[12月24日18:15.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区上落合 斉藤家]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日はリサの同級生の斉藤絵恋さんが、実家でクリスマスパーティーをやるというのでお呼ばれした。
もっとも、私を招待したのは絵恋さんの父親で製薬会社経営の斉藤秀樹社長であるようだ。
斉藤絵恋:「これ、リサさんに……」
クリスマスパーティーと言えばプレゼント交換。
絵恋さんもまたリサにプレゼントを用意していたようだ。
リサ:「ありがとう。これは私から」
絵恋:「も、萌えぇぇぇっ!!」
リビングとダイニングは繋がっている。
リビングでプレゼント交換の様子を私達は微笑ましく見ていた。
斉藤秀樹:「ささ、愛原さん。もう一杯どうぞ」
愛原:「あ、こりゃどうも」
秀樹:「あのコの面倒見は、上手く行ってらっしゃるようですな」
愛原:「ええ。……え?」
秀樹:「業界では裏話として有名ですよ。アメリカのは暴走して結局は施設ごと処分されたわけですが、こちらのはあのようにほぼ完璧であると」
愛原:「社長……!」
秀樹:「もちろん国家機密であることは承知しています。だからこそ、ここだけの話です。日本は非核三原則があるせいで、核兵器を持つことはできない。しかもウィルスなどの生物兵器もまた御法度である。しかし同じ生物兵器でも、それがウィルスではなく、本当の生物であればどうでしょう?……という考え方なのだろうと思いますね」
愛原:「そんな映画みたいな話……」
秀樹:「実際にあったのが、あの霧生市じゃありませんか」
愛原:「まあ、そうですね……」
秀樹:「あの町は福島の原発事故と同様、立入禁止区域に指定されていますが、愛原さんなら特別に立ち入りが許可されるかもしれませんよ?」
高橋:「なにしれっと先生を危険地域に行かそうとしてるんだ、アンタは!」
ビールのグラスを持った高橋が斉藤社長を睨みつけた。
秀樹:「あ、いや、これは失礼。そんなつもりじゃないんだ」
愛原:「まあ、私も今更行こうと思いませんがね」
あれから2年くらいは経ったのかな?
アメリカのラクーンシティやトールオークス市と違って、核爆弾で強制滅菌ということは無かった。
そこが核保有国と非核保有国との違いだろう。
今でも町は廃墟として残っているわけだが、福島と違うのは、区域を警備しているのが自衛隊であるということ。
民間の警備会社にやらせている福島の原発事故とはワケが違うことを暗示している。
2年経った今でも、生き残ったゾンビが徘徊しているかもしれないということだ。
聞く所によると、今でもたまに発砲音が聞こえるのだとか。
あそこは熊が出るほどの山奥の町であったが、熊の方がゾンビに食われる始末だ。
秀樹:「愛原さんなら、またバイオハザード地帯でも生き残れそうですけどね」
愛原:「いやー、もうお腹一杯ですよ。顕正号の時ですらいっぱいいっぱいで、記憶障害になってしまったくらいですから。所詮は私も一般人なんです。国連軍BSAAの猛者達のようには行きませんよ」
正確に言えば国連軍ではないのだが、世間的には国連軍の一部門と説明されることがある。
国連直轄組織であることに変わりは無い。
高橋:「先生、この鶏肉美味いっスよ」
愛原:「本当に七面鳥の丸焼きですね。私は初めてですよ」
秀樹:「ハハハ、どうぞどうぞ。遠慮なさらず、召し上がってください。……絵恋、そっちにいないでお前も食べなさい!」
絵恋:「はーい」
絵恋さんとリサが来ると、彼女らも切り分けられた七面鳥を取った。
絵恋:「お父さん、ケーキは!?」
秀樹:「待ちなさい。ケーキは甘い物だから、デザートとして食べる。……とはいえ、そろそろ頃合いかな」
愛原:「ですね」
出前で取った寿司もあり、私は中トロを取りながら頷いた。
秀樹:「そろそろケーキを持ってきてくれ」
メイド:「はい、かしこまりました」
それにしても、ふと思ったことなんだが……。
斉藤家のクリスマスバーティーにしては、少し寂しいような気がした。
何しろ、斉藤家は秀樹社長と絵恋さんしかいない。
愛原:「あの、失礼ですが……」
秀樹:「何でしょうか?」
愛原:「できればリサの保護者として、奥様にも御挨拶したいのですが……」
秀樹:「ああ。家内は仕事先の忘年会で、今日は遅くなります。向こうも向こうで、クリスマスパーティーという名の忘年会があるようでして」
愛原:「そうなんですか」
秀樹:「大丈夫です。今日は娘たっての希望で行われた臨時のクリスマスパーティーです。我が家のメインパーティーは明日ですよ」
あ、なんだ。
それは良かった。
よくセレブの家にありがちな、両親は多忙でいつも家におらず、クリスマスも本当の意味でクリぼっちという話ではなかったか。
秀樹:「愛原さん達はもう忘年会は済ませたのですか?」
愛原:「逆に私達は明日やろうかと。うちの事務所の人間で」
秀樹:「ああ、なるほど」
高野君も誘って忘年会だな。
取りあえず、店は予約しておいた。
高橋君と高野君はウワバミだから、当然ながらアルコール飲み放題にしておかないとな。
メイド:「お待たせ致しました」
メイドさんがケーキを持って来る。
ケーキ屋で買えそうな、普通のショートケーキのホールだ。
恐らく明日は、もっと豪華なものが出て来るのだろうな。
絵恋:「リサさん、リサさん!リサさん、ローソク消して」
リサ:「いいの?」
絵恋:「うんうん。私は明日もあるから」
リサ:「なるほど」
メイドさんがローソクに火を灯す。
別に誕生日祝いではないので部屋の明かりを暗くする必要は無いのだが、何故かそういう演出がされた。
愛原:「!」
マズイな。
暗闇の中でリサの目が赤くボウッと光っている。
だがリサは、すぐにケーキの前に立ってローソクの明かりで誤魔化した。
リサ:「フッ!」
で、一息でローソクを消した。
絵恋:「メリークリスマース!」
粗方ご馳走を食べた後で、その掛け声は何か違和感がするのだが、何も水を差す必要もあるまい。
高橋:「粗方ご馳走片付けた後で、その掛け声は違和感マックスだぜ?……ぎゃん!」
愛原:「お前、ちょっと黙ってろ!」
私の気遣いを高橋が台無しにしやがったので、丸めた新聞紙で後ろから引っ叩いてやった。
秀樹:「どうです、愛原さん?ホールケーキはお久しぶりなのでは?」
愛原:「そうですねぇ。なかなか1人でケーキは食べる機会が無いですからね。せいぜい、コンビニで1人分のヤツを買うくらいでしょうか」
高橋:「俺は少年院以来……」
愛原:「しゃらぁーっ!」
スパーン!
高橋:「ぶっ!」
今こいつ、何か言ったよな。
少年院でホールケーキが出るだと?
全くもう!本当に日本は『加害者の人権が第一』だな!
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日はリサの同級生の斉藤絵恋さんが、実家でクリスマスパーティーをやるというのでお呼ばれした。
もっとも、私を招待したのは絵恋さんの父親で製薬会社経営の斉藤秀樹社長であるようだ。
斉藤絵恋:「これ、リサさんに……」
クリスマスパーティーと言えばプレゼント交換。
絵恋さんもまたリサにプレゼントを用意していたようだ。
リサ:「ありがとう。これは私から」
絵恋:「も、萌えぇぇぇっ!!」
リビングとダイニングは繋がっている。
リビングでプレゼント交換の様子を私達は微笑ましく見ていた。
斉藤秀樹:「ささ、愛原さん。もう一杯どうぞ」
愛原:「あ、こりゃどうも」
秀樹:「あのコの面倒見は、上手く行ってらっしゃるようですな」
愛原:「ええ。……え?」
秀樹:「業界では裏話として有名ですよ。アメリカのは暴走して結局は施設ごと処分されたわけですが、こちらのはあのようにほぼ完璧であると」
愛原:「社長……!」
秀樹:「もちろん国家機密であることは承知しています。だからこそ、ここだけの話です。日本は非核三原則があるせいで、核兵器を持つことはできない。しかもウィルスなどの生物兵器もまた御法度である。しかし同じ生物兵器でも、それがウィルスではなく、本当の生物であればどうでしょう?……という考え方なのだろうと思いますね」
愛原:「そんな映画みたいな話……」
秀樹:「実際にあったのが、あの霧生市じゃありませんか」
愛原:「まあ、そうですね……」
秀樹:「あの町は福島の原発事故と同様、立入禁止区域に指定されていますが、愛原さんなら特別に立ち入りが許可されるかもしれませんよ?」
高橋:「なにしれっと先生を危険地域に行かそうとしてるんだ、アンタは!」
ビールのグラスを持った高橋が斉藤社長を睨みつけた。
秀樹:「あ、いや、これは失礼。そんなつもりじゃないんだ」
愛原:「まあ、私も今更行こうと思いませんがね」
あれから2年くらいは経ったのかな?
アメリカのラクーンシティやトールオークス市と違って、核爆弾で強制滅菌ということは無かった。
そこが核保有国と非核保有国との違いだろう。
今でも町は廃墟として残っているわけだが、福島と違うのは、区域を警備しているのが自衛隊であるということ。
民間の警備会社にやらせている福島の原発事故とはワケが違うことを暗示している。
2年経った今でも、生き残ったゾンビが徘徊しているかもしれないということだ。
聞く所によると、今でもたまに発砲音が聞こえるのだとか。
あそこは熊が出るほどの山奥の町であったが、熊の方がゾンビに食われる始末だ。
秀樹:「愛原さんなら、またバイオハザード地帯でも生き残れそうですけどね」
愛原:「いやー、もうお腹一杯ですよ。顕正号の時ですらいっぱいいっぱいで、記憶障害になってしまったくらいですから。所詮は私も一般人なんです。国連軍BSAAの猛者達のようには行きませんよ」
正確に言えば国連軍ではないのだが、世間的には国連軍の一部門と説明されることがある。
国連直轄組織であることに変わりは無い。
高橋:「先生、この鶏肉美味いっスよ」
愛原:「本当に七面鳥の丸焼きですね。私は初めてですよ」
秀樹:「ハハハ、どうぞどうぞ。遠慮なさらず、召し上がってください。……絵恋、そっちにいないでお前も食べなさい!」
絵恋:「はーい」
絵恋さんとリサが来ると、彼女らも切り分けられた七面鳥を取った。
絵恋:「お父さん、ケーキは!?」
秀樹:「待ちなさい。ケーキは甘い物だから、デザートとして食べる。……とはいえ、そろそろ頃合いかな」
愛原:「ですね」
出前で取った寿司もあり、私は中トロを取りながら頷いた。
秀樹:「そろそろケーキを持ってきてくれ」
メイド:「はい、かしこまりました」
それにしても、ふと思ったことなんだが……。
斉藤家のクリスマスバーティーにしては、少し寂しいような気がした。
何しろ、斉藤家は秀樹社長と絵恋さんしかいない。
愛原:「あの、失礼ですが……」
秀樹:「何でしょうか?」
愛原:「できればリサの保護者として、奥様にも御挨拶したいのですが……」
秀樹:「ああ。家内は仕事先の忘年会で、今日は遅くなります。向こうも向こうで、クリスマスパーティーという名の忘年会があるようでして」
愛原:「そうなんですか」
秀樹:「大丈夫です。今日は娘たっての希望で行われた臨時のクリスマスパーティーです。我が家のメインパーティーは明日ですよ」
あ、なんだ。
それは良かった。
よくセレブの家にありがちな、両親は多忙でいつも家におらず、クリスマスも本当の意味でクリぼっちという話ではなかったか。
秀樹:「愛原さん達はもう忘年会は済ませたのですか?」
愛原:「逆に私達は明日やろうかと。うちの事務所の人間で」
秀樹:「ああ、なるほど」
高野君も誘って忘年会だな。
取りあえず、店は予約しておいた。
高橋君と高野君はウワバミだから、当然ながらアルコール飲み放題にしておかないとな。
メイド:「お待たせ致しました」
メイドさんがケーキを持って来る。
ケーキ屋で買えそうな、普通のショートケーキのホールだ。
恐らく明日は、もっと豪華なものが出て来るのだろうな。
絵恋:「リサさん、リサさん!リサさん、ローソク消して」
リサ:「いいの?」
絵恋:「うんうん。私は明日もあるから」
リサ:「なるほど」
メイドさんがローソクに火を灯す。
別に誕生日祝いではないので部屋の明かりを暗くする必要は無いのだが、何故かそういう演出がされた。
愛原:「!」
マズイな。
暗闇の中でリサの目が赤くボウッと光っている。
だがリサは、すぐにケーキの前に立ってローソクの明かりで誤魔化した。
リサ:「フッ!」
で、一息でローソクを消した。
絵恋:「メリークリスマース!」
粗方ご馳走を食べた後で、その掛け声は何か違和感がするのだが、何も水を差す必要もあるまい。
高橋:「粗方ご馳走片付けた後で、その掛け声は違和感マックスだぜ?……ぎゃん!」
愛原:「お前、ちょっと黙ってろ!」
私の気遣いを高橋が台無しにしやがったので、丸めた新聞紙で後ろから引っ叩いてやった。
秀樹:「どうです、愛原さん?ホールケーキはお久しぶりなのでは?」
愛原:「そうですねぇ。なかなか1人でケーキは食べる機会が無いですからね。せいぜい、コンビニで1人分のヤツを買うくらいでしょうか」
高橋:「俺は少年院以来……」
愛原:「しゃらぁーっ!」
スパーン!
高橋:「ぶっ!」
今こいつ、何か言ったよな。
少年院でホールケーキが出るだと?
全くもう!本当に日本は『加害者の人権が第一』だな!
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます