報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「マリアの予知」

2018-01-11 14:28:00 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月30日14:35.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 国際興業バス新都01系統車内]

 北与野駅前で更に乗客を乗せたバス。
 座席は殆ど埋まっている状態である。

〔♪♪♪♪。次は八幡通り、八幡通りでございます〕

 バスは県道215号線に入り、西に進む。

 マリア:「ん……?」
 稲生:「どうしました?」
 マリア:「何だろう?……この感じ……」
 稲生:「何ですか?」
 マリア:「この……体がむず痒いって言うか……」
 稲生:「ええっ?」
 マリア:「何か……このままバスに乗ってちゃいけないような……」
 稲生:「何ですって?それって、予知?」
 マリア:「多分……いや、分かんない」

 大きな水晶球は持ち運びに不便な為、家に置いて来ていた。
 恐らく今、水晶球には何か映し出されているのかもしれない。

〔「お知らせ無ければ通過します」〕

 
(別の季節に写した県道。稲生達のバスは右側のバス停を通過した。つまり、軽自動車の方向に走っている)

〔♪♪♪♪。次は与野切敷川、与野切敷川。マルエツ与野店前でございます〕

 稲生:「僕達は降りた方がいいんですか?」
 マリア:「何か、そんな気がしてしょうがない……」
 稲生:「分かりました」

 稲生が降車ボタンに手を伸ばした。
 稲生の服の袖でマリアの鼻をこちょこちょ……。

 マリア:「は……ハクション!ハクション!!」

 マリアはそれで2回くしゃみをした。
 バスは市道・与野中央通りの交差点を通過する。
 当然ながら、バス側の方が青信号なのであるが……。

 稲生:「!!!」

 そこでバスが急ブレーキ!
 与野中央通り側から、1台のトラックが突っ込んで来て止まった。
 バスへの出合い頭衝突まであと数センチ!

 稲生:「こ、これは……!?」

[同日16:00.天候:晴 イオンモール与野3F タリーズコーヒー]

 稲生:「トラックはブレーキ故障で暴走していたそうです。信号待ちで並んでいた車への追突を避ける為、対向車線に出たけども、僕達のバスと衝突してしまう所だったんですね。ところがその直前、前輪が2つとも同時に外れたと。前輪が無くなってキャブを擦り、その摩擦でトラックは急停車。衝突は避けられたということです」
 マリア:「もう少し早く気づいていれば……。私の予知能力だったんだろうけど、まだまだだな……」
 稲生:「先生の見解ではマリアさんがくしゃみ2回したことで、トラックの前輪が吹き飛んだんだろうということです」
 マリア:「何の魔法だ……」
 稲生:「別に、皆して結果オーライですよ。バスは立ち客がいなかったこともあって、急停車でも転んでケガする人はいなかったし、トラックのタイヤも誰かに当たることは無かったし、そのトラックもバスにぶつかることは無かったわけですし。そして何より、マリアさんが皆の前で魔法を使うことも無くて済んだ」
 マリア:「もう少し早く気づいていれば、そもそもあのバスに乗らなくて済んだだろう。まだ修行が足りないな」
 稲生:「いや、あれでいいんですよ」
 マリア:「どうして?」
 稲生:「そのおかけで、皆助かったんですから。もしあそこで僕達が乗り合わせなくて、マリアさんがくしゃみしなかったら、暴走トラックとバスの大衝突ですよ。もしかしたらその衝撃で、バスかトラックが歩道に乗り上げて、歩行者や自転車も巻き添えにしていたかもしれない。あの交差点はマルエツがあることもあって、人通りや自転車が多いですから」
 マリア:「……『魔女』とも呼ばれた私が人助けか。何か、違うなぁ」
 稲生:「違くないですよ!これは、マリアさんが『魔道師』になる為の、『魔女』からの脱却ですよ!」
 マリア:「ユウタはそれでいいのか?」
 稲生:「もちろん!」
 マリア:「門規でそもそも魔法の悪用は禁止されているけども、それで人助けしろという規則も無いからな……」
 稲生:「人助けするなとも書いてませんよ」
 マリア:「まあ、確かに」
 稲生:「こういうことが結構、見習修了の近道なのかもしれないと思いました」
 マリア:「なるほど。……って、何か私が教えられてるみたい」
 稲生:「あっ、すいません!」
 マリア:「いやいや」
 稲生:「それにしても、事故処理のおかげで随分と時間を取られちゃいましたからね。あまり買い物する時間が……」
 マリア:「まあ、しょうがない。気楽に回ろう」
 稲生:「そうですね」

[同日17:07.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 イオンモール与野バス停→西武バス新都11系統]

 辺りが暗くなる頃、稲生達は両親との待ち合わせ場所に行くことにした。

 稲生:「少し遠回りですが、こっちの方が空いてると思います」
 マリア:「うん、分かった」

 日が出ていてそれに当たっているうちはまだ暖かさも感じられたところだが、さすがにこの時間ともなると寒い。
 マリアはローブを羽織った。
 やってきたバスは、大宮駅から乗ったものと同じ車種であった。

 稲生:「今度は予知は大丈夫ですよね?」

 稲生は空いた2人席に腰掛けながら言った。

 マリア:「いやー、分かんない。私の今の力じゃ、直前がせいぜいみたいだ。今度、さっきのような感じがしたら、さっさと降りよう」
 稲生:「せっかくだから、人助けした方がいいと思いますけどねぇ」

〔発車します。お掴まりください。発車します〕

 バスが走り出す。

〔♪♪♪。このバスは円阿弥(えんなみ)、三橋(みはし)四丁目経由、大宮駅西口行きです。次は円阿弥、円阿弥。……〕

 稲生:「例えばこの先に、新大宮バイパスが通っていますが……」
 マリア:「何も感じないから、多分大丈夫だと思う。それよりユウタの方こそ、何かできないのか?」
 稲生:「うーん……」
 マリア:「前、よく予知夢を見ていたこともあったじゃないか」
 稲生:「ここんとこ、さっぱりで……。破門ですかね?」
 マリア:「師匠のことだから、上達が遅いくらいで破門も何もしないと思うけど。私は私で、変に魔力が上昇してしまってるから逆に怖い」
 稲生:「でも、僕みたいに上達が遅いよりはマシなのでは?」
 マリア:「株と同じで、急上昇すると後が怖いんだよ」
 稲生:「分かりやすいイメージですね!」
 マリア:「急でも上昇する株……もとい、魔力をいかに制御するかが問題なんだ。暴走させたりしたらヤバいからね」
 稲生:「そんなに?」
 マリア:「私の聞いた話では数十年前、魔力を暴走させた所をキリスト教カルト集団に見つかって捕まり、火あぶりにされた魔道師がいたらしい」
 稲生:「ダンテ門内で、ですか?」
 マリア:「そう。だから今、色々とそれを制御する魔法具は作られているんだけど……」

 魔法の杖しかり、水晶球しかり。
 昔からある物ではあるが、改良が加えられている。
 後者の場合、予知を魔道師の頭の中ではなく、水晶球に映し出すことにより、本人の負担を軽減させたり、他人に説明しやすくしたりしている。

 マリア:「こういうのが無かったら、私も危険だな」
 稲生:「なるほどねぇ……」

 尚、予想通り、後で両親からマリアの水晶球が光っていたことを指摘された。

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