[5月7日18:00.天候:晴 アルカディアシティ南端村 魔界稲荷神社]
魔界に稲荷神社なんて、物凄く不自然かもしれない。
しかし、そこが日本人街たる所以でもある。
妖狐は稲荷大明神の使いの狐という顔もあり、もちろん全員がそれというわけではないが、妖狐の威吹と巫女(当時)のさくらが住むには思いっ切りマッチした場所であった。
現在は地元民の手により、境内の拡幅と建物の改修、増改築が行われている。
さくらも神職ではない巫女から、禰宜になっている。
銀髪:「稲生殿方、お疲れさまです!先生が待ちきれずに、まもなくやってきますよ」
威吹:「ユターっ!!」
鳥居の向こうから見覚えのある妖狐がバタバタと走って来た。
稲生:「威吹……!」
危うく飛び掛かって来られるところだったので、マリアが魔法の杖を構えたくらいだ。
威吹:「久しぶりだね!何年ぶりかな!?」
稲生:「いや、まだそんなに経っていないと思うけど……」
威吹の歓喜の声に、周囲の弟子達はざわつく。
銀髪:「あの厳しい先生が……」
茶髪:「マジか……」
妖狐A:「あの人間、何者だ?」
妖狐B:「あれが先生のかつての“獲物”……」
威吹:「さあさあ、中に入ってくれ!」
稲生:「マリアさんとイリーナ先生もいいかい?」
威吹:「う……正直ボクは気が乗らないが……」
マリア:「何でだよ!」
イリーナ:「もちろん、タダで泊めてとは言わないよ。ちゃんと宿代は物納で払うわ」
イリーナは魔法を杖を取り出し、ダンテの呪文を唱えた。
そして、空中から宝箱が何個か出てくる。
イリーナ:「はい、どうぞ」
威吹:「これは……缶詰とレトルト食品、そして保存用の水……って、もしかして非常用備蓄品か!?」
イリーナ:「当ったりー!」
銀髪:「先生、何ですか?この乾パンって?」
茶髪:「こんな固い物が食えるのか?」
茶髪は缶詰に牙を立てた。
威吹:「それは中身を食うんだ。……ま、ボクもボンカレーと牛肉大和煮の缶詰は美味いと思う」
稲生:「あ、今気づいた。牛丼と豚丼の缶詰も入ってた。さすが藤谷班長」
威吹:「ああ。あいつの差し金か」
稲生:「藤谷班長がお土産に持たせくれたんだ。これ全部あげるから、これでマリアさんとイリーナ先生も歓迎してくれるかな?」
威吹:「うーむ……ユタの頼みとあらば断れないな。分かった。おい、お前達。せっかくユタ達を案内したんだ。ついでに客間をもう1つ用意して来い」
銀髪:「分かりました!」
茶髪:「行ってきます!」
銀髪と茶髪は急いで建物の中に入った。
威吹:「客間の準備が整うまで、ボクの部屋で話そうか」
稲生:「悪いね」
稲生達は建物の中に入った。
イリーナ:「おっと、そうだ。靴を脱がないと」
マリア:「勇太の家と同じですよ」
玄関で靴を脱いで中に入る。
さくら:「稲生様方、お久しぶりでございます」
着物姿のさくらが出迎えた。
威吹の人間の妻で、かつては巫女、今はこの神社の禰宜である。
そして、さくらのお腹が大きい。
イリーナ:「何人目でいらっしゃいますの?」
さくら:「3人目なんですよ。お恥ずかしい……」
マリア:「何で魔界の連中は多産なんだ?」
さくら:「は?」
マリア:「な、何でも無い!」
イリーナ:「マリア。途上国は多産でしょ?アルカディアもそうだということよ」
マリア:「な、なるほど」
稲生:「威織君と?」
さくら:「神楽です。長女です」
イリーナ:「なるほど。もし良かったら、そのお腹の中の子が男の子か女の子か占いましょうか?その方が準備も先にできると思いいますよ」
さくら:「大丈夫です。もう既に2人産んでますから」
イリーナ:「ああ、これは失礼」
威吹:「さくらは無理せず休んでろよ。あとはオレ達でやるから」
稲生:「オレ達って、威吹、料理できたっけ?」
威吹:「いや、ボクの弟子達が作ってくれてる」
稲生:「あらま!」
威吹:「道場に寝泊まりしてるんだ。ボクやさくら付きの当番以外はね。因みに今日の当番は、客間の準備をしているあいつらさ」
稲生:「そうだったのか」
威吹:「坂吹、坂吹はいるか?」
坂吹:「はっ、ここに」
稲生:「坂吹君、久しぶりだね」
坂吹:「御無沙汰してます」
威吹:「ユタ達が土産の食料を大量に持って来てくれた。至急、中に運び込め」
坂吹:「さすがは先生の元“獲物”。我が道場の食料事情を察して頂けるとは……」
稲生:「えっ?」
威吹:「シッ、黙ってろ!……いや、何でもないんだ、ユタ。あと誰か、このお客人にお茶を用意しろ」
威吹の部屋に通される。
畳敷きの8畳間である。
巻物や本が収められた本棚が多くあるところを見ると、書斎のようなものだろう。
座布団が敷かれ、テーブルを挟んで向かい合わせに座った。
すぐに緑茶が運ばれてくる。
威吹:「今日はどのような用件で魔界に?」
稲生:「クエストの達成。つまり、課題をこなす為にね」
稲生は6番街であったことを手短に話した。
威吹:「そうだったのか。活躍したんだね。ていうか、6番街の代官が捕まった話は僕も聞いてる」
稲生:「ニュースになっただろうからね」
イリーナ:「それでね、威吹君にお願いがあるのよ」
威吹:「それは奇遇だな。オレも6番街で活躍したユタにお願いをしようとしたところだ」
イリーナ:「どうやら利害が一致しそうね。私はこのコ達に世の為、人の為の活躍をさせることで課題の採点をしたいのよ」
威吹:「人間界でそれはできないのか?」
イリーナ:「ダメ。人間界は事情が複雑過ぎて」
威吹:「なるほど」
稲生:「何か困り事でもあるのかい?」
威吹:「こういう所に住んでいると、町の住民から色々な話は聞く。特にさくらは人の話を聞くのが上手だから、ちょっとした『お悩み相談室』みたいになってるんだ、ここ」
稲生:「それはいいことだ」
威吹:「今日の所はゆっくり休んでくれ。話は明日にしよう」
イリーナ:「よろしく頼むわ。きっと色々役に立てると思うわよ」
威吹:「期待している」
と、そこへ、あの銀髪と茶髪が入って来た。
銀髪:「失礼します。客間の準備が整いました」
威吹:「御苦労。すぐに案内してあげてくれ」
茶髪:「はい!では皆さん、どうぞこちらへ」
威吹:「まもなく夕食が出来上がる。今夜は僕達と食べよう」
稲生:「ええ?せっかく家族を持ったんだから、そっちの団欒を優先していいよ?」
威吹:「今夜くらい、さくらも許してくれるさ。久しぶりの再会だし、手土産も頂戴したからにはな」
稲生:(大量とはいえ、あんな非常食の余りでこんなに喜んでくれるなんて。やっぱり何か困ってるんだろうな)
稲生はその辺、察知した。
魔界に稲荷神社なんて、物凄く不自然かもしれない。
しかし、そこが日本人街たる所以でもある。
妖狐は稲荷大明神の使いの狐という顔もあり、もちろん全員がそれというわけではないが、妖狐の威吹と巫女(当時)のさくらが住むには思いっ切りマッチした場所であった。
現在は地元民の手により、境内の拡幅と建物の改修、増改築が行われている。
さくらも神職ではない巫女から、禰宜になっている。
銀髪:「稲生殿方、お疲れさまです!先生が待ちきれずに、まもなくやってきますよ」
威吹:「ユターっ!!」
鳥居の向こうから見覚えのある妖狐がバタバタと走って来た。
稲生:「威吹……!」
危うく飛び掛かって来られるところだったので、マリアが魔法の杖を構えたくらいだ。
威吹:「久しぶりだね!何年ぶりかな!?」
稲生:「いや、まだそんなに経っていないと思うけど……」
威吹の歓喜の声に、周囲の弟子達はざわつく。
銀髪:「あの厳しい先生が……」
茶髪:「マジか……」
妖狐A:「あの人間、何者だ?」
妖狐B:「あれが先生のかつての“獲物”……」
威吹:「さあさあ、中に入ってくれ!」
稲生:「マリアさんとイリーナ先生もいいかい?」
威吹:「う……正直ボクは気が乗らないが……」
マリア:「何でだよ!」
イリーナ:「もちろん、タダで泊めてとは言わないよ。ちゃんと宿代は物納で払うわ」
イリーナは魔法を杖を取り出し、ダンテの呪文を唱えた。
そして、空中から宝箱が何個か出てくる。
イリーナ:「はい、どうぞ」
威吹:「これは……缶詰とレトルト食品、そして保存用の水……って、もしかして非常用備蓄品か!?」
イリーナ:「当ったりー!」
銀髪:「先生、何ですか?この乾パンって?」
茶髪:「こんな固い物が食えるのか?」
茶髪は缶詰に牙を立てた。
威吹:「それは中身を食うんだ。……ま、ボクもボンカレーと牛肉大和煮の缶詰は美味いと思う」
稲生:「あ、今気づいた。牛丼と豚丼の缶詰も入ってた。さすが藤谷班長」
威吹:「ああ。あいつの差し金か」
稲生:「藤谷班長がお土産に持たせくれたんだ。これ全部あげるから、これでマリアさんとイリーナ先生も歓迎してくれるかな?」
威吹:「うーむ……ユタの頼みとあらば断れないな。分かった。おい、お前達。せっかくユタ達を案内したんだ。ついでに客間をもう1つ用意して来い」
銀髪:「分かりました!」
茶髪:「行ってきます!」
銀髪と茶髪は急いで建物の中に入った。
威吹:「客間の準備が整うまで、ボクの部屋で話そうか」
稲生:「悪いね」
稲生達は建物の中に入った。
イリーナ:「おっと、そうだ。靴を脱がないと」
マリア:「勇太の家と同じですよ」
玄関で靴を脱いで中に入る。
さくら:「稲生様方、お久しぶりでございます」
着物姿のさくらが出迎えた。
威吹の人間の妻で、かつては巫女、今はこの神社の禰宜である。
そして、さくらのお腹が大きい。
イリーナ:「何人目でいらっしゃいますの?」
さくら:「3人目なんですよ。お恥ずかしい……」
マリア:「何で魔界の連中は多産なんだ?」
さくら:「は?」
マリア:「な、何でも無い!」
イリーナ:「マリア。途上国は多産でしょ?アルカディアもそうだということよ」
マリア:「な、なるほど」
稲生:「威織君と?」
さくら:「神楽です。長女です」
イリーナ:「なるほど。もし良かったら、そのお腹の中の子が男の子か女の子か占いましょうか?その方が準備も先にできると思いいますよ」
さくら:「大丈夫です。もう既に2人産んでますから」
イリーナ:「ああ、これは失礼」
威吹:「さくらは無理せず休んでろよ。あとはオレ達でやるから」
稲生:「オレ達って、威吹、料理できたっけ?」
威吹:「いや、ボクの弟子達が作ってくれてる」
稲生:「あらま!」
威吹:「道場に寝泊まりしてるんだ。ボクやさくら付きの当番以外はね。因みに今日の当番は、客間の準備をしているあいつらさ」
稲生:「そうだったのか」
威吹:「坂吹、坂吹はいるか?」
坂吹:「はっ、ここに」
稲生:「坂吹君、久しぶりだね」
坂吹:「御無沙汰してます」
威吹:「ユタ達が土産の食料を大量に持って来てくれた。至急、中に運び込め」
坂吹:「さすがは先生の元“獲物”。我が道場の食料事情を察して頂けるとは……」
稲生:「えっ?」
威吹:「シッ、黙ってろ!……いや、何でもないんだ、ユタ。あと誰か、このお客人にお茶を用意しろ」
威吹の部屋に通される。
畳敷きの8畳間である。
巻物や本が収められた本棚が多くあるところを見ると、書斎のようなものだろう。
座布団が敷かれ、テーブルを挟んで向かい合わせに座った。
すぐに緑茶が運ばれてくる。
威吹:「今日はどのような用件で魔界に?」
稲生:「クエストの達成。つまり、課題をこなす為にね」
稲生は6番街であったことを手短に話した。
威吹:「そうだったのか。活躍したんだね。ていうか、6番街の代官が捕まった話は僕も聞いてる」
稲生:「ニュースになっただろうからね」
イリーナ:「それでね、威吹君にお願いがあるのよ」
威吹:「それは奇遇だな。オレも6番街で活躍したユタにお願いをしようとしたところだ」
イリーナ:「どうやら利害が一致しそうね。私はこのコ達に世の為、人の為の活躍をさせることで課題の採点をしたいのよ」
威吹:「人間界でそれはできないのか?」
イリーナ:「ダメ。人間界は事情が複雑過ぎて」
威吹:「なるほど」
稲生:「何か困り事でもあるのかい?」
威吹:「こういう所に住んでいると、町の住民から色々な話は聞く。特にさくらは人の話を聞くのが上手だから、ちょっとした『お悩み相談室』みたいになってるんだ、ここ」
稲生:「それはいいことだ」
威吹:「今日の所はゆっくり休んでくれ。話は明日にしよう」
イリーナ:「よろしく頼むわ。きっと色々役に立てると思うわよ」
威吹:「期待している」
と、そこへ、あの銀髪と茶髪が入って来た。
銀髪:「失礼します。客間の準備が整いました」
威吹:「御苦労。すぐに案内してあげてくれ」
茶髪:「はい!では皆さん、どうぞこちらへ」
威吹:「まもなく夕食が出来上がる。今夜は僕達と食べよう」
稲生:「ええ?せっかく家族を持ったんだから、そっちの団欒を優先していいよ?」
威吹:「今夜くらい、さくらも許してくれるさ。久しぶりの再会だし、手土産も頂戴したからにはな」
稲生:(大量とはいえ、あんな非常食の余りでこんなに喜んでくれるなんて。やっぱり何か困ってるんだろうな)
稲生はその辺、察知した。
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