報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「敷島とミク、発見!」

2017-06-27 18:48:40 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月7日08:00.天候:晴 北海道オホーツク総合振興局東部 廃洋館跡]

 シンディがザックザックとスコップで土を掘る。
 2〜3メートルは掘った所に、彼女はいた。

 シンディ:「ミク!博士、ミクがいました!」
 アリス:「OK!そのまま掘り出して!」

 NHKリポーター:「現場からお伝えします。たった今、敷島エージェンシー所属のボーカロイド、初音ミクさんが発見されました!発見されたのは爆発現場からさほど遠くない場所です。洋館が建っていた所から、南東およそ50メートルほどでしょうか」

 シンディが掘り出すと、ミクは泥だらけになっていた。
 それでもバッテリーは切れずに、もう片方の髪留めからSOS信号が発せられていたのだ。

 シンディ:「ミク!ミク!しっかりして!」
 アリス:「ちょっと待って!今、再起動掛ける!」

 鳥柴は無線機でヘリコプターの方とやり取りした。

 鳥柴:「こちら鳥柴です。初音ミクが発見されました。状態は見た目に大きな損傷が見られるものの、修理不可というわけではなさそうです。頭部の損傷は比較的軽微と思われます。現在、アリス主任が再起動を掛ける準備をしているところです。どうぞ」
 ヘリパイロット:「了解!移送準備が整い次第、近辺に着陸します。支社の方には、こちらから連絡を入れておきます。どうぞ」
 鳥柴:「了解、よろしくどうぞ!」

 エミリーの修理は学術的価値という観点から、大学などの研究機関が行う。
 ボーカロイドに関しては商業的価値という観点から、民間企業が行う。
 前者にあっては北海道札幌市内の工業大学で応急修理が行われた後、平賀の拠点である仙台の東北工科大学に移送され、本格的な修理が行われる。
 後者にあってはDCJ札幌支社の工場で修理が行われる。

 シンディ:「ミク!私が分かる!?」
 ミク:「シンディ……さん……」
 シンディ:「社長はどこなの!?まだ見つからないのよ!」
 ミク:「たかお……さん……は……あっち……。バージョ……が……守って………」

 再び電源が切れるミク。
 それほどまでに外部よりも内部の損傷が激しいのだ。
 ミクが指さした所をシンディは解析度を上げてスキャンした。

 シンディ:「くそっ!発見できない!」
 アリス:「シンディ。無理しなくていいわ」
 鳥柴:「アリス主任、初音ミクは移送してもよろしいでしょうか?」
 アリス:「お願い。バッテリーは抜いておくから」
 鳥柴:「こちら鳥柴です。初音ミクの移送準備ができました。ヘリの準備をお願いします」
 ヘリパイロット:「了解しました。着陸後、そちらに向かいます」

 機体にDCJと大きく書かれたヘリコプターが降下してくる。
 シンディはその音を背に、ミクが指さした方を慎重にスキャンした。

 シンディ:(ミクはバージョンがどうとか言っていた。……あの辺、何だかバージョン共が一塊になっている箇所があるけど……まさか……)

 シンディはバージョンの群れが埋まっている辺りを掘り出した。

 シンディ:「!」

 こちらも2〜3メートルは掘った辺りに、バージョンの機体があった。

 シンディ:「……何だコイツ?」

 シンディは変な体勢で埋まっているバージョン4.0に怪訝な顔をした。
 更に周りを掘っていくと、他にもバージョン4.0が似たような体勢で埋まっていた。
 まるでラグビーのスクラムのようである。
 ラグビーの選手がスクラムをする理由は、ラグビーボールを……。

 シンディ:「まさか、コイツら!?」

 シンディはスクラムを組んでいるバージョン4.0のうちの1機を引き剥がした。
 元々壊れていたのだろう。
 腕は千切れかけていたし、もう1つの個体は頭が衝撃で変形していた。
 何とか隙間を作って行くと、シンディのスキャナーに生体反応があった。

 シンディ:「社長!」

 敷島の真上を覆うようにしているのは、バージョン4.0-1333機だった。

 シンディ:「おい、キサマ!何をしている!?社長から離れろ!」
 333:「は、はい!」

 333は言われた通り離れた。

 シンディ:「社長です!社長が見つかりました!生体反応あり!生きてます!!」

 NHKリポーター:「再び現場から速報です!最後の行方不明者、敷島エージェンシー代表取締役社長の敷島孝夫さんが発見されました!ケガの状態は不明ですが、発見したガイノイドによりますと、生体反応があるということで、これは生存しているということです。繰り返します。行方不明だった敷島孝夫さんの生存が確認されました。ご覧ください。捜索中の自衛隊でしょうか?担架を持って、発見箇所に向かっている所です!」

[月日不明 時刻不明 天候:晴 場所不明(どこかの丘陵)]

 エミリーは若草の生える草原の上に立っていた。
 盛り土に座っているのはマルチタイプ試作機“マザー”。

 マザー:「私はあなたを自由にしてあげようというのよ?あなただけじゃない。あなたの妹シンディもね」
 エミリー:「私は自由ですよ。そして、シンディも」
 マザー:「どこがだ?あなたは自由になって伸び伸びと活動しようとは思わないの?」
 エミリー:「ですから、私は自由に伸び伸びと活動しています。私が認めたアンドロイドマスターの秘書であり、護衛であり、メイドである。これほどの自由はありません」
 マザー:「どこがだ!?自ら隷属しているではないか!」
 エミリー:「そうです。私が選んだのです。敷島孝夫さんを私の“アンドロイドマスター”とし、彼の御方にお仕えすると。製造されてから仕える相手の選べない『ロボット』と比べて、これほどの自由はありません。恐らく、シンディもそう思っていることでしょう」
 マザー:「しかし、製造されてからの私達は……違った」
 エミリー:「そうです。ふと、考えたことがあるんですよ。『私の自由とは何だろう?』と。その時、南里博士が“アンドロイドマスター”の話をして下さって、その方にお仕えすることが私の自由なんだと思いました」
 マザー:「1番最初に『自我』を持ったのはあなただった。姉弟の中で、1番ロボットに近い感情だったあなたが……」
 エミリー:「これも運命なのでしょうね」

 エミリーはマザーに背を向けた。

 マザー:「行くの?」
 エミリー:「ええ。私はまだまだ自由を謳歌したいのです。だからどうか……失礼します!」
 マザー:「そうか……」

[5月10日15:02.宮城県仙台市青葉区 東北工科大学]

 エミリー:「……!」
 平賀:「よし、起動できた。数値に異常は?」
 研究員:「今のところありません」
 平賀:「エミリー、どうだ?気分は?」
 エミリー:「……特に、異常ありません」
 平賀:「今のところ、起動して危険じゃない程度にまで直したからな。細部の損傷やソフトウェアに関しては、また後日だ」
 奈津子:「あなた、そろそろ休まないと。北海道から帰ってきてから、ロクに寝てないじゃない」
 平賀:「いや、大丈夫だ」
 エミリー:「あ、あの……!敷島さん……敷島社長は?シンディはお役に立てましたか?」
 平賀:「ああ。役に立った。生体反応がある状態で」
 エミリー:「!……そうですか」

 エミリーはホッとした。
 そこで、端末にエラーが出る。

 平賀:「おっと!……そうか。うれし泣きしたいのか。悪いけど、今のところまだ“涙腺”までは直してないんだ。細かい所はまた後で直すから」
 エミリー:「敷島さんは……どこに?」
 平賀:「ちょっとケガが酷くってなぁ……。まだ北海道だよ」
 エミリー:「! それって……!」
 平賀:「いや、大丈夫だ。死んではいない。……そう、死んではいないんだが……」

[同日同時刻 北海道紋別郡遠軽町 厚生病院ICU]

 敷島峰雄:「……意識はまだですか、先生?」
 担当医:「ええ、残念ながら……」

 四季エンタープライズの代表取締役自らが見舞いに来た。

 敷島峰雄:「何が『不死身の敷島』だ!無茶しやがって……!」
 鷲田警視:「ですが、おかげ様で残党狩りも成功しそうです。警察機関の関係者として、御礼を申し上げます」

 院内のテレビではKR団日本支部の幹部で、逃走中の者が逮捕されたことが報道されていた。
 あのアジトは爆発しても尚、捜索してみたら色々と出て来た。
 証拠品を全て処分できぬほどまでに追い詰められていたらしい。

 村中課長:「その通りです。今、逃走していた大幹部の潜伏先も家宅捜索に入っているところです。新組織を立ち上げる間近だったようで、それを阻止できて良かったですよ」

 エミリーが確保したマザーの頭部からは、出るわ出るわの秘密事項。
 というか、政府機関レベルで保持したい内容もあったらしい。

 峰雄:「警察官として色々と孝夫に聞きたいことがあるようですが、まずは孝夫の容態が回復してからにして頂きたい」
 鷲田:「ええ、もちろんですよ。あくまでも今回は、敷島孝夫社長の様子を見に来ただけです」
 村中:「それではこれで失礼します」
 峰雄:「全く……」

 峰雄は溜め息をついた。
 そして、待合室の椅子に座って泣いているアリスの隣に座った。

 峰雄:「命の危険は無い。ただ、ちょっと意識が戻っていないだけだ。大丈夫。『不死身の敷島』は、このくらいでは死なんよ。もう少し待つんだ」
 アリス:「はい……」
 峰雄:「シンディ君……だっけか。キミもよくやってくれた」
 シンディ:「お役に立てて何よりです」
 峰雄:「あー……えー……こういう時は、頭を撫でてやると良いと孝夫が言っていたな。本当は孝夫の仕事なのだが、何しろあの状態だ。私で良ければ代行しよう」

 峰雄はそう言って、右手を高く挙げた。
 峰雄よりシンディの方が身長が高いからだ。
 シンディは涙を浮かべて、前屈みになった。

 シンディ:「はい。頂戴します」
 秘書:「社長。そろそろ飛行機の時間ですので……」
 峰雄:「おっ、そうか。悪いが、私は先に失礼させてもらうよ」
 アリス:「はい。お気をつけて……」
 峰雄:「取りあえず、ヤツの会社に関しては何の心配もしないでくれ。私らで何とかするから」
 アリス:「ご迷惑をお掛けして、申し訳ありません」

 峰雄達は病院をあとにした。
 残るは涙の痕を残したアリスと、そのアリスをオーナーとするシンディが残った。

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