(安倍春明の一人称です)
私の名前は安倍春明。
魔界にいくつかある国家の1つ、アルカディア王国で首相職を務めている。
その経緯を話すと長くなるので端折らせて頂くが、今回は休暇で故郷の日本に“帰国”した。
もっとも、そこでいくつかの公務に相当する行為もあるのだが、いかんせんどこの国でも首相動向については細かくチェックされる。
それはイコール国民在権がちゃんと機能していることの証でもあるのだが、政治的には裏の活動をしなければならぬこともある。
今回はそれに当たるので、表向き休暇とした次第だ。
王国の首都アルカディアシティの中心駅から、人間界に向かう冥界鉄道公社の電車に乗った。
無事に長野県内の小さな駅に到着した私は予定通り、旧政権で一時期宮廷魔導師をしていたという人物と合流した。
彼女の名前はイリーナ・レヴィア・ブリジッド。
魔道師ならではの長い名前だ。
因みにどういうわけだか、政府付きだと魔導師となる。
誤字ではないので、念のため。
直弟子のマリアンナという少女?だかが管理しているという屋敷で一泊させて頂くに辺り、うちの女王陛下であるところのルーシー・ブラッドプール1世がヤケに心配されていたが、杞憂に終わった。
ここには王宮と直で出入りできる場所があるのだが、一部の政府関係者しか知らないことになっており、超A級の事態でもなければ、使用を禁止されている。
翌日、私は長野駅から東京行きの新幹線に乗車した。
予定では単身、上京するはずだったが、何故か魔道師2人が付いてきた。
しかもそのうち1人は、途中の大宮駅で下車していった。
「何か緊急事態でも?」
という私の質問にイリーナは、
「こちらのことですわ。首相はお気になさらず、ご自分の予定を進めてください」
と、笑顔で答えるだけだった。
そのイリーナも上野駅で降りていった。
やはり何かあるのだろうが、私は彼女達の勧めに従うことにした。
私が最初にこなした予定は、私のもう1つの顔であるところの共和党党首として、今度新たにオープンする党支部事務所の工事の進捗具合の視察だった。
場所は都内でも一等地の銀座だ。
応対した施工会社の専務取締役だという男は、強面ながら終始腰の低い男だったが、工事が予定通り進んでくれればそれで良い。
もっとも翌日、接待と称して同じ銀座地区にある中央競馬の場外馬券場に連れて行かれた時は正直ヒいたが。
日本国でもカジノの導入が検討されているようだが、我が国では既に鋭意営業中である。
ルーシーもお忍びで遊びに行っているという。
さすがに競馬までは無いが、そもそも2足歩行の馬モンスターが闊歩しているような国なので、彼らにマラソンしてもらう必要は無いかな。
ま、参考までにさせてもらった。
話は前後するが、新事務所の視察の後、午後からは再びイリーナ師との会談の場を設けた。
旧政権での辣腕を再びうちの政権でも振るってもらいたいという、言わば“スカウト”兼“面接”であったが、
「それはうちの弟子が一人前になったら考えますね」
と、笑顔ではぐらかされてしまった。
更に、
「バァルと違って、今は立憲君主制がしっかり機能していますし、私がいてもやることは無いでしょう」
とのことだ。
魔族達にとって、彼女の存在は神レベルだ。
彼女がいて何か発言してくれるだけでも、彼らに対する影響は大きい。
なればこそ、異世界通信社の“週刊魔境”に弟子の醜聞が掲載された時も、大きく騒がれたのである。
但し、魔族達にとっては、
「お弟子さんからして、頼もしい限りだ」
と、大好評だったが。
彼女は本音を語った。
「私のミドルネームは、“嫉妬”の悪魔から取ったものです。確かに私は政権内部にいるだけでお役に立てるでしょうが、必ず嫉妬する者が現れ、気が付いた時には政権が崩壊するまでになるでしょう。私も首相の政治方針に賛成です。だからこそ、長命政権でいてもらいたい。その為には、私はいない方がいいです」
「そんなご謙遜を……」
「いいえ。ポーリンの私に対する態度も、マリアの週刊誌も、私を依り代にしている悪魔が引き起こしたものです。所詮、魔道師というのは悪魔と契約した者でもあるわけです。ですから、新政権の為にも辞退させて頂きます」
とのことだった。
では、彼女が旧政権で宮廷魔導師を務めていた理由とは何だったのだろうか。
マスコミ関係者なら知っているかもしれないが、変に探られるのもあれだしな。
うちの横田なら知っているかもしれない。
「ならばせめて、ルーシーがどれだけ長く王位の座にいられるのか、占って頂けますか?」
との依頼には、
「もう既に予知夢は見ております」
「おおっ」
「近々、陛下に試練が訪れることでしょう。それを乗り越えた時、この政権は長期に渡って王国を統治することができます」
「その試練とは?」
「……そこまでは予知夢の中には出て来ませんでしたが、うちの師匠がそちらにお邪魔していましたわ」
「ブリジッド先生のお師匠様……ですか?」
「ええ」
それはいかなる存在なのか。
いま私の目の前にいる美しき魔道師では対処できない程のものなのか。
更に詳しい内容を聞こうとしたが、
「私もそろそろ行かなくては……」
と、席を立ってしまった。
「こう見えて、私も色々と歩き回らなくてはなりませんのよ。では、ごきげんよう……」
弟子を取る程の実力派ともなると、ベタな法則のようなホウキに跨るわけでもなく、瞬間移動してしまうようだ。
ここが個室の貸会議室で良かった。
まあ、どんな試練が訪れようとも、私とルーシー、そして党の仲間と一致団結して乗り切ってやるさ。
こう見えても、私は魔王ルーシーを討伐しようとした“勇者”だったのだから。
私の名前は安倍春明。
魔界にいくつかある国家の1つ、アルカディア王国で首相職を務めている。
その経緯を話すと長くなるので端折らせて頂くが、今回は休暇で故郷の日本に“帰国”した。
もっとも、そこでいくつかの公務に相当する行為もあるのだが、いかんせんどこの国でも首相動向については細かくチェックされる。
それはイコール国民在権がちゃんと機能していることの証でもあるのだが、政治的には裏の活動をしなければならぬこともある。
今回はそれに当たるので、表向き休暇とした次第だ。
王国の首都アルカディアシティの中心駅から、人間界に向かう冥界鉄道公社の電車に乗った。
無事に長野県内の小さな駅に到着した私は予定通り、旧政権で一時期宮廷魔導師をしていたという人物と合流した。
彼女の名前はイリーナ・レヴィア・ブリジッド。
魔道師ならではの長い名前だ。
因みにどういうわけだか、政府付きだと魔導師となる。
誤字ではないので、念のため。
直弟子のマリアンナという少女?だかが管理しているという屋敷で一泊させて頂くに辺り、うちの女王陛下であるところのルーシー・ブラッドプール1世がヤケに心配されていたが、杞憂に終わった。
ここには王宮と直で出入りできる場所があるのだが、一部の政府関係者しか知らないことになっており、超A級の事態でもなければ、使用を禁止されている。
翌日、私は長野駅から東京行きの新幹線に乗車した。
予定では単身、上京するはずだったが、何故か魔道師2人が付いてきた。
しかもそのうち1人は、途中の大宮駅で下車していった。
「何か緊急事態でも?」
という私の質問にイリーナは、
「こちらのことですわ。首相はお気になさらず、ご自分の予定を進めてください」
と、笑顔で答えるだけだった。
そのイリーナも上野駅で降りていった。
やはり何かあるのだろうが、私は彼女達の勧めに従うことにした。
私が最初にこなした予定は、私のもう1つの顔であるところの共和党党首として、今度新たにオープンする党支部事務所の工事の進捗具合の視察だった。
場所は都内でも一等地の銀座だ。
応対した施工会社の専務取締役だという男は、強面ながら終始腰の低い男だったが、工事が予定通り進んでくれればそれで良い。
もっとも翌日、接待と称して同じ銀座地区にある中央競馬の場外馬券場に連れて行かれた時は正直ヒいたが。
日本国でもカジノの導入が検討されているようだが、我が国では既に鋭意営業中である。
ルーシーもお忍びで遊びに行っているという。
さすがに競馬までは無いが、そもそも2足歩行の馬モンスターが闊歩しているような国なので、彼らにマラソンしてもらう必要は無いかな。
ま、参考までにさせてもらった。
話は前後するが、新事務所の視察の後、午後からは再びイリーナ師との会談の場を設けた。
旧政権での辣腕を再びうちの政権でも振るってもらいたいという、言わば“スカウト”兼“面接”であったが、
「それはうちの弟子が一人前になったら考えますね」
と、笑顔ではぐらかされてしまった。
更に、
「バァルと違って、今は立憲君主制がしっかり機能していますし、私がいてもやることは無いでしょう」
とのことだ。
魔族達にとって、彼女の存在は神レベルだ。
彼女がいて何か発言してくれるだけでも、彼らに対する影響は大きい。
なればこそ、異世界通信社の“週刊魔境”に弟子の醜聞が掲載された時も、大きく騒がれたのである。
但し、魔族達にとっては、
「お弟子さんからして、頼もしい限りだ」
と、大好評だったが。
彼女は本音を語った。
「私のミドルネームは、“嫉妬”の悪魔から取ったものです。確かに私は政権内部にいるだけでお役に立てるでしょうが、必ず嫉妬する者が現れ、気が付いた時には政権が崩壊するまでになるでしょう。私も首相の政治方針に賛成です。だからこそ、長命政権でいてもらいたい。その為には、私はいない方がいいです」
「そんなご謙遜を……」
「いいえ。ポーリンの私に対する態度も、マリアの週刊誌も、私を依り代にしている悪魔が引き起こしたものです。所詮、魔道師というのは悪魔と契約した者でもあるわけです。ですから、新政権の為にも辞退させて頂きます」
とのことだった。
では、彼女が旧政権で宮廷魔導師を務めていた理由とは何だったのだろうか。
マスコミ関係者なら知っているかもしれないが、変に探られるのもあれだしな。
うちの横田なら知っているかもしれない。
「ならばせめて、ルーシーがどれだけ長く王位の座にいられるのか、占って頂けますか?」
との依頼には、
「もう既に予知夢は見ております」
「おおっ」
「近々、陛下に試練が訪れることでしょう。それを乗り越えた時、この政権は長期に渡って王国を統治することができます」
「その試練とは?」
「……そこまでは予知夢の中には出て来ませんでしたが、うちの師匠がそちらにお邪魔していましたわ」
「ブリジッド先生のお師匠様……ですか?」
「ええ」
それはいかなる存在なのか。
いま私の目の前にいる美しき魔道師では対処できない程のものなのか。
更に詳しい内容を聞こうとしたが、
「私もそろそろ行かなくては……」
と、席を立ってしまった。
「こう見えて、私も色々と歩き回らなくてはなりませんのよ。では、ごきげんよう……」
弟子を取る程の実力派ともなると、ベタな法則のようなホウキに跨るわけでもなく、瞬間移動してしまうようだ。
ここが個室の貸会議室で良かった。
まあ、どんな試練が訪れようとも、私とルーシー、そして党の仲間と一致団結して乗り切ってやるさ。
こう見えても、私は魔王ルーシーを討伐しようとした“勇者”だったのだから。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます