報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「次なるクエストは……?」

2020-05-14 20:26:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月5日23:00.天候:晴 アルカディアシティ6番街カブキンシタウン 三星亭(Three Stars Inn)]

 最初のクエストを達成した稲生とマリアは、宿泊先の宿屋に戻って来た。

 ジーナ:「イリーナ先生。そろそろ酒場は閉店の時間ですので……」
 イリーナ:「んー?もうそんな時間~?魔界は閉まるのが早いわねぇ……」
 ジーナ:「6番街駅行きの路面電車の、最終も近づいていますから」

 終電は混雑する。
 その為、路面電車であっても必ず2両編成の定員の多い車両が運用されるらしい。

 稲生:「ただいま戻りました」
 イリーナ:「やあやあ、見てたよー。戦わずして勝つことも、魔道士ならではだよねー」
 マリア:「師匠、また飲んで……」
 イリーナ:「お世話になる魔界にお金を落としてあげるのも大事さねー」
 マリア:「また詭弁を……」
 イリーナ:「さあさあ。マリア、部屋まで運んでちょーだい」

 イリーナは酔っ払って上機嫌だ。

 マリア:「しょうがないな。ジーナ、そっち持って」
 ジーナ:「はーい」
 稲生:「僕も手伝いますよ?」
 マリア:「いい!勇太は荷物持って!」

 マリアとジーナがイリーナを担ぎ上げると、屈強な旅の戦士が口笛を鳴らしながら言った。

 戦士A:「いよーっ!魔道士さん、ごっちそさんなー!」
 戦士B:「魔法が必要な時、頼むぜーっ!」
 戦士C:「ゴチっス!」
 イリーナ:「力業が必要な時、戦士を味方にするといいよォ……」
 マリア:「そんなの常識じゃないですか!」

 魔道士達は宿屋となっている2階へと上がった。

 ジーナ:「えっ?あの6番街のブラッドプール卿の屋敷に行ったんですか?」
 稲生:「ああ。王国への忠誠を誓うから、帰ってくれって言われたよ」
 ジーナ:「スゴい、スゴーい!あの屋敷から生きて帰れたなんて!……もしかして、血を吸われてたりはしませんよね?」
 稲生:「献血はしたけど、『主従の契り』は交わしていない」

 稲生は左腕を見せた。
 針を刺した後の絆創膏が貼られているが、首筋に牙の痕は無かった。

 イリーナ:「巧みな話術で交渉を成立させるのも、魔道士のスキルよ。理詰め攻撃ってね」
 稲生:「そんな感じではなかったと思いますけど……」

 少なくともこちらは当初から敵対するつもりで行ったわけではないのと、サラが敵意を持って現れたわけではないことが幸いした。

 イリーナ:「今日のところはゆっくり休んで。次なるクエストは明日になってからよ」
 稲生:「分かりました。おやすみなさい」

 マリアとジーナがイリーナを部屋に運び入れるのを確認してから、稲生も隣の部屋に戻った。

 稲生:「疲れたな。勤行やってから寝よう」

 稲生は東に向かって手を合わせた。
 大石寺の存在しない魔界では、御書の通り、東に向かって勤行をするのが良いのだろうと思われる。

[5月6日08:00.天候:晴 三星亭(Three Stars Inn)]

 稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……。よし」

 太陽が昇る方向に向かって朝の勤行を終えた。
 とはいえ、魔界の太陽が本当に東側にあるのかどうかは不明だ。
 バァル大帝が君臨していた頃、空は瘴気の雲に覆われ、昼間でも薄暗かった。
 人間界でもゲリラ豪雨直前、最中の空は黒いが、それが四六時中といった世界。

 稲生:「早く、御登山ができるようになるといいな」

 新型コロナウィルス蔓延の為、緊急事態宣言が延長されたことにより、大石寺の行事も軒並み中止となっている。
 稲生は数珠を片付けていると、部屋のドアがノックされた。

 マリア:「勇太、起きたー?」
 稲生:「ああ、起きてますよ」

 稲生は部屋のドアを開けた。

 マリア:「早く下に行こう。朝食の時間だ」
 稲生:「はいはい」

 稲生はドアの鍵を掛けると、マリアについて1階へ向かった。
 宿屋の1階は夜は酒場だが、それ以外の時間は食堂になっている。

 女将:「おはようございます。昨夜は大変でしたね」

 女将がにこやかな顔で稲生達を迎えた。

 稲生:「おはようございます。見習いとしては、何としても先生の課題をこなさないといけないんです」
 女将:「その先生は、もうテーブルに就いてますよ」
 稲生:「ありゃ?」
 イリーナ:「おーっ!」

 イリーナが大きく手を振る。
 イリーナはフランスパンに齧りついていた。

 マリア:「食欲があるのはいいことですけどね、少し不摂生じゃありません?」
 イリーナ:「家では規則正しい生活をしているんだから、出先くらい羽目を外させてよ?」
 マリア:「全く……」
 女将:「朝食、お持ちしてよろしいですか?」
 稲生:「あ、はい。お願いします」

 稲生とマリアはイリーナの向かいの席に座った。

 イリーナ:「昨夜はご苦労様」
 稲生:「いえ……」
 イリーナ:「朝食を食べ終わったら、今日もまた課題を出すよ。まずは昨夜行った戦士夫婦のジムに、もう1度行ってみるといい」
 稲生:「ちょうど僕達も行ってみようと思ったんです。サーシャ達から報酬をもらいませんと」
 イリーナ:「そして私の占いでは、また仕事の依頼が出されるはず。それを受けるのよ?それが今日のクエスト(課題)ね。もちろん、別に出される報酬はあなた達で山分けしていいから」
 稲生:「サーシャ達の仕事の依頼は、魔道士ならではの内容ですからね。次は一体、何なんでしょう?」
 イリーナ:「それは行ってみてからのお楽しみってことになるわね」

 少しして朝食が運ばれてきた。
 目玉焼きにベーコン、ソーセージにサラダといった洋食セットであった。
 少なくとも食べ物に関しては、人間界とほとんど変わることはない。

 稲生:「! 待てよ……」
 マリア:「なに?」
 稲生:「昨夜、エリックが何か言ってましたよね?地下鉄工事現場で、何か問題が起きてるって。もしかしたら、それに関する依頼かもしれませんね」
 マリア:「落盤とかなら私達の出番じゃないよ」
 稲生:「いや、それはちょっとカンベンだなぁ……」

 稲生は苦笑した。
 少なくとも、今朝までは穏やかな時間が流れていた。

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