報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「新年度」

2015-03-28 15:16:32 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月1日08:00.長野県某所・マリアの屋敷 稲生ユウタ&イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

「今朝早く、マリアさんが青い顔してトイレに行きましたが、大丈夫ですか?」
 ユタが洗面所で顔を洗っていると、イリーナが眠そうな顔して起きてきた。
「ああ、時々あるのよ。今はもう悪魔から引き離してるからね」
「そうですか」
「あのコも人間時代に色々あったから……」
「それと比べて、僕は比較的良い生活をしてきたから、何だか申し訳無いですね」
「いいのよ。ハングリー精神の強弱が関係無いわけじゃないけど、魔道師をやるヤツなんて、色んな過去を持ってるから。それより、ユウタ君は今日も課題をよろしくね」
「は、はい」

 ここに来てまだ数日。
 弟子入りには何か特別な儀式でもあるのかと思ったユタだったが、特段そんなことは無かった。
 で、与えられた課題というのも……。

[同日09:00.同場所 ユタ&マリアンナ・スカーレット]

「うーん……」
 傍から見て、これが魔道師になる為の修行だとは誰も思うまい。
 ユタは机に向かっているが、その上に置かれた教材はおおよそ件のものとは無関係だからだ。
 ユタが頭に装着しているのはヘッドホン。
 当然その接続先はオーディオ機器。
 机の上には、英語の教材がわんさか置かれていた。
 ユタに与えられた課題は、最低でも日常会話には困らないほどの英会話能力を身に着けること。
 いずれは、英文で書かれた魔道書を難無く読めるまでになってからだとのことだ。
 最初、イリーナはロシア語を覚えさせようとして、マリアの反対にあった。
「多くの魔道師は英語圏の国の者が多いので、英語の方がいいです」
 そういうマリア自身もそこの出身である。
「えー?ロシア圏も結構多いよー?」
 とのことだが、マリアに押し切られた形だ。
 マリアも直弟子ではあるが、1度は免許皆伝を受けたことがあるだけに、ユタより強く言える立場なのだろう。
 また、イリーナもマリアに1度は免許皆伝をさせてしまったために、マリアに対しては強く言えない所がある。
 ユタに英会話能力を身に着けさせる理由は、まずここの師弟達がユタと会話する為に魔法を使うことが無いようにする為。
 今までユタとの会話は、魔法で言語を変換させていた。
 それだって魔力を使う。
 やはり日常会話程度で魔力を使うのはいかがなものかとなり、それだけは自力で何とかなるよう……ということだ。

「ユウタ君」
「はい?」
 後ろからポンと肩を叩かれ、振り向くとマリアがいた。
 ヘッドホンを外すと、
「師匠がお出かけだから、見送りに行くよ」
 とのこと。
「あ、はい」
 ユタはオーディオを止めて、ヘッドホンを置いた。
「イリーナさ……先生は、どちらへ?」
「年度始めは世界中の魔道師が集まる。一部の弟子が同行することもあるけども、私達は今回はお留守番だ……ってさ」
 エントランスに移動しながら、マリアが言う。
「そうなんですか。マリアさんも行ったことが?」
「ああ。実は人間界で行われている。どこの国で行うかは、年によって違うけどね」
「日本で行われたことも?」
「いや、無い」
 さすがのマリアもこのユタの質問には、苦笑して答えた。
 世界中の魔道師が一同に会する催事が行われない『辺境の国』に住んでいることへの皮肉か。

[同日09:10.同場所・エントランス ユタ、マリア、イリーナ]

 エントランス前の車寄せには、1台の車が止まっていた。
 一体、この屋敷には何台の車が常駐しているのであろう?
 イリーナの荷物を乗せている黒塗りの高級そうなセダンは、少なくとも日本製ではなかった。
 この前“ムーンライト信州”から乗り換えた迎えの車は、ロンドンタクシーによく似たものだったから、イリーナ用にはロシア車でも用意されているのだろうか。
 黒いスーツに黒い帽子を被った運転手と、人間形態になったマリアの人形が荷物の積み込みを手伝っている。
「これから外国へ?」
「そうよ。今年はロンドンね」
「やっぱり」
 マリアはやっぱり苦笑い。
「やっぱり?」
「どうしてもお国柄、イギリスで行われることが多いのよ。大陸でやったりしたら、嗅ぎ付けたクリスチャンのテロリストがすっ飛んで来るから」
「未だに魔女狩りってあるんですねぇ……」
 “ハリー・ポッター”が流行ったこともあって、イギリスではそういったことに寛容らしい。
 そういえば“魔女の宅急便”も舞台はイギリスだ。
(未だに差別が横行しているアメリカやオーストラリアじゃ、魔女狩り当たり前のキリスト教過激派が突っ込んでくるってか……)
 そう思ったユタは、
「日本なら大丈夫なんじゃないですか?」
「そうね。是非とも会議で、『今度は日本でやってみたら?』なんて上げてみるわ」
「師匠が日本に在住している時点で、意外と通りそうですね。東京オリンピックのドサグサでできそうです」
 マリアも頷いて言った。
「いずれはユウタ君も連れて行ってあげるからね」
「はい」
 寡黙な運転手がリア・シートのドアを開ける。
「ああ、そうそう。もし私が留守の間に何かあったら、魔界の拠点に向かって」
「分かりました」
「魔界の拠点?」
 ユタが首を傾げたが、それには答えず、イリーナは出発していった。
「魔界の拠点って何ですか?」
「アルカディア・シティの宿屋に、師匠が向こう側の活動拠点となる場所を設けてるのよ。ただそれだけ。宮廷魔導師になれば、魔王城内の広い部屋を宛がわれたんだろうけどねぇ……」
「ということは今、宮廷魔導師をやってるポーリン師も?」
「多分、行くんじゃない?大師匠様も行かれるから、その後でこっちに寄られるかもね」
「なるほど……」
「ユウタ君は、師匠が帰るまで例の課題の繰り返しだね」
「……ですね」
 ユタは苦笑いを浮かべて屋敷の中に入った。
 この会話もまたマリアが魔法を使って、日本語変換している。
 いくら言語変換の魔法に使う魔力が微小なものとはいえ、『塵も積もれば山となる』と同じで、1日中使うと意外に魔力を使っていることが多い。
(その負担を減らす為にも頑張らないとな)
 ユタはパンッと手を叩いて気合いを入れた。

[同日09:30.長野県内某所 イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 長野県内の県道を走るイリーナの車。
 膝の上に置いた水晶球に向かって、誰かと会話するイリーナの姿があった。
「……では、この場合の対象はマリアになるのかしら?……ああ、そりゃガチだね。……そう思って、日本くらい辺境な場所なら大丈夫だと思ってたんだけど、それでもダメか……。最悪、魔界に避難させるか……いや、それも危険かね。……まあ、分かったわ。それについては、私の方でも何とかしてみる。……うん。だから、あなたも情報が分かったらお願い。……うん。それじゃ」
 電話……もとい、水晶球での通話を切るイリーナ。
(あの野郎、まだ狙ってたのか……。このままフェード・アウトしてやろうと思ってたのに……)

 どうやら、また何か大きな陰謀が渦巻いている……ようだ。

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3 コメント

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Unknown (ANP)
2015-03-28 22:15:10
お金を払ってこのアプリをダウンロードするとサトーコーイチのような暮らしができるそうです

http://userimg.teacup.com/userimg/8253.teacup.com/donsu/img/bbs/0010715.jpg
返信する
ANPさんへ (作者)
2015-03-28 22:41:02
 何スか、この世界一拝みたくない仏壇は?
 てか、中央のイラストって、もしや【禁則事項です】。
返信する
今後の展開予定 (作者)
2015-03-29 21:28:13
 マリアの操る人形の数と魔力の消費量は比例する。
 しかし数を多くすればその分、人形一体当たりの戦闘力は弱くなる。
 数を少なくして、その分、一体当たりを強化することにしたマリア。

 その頃、魔道師達の会合に出席していたイリーナは、ある情報を別の魔道師から受ける。
 それによると、弟子のマリアに危険が迫っているらしい。
 実はイリーナ自身はある程度織り込み済みで、拠点をイギリスから遠く離れた日本にしたのも、それが理由だったのだが、どうもその予測は甘かったようだ。
 急いでマリアに手紙を送り、自身も急きょ日本へ戻ろうとするが、途中で飛行機ごと行方不明になってしまう。

 マリアとユタはその飛行機事故に困惑しながらも、イリーナのことだからきっと無事であると自分達に言い聞かせ、魔界アルカディア王国の首都アルカディア・シティに構えているとされるイリーナの拠点に向かう。
 それは町外れにある一軒の宿屋なのだが、そこはもぬけの殻で、人の気配は無かった。
 2人で手分けして手掛かりを探すうち、マリアは館内である人物と接触する。
 その人物とは……。
 
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