[8月22日13:00.天候:晴 宮城県仙台市若林区某所 愛原の卒業した小学校体育館]
私は体育館に避難した両親から、色々な話を聞いた。
まず、実家についてだが、ざっくり見た感じ、大した被害は無かったそうだ。
現場周辺は1kmに渡って封鎖されるほどの有様で、私の実家から現場となった『お化け屋敷』は100メートルくらいしか離れていない。
にも関わらず大きな被害が出なかったのは、『お化け屋敷』と実家の間に2棟のマンションが新築されており、それが爆風を遮ってくれたらしいのだ。
近隣住民からは日照権などを巡ってトラブルが発生していたらしいが、皮肉にもこの日照権侵害マンションのおかげで、我が家は無事だったということになる。
もっとも、爆風の矢面となったマンションの被害状況は【お察しください】。
父親:「せっかく帰ってきた所悪いけど、片付けを手伝ってくれないか?」
愛原:「いいよ。2人もいいか?」
高橋:「お任せください、先生!」
リサ:「私も頑張ります!」
父親:「頼もしい従業員だねぇ……って、お兄さんの方はともかく、お嬢さんの方はいいよ?」
高橋:「あ、大丈夫っス。こいつ、こう見えて鬼に変身したら、かなり強いんで」
父親:「は?」
愛原:「高橋!」
リサ:「秘密をバラしたら、バラバラにバラされるよ?」
愛原:「政府機関をナメてはいかん!」
高橋:「さ、サーセン」
愛原:「ゴメン、お父さん。こいつら、ちょっと漫画やアニメの見過ぎで……」
リサ:「ゲームも好きですよ」
愛原:「そ、そうだな。そ、それでお父さん、今日はどうするの?ニュースを見ている限りだと、今日中には帰れないみたいだよ?」
もちろん、多くの避難者はこの避難所に寝泊まりすることになるだろう。
父親:「今日のところはホテルに一泊しよう。駅前の安いビジネスホテル、部屋空いてるだろ。明日になれば避難命令も停電も解除されるだろうから、片付けとか罹災証明とかはその後だな」
高橋:「先生、こりゃ数日は帰れそうにないっスね」
愛原:「もし月曜日になっても帰れないようなら、高野君に電話して納得してもらうさ」
もし仕事の依頼があれば、平日でも私は東奔西走しているのだからな。
そもそも探偵が一日中事務所にいることがおかしいのだ。
???:「おーっ、薫!無事だったかやーっ!」
そこへ1人の老人がバタバタとやってきた。
年齢は70代になっている。
その老人を私は知っている。
父親改め愛原薫:「公一兄さん!」
愛原:「公一伯父さん」
薫:「なに?小牛田の農家にいたんでねーの?」
愛原公一:「オメェの近所がガス爆発で大惨事になったっつーんで、急いで駆け付けて来たんだっちゃ!」
薫:「あー、そー。わざわざ申し訳無ェね。でもこうして無事だど」
公一:「そうがそうが、そいづぁいがった。節子さんも無事で……って、おおっ!学!」
愛原:「今頃気づいたの?」
公一:「あんれまぁ!何年ぶりだべ!?なして来たんだ?」
愛原:「いや、伯父さんと同じ理由だよ。俺も心配で東京から駆け付けて来たんだ。……ああ、高橋。この人は父親の上のお兄さんで、つまり俺の伯父さんの公一伯父さん。昔、仙台の大学で農学部の教授だったんだ。大学を引退してからは、小牛田……今の宮城県遠田郡美里町内で晴耕雨読の生活だよ」
高橋:「愛原先生の一番弟子の高橋正義です!以後、お見知りおきを」
リサ:「愛原先生の『お嫁さん』一番候補、リサ・トレヴァーです。よろしくお願いします」
薫:「は?」
母親改め愛原節子:「え?」
公一:「何だべまづ!?」
愛原:「リサ!」
もちろんリサは今は第0形態に戻っている。
しかし、両親にはまともな挨拶をしたのに、こいつはこの期に及んで……!
薫:「学、本当なのか?」
愛原:「り、リサが勝手に言ってるだけだよ!?」
公一:「その方、歳はいくつであるか?」
リサ:「今年で15歳(という設定)になっております」
公一:「うむ。良かろう。愛原家の家督者として、学との結婚を認める」
リサ:「わぁい!」
愛原:「ちょっと、伯父さん!?」
薫:「そんな急に……。しかも、まだ15って……」
公一:「『15で 姉やは 嫁に行き』という歌があるべ?俺達の母さんも、正にその歳に俺を生んだんだっちゃ……」
薫:「そりゃ親父達は大正や昭和初期生まれの人達だから、それは当たり前だったけども、今は令和の時代になって……」
公一:「いいっちゃ、いいっちゃ!2人が幸せなら!な?」
リサ:「はい!」
愛原:「俺はリサを『娘』として面倒見たかったんだが……」
高橋:「あの……取りあえず、駅前の東横イン予約したんスけど、そこでいいっスか?」
蚊帳の外に出された高橋がスマホ片手に話し掛けて来た。
薫:「おっ、高橋君、申し訳ないね」
高橋:「いえ」
愛原:「両親はツイン、俺達でツイン、リサはシングルだ。分かったな?」
高橋:「もちっス」
リサ:「えー、ダブルにして先生と一緒に泊まりたーい!」
愛原:「いや、リサ、さすがにそれはマズいって」
八丈島の時はまだ斉藤さんもいたからな……。
いや多分、あれも厳密に言えばアウトだったんだろうけど。
高橋:「コロナ禍ということもあって、簡単に予約できましたよ」
愛原:「それは良かった。俺の名前で?」
高橋:「先生、会員スから、それだと会員価格で泊まれるんで」
愛原:「それもそうだ。それでいいかい?」
薫:「ああ、いいよ。幸い、避難命令が出る前に、泊まりの準備はしてきた」
爆発が起きてからそうなる前に、何十分かくらいのブランクはあっただろう。
その隙に避難の準備をするとは、さすがは伊達に東日本大震災を潜り抜けてはいないな。
愛原:「あ、そうだ。伯父さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
公一:「何だ?」
愛原:「爆発現場になったアメリカ人の住んでた家のことは知ってる?」
公一:「知ってるも何も、俺も訪問したことばあっからなやぁ」
愛原:「マジで!?」
公一:「農学教授として、アンブレラ社の開発した農薬がどんなものなんか興味があったんだ。んで、それついてば聞き出そうと思い、何回か訪問したことがある。だが、学が生まれてくる前に消えてしまったんだ」
薫:「どうやら地下室から人骨が見つかったらしい。もしかして……」
公一:「昔からアンブレラ社には黒い噂ば絶えなかったかんな。何てもトレヴァー氏は、アメリカから逃げて来たっつう噂だ。わしは捕まったのかと思ってたんだが……ん?トレヴァー?トレヴァー?」
公一伯父さんはリサを指さした。
愛原:「伯父さん、リサは実は昔の記憶が無いんだ。その記憶の糸を手繰れるのならと思い、あの屋敷について知りたいんだ」
公一:「ふむ……。確か、あの家にはまだよちよち歩きの娘さんばいたべね。確か名前は……アリサとか言ったかや」
愛原:「よちよち歩きの!?」
実はリサの実年齢は私よりも年上である。
リサ自身もそのこと自体は自覚していた。
だからこそ、両親に挨拶した時のように、大人の女性のような振る舞いもできたのだろう。
但し、人間時代の記憶の殆どを失っている為、基本的には見た目年齢と同じ振る舞いをしている。
また、ウィルスの影響で体の変化の仕方が変わったこともあってか、更に人間時代の記憶は薄れているようである。
公一:「『アメリカにいつ連行されるか分からない』とは言ってたな。だから、わしはそう思ってたんだが……人骨となると、アメリカから粛清の手ば来たんかもしれんちゃね」
愛原:「そんな簡単に……」
もしもリサがその『よちよち歩きの娘さん』だったとするならば、リサの出生の秘密に迫ることができる。
私はそう思った。
私は体育館に避難した両親から、色々な話を聞いた。
まず、実家についてだが、ざっくり見た感じ、大した被害は無かったそうだ。
現場周辺は1kmに渡って封鎖されるほどの有様で、私の実家から現場となった『お化け屋敷』は100メートルくらいしか離れていない。
にも関わらず大きな被害が出なかったのは、『お化け屋敷』と実家の間に2棟のマンションが新築されており、それが爆風を遮ってくれたらしいのだ。
近隣住民からは日照権などを巡ってトラブルが発生していたらしいが、皮肉にもこの日照権侵害マンションのおかげで、我が家は無事だったということになる。
もっとも、爆風の矢面となったマンションの被害状況は【お察しください】。
父親:「せっかく帰ってきた所悪いけど、片付けを手伝ってくれないか?」
愛原:「いいよ。2人もいいか?」
高橋:「お任せください、先生!」
リサ:「私も頑張ります!」
父親:「頼もしい従業員だねぇ……って、お兄さんの方はともかく、お嬢さんの方はいいよ?」
高橋:「あ、大丈夫っス。こいつ、こう見えて鬼に変身したら、かなり強いんで」
父親:「は?」
愛原:「高橋!」
リサ:「秘密をバラしたら、バラバラにバラされるよ?」
愛原:「政府機関をナメてはいかん!」
高橋:「さ、サーセン」
愛原:「ゴメン、お父さん。こいつら、ちょっと漫画やアニメの見過ぎで……」
リサ:「ゲームも好きですよ」
愛原:「そ、そうだな。そ、それでお父さん、今日はどうするの?ニュースを見ている限りだと、今日中には帰れないみたいだよ?」
もちろん、多くの避難者はこの避難所に寝泊まりすることになるだろう。
父親:「今日のところはホテルに一泊しよう。駅前の安いビジネスホテル、部屋空いてるだろ。明日になれば避難命令も停電も解除されるだろうから、片付けとか罹災証明とかはその後だな」
高橋:「先生、こりゃ数日は帰れそうにないっスね」
愛原:「もし月曜日になっても帰れないようなら、高野君に電話して納得してもらうさ」
もし仕事の依頼があれば、平日でも私は東奔西走しているのだからな。
そもそも探偵が一日中事務所にいることがおかしいのだ。
???:「おーっ、薫!無事だったかやーっ!」
そこへ1人の老人がバタバタとやってきた。
年齢は70代になっている。
その老人を私は知っている。
父親改め愛原薫:「公一兄さん!」
愛原:「公一伯父さん」
薫:「なに?小牛田の農家にいたんでねーの?」
愛原公一:「オメェの近所がガス爆発で大惨事になったっつーんで、急いで駆け付けて来たんだっちゃ!」
薫:「あー、そー。わざわざ申し訳無ェね。でもこうして無事だど」
公一:「そうがそうが、そいづぁいがった。節子さんも無事で……って、おおっ!学!」
愛原:「今頃気づいたの?」
公一:「あんれまぁ!何年ぶりだべ!?なして来たんだ?」
愛原:「いや、伯父さんと同じ理由だよ。俺も心配で東京から駆け付けて来たんだ。……ああ、高橋。この人は父親の上のお兄さんで、つまり俺の伯父さんの公一伯父さん。昔、仙台の大学で農学部の教授だったんだ。大学を引退してからは、小牛田……今の宮城県遠田郡美里町内で晴耕雨読の生活だよ」
高橋:「愛原先生の一番弟子の高橋正義です!以後、お見知りおきを」
リサ:「愛原先生の『お嫁さん』一番候補、リサ・トレヴァーです。よろしくお願いします」
薫:「は?」
母親改め愛原節子:「え?」
公一:「何だべまづ!?」
愛原:「リサ!」
もちろんリサは今は第0形態に戻っている。
しかし、両親にはまともな挨拶をしたのに、こいつはこの期に及んで……!
薫:「学、本当なのか?」
愛原:「り、リサが勝手に言ってるだけだよ!?」
公一:「その方、歳はいくつであるか?」
リサ:「今年で15歳(という設定)になっております」
公一:「うむ。良かろう。愛原家の家督者として、学との結婚を認める」
リサ:「わぁい!」
愛原:「ちょっと、伯父さん!?」
薫:「そんな急に……。しかも、まだ15って……」
公一:「『15で 姉やは 嫁に行き』という歌があるべ?俺達の母さんも、正にその歳に俺を生んだんだっちゃ……」
薫:「そりゃ親父達は大正や昭和初期生まれの人達だから、それは当たり前だったけども、今は令和の時代になって……」
公一:「いいっちゃ、いいっちゃ!2人が幸せなら!な?」
リサ:「はい!」
愛原:「俺はリサを『娘』として面倒見たかったんだが……」
高橋:「あの……取りあえず、駅前の東横イン予約したんスけど、そこでいいっスか?」
蚊帳の外に出された高橋がスマホ片手に話し掛けて来た。
薫:「おっ、高橋君、申し訳ないね」
高橋:「いえ」
愛原:「両親はツイン、俺達でツイン、リサはシングルだ。分かったな?」
高橋:「もちっス」
リサ:「えー、ダブルにして先生と一緒に泊まりたーい!」
愛原:「いや、リサ、さすがにそれはマズいって」
八丈島の時はまだ斉藤さんもいたからな……。
いや多分、あれも厳密に言えばアウトだったんだろうけど。
高橋:「コロナ禍ということもあって、簡単に予約できましたよ」
愛原:「それは良かった。俺の名前で?」
高橋:「先生、会員スから、それだと会員価格で泊まれるんで」
愛原:「それもそうだ。それでいいかい?」
薫:「ああ、いいよ。幸い、避難命令が出る前に、泊まりの準備はしてきた」
爆発が起きてからそうなる前に、何十分かくらいのブランクはあっただろう。
その隙に避難の準備をするとは、さすがは伊達に東日本大震災を潜り抜けてはいないな。
愛原:「あ、そうだ。伯父さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
公一:「何だ?」
愛原:「爆発現場になったアメリカ人の住んでた家のことは知ってる?」
公一:「知ってるも何も、俺も訪問したことばあっからなやぁ」
愛原:「マジで!?」
公一:「農学教授として、アンブレラ社の開発した農薬がどんなものなんか興味があったんだ。んで、それついてば聞き出そうと思い、何回か訪問したことがある。だが、学が生まれてくる前に消えてしまったんだ」
薫:「どうやら地下室から人骨が見つかったらしい。もしかして……」
公一:「昔からアンブレラ社には黒い噂ば絶えなかったかんな。何てもトレヴァー氏は、アメリカから逃げて来たっつう噂だ。わしは捕まったのかと思ってたんだが……ん?トレヴァー?トレヴァー?」
公一伯父さんはリサを指さした。
愛原:「伯父さん、リサは実は昔の記憶が無いんだ。その記憶の糸を手繰れるのならと思い、あの屋敷について知りたいんだ」
公一:「ふむ……。確か、あの家にはまだよちよち歩きの娘さんばいたべね。確か名前は……アリサとか言ったかや」
愛原:「よちよち歩きの!?」
実はリサの実年齢は私よりも年上である。
リサ自身もそのこと自体は自覚していた。
だからこそ、両親に挨拶した時のように、大人の女性のような振る舞いもできたのだろう。
但し、人間時代の記憶の殆どを失っている為、基本的には見た目年齢と同じ振る舞いをしている。
また、ウィルスの影響で体の変化の仕方が変わったこともあってか、更に人間時代の記憶は薄れているようである。
公一:「『アメリカにいつ連行されるか分からない』とは言ってたな。だから、わしはそう思ってたんだが……人骨となると、アメリカから粛清の手ば来たんかもしれんちゃね」
愛原:「そんな簡単に……」
もしもリサがその『よちよち歩きの娘さん』だったとするならば、リサの出生の秘密に迫ることができる。
私はそう思った。
私が正にその29日に行くつもりだったのだが、非常に残念だ。
高速バスや新幹線の切符の払い戻しをしなくてはならない。
手数料は大した額ではないはずだが……。