報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「ドキュンが目撃」

2023-11-25 21:36:09 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月2日20時00分 天候:晴 栃木県日光市某所]

 除雪された県道をゆっくりながら、それでも爆音を鳴らして走行する1台の乗用車がいた。
 それは黒塗りのゼロクラウン。
 しかし、タクシーやハイヤーとはかけ離れた仕様になっている。
 車は意図的に車高が下げられ、しかしマフラーは極太いものとなっている。
 更に、トランクの上にはバカデカいウィングが取り付けられ……。
 ここまで述べれば、もうお分かりだろう。
 本人達は走り屋を名乗っているが、要は暴走族であった。
 実際に乗っているのも、明らかに真面目に生きているとは思えない出で立ちをした若い男が数名。

 暴走族A「さすが世界のトヨタだな。埼玉のクルド人ボコして分捕ったかいあったべよ」
 暴走族B「外人連中イザとなったら群れるから、また仕返し来るべ?」
 暴走族C「したら、またボコしゃあいいんだ、ボコしゃあ」
 暴走族D「そうそう。日本人の恐ろしさ、教えてやるっちゃよ!」

 そこで下品な大笑いを奏でる4人。
 走行している道路は、昼間は観光客、このシーズンだとスキー客が通ることもあるが、それ以外は滅多に車が通らないような道だった。
 だから夜間は走り屋達の恰好のレーススポットとなっているのだが、さすがにこんな真冬、積雪や凍結するような所では、飛ばすアホもいない。
 さすがのこの暴走族達も、他の季節の時よりはスピードを落として走行していた。
 もっとも、ブオンブオンと吹かす所は変わらなかったが。

 暴走族A「あ?」

 その時、ハンドルを握っていたAが何かを見つけた。

 暴走族B「どうした?」

 助手席に座っているBがAの方を見る。

 暴走族A「見ろよ。こんな時間に対向車だぜ?」
 暴走族B「マジか。今から山さ行くんか?」

 暴走族達は山から下りて、街の方へ向かう道を進んでいる。
 この時間、とっくにスキー場は閉まっている。
 地元民だろうか?

 暴走族C「まさか、サツじゃねーべな?」
 暴走族D「早くも栃木県警ボーナス商戦かぁ!?ヒャーッハハハハーッ!!」
 暴走族A「いや、違うぞ、あれ。あれは……」

 ようやく対向車を視認できた暴走族達。
 雪煙をもうもうと上げて突き進んで来るのは……。

 暴走族B「バスじゃん!?観光バス!」
 暴走族C「は?何で?スキーツアーのバス?」
 暴走族D「んなわけねーって!駐車場、閉まってたじゃん!」

 地元の暴走族達ですら、首を傾げるバスの存在。
 暴走族達も関わる気は無く、そのまますれ違って行こうと思っていた。
 が!

 暴走族A「って、おぉーい!!」

 何と、いきなりバスが右折してきた。
 まるで暴走族達の違法改造クラウンなど目に入っていないかのように、悠然と。
 運転していたAは、これまた電子音に改造したクラクションを鳴らしながら急ブレーキ。
 車はスリップし、横に360度回転し、路肩に寄せられていた雪の山に尻から突っ込んで止まった。
 バスにぶつかることはなかったが、衝撃でエンジンが止まった。

 暴走族A「ってぇ……」
 暴走族B「おい、大丈夫か、皆!?」
 暴走族C「あー、何とか……」
 暴走族D「てか、車は大丈夫なんか?」

 Aはもう1度エンジンを始動してみた。
 すると、ちゃんとエンジンは掛かった。

 暴走族A「よっし!さすがは世界のトヨタ!クルド人が無茶振りしてても壊れなかったくらいだ!」
 暴走族B「って、それよりよ!あのバス!」
 暴走族C「そうだそうだ!何なんだ、いきなりよォ!」
 暴走族D「壊れたテール、弁償してもらわないとなぁ!」
 暴走族A「行くぞ、オメェら!」

 暴走族Aはハンドルを切って、アクセルを吹かした。
 幸い、車はスリップすることなく、すぐに雪の山から出られた。
 そして、バスが曲がって行った方に向かった。
 それはすぐに見つかった。
 曲がってすぐの所にバス1台が止まれるスペースがあり、その先には古めかしい鉄の門があったからである。
 違法改造クラウンは、そのバスの斜め後ろに止まった。

 暴走族A「おい、コラぁ!降りて来いや!!」

 パッパッパーッ!と何度も、違法改造で車検など絶対に通ら無さそうなほどやかましく甲高い音のクラクションを鳴らして煽る。

 暴走族B「おう、コラ!ナメてんのか!!」
 暴走族C「どこ見て運転してんだ、コラぁ!!」
 暴走族D「壊れたテールランプ、弁償してもらおうか?」

 それぞれ角材や鉄パイプ、釘バットや金属バットを手に、車を降りる暴走族達。
 そのうち、暴走族Dが前扉をドンドンと叩いた。

 暴走族D「取りあえず、100万円で示談にしてやる」
 暴走族C「またキンちゃんは、カネばっかw」

 バスは年式の古いもので、都内で見たことのある観光バス会社の塗装をしていた。
 だが、塗装は所々剥げ落ちており、何より元のバス会社の社名が書かれていた部分が剝がされている。
 暴走族メンバーの中で、最も車に詳しいAは、すぐにこれが中古車だと分かった。

 暴走族A(廃車寸前のバスをタダ同然で引き取ったって感じか?)

 Aはナンバーを確認した。
 ナンバーは白で、足立ナンバーになっていた。
 と、そこへ、前扉がプシューというエアー音と共に開いた。
 前扉は折り戸式ではなく、外側に開くスライド式であった。

 暴走族D「運転手さーん!100万円で示談に……」

 スパッ!

 暴走族D「……え?」

 その時、Dが肩に担いでいた角材がスパッと半分に切れた。

 暴走族D「うわっ!?」

 そして、Dの鼻先に何かが付きつけられた。
 それは暗闇でも僅かな光に反射する、日本刀だった。

 老翁「立ち去れ。そして、このことを誰にも言うてはならん」
 暴走族D「えぇえ?」

 Dがビックリして尻餅を付くと……。

 暴走族C「キンちゃん、下がれ!……てめ!なに上から目線なんだよ!?あぁっ!?」
 暴走族B「ナめんな、クソジジィ!」

 Bが鉄パイプで殴り掛かる。
 だが!

 暴走族C「うっ!?」

 その鉄パイプをも、老翁の日本刀は輪切りにしてみせた。
 そして、バスの中からわらわらと現れる、まるで忍者の黒装束を着た集団が現れた。
 全員が日本刀を手にしている。

 暴走族A「な、な……!?」
 暴走族B「こ、こりゃ……!?」
 老翁「さあ、若者達よ!これだけの人数を相手にする度胸ありや!?このまま立ち去れば、それで良し!しかし、雪を赤く染める覚悟あらんとするならば、我々はそれに答えよう!」
 暴走族B「は、ハッタリだ!すぐにメッキ剥がしてやんぜ!」
 暴走族A「ば、バカ!やめろ!」
 暴走族D「ひぃぃっ!?」

 哀れなBは釘バットを輪切りにされたばかりでなく、自慢の金髪も日本刀の刃によって削ぎ落され、河童のようになってしまった。

 暴走族C「ば、バカな!?ありえねー!日本刀で、そこまで!?」
 暴走族D「ぷっw くくくく……www」
 暴走族B「わ、笑うんじゃねぇ!キム!」
 暴走族A「に、逃げるぞ!!」

 4人の暴走族達はテールの壊れた車に乗り込み、そして車のタイヤを滑らせながら県道に戻ると、再び目的地の方向へ向かった。

 暴走族B「な、何なんだよ、あいつら!?」
 暴走族C「わ、分かんねー!分かんねーけど、これだけは確かだぜ?……サツともヤーさんとも半グレとも違う、もっとヤバい連中だ……!」
 暴走族D「だけどさ、このまま泣き寝入りなんてのも悔しいよね?」
 暴走族A「い、一応、ヤベェってことで、他の連中にも知らせようぜ?」

 暴走族達はしばらく県道を走り、ようやく最初に見つけたコンビニの駐車場に滑り込んだ。
 そしてAは、自分のスマホを取り出した。

 暴走族A「あ?誰かからショートメール来てる。何じゃらほい?……マサだ!」
 暴走族B「マサ?」
 暴走族C「マサって、あの新潟のマサ?」
 暴走族A「ああ。『下越のヤンキー』だが、今は引退して、東京で探偵やってるって聞いたけどよ……」
 暴走族D「すっげーな!少刑(少年刑務所)でそういう仕事、紹介してるんだ!?」
 暴走族A「いや、それは知らんけど。……ああ?『怪しい車を見つけたら教えてくれ』?何だこりゃ?」
 暴走族D「怪しい車ならさっきいたもんね」
 暴走族C「あれでいいのか?」
 暴走族D「だってメッチャ怪しかったじゃん?」
 暴走族C「いや、そりゃそうだけどよ……」
 暴走族A「まあ、いいや。マサには新潟遠征の時に世話んなったし、このまま『知らん』って返すよりは、さっきのバスでもいいから教えてやった方が親切だろ」
 暴走族B「そりゃそうだな。もしかしたら、マサがリベンジしてくれるかもしれねーし」
 暴走族C「なるほどな」
 暴走族D「なに?そんなに凄い人なの?」
 暴走族A「新潟県の3分の1を纏めたチームのボスだよ」
 暴走族D「何それ!?すっげー!」
 暴走族A「……よし、送信っと。これで一応、親切にはなっただろ」

 だが、この暴走族Aは、しばらく高橋とメールのやり取りをすることになる。

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