのは、日常描写だけでなくアクション場面にもリアリズムが息づいているからだろう。




第07位『アナザーラウンド』

「血中アルコール濃度を一定に保つと、仕事の効率がよくなり想像力がみなぎる」というトンデモ理論を実践する高校教師たちを見つめ、多くの中高年―つまり自分だ!―から熱烈な支持を集めたデンマーク産の傑作であり、今年のオスカー国際長編映画賞(旧称は外国語映画賞)をもかっさらった。

ユーモラスな語り口に笑っていられるのも最初のうちだけ。
悲哀をまとい始める主人公たちにわが身を重ねた観客はどれだけ居るだろうか、飲兵衛だとか下戸だとかもはや関係ない、酸いも甘いも経験してきたひとであれば、やがて哀しき男どもを滑稽だと笑うことは出来ないはず。

マッツ・ミケルセンが最高の酔いどれを全身全霊で演じて見事のヒトコト、今年の個人賞を選ぶとするならば俳優部門はこのひとで決まり!!




第06位『SNS 少女たちの10日間』

「観なきゃよかった…」とため息をつくひとが続出した苦笑、かなり攻めたチェコ産のドキュメンタリー。


幼い顔立ちの成人女性が「12歳」と偽り、SNSを立ち上げる。
創り手たちも「ある程度の反応」は想定していたが、それを上回る成人男性たちがコンタクトを取ってくる―その数、なんと2458人。
ほぼ全員が彼女たちを性的対象と捉え、卑猥なことばや「動画!」を投げつけるのだった。

ため息をついた観客たちも、この映画を駄作認定したわけではない。
むしろその逆で、「ある真実」を浮かび上がらせた傑作と評価しているはず。

なんとなくそうなのではないか…と思っていたことがほんとうであったという、救いのない「ある真実」。

目を背けたいが、そうさせてくれない―映画が持つパワー、そして、ヒトの負の側面をまざまざと見せつけられ、震えた。

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明日のコラムは・・・

『観客が求めるもの、その変化~2021映画回顧③~』
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