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法界坊 (シネマ歌舞伎)

2009年12月20日 | 映画
映画「隅田川続俤 法界坊」(シネマ歌舞伎

これは面白かった! 歌舞伎の色々なタイプの芝居が凝縮された1本といえる。

出だしは落語に想を得た歌舞伎「らくだ」のように、貧乏坊主の法界坊が横恋慕をしたり、お家騒動の掛け軸を手に入れようとあの手この手でだまそうとする姿が、観客を笑いの渦に巻き込む。この法界坊中村勘三郎
小汚い、けれど憎めない欲深坊主が口八丁手八丁で、ときにはスキップしたり、掛け軸を探す要助を演じる中村勘太郎相手に親子関係が垣間見えるアドリブを発したり、もう大爆笑。

周囲の人物も珍妙で、特に法界坊と同じ女性に横恋慕する成金、山崎屋勘十郎を演ずる笹野高史はやりすぎなくらい。でも、外部の彼がいなければ、勘三郎だけ浮いてしまうと思われるので、絶妙なバランスだといえよう。

こんな明るく楽しい歌舞伎が、度を過ぎた横恋慕から一転、陰惨な殺傷シーンに変わっていく。まるで「夏祭浪花鑑」みたいなのだ。しかも、それのようにやむにやまれずではなく、「三人吉三」のような冷酷さが法界坊に宿るのだ。あんなひょうきんだった坊さんが嘘のよう。

そしてラスト、侠客、実は忠臣の甚三郎(橋之助)に助けられ、法界坊はやっつけられてメデタシめでたしとなるのかと思いきや、休憩を挟んで本当のラストへ。
悪の手を逃れた要助と中村扇雀演じるお組は、着物も着替え、まるで「近松」の歌舞伎の道行きを見るようなハッとするような印象が。芝居から舞踏に内容も変わります。

それもつかの間、法界坊と無念の死を迎えた野分姫(七之助)の合体した怨念として、勘三郎がお組そっくりの女形で出てくるのです。邪悪な本性が見えてくるシーンでは、まさに歌舞伎の怪談物を髣髴とさせるおどろおどろしさ。冒頭はあんな明るく楽しい話だったのに、すごい展開。

そして怪物と化した法界坊は児雷也鳴神上人かというくらいの扮装になり…圧巻です。
誰が最初のお気楽な内容からここまでスパークすると予想しえたでしょう。
映画でだって生の歌舞伎の臨場感が伝わってくる、そんな1本です。

「法界坊」
串田和美演出、出演:中村勘三郎、中村橋之助、中村勘太郎、中村七之助、笹野高史、坂東弥十郎、中村扇雀、他、平成中村座公演
12月26日から東劇ほか全国ロードショー (C)松竹株式会社

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1 コメント

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はじめまして (信之)
2010-03-10 21:46:45
 法界坊、シネマ歌舞伎、ラストシーンで検索して、こちらに来ました。突然、失礼します。
 教えて戴きたいのですが、あのラストシーンの背景は現実の浅草寺の界隈ですか?つまり、本物の外の景色ですか。それとも、映像でしょうか。観ていて、さてどっちかなと迷いました(笑)

 画室が酷いとの指摘、そう思う人はそう思うでしょうというのが私の意見です。歌舞伎をシネマで観るという試みが面白く、私のイチオシの作品です。
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