“愛原リサの日常” 「やっぱり愛原リサは強い」

［８月２５日１６：３０．天候：晴　宮城県遠田郡美里町　国道１０８号線上］

　黒塗りのゼロ・クラウンの覆面パトカーが２台、赤色灯とサイレンを鳴らして走行している。
　見た感じ、まるで公安のパトカーのようだ。
　実際、後ろを走行しているパトカーのリアシートの窓から職員らしき男が身を乗り出し、笛を吹いて、先行する車を退かしている。
　しかし、公安ＳＰの車にしては、護衛している車の姿が見当たらない。
　本当に警察関係の車なのだろうか？

　善場：「急いでください！恐らく現場の事態は深刻です！」
　運転手：「分かってますよ！」
　部下Ａ：「主任、地元警察の了解が取れました。地元警察の協力も得られます！」
　部下Ｂ：「善場主任、ＢＳＡＡの出動ですが、中国でのバイオハザード事件収拾の為、遅れるとのことです！」
　善場：「“青いアンブレラ”は？」
　部下Ｂ：「恐らくこちらの到着の方が早いかと！」
　善場：「分かったわ。武力に関しては“青いアンブレラ”に任せましょう。とにかく急いで」
　運転手：「はっ！」
　部下Ａ：「はい、緊急車両通ります！緊急車両通ります！道を開けてください！」

［同日同時刻　天候：晴　同町内　吉田家］

　高橋：「うわっ！」

　高橋は拳銃を美亜の触手に絡め取られ、そのまま奪われてしまった。

　美亜：「これで終わりだ！さあ！私の食事になりな！」

　美亜は人間よりも長い舌を出し、涎を垂らして高橋を見据えた。

　リサ：「ハァ……ハァ……ハァ……！」

　リサは目の前の部屋から漂ってくる人間の血の匂いに耐え切れず、ついに……。

　リサ：「ガァァァァァッ！！」

　暴走してしまった！
　部屋の入口には高橋を押し倒して馬乗りになった美亜がいる。

　美亜：「な、なに！？」

　美亜はリサの方を振り向いた。
　だが次の瞬間！

　美亜：「がぁっ……！」
　高橋：「！！！」

　部屋の入口前にいた美亜を邪魔だとばかりに、頭にラリアット！
　その強過ぎる力に、美亜の頭部が首から千切れてしまった。
　リサは高橋には目もくれずに部屋のドアをぶち破って飛び込む。

　美亜：「ん、んな……バカな……！」

　ドサッと廊下の上に美亜の生首が落ちる。

　高橋：「な、な、な……！？」

　高橋は上半身を起こすのがやっとだった。

　美亜：「な……んで……あい……つ……強いの……？」
　高橋：「知らねーよ！」

　高橋はやっと起き上がると、部屋の中を見た。

　高橋：「うっ……！」

　そこで高橋は、霧生市のバイオハザードよりも無残な部屋の様子を見ることになる。
　バラバラに食い散らかされた人間の死体が無造作に散乱し、血の海が出来ていた。
　それをリサが一心不乱にベロベロと舐め取っている。

　高橋：「これ……全部テメェが……！？」

　高橋は、部屋の外に頭部と胴体が切り離されている状態で倒れている美亜を睨み付けた。

　美亜：「そう……。美味し……った……」
　高橋：「テメェはやっぱぶっ殺す！」

　高橋は奪われた銃を取り返すと、弾丸をリロードした。
　そして、美亜の頭部に照準を当てる。
　だが！

　高橋：「ん！？」

　その時、家の壁を何かがぶち破ってきた。

　高橋：「危ねっ！」

　高橋はそれを避けるので精一杯だった。
　思わず天井に向けて一発暴発させてしまう。
　飛び込んできたのは、１台のプリウスだった。

　愛原公一：「いやあ、すまんすまん。ブレーキとアクセルを踏み間違えてしまったわい」
　愛原学：「すまんすまんじゃないですよ！人が中にいたらどうするんですか！？」
　高橋：「せ、先生達！？え？え？え？どゆこと？！」

　プリウスが家の壁に穴を開けたことで、西日が差し込んで来る。

　美亜：「ぎゃああああああっ！！」
　高橋：「！？」

　首と胴体が切り離されても尚、まだ生きている美亜が太陽の光を浴びただけで断末魔を上げた。

　美亜：「あ゛つ゛い゛ぃぃぃぃっ！あ゛つ゛い゛よ゛ぉぉぉぉぉぉぉぉっ！！」

　そして燃え上がった。

　高橋：「！！！」

　高橋は何が何だか分からなかった。
　だが、１つ分かったことがある。

　高橋：「火事だ！火事！」

　美亜が木造２階建ての家の中で激しく燃え上がったことで、しっかり家の中にも引火した。

　高橋：「リサ、とっとと逃げるぞ！」
　リサ：「美味しい……人間の血……もっと……」
　高橋：「ここで一緒に焼け死ぬ気か！とっとと来い！！」

　高橋は耳元でもう一発マグナムを発砲した。

　リサ：「はうっ！？」

　その音で、ようやくリサは正気に戻ったようだ。

　高橋：「先生！早く家の外へ！」
　愛原学：「一体、何があったんだ！？」

［同日２１：００．天候：晴　同町内　愛原公一の家］

　その後駆け付けた善場達と、更にその直後に駆け付けた“青いアンブレラ”、そして地元警察により、周辺は封鎖された。
　高橋は“青いアンブレラ”の医療班によって検査などを受けた。
　“青いアンブレラ”は対バイオテロに特化した民間軍事会社とはいえ、その装備はＢＳＡＡ並みである。
　大型トラックをベースにした『走る診療所』も所有している。

　医療技師：「特に、感染などの疑いはありません」
　高橋：「よっし！」

　高橋はそれで済んだのだが、問題はリサ。

　善場：「本当に人間を殺して、その血を飲んだわけではないのですね？」
　リサ：「本当です。私、殺してない……！」

　リサは口や手に人間の血が付いていたことで、思いっ切り暴走を疑われた。
　もっとも、一瞬暴走したのは事実だが。
　それでも、新鮮な血肉の詰まった高橋を襲わなかったことは特筆すべき点であろう。

　高橋：「そいつは本当に殺してないっスよ。まあ、人間の血の匂いにやられて頭がイッたのはガチバナっスけどね」
　善場：「リサに襲われたことは？」
　高橋：「いや、無いっス。俺が襲われたのは、あくまでも美亜ってヤツだけっスよ」
　善場：「そうですか。その場にいたあなたがそう証言されるのでしたら、信用するしかないですね」
　高橋：「もしこいつが本当に俺を襲ったなら、俺は遠慮なくこいつにマグナム撃ち込みますよ」

　そう言って高橋は虚しさを感じた。

　高橋：（恐らくあの美亜ってヤツは、リサよりも弱い。にも関わらず、俺は一発もヤツに当てることができなかった。ただ、遊ばれただけだった。もしリサが暴走して、奴の首を吹っ飛ばしてくれなかったら、俺は……）
　リサ：「お兄ちゃん、ありがとう」
　高橋：「俺からも礼を言わせてもらう。助けてくれてサンクス」
　善場：「！　高橋助手はリサ・トレヴァーに助けられたんですか？」
　高橋：「そうっスよ。暴走したにも関わらず、こいつは俺を助けてくれたんです。だから今、処刑するのは俺は反対っスね」
　善場：「もちろんこのリサ・トレヴァーが人を襲っていないのであれば、その理由はありません」
　愛原学：「で、善場主任、高橋達を襲ったのは一体何だったんですか？」
　高橋：「そうそう。俺も気になってた。何か、リサの仲間っぽい感じでしたけど？」
　リサ：「私、知らないよ！？」
　善場：「ここまで来てしまったら、もうお話ししないといけないでしょうね。どうして私達が、ここにいるリサ・トレヴァーをＢＯＷというだけで本当は処分して良いのにそうしない理由、そして、高橋助手達の前に現れたリサ・トレヴァーと同種と思われるＢＯＷは何だったのか。……話すと時間が掛かるので、明日にしましょう」
　高橋：「だっ！」

　高橋はズッコケた。