をとなの映画桟敷席         ~ほぼ毎日が映画館

映画取材から編集裏話まで、るかのここだけの話を忘れた頃にアップします

昨年の東京国際映画祭から(7)「ソフィアの夜明け」(「イースタン・プレイ」)

2010年10月31日 | 映画
いよいよ今日は東京国際映画祭でサクラグランプリが決まります。楽しみですね~。

さて、ここで昨年の東京サクラグランプリを獲得した作品が渋谷シアター・イメージフォーラムほかで、現在公開中なのでお知らせします。受賞時は「イースタン・プレイ」という題名でしたが、現在公開中は名前を変えて「ソフィアの夜明け」として公開されています。内容については昨年のこの時期のブログに書きました(2009年11月7日付)ので読んでみてね。

なにより急逝した主人公の兄弟の兄の方、フリスト・フリストフの存在感が深く静かに響いてくるのです。昔、日本映画に出てきたような、アウトローなんだけど一本筋が通っているあんちゃん役を地で演じています。
ブルガリア、東欧の暗部も見えてきて、観て考える部類の映画でもあります。
興味があればぜひ足を運んでみてください。

公式HP http://www.eiganokuni.com/sofia/index2.html
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武士の家計簿 (昨日の東京国際映画祭(6)) 

2010年10月30日 | 映画
            ©2010「武士の家計簿」製作委員会

昨日の東京国際映画祭の1本。日本映画で堺雅人主演の「武士の家計簿」です。
あまり期待せず観たのですが、中盤を過ぎてからが表題の意味が俄然出てくるのと、親子の心の葛藤が出てきて、楽しめた1本となりました。

加賀藩の経理係一筋の家に生まれ、「そろばん馬鹿」とあだ名された武士の話で、その役を堺、妻を仲間由紀江、父を中村雅俊、母を松坂慶子、祖母を草笛光子が演じています。
前半はホームドラマ調で、農民の訴えから備蓄米の横流しの不正を見つけた堺演じる武士が、隠蔽しようとする上役から能登に左遷される寸前に一揆が起こり、逆に不正を正したということで殿様の側近になるという出だし。

その後、妻との間に息子が生まれたあたりからが面白くなっていくのです。実はこの家は火の車。主人公の算段で名宝骨董類を売り払い、家計簿をつけ、体面は捨てても家を守っていくのです。
その過程で、まだ幼い息子は自分に厳しく学問を教え、祖父の葬式にも家計簿をつけてお金の計算をしている父を「情のない人」として反発していくのです。

彼が青年になったころ、丁度幕末の動乱期。殿と京に上った息子は切られたとの消息が入ります。

てな感じで盛り上がっていきます。
親から「勉強しなさい!」とか口うるさく言われたり、怒られて家に入れてもらえなかったりとか、みんな経験があると思います。その時は子どもだから「何でなんだ」「うるさい」とか、親なのにひどいと思ったでしょう。
でも、この映画を観て分かるように、それがいずれ自分の身を助けていくようになるのです。だから親は自分のためを思って心を鬼にして言ってくれているんだということなんです。
よく「孝行したい時に親は無し」と言いますが。一刻も早く気づき感謝できた人は幸せなんだなと、この映画を観てしみじみ感じます。
それからもう一つサプライズが。ラストに本当の家計簿が。実在した人だったんですね~。これでさらに身近に感じました。


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昨日の東京国際映画祭(5) 「ウィンターズ・ボーン」、「ゴーストライター」

2010年10月29日 | 映画
この激しい風雨の中、昨日も行ってきました東京国際映画祭
こういう悪天候の日は、ミッドタウンと違って、六本木ヒルズは地下鉄から直でビル中に入れないのが嫌ですね~。特にエスカレーターを昇って外を歩かなくてはいけない、クモのオブジェがある広場はビル風もあって傘が折れそう。ビニ傘の人は閉じて走ってました。

さて、本日はサンダンス映画祭グランプリの「ウィンターズ・ボーン」とユアン・マクレガー主演の「ゴーストライター」の2本を観て来ました。

まず「ウィンターズ・ボーン」は、失踪した父親を探さねばならなくなった17歳の少女と、待ち受ける過酷な現実といった映画。アメリカの暗部といった印象で、主婦たちも含めて荒くれた感じの人しか出てきません。低所得者層が多い地方へ行くと、ムラ社会というか、こういう現実があるよという感じですね。

主人公は病気の母と幼い弟と妹を抱えていて、犯罪を犯して出頭要請のあった父親の生死がはっきりしないと、家も土地も父の尻拭いのために取られて路頭に迷うことになるためあちこち訪ね歩くのですが、周囲は首をつっこむなと警告をします。
同族ばかりのムラ社会というと、日本では横溝正史描く金田一さんのホラー推理になりますが、こちらは違って探ったためにリンチされたりかなりバイオレンスです。

生活資金を得るために、主人公は支度金の出る軍隊に入ろうとしますが、面接官は年齢も満たない彼女を「そんな簡単な気持ちで入ってはいけない」と諭します。

最後には17歳には酷な経験をして乗り越えていくのですが、この土地って変わらないし昔からこうだったのだろうなと。




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もう1本の「ゴーストライター」は、ユアンが出ているので特に今回観たかった映画です。ユアンが元英国首相のゴーストライターの役であると同時に、このサスペンスの黒幕を考えた時、ゴーストという題名がよくわかるというか。
元英国首相の伝記のゴーストライターを巨額報酬で引き受けたのがユアン演じるライター。元英国首相と行動を共にするうち、前任のゴーストライターが不審死を遂げていることを知る。元英国首相には戦争がらみのスキャンダルが出て大騒ぎの中、不可解な出来事に巻き込まれていくというもの。

元英国首相に元007のピアース・ブロスナンは適役。今回の映画祭は重くノンフィクション的な作品ばかり観ることが多かったので、娯楽性にも配慮した本作は映画本来の娯楽性も感じながら観れて面白かった。
監督はロマン・ポランスキー。ストーリー展開でユアンが途中あれだけ危機回避能力に長けていたのにラストはなぜ?という気もしないでもないが、飽きることなく展開を追っていけ、楽しませてくれた1本でした。


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昨日の東京国際映画祭(4)「神々と男たち」

2010年10月28日 | 映画
           © Wild Bunch 2010

昨日は東京国際映画祭でアフリカの人々を題材にした「燃え上がる火の記憶」とカンヌ映画祭グランプリの「神々と男たち」の2本を観てきました。

まず「燃え上がる火の記憶」ですが、ドキュメンタリーで、芝居の練習の合間に、それに参加している若者たちの日常の言葉から、置かれている問題が浮かび上がってくるという映画です。例えば死者の遺品を売りさばいて生活する若者、いまだに因習として残り命の危険すらある女性の女性器切除の問題など。
ただ、テーマ性はあるけれど、映画としての作り方が未熟なため、寝ている人、席を立つ人が目立ちました。ちょっと総合的な映画という形としてはいまひとつな作品。

次の「神々と男たち」は重みのある作品でした。9.11以降ひとつのテーマになっている関係の中で、アルジェリアの寒村で相手の宗教にも敬意を払い、村の人々に慕われ、医療や相談事を通じて支えるフランス人修道士たちの行いと心の動きを克明に描き出しています。

実際に起きた話なので結末を知っていると観ていて辛く悲しくなる部分もあるのですが、最初はテロの脅威に村が段々さらされて不穏な影が忍び寄ってきた時、修道士たちの中でも「フランスへ帰ろう」「残るべきだ」と意見が分かれるのが人間らしさを物語っていて、皆が苦悶し、乗り越えた後、全員一致でこの地に残ることを決意する場面が胸に迫ります。

司祭を演じる俳優さんが加藤剛さんにそっくりで驚きました。誠実で人をまとめ信頼も厚い人という役を演じる人は、東西問わず似てくるものなんでしょうか?

ともかく、最近、遠藤周作著の「深い河」とインドについて書く機会があったり、映画「ヤコブへの手紙」を観たりして、位のある人は分かりませんが、キリスト教の末端で教える人々の「無私の心」というか「無償の愛」というものに触れ、この作品を観たので、この修道士たちの精神的な支えや強さ、赦しの心というものに驚くばかりです。
カンヌでグランプリを獲ったのも分かる人間の尊厳や平等を考えさせられる重厚な話でした。
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昨日の東京国際映画祭(3)「一枚のハガキ」、「ふたたびSwing me again」

2010年10月27日 | 映画
©2011「一枚のハガキ」近代映画協会/渡辺商事/プランダス

昨日の東京国際映画祭は日本映画を2本観ました。「一枚のハガキ」、「ふたたびSwing me again」の2本です。どちらもテーマは重いのですが、それを跳ね除ける明るさがあります。


まず「一枚のハガキ」は新藤兼人監督の最新作。
戦争のあと残された人々に焦点を当てた映画です。

主人公の戦争未亡人に大竹しのぶ。その夫の戦友ではがきを託されたのが豊川悦司
山中の貧しい農家で義父と義母とともに暮らす嫁は、戦死した夫の代わりにその弟と再婚させられるが、その弟も戦死してしまう。極貧の中、義父は心臓発作で、義母は後追い自殺し、独りぼっちとなった嫁。町の世話役(大杉漣)が妾にしようと言い寄ってくるが寄せ付けない。
そんな中、戦死した夫から託された一枚のはがきを持って、戦友が訪ねてくる…。

よく考えればとっても辛く暗い話なのですが、微塵も感じさせないのはさすが新藤監督。人々のバイタリティーというか、生きることへの執念のようなものが感じられるのです。
そのバイタリティーをラストの一面の麦畑が象徴しているように思えました。



©2010「ふたたび」製作委員会

2作目の「ふたたび Swing me again」は表題にあるように、若い頃ジャズマンだったおじいちゃんが、当時の仲間と再会しながら、もう一度スイングジャズを演奏するという内容ですが、背景にハンセン病の人の受けてきた差別と辛さ、悲しみが描かれています。古くは「ベン・ハー」、最近では「もののけ姫」などの映画で描かれてはいますが、まだまだあまり知られていない差別の実態を、観客は孫と一緒に知っていくつくりの作品になっています。

死んだと言われていたが実はハンセン病で島に隔離されていたおじいちゃんの役には財津一郎。いろいろあって孫と旅をすることになるのだが、その合間に、健常であった祖母が祖父と引き離され、実家の離れで暮らし、赤ん坊であった自分の父からもあわせてもらえなかったことを孫は知る。その孫のガールフレンドも親から言われ別れを告げてくる。
怒りを感じながら孫はおじいちゃんの昔の仲間へ会う旅を韓国人看護師とともに続けるのです。

もちろん、ジャズの演奏もおじいちゃんたちが若い頃に吹き込んだというLPレコードに入っているというメインのラテン・ジャズ調の曲がとてもカッコイイ! ラストは神戸に実在するジャズクラブ「SONE」のオーナーとして渡辺貞夫がゲスト出演してSAXを演奏しています。
ところで、この監督の塩谷俊さんって俳優さんとしてよく出ていた印象があるけど、監督や俳優学校の先生になっていたんですね~。知らなかった。

重いテーマの2作品でしたが、派手さはなくても誠実なつくりのこういった映画が日本映画の中で作られ続けてほしいと思う夜でした。


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