[4月3日02:30.天候:曇 東京中央学園・旧校舎]
東京中央学園の歴史は古い。
現存している最古の建物は、この木造3階建て旧校舎である。
1990年代半ばにクラブハウスや新体育館の建設の為に取り壊されるはずだったのだが、原因不明の事故が相次ぎ、工事は取り止めになった。
それから長らく放置されている状態だったのだが、取り壊しがダメなら、教育資料館として再生させるのはどうかとなったものの、これもダメだった。
その後、稲生らを始め、新聞部のメンバーで魔界の穴が開いていたことが原因と突き止め、素人ばかりの集団ながらそれを塞ぐことに成功し、何とか教育資料館として再生している。
もちろん、稲生達の活動は非公式的だ。
あくまで稲生は新聞部員として、取材を進めたに過ぎないことになっている。
だが素人のやり方では、ほんの一時的なもののようだった。
今もこうして魔界の穴が開いてしまい、その牙を稲生に向けている。
稲生は新校舎から持ち出した古い鍵で、旧校舎の昇降口の鍵を開けた。
稲生:「…………」
いかに教育資料館として再生しているとはいえ、現役生ですらいつも入れる場所ではない。
普段は閉鎖されていることに変わりは無く、せいぜい文化祭や同窓会、その他新入生のオリエンテーションなどで開放されることがあるに過ぎないことを稲生は思い出した。
ホラー染みた外観と内部はマリアの屋敷と共通しているように思えるが、やはり洋館と日本の学校ではかなり違うことを思い知らされた。
前者はそれでも人の住む住居なのであり、校舎はそうでない建造物なのである。
それでも改築前の放置された旧校舎との違いは、一応朽ちた部分は直されていること、そして通電している為に一応電気は点くということである。
その為、照明がLED化されている新校舎と違い、古めかしい非常口誘導灯の照明や火災報知器の赤ランプは点灯していた。
とはいえ、そこはやはり古い木造建築物。
それなりの空気は漂っているものである。
入ってみて稲生はふと思った。
あの外部トイレの『こっくりさん』の指示に従い、旧校舎には来てみたものの、ここからどうすればいいのか分からなかった。
確か前回は死神のフリをして(実際、冥界鉄道連絡船の船長をしているのだから似たようなものか)サンモンド船長が現れたが、さすがに今回はそれは無いだろう。
稲生:「明かりは2階の教室からだったナ。そこに行ってみよう」
稲生はギシギシ音を立てる木造の床を踏みしめ、やはり木製の階段を登り始めた。
なるべく懐中電灯は使いたくなかった。
さすがにもう警備員は仮眠に入っているだろうが、何かの拍子に気づかれる恐れがあった。
だがさすがに真っ暗で怖すぎるのと、それ故に前方の視界がよく分からないというのは困る。
しょうがないので、階段の所は懐中電灯を点けた。
稲生:(そういえば……)
旧校舎は怪談の宝庫である。
それだけで学校の七不思議が完成してしまうほどだ。
いや、それでも足りないくらいだ。
例えばこの階段、13日の金曜日は14段ある階段が13段に減っていて、それに気づいた者には不幸が訪れるという話がある。
それなら13日の金曜日以外は何も起こらないのだから気にすることはないと思うだろうが、霊感の強い者には極まれに無関係の日であっても13階段の呪いが作動することもあるという話を思い出した。
……今回は、それは起こらなかったようだ。
もう1つの話を思い出した。
それはまだ夜間の警備が警備会社ではなく、教職員自身が行っていた宿直制度があった頃。
旧校舎の見回りをしていた教師が、2階の教室に……。
稲生:「うっ……!」
その時、稲生は思い出した。
見回りを終えた教師が宿直室に戻り、仮眠前の一時を過ごしていると、旧校舎の2階の教室から明かりが漏れているのを発見した。
急いで駆け付けると、確かに2階の教室からローソクのような明かりが見えている。
その状況は今の稲生と似ているのだ。
その教師の身に、何が起きたのかは定かではない。
ただ、その翌朝、精神がおかしくなった教師が懐中電灯を手に校庭を徘徊しているのが発見されたということ。
実際稲生も現役新聞部員だった頃に、その教師が入院している精神病院に取材に行ったことがある。
教師がどうして2階の不審な明かりを見つけて駆け付けたのが知られているのかというと、駆け付ける前に上司の学年主任にその旨の連絡を入れていたからである。
稲生が取材した際には……。
稲生:「やはりだ」
教室に灯っていたローソクらしき明かりは、教師が駆け付けると消えていたそうだ。
そして今もそうだった。
因みに教師は結局、そのローソクらしき明かりの正体を突き止められないまま、何者かによって頭をおかしくされてしまっている。
同じ妖怪の威吹に考察を求めたが、話の内容だけでは分からないとのことだった。
妖術で人間にそういう現象を起こさせることはできるが、動機がさっぱり分からないらしい。
その教師が見てはいけない物を見てしまったからそうしたとも考えられるが、それにしてもやり方が中途半端だという。
稲生:「多分、桜井先生は見てはいけないものを見てしまったんだな。それで口封じに、あんなことをされたんだ。誰があんなことをしたのかというと……」
稲生は明かりが灯っていたであろう教室に入った。
稲生:「やっぱりな……」
窓際の床には魔法陣が描かれており、その中央にローソクが灯されていた。
稲生:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ」
稲生の背後に忍び寄る殺気があったのだが、稲生がダンテ門流オリジナルの呪文を唱えたことで、その殺気はかなり弱まった。
稲生:「何やってるんですか、こんな所で」
稲生が振り向くと、そこにはマスターが持つ長い魔法の杖を持ち、黒いローブを羽織った魔道師の姿があった。
魔道師:「あなたも魔道師なの?」
稲生:「そうですよ。イリーナ組の稲生勇太です。ご存知でしょう?ダンテ門流で初の日本人弟子が入ったって。それが僕ですよ」
魔道師は目元まで隠れるくらいにフードを被っていたので、この時点では顔までは分からなかった。
魔道師:「そう、か……。で、イリーナの弟子がどうしてここに?」
稲生:「どうしてって……。ここは僕の母校ですよ」
魔道師:「!!!」
魔道師は女性のようだった。
まあ、無理もない。
ダンテ門流魔道師の9割は女性だ。
残りの1割の男性魔道師は稲生以外全員が海外を拠点にしていて、滅多に日本国内には来ない。
だが、魔女は稲生の回答に何故か狼狽した。
さて、何て言おう?
1:「それで、あなたはここで何をしてるんですか?」
2:「25年前、桜井先生の精神を破壊したのはあなたですね?」
3:「あなたはどなたですか?」
4:「実はイリーナ先生達と、はぐれてしまったんです」
5:「昨年のクリスマスパーティーでお会いしましたね」
東京中央学園の歴史は古い。
現存している最古の建物は、この木造3階建て旧校舎である。
1990年代半ばにクラブハウスや新体育館の建設の為に取り壊されるはずだったのだが、原因不明の事故が相次ぎ、工事は取り止めになった。
それから長らく放置されている状態だったのだが、取り壊しがダメなら、教育資料館として再生させるのはどうかとなったものの、これもダメだった。
その後、稲生らを始め、新聞部のメンバーで魔界の穴が開いていたことが原因と突き止め、素人ばかりの集団ながらそれを塞ぐことに成功し、何とか教育資料館として再生している。
もちろん、稲生達の活動は非公式的だ。
あくまで稲生は新聞部員として、取材を進めたに過ぎないことになっている。
だが素人のやり方では、ほんの一時的なもののようだった。
今もこうして魔界の穴が開いてしまい、その牙を稲生に向けている。
稲生は新校舎から持ち出した古い鍵で、旧校舎の昇降口の鍵を開けた。
稲生:「…………」
いかに教育資料館として再生しているとはいえ、現役生ですらいつも入れる場所ではない。
普段は閉鎖されていることに変わりは無く、せいぜい文化祭や同窓会、その他新入生のオリエンテーションなどで開放されることがあるに過ぎないことを稲生は思い出した。
ホラー染みた外観と内部はマリアの屋敷と共通しているように思えるが、やはり洋館と日本の学校ではかなり違うことを思い知らされた。
前者はそれでも人の住む住居なのであり、校舎はそうでない建造物なのである。
それでも改築前の放置された旧校舎との違いは、一応朽ちた部分は直されていること、そして通電している為に一応電気は点くということである。
その為、照明がLED化されている新校舎と違い、古めかしい非常口誘導灯の照明や火災報知器の赤ランプは点灯していた。
とはいえ、そこはやはり古い木造建築物。
それなりの空気は漂っているものである。
入ってみて稲生はふと思った。
あの外部トイレの『こっくりさん』の指示に従い、旧校舎には来てみたものの、ここからどうすればいいのか分からなかった。
確か前回は死神のフリをして(実際、冥界鉄道連絡船の船長をしているのだから似たようなものか)サンモンド船長が現れたが、さすがに今回はそれは無いだろう。
稲生:「明かりは2階の教室からだったナ。そこに行ってみよう」
稲生はギシギシ音を立てる木造の床を踏みしめ、やはり木製の階段を登り始めた。
なるべく懐中電灯は使いたくなかった。
さすがにもう警備員は仮眠に入っているだろうが、何かの拍子に気づかれる恐れがあった。
だがさすがに真っ暗で怖すぎるのと、それ故に前方の視界がよく分からないというのは困る。
しょうがないので、階段の所は懐中電灯を点けた。
稲生:(そういえば……)
旧校舎は怪談の宝庫である。
それだけで学校の七不思議が完成してしまうほどだ。
いや、それでも足りないくらいだ。
例えばこの階段、13日の金曜日は14段ある階段が13段に減っていて、それに気づいた者には不幸が訪れるという話がある。
それなら13日の金曜日以外は何も起こらないのだから気にすることはないと思うだろうが、霊感の強い者には極まれに無関係の日であっても13階段の呪いが作動することもあるという話を思い出した。
……今回は、それは起こらなかったようだ。
もう1つの話を思い出した。
それはまだ夜間の警備が警備会社ではなく、教職員自身が行っていた宿直制度があった頃。
旧校舎の見回りをしていた教師が、2階の教室に……。
稲生:「うっ……!」
その時、稲生は思い出した。
見回りを終えた教師が宿直室に戻り、仮眠前の一時を過ごしていると、旧校舎の2階の教室から明かりが漏れているのを発見した。
急いで駆け付けると、確かに2階の教室からローソクのような明かりが見えている。
その状況は今の稲生と似ているのだ。
その教師の身に、何が起きたのかは定かではない。
ただ、その翌朝、精神がおかしくなった教師が懐中電灯を手に校庭を徘徊しているのが発見されたということ。
実際稲生も現役新聞部員だった頃に、その教師が入院している精神病院に取材に行ったことがある。
教師がどうして2階の不審な明かりを見つけて駆け付けたのが知られているのかというと、駆け付ける前に上司の学年主任にその旨の連絡を入れていたからである。
稲生が取材した際には……。
稲生:「やはりだ」
教室に灯っていたローソクらしき明かりは、教師が駆け付けると消えていたそうだ。
そして今もそうだった。
因みに教師は結局、そのローソクらしき明かりの正体を突き止められないまま、何者かによって頭をおかしくされてしまっている。
同じ妖怪の威吹に考察を求めたが、話の内容だけでは分からないとのことだった。
妖術で人間にそういう現象を起こさせることはできるが、動機がさっぱり分からないらしい。
その教師が見てはいけない物を見てしまったからそうしたとも考えられるが、それにしてもやり方が中途半端だという。
稲生:「多分、桜井先生は見てはいけないものを見てしまったんだな。それで口封じに、あんなことをされたんだ。誰があんなことをしたのかというと……」
稲生は明かりが灯っていたであろう教室に入った。
稲生:「やっぱりな……」
窓際の床には魔法陣が描かれており、その中央にローソクが灯されていた。
稲生:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ」
稲生の背後に忍び寄る殺気があったのだが、稲生がダンテ門流オリジナルの呪文を唱えたことで、その殺気はかなり弱まった。
稲生:「何やってるんですか、こんな所で」
稲生が振り向くと、そこにはマスターが持つ長い魔法の杖を持ち、黒いローブを羽織った魔道師の姿があった。
魔道師:「あなたも魔道師なの?」
稲生:「そうですよ。イリーナ組の稲生勇太です。ご存知でしょう?ダンテ門流で初の日本人弟子が入ったって。それが僕ですよ」
魔道師は目元まで隠れるくらいにフードを被っていたので、この時点では顔までは分からなかった。
魔道師:「そう、か……。で、イリーナの弟子がどうしてここに?」
稲生:「どうしてって……。ここは僕の母校ですよ」
魔道師:「!!!」
魔道師は女性のようだった。
まあ、無理もない。
ダンテ門流魔道師の9割は女性だ。
残りの1割の男性魔道師は稲生以外全員が海外を拠点にしていて、滅多に日本国内には来ない。
だが、魔女は稲生の回答に何故か狼狽した。
さて、何て言おう?
1:「それで、あなたはここで何をしてるんですか?」
2:「25年前、桜井先生の精神を破壊したのはあなたですね?」
3:「あなたはどなたですか?」
4:「実はイリーナ先生達と、はぐれてしまったんです」
5:「昨年のクリスマスパーティーでお会いしましたね」
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