[4月26日15:00. 東京都23区内某所 ユタの通う大学 稲生ユウタ]
「……おーい、イノっち。大丈夫?講義終わったぞ?」
教室の長机に突っ伏すユタ。
隣に座る友人の男(もちろん人間)が、ユタの肩を揺さぶった。
「……マリアさんに会いたい……」
「ああ、この前、大学に連れてきてた外国人の……。確かにお人形さんみたいにカワイかったけど……そんなに?年上なんでしょ?小柄なせいか見た目、年下に見えるけど」
「カワイイっていうか……目が離れない……」
「? 離せない、じゃなくって?」
「うん……」
「まー、今年はレポートに集中しろよ?昨年度はそれで進級ヤバかったんだからさ。じゃあ俺、学生会の打ち合わせあるから」
「ああ……」
ユタは徐にポケットからスマホを出した。
(カンジ君からメール……)
ユタはメールを開いてみた。
「!!!」
ガバッと飛び起きるユタ。
「! びっくりした!どうした?」
「マリアさんが家に来てる……!」
「へー、そう?じゃあ、早いとこ帰ってやんないと……」
「もち!」
ユタは急いで帰る準備をすると、一目散に教室を飛び出した。
「大丈夫かな、あいつ……」
[同日15:21.JR大崎駅8番線ホーム 稲生ユウタ]
〔おおさき〜、大崎〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、恵比寿に止まります〕
ユタはちょうど来た埼京線電車に飛び乗った。
〔「15時23分発、埼京線各駅停車、大宮行きです。途中の武蔵浦和で、後から参ります快速、川越行きの待ち合わせがございます。発車までご乗車になり、お待ちください」〕
ユタは電車に乗り込むと、すぐに返信した。
『急いで帰ります。マリアさんには、もう少し待ってて頂いてください』
と。
[同日同時刻 さいたま市中央区 ユタの家 マリア、稲生、カンジ]
「稲生さんが今、帰りの電車に乗られたそうです」
「では、あと1時間少しか」
マリアはズズズと出された緑茶を啜った。
「どうした、魔道師?オレの最後の質問には答えられぬのか?」
威吹はマリアを睨むような顔で見た。
「もう既に回答済みだが?」
マリアは全く動じなかった。
「ふざけるな。回答になってない」
「そうか?じゃあこの質問、ユウタ君の前でもう1度してみるのだな」
「こ、このっ……!」
「妖狐、威吹。私に危害を加えたと分かったら、ユウタ君がどういう反応をするか、分かってるよな?」
「その目……絶対に『人を殺したことのある目』だ!」
「もう1度答えよう。私は魔道師だ。私の屋敷に迷い込んできた人間の一部を、魔術の実験台にしたことはある。『入館した時の状態で屋敷から出られなかった』わけだから、あなたの質問にノーと答えると嘘になる。これが回答だ」
「オレが聞きたいのはそういうことではない!お前、魔道師になる前、人を殺したことがあるかと聞いているのだ!」
「魔道師になるに辺り、過去の全ては捨て去り、そして未来の全てを手に入れる。これが回答だ」
「だから回答になっていないと何度も……!」
「先生。稲生さんからメールです。『マリアさんには、くれぐれも失礼なことの無いように。もし失礼な態度があると分かったら、盟約を切る』と……」
「くっ……!」
マリアは何食わぬ顔で緑茶を啜った。
「……私は別にユウタ君に告げ口する気は無い。この回答で満足してくれるのならな」
「この女狐め……!」
「先生。お茶のお代わりを入れてきます」
カンジは空になった威吹の茶碗をお盆に載せた。
「ユタの添書登山の土産も持ってきてくれ!」
「……ヨーカンか」
「何で知ってるんだ!」
「別に。ユウタ君が前に教えてくれただけだ」
苛立ちを隠せない威吹に対し、マリアは落ち着きを払っているように見える。
が、
(さすがは諜報能力に長けていると言われる妖狐族だ。鬼族は誤魔化せても、私の目を疑ってくるとは……)
内心、冷や汗をかいていた。
「……とにかく、何の目的があるかは知らんが、ユタを魔術の実験とか、そういうことで誑かしたと分かったら、オレも容赦しない」
「それは最初の辺りの質問にも無かったか?最初に私に声を掛けて来たのは、ユウタ君の方だ。無論、私は魔術も小細工も何も一切していない。たまたまユウタ君の女性の好みのタイプが、私と似ていただけのこと。悪意を持って、私の方から近づいたわけではない。そして、目的意識なども無い」
「何か知らんが、お前と一緒にいるとユタが不幸になりそうな気がするんだ」
「それは妖狐族として、穿った目で見るからだろう?同じ人間から見れば、ユウタ君もお前達と関わるから不幸になりそうな気がすると思われてもしょうがない」
「な、何だと……!?」
「特に日蓮正宗という宗派から見れば、お前達は稲荷大明神の手先で謗法だ。そういった所からすれば、まだ地獄界の使者である鬼族の方がマシな気もするけどな」
「オレ達は別に、稲荷大明神の手先ってわけではないぞ?人間が勝手にそう思ってるだけで……」
「しかし一部のタチの悪い妖狐は、その威光を悪用して非道な振る舞いをしていたと聞いたが?」
正にそれは江戸時代、封印前の威吹も当てはまった。
「それとこれとは話が違う!」
「そうか?まだ少なくともキリスト教とも相容れない、無宗教の私の方が仏法的には不幸にはなりにくいと思うがな」
女魔道師と魔女は違うとマリアや師匠のイリーナは主張しているのだが、クリスチャンから見れば同じなようで、未だに魔女裁判を実践する一部のキリスト教系カルト教団から追い回されたことがあるという。
カンジは新しいお茶とヨーカンを持ってきて言った。
「あんたは何もしないだろうが、あんたの師匠が気まぐれで稲生さんをどうこうしないか心配だ」
「それなら心配無い。師匠は私のプライベートにまでは介入してこない。あくまでユウタ君とは魔道師としてではない、プライベートの付き合いとしている。もし違うなら、とっくに師匠が何かしてきているはずだ」
「……だ、そうですが?先生」
「……ユタの意思を尊重するしかないのだろうが……。改めて、ユタと話をしてみることにしよう」
威吹は新たに入れてもらった茶を啜った。
「そうだ。ついでにもう1つ質問させてもらいたい」
「何だ?」
「ユタはお前に惚れている。それは間違いない。お前はどうなんだ?ユタの気持ちを受け止めるのか?」
「ああ、なるほど。私のこの行動で、判断してくれるものと思ったが……」
「そうですよ、先生。もし嫌いだったら……」
「黙ってろ、カンジ」
「す、すいません!」
「私は……」
[同日16:21.JR大宮駅埼京線ホーム 稲生ユウタ]
〔おおみや、大宮。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。22番線に停車中の電車は、16時27分発、各駅停車、新宿行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕
「クカー……。えへへ……マリアさん……ムニャムニャ……」
↑安心してすっかり寝落ちしているユタ。
「おう、兄ちゃん。終点だぜ。……ヒック」
ワンカップ片手に酒臭く汚いオッサンがユタに声を掛けた。
「……はうっ!?ここは誰っ!?私はどこっ!?」
「『鉄道の町』大宮だよ。まあ、俺にとっては『競輪の町』か……ヘヘ……」
「えーりん!?八意永琳!?幻想郷!?」
「は?おい、兄ちゃん、アタマ大丈夫か?」
この後、正気に戻ったユタは、このまま折り返し各駅停車に乗って北与野駅まで戻ったという……。
「……おーい、イノっち。大丈夫?講義終わったぞ?」
教室の長机に突っ伏すユタ。
隣に座る友人の男(もちろん人間)が、ユタの肩を揺さぶった。
「……マリアさんに会いたい……」
「ああ、この前、大学に連れてきてた外国人の……。確かにお人形さんみたいにカワイかったけど……そんなに?年上なんでしょ?小柄なせいか見た目、年下に見えるけど」
「カワイイっていうか……目が離れない……」
「? 離せない、じゃなくって?」
「うん……」
「まー、今年はレポートに集中しろよ?昨年度はそれで進級ヤバかったんだからさ。じゃあ俺、学生会の打ち合わせあるから」
「ああ……」
ユタは徐にポケットからスマホを出した。
(カンジ君からメール……)
ユタはメールを開いてみた。
「!!!」
ガバッと飛び起きるユタ。
「! びっくりした!どうした?」
「マリアさんが家に来てる……!」
「へー、そう?じゃあ、早いとこ帰ってやんないと……」
「もち!」
ユタは急いで帰る準備をすると、一目散に教室を飛び出した。
「大丈夫かな、あいつ……」
[同日15:21.JR大崎駅8番線ホーム 稲生ユウタ]
〔おおさき〜、大崎〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、恵比寿に止まります〕
ユタはちょうど来た埼京線電車に飛び乗った。
〔「15時23分発、埼京線各駅停車、大宮行きです。途中の武蔵浦和で、後から参ります快速、川越行きの待ち合わせがございます。発車までご乗車になり、お待ちください」〕
ユタは電車に乗り込むと、すぐに返信した。
『急いで帰ります。マリアさんには、もう少し待ってて頂いてください』
と。
[同日同時刻 さいたま市中央区 ユタの家 マリア、稲生、カンジ]
「稲生さんが今、帰りの電車に乗られたそうです」
「では、あと1時間少しか」
マリアはズズズと出された緑茶を啜った。
「どうした、魔道師?オレの最後の質問には答えられぬのか?」
威吹はマリアを睨むような顔で見た。
「もう既に回答済みだが?」
マリアは全く動じなかった。
「ふざけるな。回答になってない」
「そうか?じゃあこの質問、ユウタ君の前でもう1度してみるのだな」
「こ、このっ……!」
「妖狐、威吹。私に危害を加えたと分かったら、ユウタ君がどういう反応をするか、分かってるよな?」
「その目……絶対に『人を殺したことのある目』だ!」
「もう1度答えよう。私は魔道師だ。私の屋敷に迷い込んできた人間の一部を、魔術の実験台にしたことはある。『入館した時の状態で屋敷から出られなかった』わけだから、あなたの質問にノーと答えると嘘になる。これが回答だ」
「オレが聞きたいのはそういうことではない!お前、魔道師になる前、人を殺したことがあるかと聞いているのだ!」
「魔道師になるに辺り、過去の全ては捨て去り、そして未来の全てを手に入れる。これが回答だ」
「だから回答になっていないと何度も……!」
「先生。稲生さんからメールです。『マリアさんには、くれぐれも失礼なことの無いように。もし失礼な態度があると分かったら、盟約を切る』と……」
「くっ……!」
マリアは何食わぬ顔で緑茶を啜った。
「……私は別にユウタ君に告げ口する気は無い。この回答で満足してくれるのならな」
「この女狐め……!」
「先生。お茶のお代わりを入れてきます」
カンジは空になった威吹の茶碗をお盆に載せた。
「ユタの添書登山の土産も持ってきてくれ!」
「……ヨーカンか」
「何で知ってるんだ!」
「別に。ユウタ君が前に教えてくれただけだ」
苛立ちを隠せない威吹に対し、マリアは落ち着きを払っているように見える。
が、
(さすがは諜報能力に長けていると言われる妖狐族だ。鬼族は誤魔化せても、私の目を疑ってくるとは……)
内心、冷や汗をかいていた。
「……とにかく、何の目的があるかは知らんが、ユタを魔術の実験とか、そういうことで誑かしたと分かったら、オレも容赦しない」
「それは最初の辺りの質問にも無かったか?最初に私に声を掛けて来たのは、ユウタ君の方だ。無論、私は魔術も小細工も何も一切していない。たまたまユウタ君の女性の好みのタイプが、私と似ていただけのこと。悪意を持って、私の方から近づいたわけではない。そして、目的意識なども無い」
「何か知らんが、お前と一緒にいるとユタが不幸になりそうな気がするんだ」
「それは妖狐族として、穿った目で見るからだろう?同じ人間から見れば、ユウタ君もお前達と関わるから不幸になりそうな気がすると思われてもしょうがない」
「な、何だと……!?」
「特に日蓮正宗という宗派から見れば、お前達は稲荷大明神の手先で謗法だ。そういった所からすれば、まだ地獄界の使者である鬼族の方がマシな気もするけどな」
「オレ達は別に、稲荷大明神の手先ってわけではないぞ?人間が勝手にそう思ってるだけで……」
「しかし一部のタチの悪い妖狐は、その威光を悪用して非道な振る舞いをしていたと聞いたが?」
正にそれは江戸時代、封印前の威吹も当てはまった。
「それとこれとは話が違う!」
「そうか?まだ少なくともキリスト教とも相容れない、無宗教の私の方が仏法的には不幸にはなりにくいと思うがな」
女魔道師と魔女は違うとマリアや師匠のイリーナは主張しているのだが、クリスチャンから見れば同じなようで、未だに魔女裁判を実践する一部のキリスト教系カルト教団から追い回されたことがあるという。
カンジは新しいお茶とヨーカンを持ってきて言った。
「あんたは何もしないだろうが、あんたの師匠が気まぐれで稲生さんをどうこうしないか心配だ」
「それなら心配無い。師匠は私のプライベートにまでは介入してこない。あくまでユウタ君とは魔道師としてではない、プライベートの付き合いとしている。もし違うなら、とっくに師匠が何かしてきているはずだ」
「……だ、そうですが?先生」
「……ユタの意思を尊重するしかないのだろうが……。改めて、ユタと話をしてみることにしよう」
威吹は新たに入れてもらった茶を啜った。
「そうだ。ついでにもう1つ質問させてもらいたい」
「何だ?」
「ユタはお前に惚れている。それは間違いない。お前はどうなんだ?ユタの気持ちを受け止めるのか?」
「ああ、なるほど。私のこの行動で、判断してくれるものと思ったが……」
「そうですよ、先生。もし嫌いだったら……」
「黙ってろ、カンジ」
「す、すいません!」
「私は……」
[同日16:21.JR大宮駅埼京線ホーム 稲生ユウタ]
〔おおみや、大宮。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。22番線に停車中の電車は、16時27分発、各駅停車、新宿行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕
「クカー……。えへへ……マリアさん……ムニャムニャ……」
↑安心してすっかり寝落ちしているユタ。
「おう、兄ちゃん。終点だぜ。……ヒック」
ワンカップ片手に酒臭く汚いオッサンがユタに声を掛けた。
「……はうっ!?ここは誰っ!?私はどこっ!?」
「『鉄道の町』大宮だよ。まあ、俺にとっては『競輪の町』か……ヘヘ……」
「えーりん!?八意永琳!?幻想郷!?」
「は?おい、兄ちゃん、アタマ大丈夫か?」
この後、正気に戻ったユタは、このまま折り返し各駅停車に乗って北与野駅まで戻ったという……。
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