[5月14日09:15.天候:晴 アメリカ合衆国テキサス州ダラス・フォートワース空港]
飛行機は10分遅れで、目的地のダラスに到着した。
「タカオ、この時期のダラスは暑いから、そのスーツじゃ大変よ」
「そうなのか?まだ5月だぞ?」
「テキサス州は南部だから暑いよ」
アリスは呆れた顔をして言った。
まだ飛行機内は空調が効いて涼しいが、確かにアリスは既にTシャツにデニムのショートパンツ姿になっているし、平賀も半袖のカジュアルシャツに着替えていた。
「そうか。アリス、キミはテキサス育ちだったから知ってるのか」
「そうよ」
平賀の質問に大きく頷くアリス。
「大丈夫なのか?降りた途端、こっちの警察に逮捕されるなんてことは無いよな?」
敷島は眉を潜めた。
「大丈夫。じー様については全部FBIに情報提供したことで、もうアタシには何の法的拘束はしないって約束させたから」
司法取引というヤツか。
そもそもアメリカでも有名企業であるデイライト、それの日本法人の社員になっているものだから、デイライト側でも何かアリスを保護するような動きがあったのかもしれない。
飛行機を降りると、確かに暑かった。
まるで、日本の夏のようである。
「精密機器作る会社なんだから、もっと北部の方が良かったんじゃないのか?」
敷島がスーツの上着を脱いで、文句を言った。
ただ、日本の夏と違うところは、カラッとしていることである。
つまり、真夏の日本では日陰に入ってもジメジメして暑いのに対し、こちらは日陰に入れば涼しかったりする。
ということは、昼以外の時間帯は比較的過ごしやすいのだろう。
「もちろん、工場などは北部の州にあります。こちらにあるのは、あくまでも支社です。南部でも営業活動はしていますので、拠点は必要ですから」
と、鳥柴が言った。
「それもそうですね」
機内に預けておいた荷物を受け取る。
「それで、エミリー達は?昨夜、日本を出発したから、もう着いてるはずですよね?」
「はい。支社の方で保管しているそうです」
ターミナルの外に向かうと、ふくよかな体型の中年の男と長身で黒縁眼鏡を掛けた20代後半くらいの青年が立っていた。
中年男の手には、スケッチブックに『Daylight Corporation Japan.』と書かれたものを持っている。
「あれ、お迎え?」
アリスが聞くと、
「そうですね」
鳥柴が頷く。
4人がその2人の男に近づくと、
「やあ、ようこそ、ダラスへ。日本のエージェントの皆様〜」
「すぐ支社へご案内しますよ!」
と、話し掛けて来た。
「デイライト・ジャパンの鳥柴です。本社の依頼で、こちらの三傑……もとい、御三方をご案内しました」
鳥柴は流暢な英語で2人に言った。
「アリスよ。よろしく」
「おお〜、これはこれは美しい……!私はキース。よろしく」
「僕はクエント。以後、お見知り置きを……」
「敷島エージェンシー社長の敷島孝夫です。……あんまり英語が上手く無くて、申し訳無い」
「アタシが通訳するからいいわよ」
敷島の片言英語に、アリスは呆れた顔をした。
「東北工科大学の平賀太一です。よろしく」
平賀はさすが大学教授ということもあり、明らかに敷島より英語が上手い。
レポートを英文で書くことも多々あり、また、外国の学会に出席してプレゼンしたりするからだろう。
「お噂はかねがね聞いておりますよ。僕、日本の大学に留学していたこともあります」
クエントが反応した。
「それじゃ、日本語も喋れる?」
敷島はクエントに食い付いた。
「ニホンゴ、ヨク分かりませン」
「いやいや、喋っとるがな!」
敷島は全力で突っ込んだ。
[同日09:45.天候:晴 ダラス市内・DC Inc.ダラス支社]
支社といっても、ダラス市街の高層ビルの中にそれはあった。
空港からキースとクエントが車で迎えに来ていて、敷島達はその車に乗って支社へと向かった。
「キャデラックなんて、初めて乗ったなぁ……」
「アメリカじゃ、フツーに走ってるわよ」
「日本から送ったロイド4機は到着してますか?」
と、平賀が運転席と助手席に向かって聞いた。
「へい、教授。支社の倉庫に、厳重に保管してあります」
助手席のクエントが右手を挙げて答えた。
「外したパーツを取り付けて、起動させて……。大変だな……」
「た、確かに大変ですね」
敷島はなまじ取り外す方を見ていただけに、それを取り付ける方はもっと大変だろうと思った。
「人手は一応、確保してありますよ」
と、キース。
「アルバート所長のやり方についていけなくて、あの研究所を飛び出した研究員達がいます。彼らに手伝ってもらいますよ」
「直接マルチタイプの研究に従事していただけに、腕前は期待できそうですね」
平賀は大きく頷いた。
だが敷島は、懐疑的だった。
「待った待った。ムシが良過ぎますよ。もしかして、中にはアルバート所長が送り込んだスパイとかいるんじゃないの?」
何だかんだ言って、敷島の日本語をクエントは理解できるようだ。
「ソノ心配ハアリマセン。アルバート所長ノ造反デ逃ゲ出シタ研究員達ハ、一旦警察ニ拘束サレマシタ。容疑ノ晴レタ者達ハ、釈放サレテイマス。アルバート所長ノシンパサイザーハ、未ダニ拘束サレテイルノデス。デスノデ、今ココニイル研究員達ハ心配スルコト、ナイデス」
「敷島さん、もし変な動きをするヤツがいましたら、自分分かりますから」
「そうよ。基本的にはアタシとプロフェッサー平賀が主導でやって、他の研究員達はアシスタントだけやってもらうから」
「まあ、2人がそう言うのなら……」
車を降りて、荷物ごと支社の中に入る。
高層階へ向かうエレベーターに乗り込んで、34階で降りる。
会議室が並んでいるフロアだったが、そこで広い会議室に案内された。
「この部屋を自由に使ってください」
支社長のブライアンが言った。
既に室内には、シンディ達や取り外したパーツなどが梱包された状態で置かれていた。
「じゃあ、始めましょ」
敷島は上着を荷物の上に置き、ネクタイをワイシャツの中に入れて、ワイシャツの腕を捲った。
「梱包から取り出すくらいは、私も手伝いますよ」
「敷島さん、助かります」
敷島がまず開けたのは、鏡音リンとレンの入った箱。
この2人は体育座りするような恰好で梱包されていたが、マルチタイプ達はまるで棺に入っているかのように、横になった状態で梱包されていた。
「どのくらい掛かりそうですか?」
鳥柴が聞いた。
「そうですねぇ……。できれば、ここで一泊してから向かいたいくらいの余裕は欲しいですよ」
と、平賀が答える。
「そんなに!?」
驚いたのは敷島。
「いや、ここまでバラして輸送したのは初めてなので、組み立てた後、起動実験とか、できればしたいんですよねぇ……」
「どうですか?」
敷島は鳥柴に聞いた。
「ブライアン支社長に聞いてみます」
鳥柴は会議室を出ると、支社長室へ向かった。
代わりに入って来たのは、研究員達。
こうして、アンドロイド達の起動作業が始まった。
飛行機は10分遅れで、目的地のダラスに到着した。
「タカオ、この時期のダラスは暑いから、そのスーツじゃ大変よ」
「そうなのか?まだ5月だぞ?」
「テキサス州は南部だから暑いよ」
アリスは呆れた顔をして言った。
まだ飛行機内は空調が効いて涼しいが、確かにアリスは既にTシャツにデニムのショートパンツ姿になっているし、平賀も半袖のカジュアルシャツに着替えていた。
「そうか。アリス、キミはテキサス育ちだったから知ってるのか」
「そうよ」
平賀の質問に大きく頷くアリス。
「大丈夫なのか?降りた途端、こっちの警察に逮捕されるなんてことは無いよな?」
敷島は眉を潜めた。
「大丈夫。じー様については全部FBIに情報提供したことで、もうアタシには何の法的拘束はしないって約束させたから」
司法取引というヤツか。
そもそもアメリカでも有名企業であるデイライト、それの日本法人の社員になっているものだから、デイライト側でも何かアリスを保護するような動きがあったのかもしれない。
飛行機を降りると、確かに暑かった。
まるで、日本の夏のようである。
「精密機器作る会社なんだから、もっと北部の方が良かったんじゃないのか?」
敷島がスーツの上着を脱いで、文句を言った。
ただ、日本の夏と違うところは、カラッとしていることである。
つまり、真夏の日本では日陰に入ってもジメジメして暑いのに対し、こちらは日陰に入れば涼しかったりする。
ということは、昼以外の時間帯は比較的過ごしやすいのだろう。
「もちろん、工場などは北部の州にあります。こちらにあるのは、あくまでも支社です。南部でも営業活動はしていますので、拠点は必要ですから」
と、鳥柴が言った。
「それもそうですね」
機内に預けておいた荷物を受け取る。
「それで、エミリー達は?昨夜、日本を出発したから、もう着いてるはずですよね?」
「はい。支社の方で保管しているそうです」
ターミナルの外に向かうと、ふくよかな体型の中年の男と長身で黒縁眼鏡を掛けた20代後半くらいの青年が立っていた。
中年男の手には、スケッチブックに『Daylight Corporation Japan.』と書かれたものを持っている。
「あれ、お迎え?」
アリスが聞くと、
「そうですね」
鳥柴が頷く。
4人がその2人の男に近づくと、
「やあ、ようこそ、ダラスへ。日本のエージェントの皆様〜」
「すぐ支社へご案内しますよ!」
と、話し掛けて来た。
「デイライト・ジャパンの鳥柴です。本社の依頼で、こちらの三傑……もとい、御三方をご案内しました」
鳥柴は流暢な英語で2人に言った。
「アリスよ。よろしく」
「おお〜、これはこれは美しい……!私はキース。よろしく」
「僕はクエント。以後、お見知り置きを……」
「敷島エージェンシー社長の敷島孝夫です。……あんまり英語が上手く無くて、申し訳無い」
「アタシが通訳するからいいわよ」
敷島の片言英語に、アリスは呆れた顔をした。
「東北工科大学の平賀太一です。よろしく」
平賀はさすが大学教授ということもあり、明らかに敷島より英語が上手い。
レポートを英文で書くことも多々あり、また、外国の学会に出席してプレゼンしたりするからだろう。
「お噂はかねがね聞いておりますよ。僕、日本の大学に留学していたこともあります」
クエントが反応した。
「それじゃ、日本語も喋れる?」
敷島はクエントに食い付いた。
「ニホンゴ、ヨク分かりませン」
「いやいや、喋っとるがな!」
敷島は全力で突っ込んだ。
[同日09:45.天候:晴 ダラス市内・DC Inc.ダラス支社]
支社といっても、ダラス市街の高層ビルの中にそれはあった。
空港からキースとクエントが車で迎えに来ていて、敷島達はその車に乗って支社へと向かった。
「キャデラックなんて、初めて乗ったなぁ……」
「アメリカじゃ、フツーに走ってるわよ」
「日本から送ったロイド4機は到着してますか?」
と、平賀が運転席と助手席に向かって聞いた。
「へい、教授。支社の倉庫に、厳重に保管してあります」
助手席のクエントが右手を挙げて答えた。
「外したパーツを取り付けて、起動させて……。大変だな……」
「た、確かに大変ですね」
敷島はなまじ取り外す方を見ていただけに、それを取り付ける方はもっと大変だろうと思った。
「人手は一応、確保してありますよ」
と、キース。
「アルバート所長のやり方についていけなくて、あの研究所を飛び出した研究員達がいます。彼らに手伝ってもらいますよ」
「直接マルチタイプの研究に従事していただけに、腕前は期待できそうですね」
平賀は大きく頷いた。
だが敷島は、懐疑的だった。
「待った待った。ムシが良過ぎますよ。もしかして、中にはアルバート所長が送り込んだスパイとかいるんじゃないの?」
何だかんだ言って、敷島の日本語をクエントは理解できるようだ。
「ソノ心配ハアリマセン。アルバート所長ノ造反デ逃ゲ出シタ研究員達ハ、一旦警察ニ拘束サレマシタ。容疑ノ晴レタ者達ハ、釈放サレテイマス。アルバート所長ノシンパサイザーハ、未ダニ拘束サレテイルノデス。デスノデ、今ココニイル研究員達ハ心配スルコト、ナイデス」
「敷島さん、もし変な動きをするヤツがいましたら、自分分かりますから」
「そうよ。基本的にはアタシとプロフェッサー平賀が主導でやって、他の研究員達はアシスタントだけやってもらうから」
「まあ、2人がそう言うのなら……」
車を降りて、荷物ごと支社の中に入る。
高層階へ向かうエレベーターに乗り込んで、34階で降りる。
会議室が並んでいるフロアだったが、そこで広い会議室に案内された。
「この部屋を自由に使ってください」
支社長のブライアンが言った。
既に室内には、シンディ達や取り外したパーツなどが梱包された状態で置かれていた。
「じゃあ、始めましょ」
敷島は上着を荷物の上に置き、ネクタイをワイシャツの中に入れて、ワイシャツの腕を捲った。
「梱包から取り出すくらいは、私も手伝いますよ」
「敷島さん、助かります」
敷島がまず開けたのは、鏡音リンとレンの入った箱。
この2人は体育座りするような恰好で梱包されていたが、マルチタイプ達はまるで棺に入っているかのように、横になった状態で梱包されていた。
「どのくらい掛かりそうですか?」
鳥柴が聞いた。
「そうですねぇ……。できれば、ここで一泊してから向かいたいくらいの余裕は欲しいですよ」
と、平賀が答える。
「そんなに!?」
驚いたのは敷島。
「いや、ここまでバラして輸送したのは初めてなので、組み立てた後、起動実験とか、できればしたいんですよねぇ……」
「どうですか?」
敷島は鳥柴に聞いた。
「ブライアン支社長に聞いてみます」
鳥柴は会議室を出ると、支社長室へ向かった。
代わりに入って来たのは、研究員達。
こうして、アンドロイド達の起動作業が始まった。
浅井会長が日達上人に訓諭を訂正させたと吹聴したことは会員なら誰でも知っているが、要はそこの部分の真相である。
日達上人の大慈大非には頭が下がるどころか、涙が出るほどである。
私なら畳に頭を擦り付け、大泣きするところだが、浅井会長らはそんな気持ちにはならなかったようである。
「大慈大非」ではなく、「大慈大悲」であります。
訂正致します。
と、法華講武闘派は言うだろうな。
言うだけで、他にサポートは無い場合が多い。
「創価学会と御遺命に違背した宗門にいて身が持つわけがない。唯一無二の師匠、浅井先生に断固としてお応えして参らなければならない!」
と、顕正会員は言うだろう。
んっ?さんのお母様に対して。
皆して人の気持ちを理解するつもりは無いようだな。
んっ?さん、申し訳ないけど、学会以外の他門はこんな感じです。