報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜ワンスターホテル〜

2016-10-24 20:51:57 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月22日19:10.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 都営地下鉄を森下駅で降りた魔道師3人は、その足ですぐにワンスターホテルに向かった。
 ホテルは新大橋通りを菊川方向に向かった途中、路地に入った所にある。

 イリーナ:「はい、到着ぅ〜」
 マリア:「まだ中継時点ですよ」
 稲生:「ハハハ……」
 オーナー:「いらっしゃいませ。只今、エレーナがご用意しておりますので……」
 イリーナ:「どうも、お手数掛けますねぇ」

 稲生が待っている間、ロビーの自動販売機で飲み物を買っていた。
 因みにチョコレートなどのお茶菓子も置いてあるので、小腹空きはそれで誤魔化す。
 オーナーが内線でエレーナに、稲生達の到着を知らせたようだ。

 オーナー:「あと5分から10分ほどお待ち頂けますか?」
 イリーナ:「いいですよ。急ぐ旅じゃあありませんで……」

 イリーナは稲生に買ってきてもらった紅茶を口にした。

 マリア:「私、ちょっとレストルーム(トイレ)に……」
 イリーナ:「いいよ。行っといでー」

 マリアは、大きな荷物の中からポーチだけを持ってロビーの奥の共用トイレに向かった。

 稲生:「ここからだと、魔界のどの辺に出るんですか?」
 イリーナ:「ピンポイントにここっては言えないけど、まあ、1番街に行くまでにメトロに1回は乗ることになるかもだね」
 稲生:「そうですか。なるほど……」

 マリアがトイレから戻ってくるのと、エレーナが地下から上がって来るのは同時だった。

 エレーナ:「お待たせしましたー!用意ができたんで、どうぞ!」
 イリーナ:「おおっ、元気がいいねー。彼氏できた?」
 エレーナ:「ま、まだです……」
 マリア:「早いとこ、処女卒業しなよ」
 エレーナ:「うっせ!オマエじゃあるまいし!」
 稲生:「まあまあ」

 エレベーターに乗り込んで、地下1階へ向かう。
 そこは普段は機械室や倉庫になっていて、関係者以外立ち入り禁止である。
 エレベーターも、普段は地下1階に行かないようにしてある。
 因みに倉庫の一部を改造した、エレーナの居室もそこにある。
 ちゃんとした個室になっていて、専用のシャワーや洗面台もあったりする。

 稲生:「準備って、何を準備していたの?」
 エレーナ:「そ、そりゃあもちろん、なるべくダイレクトに王宮に行けるように!」
 イリーナ:「んん?アタシは少し遠回りできる所って言ったはすだけどね?」
 エレーナ:「うええっ!?……えっと、そりゃあ……」
 マリア:「おおかた、汚部屋になっていたんで、慌てて片付けていたってところか」
 エレーナ:「うっさい!」

 エレベーターを降りると、薄暗い倉庫になっていたが、すぐにエレーナが照明を点ける。
 明らかに奥の方には後付けの部屋があって、そこがエレーナの部屋になっていた。

 エレーナ:「マリアンナ、そっちは見なくていいからっ!」
 マリア:「勇太、見た目で女を選ぶと後悔する光景があの部屋の中にあるぞ?見に行く?」
 稲生:「いや、遠慮しておきます。後が怖そうなんで」

 魔女同士のケンカに巻き込まれると大変な目に遭うことは、稲生も身を持って知っている。

 マリア:「別に遠慮しなくていいぞ?」
 エレーナ:「ちったぁ遠慮させろっ!」
 稲生:(ヘタなことをして、また面倒な事に巻き込まれるのは御免だ……)
 イリーナ:(若いっていいねぇ……)

 魔界の穴といっても、何かよく知らない穴がポッカリ開いているというわけではない。
 いや、発見した時は確かにただの穴だったのだが、魔道師が魔界の行き来用に使う際には、それを魔法陣に描いてそれに乗って行き来する。

 イリーナ:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!魔界に通じる道よ、魔界の王都アルカディアまでの道のりを示せ」

 イリーナは呪文を唱えながら、魔法陣に水の入った瓶を振った。
 瓶の中には聖水が入っているのだが、水自体に効力があるのではなく、瓶に効力があるようだ。
 魔法瓶である。この中に水を入れると、水が魔力を帯びて色々と効力を発揮する。
 例えばこうして魔法陣を作動させて魔界と人間界への行き来に使ったり、或いは“魔の者”の眷属に掛ければ怯ませることができる。
 眷属の力にもよるが、熱湯を掛けられた感覚だったり、場合によっては濃硫酸を掛けられたくらいの効力を発揮することもあるらしい。
 魔法陣が紫色の光を放ち、中にいたイリーナ組の面々がその光に包まれた。

 エレーナ:「あっという間だねぇ……。っと、こんなことしてる場合じゃない!」

 残されたエレーナは急いでオーナーとフロント業務を代わるべく、エレベーターへと乗り込んだ。

[同日19:30.天候:曇 魔界アルカディア王国・王都アルカディアシティ10番街]

 イリーナ:「はい、到着ぅ!」
 稲生:「本当、宇宙空間のワープってこんな感じなのかなぁ……?」
 マリア:「ここ、どこ?」

 とある建物の屋上のようである。
 そこから通りを見ると、路面電車がヘッドライトを点けて走って行った。
 稲生は荷物の中から小型の双眼鏡を出して、路面電車の軌道を目で辿ってみた。
 すると途中に、地下鉄の乗り場を発見した。

 稲生:「10番街駅があります。あそこから王宮へ向かえそうですね」

 稲生がすぐに駅名を読めたのは、アルカディア王国の公用語は英語と日本語だからである。
 これは担ぎ上げられた女王ルーシーがアメリカ国籍を持っていて、それを支える魔界共和党の党首、安倍春明が日本人だからである。

 イリーナ:「よーし。そうと決まったら行くよ」

 3人の魔道師は建物の中を通って、通りに出た。
 因みに建物はアパートだったらしく、住民に気づかれないように出るのが大変だったが。

 イリーナ:「路面電車では、1番街まで行けないかい?」
 稲生:「10番街駅からは地下鉄の3号線で行けるので、逆に路面電車の直通は無いみたいですね」
 イリーナ:「そうかい。地下鉄は階段の乗り降りが大変なんだよねぇ……」
 マリア:「師匠が選択したルートじゃないですか」

 今更面倒臭がるイリーナに、直弟子のマリアは苦言を呈した。
 マスターになってからは、マリアのツッコミもより一層強いものになったか。

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