報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「埼京線とアルピコ交通」

2017-12-05 19:11:40 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月7日13:53.天候:晴 JR大宮駅埼京線ホーム→1356F10号車内]

〔まもなく20番線に、りんかい線直通、快速、新木場行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。次は、与野本町に止まります〕

 地下ホームで電車を待っていると、トンネルの向こうから青白いヘッドライトが近づいて来た。
 電車が巻き込んで来た風によって、マリアの金髪が揺らめく。

〔おおみや、大宮。ご乗車、ありがとうございます。次は、与野本町に止まります〕

 川越からやってきた快速電車。
 大宮駅で下車する客は多い。
 先頭車に乗り込むと、マリアのブレザーと同じ色合いの座席に腰掛けた。

〔この電車は埼京線、快速、新木場行きです〕
〔This is the Saikyo line rapid service train for Shinkiba.〕

 稲生:「もしかしてマリアさん。やろうと思えば魔法で移動できるのに、わざわざ電車やバスを使う理由って……」
 マリア:「魔女狩りをやる側からすれば、まさか魔女が公共交通機関を使うとは思うまい、ということさ」
 稲生:「なるほど。そういうことでしたか」

 地下ホームに発車メロディが鳴り響く。

〔20番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 稲生:「エレーナは堂々とホウキで空飛んでるけど……」
 マリア:「さあ……。あいつの考えてることは分からない」

 電車のドアが閉まり、それから静かに走り出した。
 ほんの少し前までは如何にVVVFインバータとはいえ、トンネル内に大きく反響するほどの音だったのに、今ではモーターの積んでいない車両においては殆ど何も聞こえないほどになっている。

〔この電車は埼京線、りんかい線直通、快速、新木場行きです。停車駅は与野本町、武蔵浦和、戸田公園、赤羽。赤羽から先は、各駅に止まります。次は、与野本町です。……〕

 電車は地下トンネルを出ると、一気に高架線へと駆け登る。
 そこから赤羽駅まで、新幹線と並走する。
 尚、まだ稲生が大学生だった頃、敵対していたエレーナが埼京線通勤快速と競走したことがあった。
 埼京線の最高速度は100キロであるが、朝の通勤快速が走る時間帯は過密ダイヤの為にそこまで高速で走行できないと見られ、90キロ程度であったと思われる。
 エレーナがホウキでそれと並走したことがあった。
 最後には新幹線と衝突しそうになり、赤羽〜北赤羽間のトンネルの入口で失速した。

 稲生:「あ、そうそう。どうしてあの時、エレーナを助けたんですか?」
 マリア:「師匠の命令さ。本当はトドメ刺しておきたかったけど」
 稲生:「助けておけば、後で強力な助っ人になるという予言だったんですね」
 マリア:「まあ、そういう事になるかな」
 稲生:「それだけの予知能力、いつになったら付くのかなぁ……?」
 マリア:「まあ、そのうちね。ユウタは私よりも素質があるって言うから、私よりも早いかも」
 稲生:「何だか、自覚無いですねぇ……」

[同日14:25.天候:晴 JR新宿駅→バスタ新宿]

〔まもなく新宿、新宿。お出口は、右側です。中央快速線、中央・総武線、山手線、京王線、小田急線、地下鉄丸ノ内線、都営地下鉄新宿線と都営地下鉄大江戸線はお乗り換えです〕
〔「まもなく新宿、新宿です。1番線に入ります。お出口は、右側です。新宿を出ますと、次は渋谷に止まります」〕

 稲生:「ここで乗り換えです」

 電車はポイント通過の為、速度を落として入線する。

 マリア:「いつも通りだな」
 稲生:「そうですね」

 しかし、埼京線と湘南新宿ラインホームの工事はいつ終わるのだろうか。

〔しんじゅく〜、新宿〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、渋谷に止まります〕

 電車のドアが開くと、大勢の乗客が降り出した。
 稲生達もそれに続く。

 マリア:「ユウタ、まだバスに乗り換えるまで時間ある?」
 稲生:「ありますよ」
 マリア:「じゃあ、ちょっと……」

 途中でトイレに立ち寄る。
 バスタ新宿にもトイレはあるのだが、特に女子トイレが混雑しやすい問題が発生しており、それなら駅のトイレの方がまだ入りやすいというのはある。
 マリアはそこで用を足すだけでなく、ソックスからストッキングに履き替えた。
 東京はまだ大丈夫だろうが、さすがに屋敷のある長野県北部山中は寒いだろうと思ってのことだ。

 マリア:(これでよし)

 マリアは個室を出ると、洗面所に立ち寄って手を洗った。

 女性A:「アンジェラ、待って!」
 女性B:「やっとトイレあった!」
 マリア:「!!!」

 そこへ外国人女性2人がバタバタ入って来た。
 聞き覚えのある名前が耳に入って来たので、マリアの手が止まった。
 声のした方を見ると民族は違うだろうが、白人女性2人がそれぞれ別々の個室に入って行く所だった。

 マリア:(びっくりした……。あの、アンジェラじゃないよな……)

 マリアはハンカチで手を拭くと、急ぎ足でトイレから出た。
 トイレの外では稲生が待っていた。

 稲生:「ああ、マリアさん」
 マリア:「お待たせ。行こう」
 稲生:「バスタはこっちです」

 2人してバスタ新宿へ向かう。

 マリア:「あのさ、ユウタ」
 稲生:「何ですか?」
 マリア:「私が出てくる直前に、英語を話す女2人がトイレに入って行かなかった?」
 稲生:「ああ、いましたね。まあ、新宿も外国人旅行客が多いですから」
 マリア:「2人とも白人だったか?」
 稲生:「そうですね。やっぱり、向こうの人達は背が高いですね」
 マリア:「民族にもよるさ。私はこの通り低い」
 稲生:「あっ、いや、そういう意味では……」
 マリア:「魔道師という感じはした?」
 稲生:「いえ、全然。普通に日本旅行中という感じでしたが……」
 マリア:「そうか。それならいい」
 稲生:「何か?」
 マリア:「いや、何でも無い」

 マリアは後からエスカレーターに乗って考えた。

 マリア:(確かにアンジェラには申し訳ないことをした。その罪、本来は私の死を持って償うべきだ。だけど、こうして魔女として生かされている……)
 稲生:「あ、そうそう。さっきスマホでネットニュースを見ていたんですけど、ロシアの銃撃事件。犯人は全員射殺されたらしいんですけど、やっぱり被害者の関係者というのは出てこないですね」
 マリア:「うちの師匠と違って、アナスタシア師らは表舞台には出ない人達だ。だから、ニュースに名前すらも出てこないだろう」
 稲生:「ロシアンマフィアか……」
 マリア:「日本ではどうだか分からないが、ロシアでは政府高官がマフィアと繋がっていることはよくあることなんだそうだ。つまり、アナスタシア組はそんな政府高官と繋がる方ということさ」
 稲生:「プーチン大統領をして、旧ソ連諜報機関KGBの職員だったらしいですからね」
 マリア:「そういった意味では、うちの組は楽でいい。少なくとも、そんなスパイ活動はしなくていいんだから」
 稲生:「そうですね」

[同日15:05.天候:晴 アルピコ交通東京バス車内]

 乗り込んだバス車内は通常の4列シート。
 しかし後部にはトイレが付いていて、しかもベタな貸切観光バスの座席よりはシートピッチが広めになっている。
 Wi-Fiも付いているほどだ。

 稲生:「このバスで行くと、着くのは夜になりますね」
 マリア:「別にいいさ。迎えは手配している。だた、ディナーは少し遅くなるけどな」
 稲生:「何でしたら途中休憩もありますから、それで少しつまむという手はあります」
 マリア:「うん」
 稲生:「どっちみち、ミク人形達にアイスクリームは買うことにはなりますしね」

 稲生は荷棚に乗せたマリアのバッグを見た。
 そこにはバッグから出て来た人形達が、既に寝転がるなどして寛いでいた。

 全席の7割ほどの乗客を乗せて、バスはバスタ新宿を出発した。
 途中の中央高速にもバス停はあるので、そこから更に何人かの乗客を乗せるのだろう。

 マリア:(師匠が何を考えているのか知らないけど、私はまだ死ねない。人間としては幸せになれなかったけども、魔道師としては幸せにやってみせる)

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