[5月12日07:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]
稲生のスマホからアラームが流れる。
モーツァルト作“6つのレントラー舞曲”であり、こう書くと如何にもシックに見えるが、何の事はない。
京浜急行線の接近メロディであり、川口オートレースの発売締切3分前メロディでもある。
稲生:「う、ううーん……」
稲生は布団の中から大きく手を伸ばし、スマホのアラームを切った。
稲生:「快特、三崎口行きの到着です……」
そう呟きながら上半身を起こす。
ベッドの横に布団を敷いた威吹だったが、既にそこに威吹の姿は無かった。
稲生:「んん?」
稲生は起き上がって1階の洗面所に行こうとした。
稲生:「って、おおっ?」
元は2階用の洗面台があった所は、シャワールームに改装されている。
そこを使う者がいた。
簡易的に造ったものなので脱衣所は無く、折り戸の前には服やタオルが置かれている。
それはマリアの服だった。
マリアがシャワーを使っているのだった。
着替えの服以外に、寝巻に着ていたであろうワンピース型のそれが置かれていた。
触ってみると、まだ温かい。
すると!
マリア:「勇太、そこにいるの?」
と、シャワールームの中からマリアの声がした。
稲生:「は、はい!」
マリア:「下に行くのなら、ついでに私のパジャマ持ってって。部屋に置いとくだけでいいから」
稲生:「わ、分かりました!」
稲生はマリアの寝巻を持って、急いで客間に向かった。
稲生:「ん?」
客間に行くと、その外からは威吹の声がした。
威吹:「はーっ!」
窓から覗くと、そこは裏庭になっている。
そこで威吹が木刀を持って、鍛練しているのが分かった。
稲生:「妖狐の中でも、強豪の剣士というのは本当だなぁ……」
稲生は感心したように呟くと、マリアが寝ていたベッドの上に寝巻を置いた。
と、そこへ……。
イリーナ:「あら、勇太君。おはよう」
稲生:「せ、先生!?おはようございます!」
イリーナ:「なぁに?どうしたの?マリアの私物チェック?それとも私かしら?」
稲生:「ちちち、違います!これをマリアさんに、持って行くように言われて……」
イリーナ:「ああ、マリア。2階にいたのね。……ん?」
イリーナは稲生が持って来た寝巻を取った。
丸めて持って来ていたのだが、そこから1枚のショーツが出て来た。
イリーナ:「やぁだ、勇太君ったら。こんなものまで持って来ちゃってぇ……。これじゃマリア、シャワー室から出れないわ」
稲生:「ええーっ!?」
イリーナ:「おおかた、マリアが適当に脱ぎ捨てて、その下にこの替えの下着があったのね。で、勇太君がそれと知らずに持ってきちゃったと……」
稲生:「すいません!すぐに戻して来ます!」
イリーナ:「いいのよ。私が戻してくる。おおかた、シャワーから出て来たマリアとバッティングして大変なことになるという予知が出てるから」
稲生:「あ……」
イリーナは2階への階段を上がった。
すると、同時にマリアがシャワーから出て来たところだった。
マリア:「あ、師匠」
イリーナ:「マリア。脱いだ服はちゃんと畳んでおきなさいって言ったでしょ?ましてや、ここはよそのお宅なのよ?」
マリア:「す、すいません。てか、どうしてそれを?」
イリーナ:「ほら。パジャマの間に挟まってたってよ。危うく、ノーパンで出なきゃ行けなくなるところだったわね」
マリア:「う……!」
[同日07:30.天候:晴 稲生家1Fダイニング]
佳子:「この方達が手伝ってくれたんだけど、どちら様?」
ミカエラ:「どうも」
クラリス:「どうも」
マリアの人形達が人間形態になっていた。
メイド服に身を包んでいる。
イリーナ:「うちの専属メイドですわ。どうぞ、お気になさらず」
宗一郎:「ほお、さすがはイリーナ先生ですな!専属のメイドさんをお召し抱えとは……!」
稲生:「マリアさんの魔法人形なんだけどなぁ……」
イリーナ:「シッ」
宗一郎:「まあ、とにかくいただきましょう。皆さん、どうぞ遠慮なさらず」
威吹:「お言葉に甘えて、頂きまする」
朝食が始まった。
宗一郎:「今日は勇太、どこかに出かけるのか?」
勇太:「うん。ちょっと、正証寺に……」
マリア:「あっ、そうだ。藤谷さん達に、今度の結果を伝えに行かなくちゃな」
威吹:「藤谷氏……藤谷班長か」
稲生:「威吹も来なよ。正証寺は久しぶりでしょ?」
威吹:「そうだね」
稲生:「先生はどうされますか?」
イリーナ:「私はマリアを連れて、ショッピングに行ってくるわ」
マリア:「私も!?……ですか?」
イリーナ:「そうよ。弟子として、付き合いなさい」
マリア:「はあ……」
勇太:「あ、先生。僕は……」
イリーナ:「ああ、勇太君はいいのよ。後で合流してくれればいいわ」
威吹:「それで、イリーナ師。オレはいつ魔界に帰してくれる?」
イリーナ:「あなたが帰りたい時に帰らせてあげるわよ?」
威吹:「えーと……」
威吹は勇太を見た。
勇太:「明後日、月曜日に戻ろうと思うんだ。明日は第2日曜日。御講があるからね」
イリーナ:「それじゃ、勇太君のお寺の行事が終わってからでいいわね?」
威吹:「うむ。よろしく頼む」
[同日09:00.天候:晴 JR北与野駅]
北与野駅まではイリーナとマリアも一緒に来た。
イリーナ:「1度、向こうのショッピングモールを見たかったのよ」
稲生:「さいたま新都心ですか。今日は週末だから賑わっているはずですよ」
イリーナ:「そうでしょうね」
勇太、指定席券売機の所に行く。
稲生:「帰りは電車でいいですか?」
イリーナ:「いいよ」
稲生:「月曜日の朝、大糸線まで直通する特急“あずさ”がありますので……」
勇太、慣れた手つきでタッチパネルを操作する。
稲生:「えーと、先生がグリーン車で……。ん、グリーン車は空いてるな。僕とマリアさんが普通車で……」
イリーナ:「いいよ。皆で一緒に行こう」
稲生:「え?いいんですか?一応、弟子としての立場を……」
イリーナ:「いいのよ。ダンテ一門の信条は『仲良き事は美しき哉』なんだから」
威吹:「絶対にそれ、別の人物のパクリだろ」
威吹のツッコミに、魔道師達は誰も反論しなかった。
イリーナ:「キップは勇太君が預かってて」
稲生:「はい。……すいませーん」
稲生はキップを入れる紙製のチケットホルダーをもらおうと、有人改札口を覗いた。
駅員はすぐにチケット入れをくれたが、ついでにポケットティッシュまでくれた。
2つくれたのは、駅員から見て稲生だけでなく、威吹の姿も見えたからだろう。
稲生:「ああ、僕は今持ってるんで。これはマリアさんにあげます」
稲生はポケットティッシュ1つをマリアに渡した。
マリア:「ありがとう」
イリーナ:「日本は、こういう所がいいわね」
稲生:「それじゃ、お昼頃には戻って来ますので」
イリーナ:「はいよ。気をつけて行っといで」
稲生と威吹は自動改札機を通って、コンコースの中に入って行った。
稲生のスマホからアラームが流れる。
モーツァルト作“6つのレントラー舞曲”であり、こう書くと如何にもシックに見えるが、何の事はない。
京浜急行線の接近メロディであり、川口オートレースの発売締切3分前メロディでもある。
稲生:「う、ううーん……」
稲生は布団の中から大きく手を伸ばし、スマホのアラームを切った。
稲生:「快特、三崎口行きの到着です……」
そう呟きながら上半身を起こす。
ベッドの横に布団を敷いた威吹だったが、既にそこに威吹の姿は無かった。
稲生:「んん?」
稲生は起き上がって1階の洗面所に行こうとした。
稲生:「って、おおっ?」
元は2階用の洗面台があった所は、シャワールームに改装されている。
そこを使う者がいた。
簡易的に造ったものなので脱衣所は無く、折り戸の前には服やタオルが置かれている。
それはマリアの服だった。
マリアがシャワーを使っているのだった。
着替えの服以外に、寝巻に着ていたであろうワンピース型のそれが置かれていた。
触ってみると、まだ温かい。
すると!
マリア:「勇太、そこにいるの?」
と、シャワールームの中からマリアの声がした。
稲生:「は、はい!」
マリア:「下に行くのなら、ついでに私のパジャマ持ってって。部屋に置いとくだけでいいから」
稲生:「わ、分かりました!」
稲生はマリアの寝巻を持って、急いで客間に向かった。
稲生:「ん?」
客間に行くと、その外からは威吹の声がした。
威吹:「はーっ!」
窓から覗くと、そこは裏庭になっている。
そこで威吹が木刀を持って、鍛練しているのが分かった。
稲生:「妖狐の中でも、強豪の剣士というのは本当だなぁ……」
稲生は感心したように呟くと、マリアが寝ていたベッドの上に寝巻を置いた。
と、そこへ……。
イリーナ:「あら、勇太君。おはよう」
稲生:「せ、先生!?おはようございます!」
イリーナ:「なぁに?どうしたの?マリアの私物チェック?それとも私かしら?」
稲生:「ちちち、違います!これをマリアさんに、持って行くように言われて……」
イリーナ:「ああ、マリア。2階にいたのね。……ん?」
イリーナは稲生が持って来た寝巻を取った。
丸めて持って来ていたのだが、そこから1枚のショーツが出て来た。
イリーナ:「やぁだ、勇太君ったら。こんなものまで持って来ちゃってぇ……。これじゃマリア、シャワー室から出れないわ」
稲生:「ええーっ!?」
イリーナ:「おおかた、マリアが適当に脱ぎ捨てて、その下にこの替えの下着があったのね。で、勇太君がそれと知らずに持ってきちゃったと……」
稲生:「すいません!すぐに戻して来ます!」
イリーナ:「いいのよ。私が戻してくる。おおかた、シャワーから出て来たマリアとバッティングして大変なことになるという予知が出てるから」
稲生:「あ……」
イリーナは2階への階段を上がった。
すると、同時にマリアがシャワーから出て来たところだった。
マリア:「あ、師匠」
イリーナ:「マリア。脱いだ服はちゃんと畳んでおきなさいって言ったでしょ?ましてや、ここはよそのお宅なのよ?」
マリア:「す、すいません。てか、どうしてそれを?」
イリーナ:「ほら。パジャマの間に挟まってたってよ。危うく、ノーパンで出なきゃ行けなくなるところだったわね」
マリア:「う……!」
[同日07:30.天候:晴 稲生家1Fダイニング]
佳子:「この方達が手伝ってくれたんだけど、どちら様?」
ミカエラ:「どうも」
クラリス:「どうも」
マリアの人形達が人間形態になっていた。
メイド服に身を包んでいる。
イリーナ:「うちの専属メイドですわ。どうぞ、お気になさらず」
宗一郎:「ほお、さすがはイリーナ先生ですな!専属のメイドさんをお召し抱えとは……!」
稲生:「マリアさんの魔法人形なんだけどなぁ……」
イリーナ:「シッ」
宗一郎:「まあ、とにかくいただきましょう。皆さん、どうぞ遠慮なさらず」
威吹:「お言葉に甘えて、頂きまする」
朝食が始まった。
宗一郎:「今日は勇太、どこかに出かけるのか?」
勇太:「うん。ちょっと、正証寺に……」
マリア:「あっ、そうだ。藤谷さん達に、今度の結果を伝えに行かなくちゃな」
威吹:「藤谷氏……藤谷班長か」
稲生:「威吹も来なよ。正証寺は久しぶりでしょ?」
威吹:「そうだね」
稲生:「先生はどうされますか?」
イリーナ:「私はマリアを連れて、ショッピングに行ってくるわ」
マリア:「私も!?……ですか?」
イリーナ:「そうよ。弟子として、付き合いなさい」
マリア:「はあ……」
勇太:「あ、先生。僕は……」
イリーナ:「ああ、勇太君はいいのよ。後で合流してくれればいいわ」
威吹:「それで、イリーナ師。オレはいつ魔界に帰してくれる?」
イリーナ:「あなたが帰りたい時に帰らせてあげるわよ?」
威吹:「えーと……」
威吹は勇太を見た。
勇太:「明後日、月曜日に戻ろうと思うんだ。明日は第2日曜日。御講があるからね」
イリーナ:「それじゃ、勇太君のお寺の行事が終わってからでいいわね?」
威吹:「うむ。よろしく頼む」
[同日09:00.天候:晴 JR北与野駅]
北与野駅まではイリーナとマリアも一緒に来た。
イリーナ:「1度、向こうのショッピングモールを見たかったのよ」
稲生:「さいたま新都心ですか。今日は週末だから賑わっているはずですよ」
イリーナ:「そうでしょうね」
勇太、指定席券売機の所に行く。
稲生:「帰りは電車でいいですか?」
イリーナ:「いいよ」
稲生:「月曜日の朝、大糸線まで直通する特急“あずさ”がありますので……」
勇太、慣れた手つきでタッチパネルを操作する。
稲生:「えーと、先生がグリーン車で……。ん、グリーン車は空いてるな。僕とマリアさんが普通車で……」
イリーナ:「いいよ。皆で一緒に行こう」
稲生:「え?いいんですか?一応、弟子としての立場を……」
イリーナ:「いいのよ。ダンテ一門の信条は『仲良き事は美しき哉』なんだから」
威吹:「絶対にそれ、別の人物のパクリだろ」
威吹のツッコミに、魔道師達は誰も反論しなかった。
イリーナ:「キップは勇太君が預かってて」
稲生:「はい。……すいませーん」
稲生はキップを入れる紙製のチケットホルダーをもらおうと、有人改札口を覗いた。
駅員はすぐにチケット入れをくれたが、ついでにポケットティッシュまでくれた。
2つくれたのは、駅員から見て稲生だけでなく、威吹の姿も見えたからだろう。
稲生:「ああ、僕は今持ってるんで。これはマリアさんにあげます」
稲生はポケットティッシュ1つをマリアに渡した。
マリア:「ありがとう」
イリーナ:「日本は、こういう所がいいわね」
稲生:「それじゃ、お昼頃には戻って来ますので」
イリーナ:「はいよ。気をつけて行っといで」
稲生と威吹は自動改札機を通って、コンコースの中に入って行った。
乗り鉄と仕事帰りの友人と合流する為、東北本線に乗っている。
仙台17時51分発、普通、利府行き。
編成、E721系1000番台+E721系0番台の6両編成。
私の乗車車両はE721‐1015。
先頭である。
しかしながら、所詮は6両。
同じ線路上を15両編成で走る宇都宮線には、到底及ばない。